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一幕 "覚醒"
【二話:異世界と刀】
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『あなたが勇者として、魔王を倒してください』
異世界に転生した俺は、女神イリーナから魔王討伐を要求された。
「ちょ、ちょっと待って!? そんなこと急に言われたって無理だから!? ってか何で俺!?」
「選ばれたからです。貴女がーーーーユナが勇者として、この刀に」
女神イリーナの後方から黒々とした鞘に納められた一本の大太刀が出現する。
「これは神剣ーー天叢雲剣」
そう言って女神イリーナが漆黒の鞘から僅かに刀身を抜く。すると青白い光が辺りを照らし出した。
「……綺麗」
率直な感想だ。その刀身から溢れ出る光は、女神イリーナの神々しさを際立たせている。
「うふふ、ありがとうございます。ですがユナちゃんもとても綺麗ですよ」
ゾッと背筋に悪寒が走った。
女神様の目に多少の恐怖を覚えるのは別に俺の自意識過剰というわけではないはずだ。
「それでは勇者ユナ。あなたにこの刀を授けます」
女神イリーナが天叢雲剣を俺の方に差し出す。
「あの、これ本当に貰っちゃってもいい物なの?」
魔王討伐の件は一旦置いておくとしても、こんな貴重な物、そう易々とは受け取れない。小心者と言われるかもしれないが、これも一つの防衛本能と言えるだろう。
「はい、構いませんよ。ですがユナちゃんがお気に召さない、という事でしたら代わりの物を用意します。これはあくまで勇者を選定するためのものですから」
「……お気に召さないって言うか……そんな大きな刀、俺には扱えきれないっていうか……」
そもそも三歳児の体に合う刀なんてないだろうが、このまますくすく育ったとしても、女の体で扱うには大き過ぎる。
あれよあれよと流されるままに転生し、一世一代の非現実を味わってきた俺はむしろこの現状に対して落ち着きを見せ、物事を現実的に捉えていた。
「それもそうですね。それではこの天叢雲剣を元に、ユナちゃんに合うサイズの刀を用意しましょう」
女神イリーナが俺の方を見つめながら、考え込むような素振りをする。時々「やはりここは可愛い系が……あ、いやでもカッコイイ系も捨てがたいですね」と何かを呟いていた。
貰えるなら俺はカッコイイのが欲しいが……。
「よし! 決めました!」
女神イリーナが右手を前に突き出す。
直後、女神イリーナの手にどこからとなく青い光が集まり始め、だだっ広い草原に風が吹く。そしてその光は刀のような形に収束していった。
「ユナちゃんに似合うよう、丹精込めて創造しました」
女神イリーナの手に一本の刀があった。
その刀は天叢雲剣に良く似た装飾が施されているが、脇差し程の大きさになっていた。
「それでは勇者ユナ。こちらをどうぞ」
女神イリーナがその刀を俺に渡す。
「あ、ありがとう……」
うん? これ思ったより軽いな……まぁ刀なんて初めて持つし、実際はこんな物なのか?
「その刀の名前は小天、といたしましょう。どうです? 丁度いい大きさでしょう?」
「う、うん……とっても……」
文句の付けようがない程ピッタリなサイズだ。
女神イリーナは嬉しそうに微笑む。
「これなら問題なく扱えると思う」
俺がそう言うと、女神イリーナは急に俺を強く抱き締めた。
え……?
「本当はあなたのような可愛らしい女の子に、こんな事を頼みたく無いのです……平和に平穏に、ただこの世界を楽しんで欲しかったのです……」
女神イリーナが耳元でそう囁く。その声は僅かに震えていた。
魔王討伐……それがどれだけ大変で困難な事なのか、それを女神イリーナの力のこもった抱擁が、俺に教えてくれる。
「……急に魔王を倒せって言われても、なんか実感が湧かないっていうか、よく分からないんだけど。でもーーーー」
そう言って、俺も小さな体で女神イリーナを抱き返す。
「やれるだけやってみるよ。今度は死なない程度に、だけどね」
「……はい、約束ですよ」
そのまましばらく抱擁が続いたが、女神イリーナがまた「時間です」と言って、俺の側から離れていった。
「今度は魔王討伐後に、会えると思います。無理のないよう頑張ってください」
「うん!」
◇
朝日が目に差し込む。
「う、う~ん。眩しい……」
目が覚めた俺の手元には、夢の中で女神イリーナから授かった刀があった。
この手に馴染む感じ、握っていて大き過ぎず、小さ過ぎず、完璧な出来だ。
……ん? この手に馴染む?? この小さな手に馴染む??? ぁあああああ!!?
