転生オトメ恋世界

夢見月まひわ

文字の大きさ
上 下
7 / 49
一章:転生乙女

07 至福でしたから

しおりを挟む
「ルクス君、こちらですよ」
「待って、お姉ちゃん!」

 私の弟、ルクス君が6歳になり、私が14歳となった日常の一場面。私は遊び盛りのルクス君と共に村の広場にやってきていました。

 ルクス君はとても元気に育っています。
 それに近頃ではそんなルクス君に沢山のお友達ができました。お姉ちゃんとしてとても喜ばしい事です。

 村の広場は昼間、多くの人が集まります。
 家事の合間に手の空いた主婦や休憩と言いつつ気の合う人々と談笑しあう大人達、そして村の子供達です。

 私はあまり利用しませんでしたが、この和やかな雰囲気には居心地の良さを感じてしまいますね。
 麗らかな日和に賑やかな笑い声はどこか懐かしくも思います。

「ーーー捕まえた!」

 そう言ってルクス君が必死になって私にしがみつきました。

 鬼ごっこ中ですので、本来はタッチをしたらすぐに離れるべきなのですが、この必死さを前にしては何も言うことはありませんね。
 それにこうしていると、ルクス君の成長がよく分かります。

 走る速さ、しがみつく力の強さ、そして私のおへそ辺りに来る頭。

「、、、本当に大きくなりましたね」

 撫でるのにはちょうど良い高さにあるため、私はよく無意識のうちにルクス君の頭を撫でています。それは今も。
 すると、お日様のようにルクス君が微笑みました。

 懐かしい、、、?
 いいえ、私は知っているのです。

 これが幸せであることを。

「ーーーあ、ルクスまた甘えてる!!!」
「え、あ、、、ち、違うよ!!?」

 お友達にそう揶揄われたルクス君は慌てて私から離れました。

 残念です、、、が、お友達とのお付き合いも大事ですし、彼らがそういうお年頃だという事も理解している上、これは仕方のないことです。
 私がここで大人な対応をみせなくては。

 、、、と言っても、もう少しばかり撫でていたかったですね、、、何か代わりになるものはないでしょうか、、、

 、、、、、

 、、、あっ

「ーーーそれではククリ君も撫でてあげましょうか?」
「「「ーーーーーっはぁ!!!?」」」

 そう驚きの声を上げるイミノ=フゥシュリーさんの御長男こと、ククリ君。と、周りの子供達。

 、、、良い案だと思ったのですが、、、予想していた反応とは違いますね。なぜでしょうか?

「な、なんで俺があんたに撫でられなきゃいけないんだよ!!?」
「、、、?強制ではありませんよ?ただククリ君がルクス君を羨ましそうに見ていらしたので、もしかしたら撫でて欲しかったのかなと思いまして、そう提案してみたのです」
「羨ましそうになんかしてねーよ!!?」
「そうでしたか、、、どうやら私の思い違いのようでしたね。すみません」

 お互いに利のある良い提案だと思ったのですが、それでは仕方ありませんね。しかし、そうは言っても諦めきれませんね。どうにかならないものでしょうか?
 そう私がどうにか至福の時を得ようと苦悩していると、一人の女の子が私に声をかけてきました。

「ーーーあ、あの!!!わ、わたしの頭を撫でてください!!!」
「よろしいのですか?」

 その女の子は顔を赤らめながらコクコクと頷きました。

 なんと、、、撫でられる側あちらから来てくださるとは、、、これは期待に応えられるよう精一杯努めませんと。

 私はその子の身体に手を回し、ぎゅっと優しく抱き、そして頭を撫でました。

 精一杯っといっても、私が彼女にしてあげられる事なんて大したことではないでしょう。
 父のように、母のように、家族のように、、、私が安らげる場所があるように、この子にもあるのでしょう、心から安心できる拠り所が。
 だからこそ今は、私の出来る限りの事を致しましょう。

「ほぇ、、、っ!?あ、あの、、、あのあの、、、!?」
「そういえば、お名前をお聞きしていませんでしたね。私はルクス君のお姉ちゃんで、カヤ=エリュテイアと申します。あなたのお名前は?」
「、、、シュナ、、、って言います」
「可愛らしい響きですね。私が見るにどうやらあなたはルクス君と同い年のようですね。これからもルクス君と仲良くしてくださると、姉として嬉しいです」
「は、はいぃ、、、」

 そう返事を残すと、シュナさんから力が抜けてぐだっとこちらに身体が倒れてきました。

「シュナさん、、、?」

 身体を起こし、シュナさんの様子を見ると、顔を真っ赤にして目をぐるぐると回していました。

 、、、、、、、、、、まさか風邪!!!?このように言っては悪いですが、文明レベルの低い村ではただの風邪だって死に繋がりかねません!?

 私は慌ててシュナさんを抱えて、ルクス君と共に村のお医者さんへと走っていきました。

「いいなぁ、、、」
「俺も撫でてもらえば良かったなぁ」
「明日頼んだら撫でてくれねーかな、、、」

 その際にこのような言葉が聴こえたような気もしましたが、私はその言葉に反応しているほど余裕はありませんでした。

 そしてシュナさんをお医者さんに連れていった結果を言いますと、、、

「ーーーのぼせているだけのようだね。しばらく安静にしていれば何の問題もないだろう」

 とのことでした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

私の誕生日パーティーを台無しにしてくれて、ありがとう。喜んで婚約破棄されますから、どうぞ勝手に破滅して

珠宮さくら
恋愛
公爵令嬢のペルマは、10年近くも、王子妃となるべく教育を受けつつ、聖女としての勉強も欠かさなかった。両立できる者は、少ない。ペルマには、やり続ける選択肢しか両親に与えられず、辞退することも許されなかった。 特別な誕生日のパーティーで婚約破棄されたということが、両親にとって恥でしかない娘として勘当されることになり、叔母夫婦の養女となることになることで、一変する。 大事な節目のパーティーを台無しにされ、それを引き換えにペルマは、ようやく自由を手にすることになる。 ※全3話。

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

出勤したら解雇と言われました -宝石工房から独立します-

はまち
恋愛
出勤したら代替わりをした親方に解雇と言われた宝石加工職人のミカエラは独り立ちを選んだ。 次こそ自分のペースで好きなことをしてお金を稼ぐ。 労働には正当な報酬を休暇を!!!低賃金では二度と働かない!!!

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます

おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。 if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります) ※こちらの作品カクヨムにも掲載します

処理中です...