上 下
23 / 26

23 涙

しおりを挟む

『……異世界の物語……信じられない話だけど、そうも言ってられないね。それで貴女はこれからどうするつもりなの?』

 私の素性と前世のゲーム知識をおおかた話すと、ティアラは真剣な表情でそう聞いてきた。

「私はただ幸せに長生きすることが目標よ。貴女みたいに国を取ろうなんて思っちゃいないわ」
『幸せね……随分曖昧な物言いをするのね。貴女にとっての幸せって一体何なのかしら?』
「……大切な人達と平穏に暮らす事よ」

 その返答に対し、ティアラは睨むように目を細め、頭の中で言葉を探すように小さく唸り声を漏らした。
 そして。

『ーーーーー本当に気に入らないわ』

 そう言って左目を閉じ、その瞼の上に軽く右手の親指を押し当てた。

『決めたわ! 私も貴女を呪うことにする! 貴女が受けた祝福のろいよりも、もっと強烈な呪いを、ね』
「……はぁ⁉︎ いや、言っている意味が分かんないだけど⁉︎ 急になに言ってるの⁉︎」

 悪役令嬢ティアラ=ヴィドフニルからの"呪い"って絶対えげつない奴じゃん⁉︎ そんなの食らってる余裕なんかないわよ⁉︎ ……って、そうじゃないでしょ⁉︎ そもそも目の前の相手があのティアラなのよ⁉︎ それなのに何を呑気に話に花咲かせてんのよ⁉︎ 馬鹿か私は⁈

 すぐさま距離を取ろうと試みたが。

『ーーーーー逃げても無駄よ』

 そう言ってティアラは唐突に自分の片目を勢いよく潰した。
 彼女のその目からは涙のように血が流れる。

「な、何してるの……⁉︎」

 そんな狂気の沙汰を目の当たりにし、思わず立ち止まると、ティアラは何事もないかの様に話し始めた。

『トワイライト王国ではこの赤い瞳を"朱月の瞳アカツキノヒトミ"と呼び、古くから災いの前触れ、不吉の象徴として恐れられてきたわ。そして何故この瞳が不吉の象徴とされているのか、それは建国より千年の繁栄を築き上げたこの国の歴史の中で、誰もが恐れ、誰もが憎み、誰もが愛した大罪人ーーーーー【朱鏡の魔女リリカ】と同じだからよ』
「……リリカ?」

 その名前はゲームにも登場していないものだった。その理由は単に本編にリリカというキャラの存在が関係なく、主人公のストーリーにおいて何の影響も与えないからと予想出来る。でもそれがティアラにとって同様かと問われれば、話はまた変わってくるのでしょう。

『ふふ、そう……知らないのね。彼女リリカについて貴女は何も知らない。その姿を、その声を、その温もりを、その不気味さを、その愛おしさを、その怒りを、その悦びを、その苦しみを、その純真さを……! 私の事を知った様に語る貴女が。私という存在を否定し続けてきた貴女が……私の大切ものを平然と奪っていく貴女が‼︎』

 ここは間違いなく"星と月の輝き~レイヴァテインの姫~"と同じ世界だと今なら言える。
 だけど、私は主人公じゃない。ストーリー上で語られる人間関係も、それに対する苦悩も葛藤も全て主人公アンナの主観によるもの。
 本編では悪役令嬢ティアラの悪事や暴言の数々は多く映ったが、そこに彼女の想いや生い立ちなどが反映される事は一切なかった。

 だから人前で感情のままに涙を流す少女を、私は知らない。

『ーーーーー私の全てを奪う偽物よ。どうか取り返しの付かない人生を嘆き、悔やみ、苦しみ、生きなさい』
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

そして乙女ゲームは始まらなかった

お好み焼き
恋愛
気付いたら9歳の悪役令嬢に転生してました。前世でプレイした乙女ゲームの悪役キャラです。悪役令嬢なのでなにか悪さをしないといけないのでしょうか?しかし私には誰かをいじめる趣味も性癖もありません。むしろ苦しんでいる人を見ると胸が重くなります。 一体私は何をしたらいいのでしょうか?

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~

イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」   どごおおおぉっ!! 5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略) ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。 …だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。 それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。 泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ… 旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは? 更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!? ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか? 困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語! ※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください… ※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください… ※小説家になろう様でも掲載しております ※イラストは湶リク様に描いていただきました

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

楽しい転生

ぱにこ
ファンタジー
大往生で亡くなった主人公。次の転生先は……あれ?これ前世でプレイした乙女向けRPGゲームじゃない? しかも、私……悪役令嬢!! 回想にしか登場しない悪役令嬢に転生したルイーズ。いずれ召喚される巫女様(ヒロイン)が恋愛せず、帰還EDを迎えると、この世界の終焉になることに気付きました。世界の行く末を巫女様の恋心に委ねるのは、あまりにも危うい。これは、どのEDを迎えても良いよう攻略対象者を強化せねばいけませんね。 目指すは邪神討伐! 前世の知識をフル稼働し対策を練るも、まだ少女……儘なりません。

【完結】死がふたりを分かつとも

杜野秋人
恋愛
「捕らえよ!この女は地下牢へでも入れておけ!」  私の命を受けて会場警護の任に就いていた騎士たちが動き出し、またたく間に驚く女を取り押さえる。そうして引っ立てられ連れ出される姿を見ながら、私は心の中だけでそっと安堵の息を吐く。  ああ、やった。  とうとうやり遂げた。  これでもう、彼女を脅かす悪役はいない。  私は晴れて、彼女を輝かしい未来へ進ませることができるんだ。 自分が前世で大ヒットしてTVアニメ化もされた、乙女ゲームの世界に転生していると気づいたのは6歳の時。以来、前世での最推しだった悪役令嬢を救うことが人生の指針になった。 彼女は、悪役令嬢は私の婚約者となる。そして学園の卒業パーティーで断罪され、どのルートを辿っても悲惨な最期を迎えてしまう。 それを回避する方法はただひとつ。本来なら初回クリア後でなければ解放されない“悪役令嬢ルート”に進んで、“逆ざまあ”でクリアするしかない。 やれるかどうか何とも言えない。 だがやらなければ彼女に待っているのは“死”だ。 だから彼女は、メイン攻略対象者の私が、必ず救う⸺! ◆男性(王子)主人公の乙女ゲーもの。主人公は転生者です。 詳しく設定を作ってないので、固有名詞はありません。 ◆全10話で完結予定。毎日1話ずつ投稿します。 1話あたり2000字〜3000字程度でサラッと読めます。 ◆公開初日から恋愛ランキング入りしました!ありがとうございます! ◆この物語は小説家になろうでも同時投稿します。

処理中です...