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15 お友達

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 ……………………目に見えて遠巻きにされたわね。

 リグルとの一悶着がありオルセル様の配慮のもとアンデューク一家は早々に退出されたが、殿下の生誕祭は滞りなく続いていた。

 退屈ね。
 貴族社会において階級の劣る出自の者から上位の家柄の者へ声を掛けることはマナー違反に当たる。でも挨拶なら話は別だ。ゆえに公爵令嬢という魅力的な肩書きを持つ私の周りにと人が集まり、目まぐるしい挨拶の嵐に見舞われるのが必然だったのだけど。
 まだ正式なデビュタントではないし、様子を窺っているのね。公爵令嬢としてではなく、私個人として交流を深めていって良い人材なのかどうか。

 ……まぁ失礼な話よね。そう思う気持ちも分からなくもないから気にしない事にするけど。
 
 お父様はお父様で王国魔術師団団長の務めで陛下のもとから離れられないみたいだし。きっとリグルの件も既に耳に入っているのでしょうけど、結果が結果なだけにその場に留まったのでしょうね。
 もし、私がリグルから一撃でも受けていれば飛んで駆けつけられたんでしょうが、何事もなく終わってしまい陛下の元から急いで離れるような事態でないと判断したのね。
 そういえば一緒に連れてきたフリージアはどうしているかしら。
 公爵令嬢の専属メイドとはいえ、このパーティーに参加する身分では無いからと、裏方に回ってるはずだけど。
 私としてはずっと連れ添っていたかったのだけど、当の本人が肩身の狭い思いをするのは不本意だもの。
 料理はどれも美味しいんだけど残念だわ……お持ち帰りって出来ないかしら?
 プラスチックの容器……なんて無いわよね。鍋に入れて蓋をする? 厨房に行ってお願いすれば借りられるでしょうけど……。

「ーーーーーお、お初にお目に掛かります!」

 と、令嬢にあるまじき行為に及ぼうとしていた私に声が掛かった。
 その声の主に目を向けると、そこには桜を思わせるピンク色の髪に、優しいエメラルドの瞳をした少女が立っていた。

「わたくしはグリフォード伯爵家が三女、キュニー=グリフォードと言います!」

 グリフォード……確かヴィドフニル家わが家と同じくらいの歴史を持つ由緒ある家系だったわね。

「初めまして、キュニー=グリフォード様。私はヴィドフニル公爵家のティアラ=ヴィドフニルです。どうぞ気軽にティアラとお呼びください」
「そ、そんな……わたくしなんかが恐れ多いです⁉︎」

 貴族間で名を呼ぶというのはその者達の間に信頼や友情があることを示すもの、もしくはこれからそうなりたいと願う期待が込められている。まぁ古臭い習わしではあるけれど、私や彼女のような由緒ある家の者にとっては大事な事なのよね。
 フリージア達使用人は伝達の妨げにならないようにと、信頼の意味で名を呼ぶ事が許可されているけれど、格下で名を呼ぶ許可も与えていないリグルが私の名を敬称もなく大声で叫んでいたことこそが暴力沙汰を丸く収めた後に残った一番の問題だったりする。

「構いませんわ。なにせ私はが欲しかったのですが、どなたも私には関心を抱かれなかったようで。私は待っていたのですよ。キュニー様のように良き関係を築けそうなお方を」

 私はあえて周りに聞こえるようにそう言った。
 気にしないとは言ったものの、だからとて我慢するつもりも毛頭ない。
 公爵家との繋がりを断つような行ないを公爵家の令嬢が黙認すれば、その地位が揺らぎかねないし、それになにより私自身が値踏みされている事が不快でしかなかった。

 でもそのお陰でこんな可愛らしい子が近づいてきてくれたのなら、少しは感謝しなくちゃね。まぁ、彼女の後に誰が来ても塩対応だけど。

 そんな私の思いも知らずに、お友達という言葉に笑みを浮かべ、キュニー様は一所懸命に応えてくれた。

「不束者ですが、どうぞ末永くよろしくお願いいたします!」
「…………結婚しましょうか?」
「え、ええ……⁉︎」
「冗談です。こちらこそお友達として宜しくお願いします。キュニー様」
「はい!」
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