「これじゃダメじゃん!!?」
思わず叫んでしまった。
その声で周りで寝ていた家族が起き出した。
俺は急いで刀ごと布団に包まった。
寝惚けていたと勘違いしたのか、家族もまたゆっくりと布団を体に掛けて、もう一眠りした。
実際もう朝なのだが、この村で早起きをする人はほとんどいないから問題ない。こっちは問題大アリだけど……この刀、購入後の交換受け付けてないかな……
刀を握り締め、深くため息を吐く。
しばらくし両親が居間に向かう。その後に続くように兄も居間に向かった。
俺はそれを確認すると刀をベッドの下に隠し、皆んなのいる居間へと向かった。
食卓には既に料理が並べられており、各々が席についていた。
この世界、というよりはこの村では朝から獣の肉が普通に出てくる。それは主に前日父が狩った獣肉を地下の冷蔵室で保存していた物だ。
それを分厚く削ぎ取り、中までじっくりと火を通す。一見ワイルドな朝食だが、案外それに畑で取れた野菜が綺麗に添えられているだけで、見栄えが良い。
ちなみに俺の分は薄くスライスされ、さらにすり鉢でこれでもかというほどすり潰され柔らかくなっている。なんせ乳歯は殆ど生え揃っているといっても、それでも噛む力がまだまだ弱いからだ。
家族が居間の食卓に並び朝食を済ませる。
その後、父と兄は畑の手入れに行き、母は食器の片付けと洗濯をする。
俺はというと、昨日の事に懲りずに、母の目を盗んでまた森の中に入ってきていた。流石にもう怒られるのは嫌なので、道に迷ったりは決してしない。ある事を試したらすぐに帰るつもりだ。
俺は女神イリーナから貰った小天を持参している。この刀の斬れ味を試すために、今日は森に来ていた。
俺は幹の太い大樹の前で足を止める。
「これに少しでも刃が通れば十分だな」
俺は初めて小天を鞘から抜く。
女神イリーナが天叢雲剣を抜刀した時と同様に鞘から青白い光が溢れる。刀身を鞘から抜ききると、その光は収まり、僅かに刀身の周りが青白い何かに覆われていた。その仕様に男心を燻られたのも束の間、
「…………」
俺はその刀身を見て、驚愕することとなった。
「……え? マジで……」
なぜなら、その刀身に刃紋は無く真っ白で少しザラついていて、それでいて明らかにーーーー鉄製じゃない。
「これ……プラスチックだ……」
女神イリーナから授かった小天は、子供サイズのプラスチック製玩具でした。
「ってそれ完全にオモチャじゃねーか!!! どうりで軽い訳だよ!!!」
子供がチャンバラなんかに使うやつだよ……これで魔王討伐って……命賭けた所でどうにもならないだろ……
小天を右手に、ヤケになって大樹に向かって振りかぶる。
パコッと木に当たって跳ね返るのを想像していたが、結果、スパッと豆腐でも切ったかのように大樹に刃が通った。
「……この見た目でこの斬れ味は想像出来ないんたが」
大樹に真新しい大きな傷を作った。けれど小天には刃こぼれどころか傷一つない。
帰宅後、鞘にしっかり納めた小天を屋根裏の物置に隠した。ベッドの下では家族に見つかる可能性が高かったし、なにより子供の手の届かないところに置いておかないと。いや、俺のことじゃなくてね。
◇
昼を少し過ぎた頃、俺は歳の近い子供達と広場に遊びに来ていた。
あまり子供っぽい遊びはしたくないのだが、容姿が容姿なだけに俺は2人の女の子達とおままごとをする羽目になった。しかもその中でも俺は子供役だ。実年齢が一番幼いせいだろう。
「はい、ユナちゃん。ご飯が出来ましたよ」
赤髪が特徴的な母親役の少女、リンがお椀にてんこ盛りに砂利を掬い入れ、こちらに手渡してきた。
「わ、わーい美味しそう……」
早速食べる振りをしながら、砂利を木製のスプーンで下に落とす。
「ユナちゃんったら~、スープをこんなにこぼしちゃって~、それにスープは吸うものだよ~」
黒髪のゆったりとした喋り方が印象的な、父親役の少女、レイナがそう言って俺の頭を撫でる。
この村の主食は肉、米はない。お椀に丸く砂を盛られて出されたから、米を食べてる風にしてしまったが、動作を間違えていた。というか、そもそもスプーンなので何もかも間違っていた。
「そ、そうだった~……」
俺はお椀を口に近づけて、吸う振りをする。
「あ~美味しい」
「うふふ」とリンちゃんとレイナちゃんが顔を見合わせて笑う。
おままごと、というよりは自分達より下の子を愛でるのが目的といった感じだった。二人も8歳という年齢から、今もこのような扱いを家族や村人達からよくされているのだろうと思う。
女子組がおままごとをしている間、3人の男子組は森の近くで拾った枝で、チャンバラをしていた。
俺もそっちに混ざりたい、という羨望の眼差しでチャンバラを眺めていた。
3時間程度そんな事を続けて、ようやく解散となった。子供相手は本当に大変だ。前世でもたまに親戚の子と遊んでいたが、今回はそれ以上に疲れた。理由は簡単だ。こっちも子供だからだ。子供だって、遊んで貰っている側だって当然疲弊するわけで、子供は遊ぶ事にただ一生懸命なのだ。遊び疲れた親戚の子が寝てしまい、結果おぶって帰る事になったりもしたが、子供はそれでいいと、今は心からそう思う。
だからお願いだーーーー誰か俺をおぶってくれ。もう疲れ過ぎて、眠い……。
眠たい目を擦りながら家が隣のレイナに手を引かれ家に着いた。すると俺はそのまま玄関近くの居間で、床にうつ伏せで倒れて眠ってしまった。
目を覚ますと、日が暮れていて、俺はベッドの上にいた。周りには誰もいない。
覚束ない足取りで、俺は居間に向かう。すると丁度晩御飯の準備が出来たらしく、家族全員が居間に集まっていた。
「あ、ユナ起きたのね」「美味しそうな匂いに釣られて目が覚めたか? ユナ」「ユナは食いしん坊だな」
母、父、兄の順にそう言った。
「うん! ユナお腹空いた!」
俺は元気良く返事をする。
そして家族全員で一つの鍋を囲み、シーチと呼ばれる白いとろみのあるスープを食べる。中には肉や野菜がたっぷりと入っている。前世でいうシチューを彷彿とさせる見た目だが、味はどちらかというとカレーに近く、少しばかり辛味がある。
うん、美味しい!
「ユナったら、今日ここの床で寝てたのよ」
「笑い事じゃないよ母さん……僕が家に入ったらユナが倒れてて本当にびっくりしたんだから……」
「そりゃ相当遊び疲れたんだろうな、だが子供はそれでいい。遊び疲れるぐらい元気なのが一番だ!」
家族団欒の一時、俺の話題が持ち上がる事はよくある事だ。家族の中でムードメーカーとしての立ち位置を築いているから仕方がない。
俺は一人黙々とシーチを食す。
うん、美味しい……。
「それにユナがね」
まだ俺の話が続くのかよ!?
今日の晩御飯は終始俺の話題だった。
ま、愛されてる証拠でもあるし……悪い気はしないけど……。
食後そんな事を思いながら、 机の上に顔を伏せる。そして小天を思い出す。
俺は勇者として、魔王を倒さないといけない……ママはパパはお兄ちゃんはーーーー俺が勇者だって知ったら、どういう反応をするだろうか?
「まぁ、まだ先の話だよね」
異世界に転生した俺は、女神イリーナから魔王討伐を要求された。
「ちょ、ちょっと待って!? そんなこと急に言われたって無理だから!? ってか何で俺!?」
「選ばれたからです。貴女がーーーーユナが勇者として、この刀に」
女神イリーナの後方から黒々とした鞘に納められた一本の大太刀が出現する。
「これは神剣ーー天叢雲剣」
そう言って女神イリーナが漆黒の鞘から僅かに刀身を抜く。すると青白い光が辺りを照らし出した。
「……綺麗」
率直な感想だ。その刀身から溢れ出る光は、女神イリーナの神々しさを際立たせている。
「うふふ、ありがとうございます。ですがユナちゃんもとても綺麗ですよ」
ゾッと背筋に悪寒が走った。
女神様の目に多少の恐怖を覚えるのは別に俺の自意識過剰というわけではないはずだ。
「それでは勇者ユナ。あなたにこの刀を授けます」
女神イリーナが天叢雲剣を俺の方に差し出す。
「あの、これ本当に貰っちゃってもいい物なの?」
魔王討伐の件は一旦置いておくとしても、こんな貴重な物、そう易々とは受け取れない。小心者と言われるかもしれないが、これも一つの防衛本能と言えるだろう。
「はい、構いませんよ。ですがユナちゃんがお気に召さない、という事でしたら代わりの物を用意します。これはあくまで勇者を選定するためのものですから」
「……お気に召さないって言うか……そんな大きな刀、俺には扱えきれないっていうか……」
そもそも三歳児の体に合う刀なんてないだろうが、このまますくすく育ったとしても、女の体で扱うには大き過ぎる。
あれよあれよと流されるままに転生し、一世一代の非現実を味わってきた俺はむしろこの現状に対して落ち着きを見せ、物事を現実的に捉えていた。
「それもそうですね。それではこの天叢雲剣を元に、ユナちゃんに合うサイズの刀を用意しましょう」
女神イリーナが俺の方を見つめながら、考え込むような素振りをする。時々「やはりここは可愛い系が……あ、いやでもカッコイイ系も捨てがたいですね」と何かを呟いていた。
貰えるなら俺はカッコイイのが欲しいが……。
「よし! 決めました!」
女神イリーナが右手を前に突き出す。
直後、女神イリーナの手にどこからとなく青い光が集まり始め、だだっ広い草原に風が吹く。そしてその光は刀のような形に収束していった。
「ユナちゃんに似合うよう、丹精込めて創造しました」
女神イリーナの手に一本の刀があった。
その刀は天叢雲剣に良く似た装飾が施されているが、脇差し程の大きさになっていた。
「それでは勇者ユナ。こちらをどうぞ」
女神イリーナがその刀を俺に渡す。
「あ、ありがとう……」
うん? これ思ったより軽いな……まぁ刀なんて初めて持つし、実際はこんな物なのか?
「その刀の名前は小天、といたしましょう。どうです? 丁度いい大きさでしょう?」
「う、うん……とっても……」
文句の付けようがない程ピッタリなサイズだ。
女神イリーナは嬉しそうに微笑む。
「これなら問題なく扱えると思う」
俺がそう言うと、女神イリーナは急に俺を強く抱き締めた。
え……?
「本当はあなたのような可愛らしい女の子に、こんな事を頼みたく無いのです……平和に平穏に、ただこの世界を楽しんで欲しかったのです……」
女神イリーナが耳元でそう囁く。その声は僅かに震えていた。
魔王討伐……それがどれだけ大変で困難な事なのか、それを女神イリーナの力のこもった抱擁が、俺に教えてくれる。
「……急に魔王を倒せって言われても、なんか実感が湧かないっていうか、よく分からないんだけど。でもーーーー」
そう言って、俺も小さな体で女神イリーナを抱き返す。
「やれるだけやってみるよ。今度は死なない程度に、だけどね」
「……はい、約束ですよ」
そのまましばらく抱擁が続いたが、女神イリーナがまた「時間です」と言って、俺の側から離れていった。
「今度は魔王討伐後に、会えると思います。無理のないよう頑張ってください」
「うん!」
◇
朝日が目に差し込む。
「う、う~ん。眩しい……」
目が覚めた俺の手元には、夢の中で女神イリーナから授かった刀があった。
この手に馴染む感じ、握っていて大き過ぎず、小さ過ぎず、完璧な出来だ。
……ん? この手に馴染む?? この小さな手に馴染む??? ぁあああああ!!?
「これじゃダメじゃん!!?」
思わず叫んでしまった。
その声で周りで寝ていた家族が起き出した。
俺は急いで刀ごと布団に包まった。
寝惚けていたと勘違いしたのか、家族もまたゆっくりと布団を体に掛けて、もう一眠りした。
実際もう朝なのだが、この村で早起きをする人はほとんどいないから問題ない。こっちは問題大アリだけど……この刀、購入後の交換受け付けてないかな……
刀を握り締め、深くため息を吐く。
しばらくし両親が居間に向かう。その後に続くように兄も居間に向かった。
俺はそれを確認すると刀をベッドの下に隠し、皆んなのいる居間へと向かった。
食卓には既に料理が並べられており、各々が席についていた。
この世界、というよりはこの村では朝から獣の肉が普通に出てくる。それは主に前日父が狩った獣肉を地下の冷蔵室で保存していた物だ。
それを分厚く削ぎ取り、中までじっくりと火を通す。一見ワイルドな朝食だが、案外それに畑で取れた野菜が綺麗に添えられているだけで、見栄えが良い。
ちなみに俺の分は薄くスライスされ、さらにすり鉢でこれでもかというほどすり潰され柔らかくなっている。なんせ乳歯は殆ど生え揃っているといっても、それでも噛む力がまだまだ弱いからだ。
家族が居間の食卓に並び朝食を済ませる。
その後、父と兄は畑の手入れに行き、母は食器の片付けと洗濯をする。
俺はというと、昨日の事に懲りずに、母の目を盗んでまた森の中に入ってきていた。流石にもう怒られるのは嫌なので、道に迷ったりは決してしない。ある事を試したらすぐに帰るつもりだ。
俺は女神イリーナから貰った小天を持参している。この刀の斬れ味を試すために、今日は森に来ていた。
俺は幹の太い大樹の前で足を止める。
「これに少しでも刃が通れば十分だな」
俺は初めて小天を鞘から抜く。
女神イリーナが天叢雲剣を抜刀した時と同様に鞘から青白い光が溢れる。刀身を鞘から抜ききると、その光は収まり、僅かに刀身の周りが青白い何かに覆われていた。その仕様に男心を燻られたのも束の間、
「…………」
俺はその刀身を見て、驚愕することとなった。
「……え? マジで……」
なぜなら、その刀身に刃紋は無く真っ白で少しザラついていて、それでいて明らかにーーーー鉄製じゃない。
「これ……プラスチックだ……」
女神イリーナから授かった小天は、子供サイズのプラスチック製玩具でした。
「ってそれ完全にオモチャじゃねーか!!! どうりで軽い訳だよ!!!」
子供がチャンバラなんかに使うやつだよ……これで魔王討伐って……命賭けた所でどうにもならないだろ……
小天を右手に、ヤケになって大樹に向かって振りかぶる。
パコッと木に当たって跳ね返るのを想像していたが、結果、スパッと豆腐でも切ったかのように大樹に刃が通った。
「……この見た目でこの斬れ味は想像出来ないんたが」
大樹に真新しい大きな傷を作った。けれど小天には刃こぼれどころか傷一つない。
帰宅後、鞘にしっかり納めた小天を屋根裏の物置に隠した。ベッドの下では家族に見つかる可能性が高かったし、なにより子供の手の届かないところに置いておかないと。いや、俺のことじゃなくてね。
◇
昼を少し過ぎた頃、俺は歳の近い子供達と広場に遊びに来ていた。
あまり子供っぽい遊びはしたくないのだが、容姿が容姿なだけに俺は2人の女の子達とおままごとをする羽目になった。しかもその中でも俺は子供役だ。実年齢が一番幼いせいだろう。
「はい、ユナちゃん。ご飯が出来ましたよ」
赤髪が特徴的な母親役の少女、リンがお椀にてんこ盛りに砂利を掬い入れ、こちらに手渡してきた。
「わ、わーい美味しそう……」
早速食べる振りをしながら、砂利を木製のスプーンで下に落とす。
「ユナちゃんったら~、スープをこんなにこぼしちゃって~、それにスープは吸うものだよ~」
黒髪のゆったりとした喋り方が印象的な、父親役の少女、レイナがそう言って俺の頭を撫でる。
この村の主食は肉、米はない。お椀に丸く砂を盛られて出されたから、米を食べてる風にしてしまったが、動作を間違えていた。というか、そもそもスプーンなので何もかも間違っていた。
「そ、そうだった~……」
俺はお椀を口に近づけて、吸う振りをする。
「あ~美味しい」
「うふふ」とリンちゃんとレイナちゃんが顔を見合わせて笑う。
おままごと、というよりは自分達より下の子を愛でるのが目的といった感じだった。二人も8歳という年齢から、今もこのような扱いを家族や村人達からよくされているのだろうと思う。
女子組がおままごとをしている間、3人の男子組は森の近くで拾った枝で、チャンバラをしていた。
俺もそっちに混ざりたい、という羨望の眼差しでチャンバラを眺めていた。
3時間程度そんな事を続けて、ようやく解散となった。子供相手は本当に大変だ。前世でもたまに親戚の子と遊んでいたが、今回はそれ以上に疲れた。理由は簡単だ。こっちも子供だからだ。子供だって、遊んで貰っている側だって当然疲弊するわけで、子供は遊ぶ事にただ一生懸命なのだ。遊び疲れた親戚の子が寝てしまい、結果おぶって帰る事になったりもしたが、子供はそれでいいと、今は心からそう思う。
だからお願いだーーーー誰か俺をおぶってくれ。もう疲れ過ぎて、眠い……。
眠たい目を擦りながら家が隣のレイナに手を引かれ家に着いた。すると俺はそのまま玄関近くの居間で、床にうつ伏せで倒れて眠ってしまった。
目を覚ますと、日が暮れていて、俺はベッドの上にいた。周りには誰もいない。
覚束ない足取りで、俺は居間に向かう。すると丁度晩御飯の準備が出来たらしく、家族全員が居間に集まっていた。
「あ、ユナ起きたのね」「美味しそうな匂いに釣られて目が覚めたか? ユナ」「ユナは食いしん坊だな」
母、父、兄の順にそう言った。
「うん! ユナお腹空いた!」
俺は元気良く返事をする。
そして家族全員で一つの鍋を囲み、シーチと呼ばれる白いとろみのあるスープを食べる。中には肉や野菜がたっぷりと入っている。前世でいうシチューを彷彿とさせる見た目だが、味はどちらかというとカレーに近く、少しばかり辛味がある。
うん、美味しい!
「ユナったら、今日ここの床で寝てたのよ」
「笑い事じゃないよ母さん……僕が家に入ったらユナが倒れてて本当にびっくりしたんだから……」
「そりゃ相当遊び疲れたんだろうな、だが子供はそれでいい。遊び疲れるぐらい元気なのが一番だ!」
家族団欒の一時、俺の話題が持ち上がる事はよくある事だ。家族の中でムードメーカーとしての立ち位置を築いているから仕方がない。
俺は一人黙々とシーチを食す。
うん、美味しい……。
「それにユナがね」
まだ俺の話が続くのかよ!?
今日の晩御飯は終始俺の話題だった。
ま、愛されてる証拠でもあるし……悪い気はしないけど……。
食後そんな事を思いながら、 机の上に顔を伏せる。そして小天を思い出す。
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