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勃起できない俺に彼氏ができた⁉3 身体は正直

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「清那なんてもう大嫌い!」
 瀬戸結はその言葉を残して玄関から飛び出した。背後から結の名前を呼ぶ声が聞こえてきたが、それを無視してバタンッと勢いよく扉を閉める。
 付き合ってもう少しで一年。小さな喧嘩はしたことがあるものの、ここまでの大喧嘩は初めてだった。喧嘩の発端は就活のことで結がイライラしていたせいだ。なかなか上手く就活がいかない結とは対照的に清那のほうは順調に進んでおり、その姿を間近で見ているからこそ焦りが出てしまっていた。そして、まるで八つ当たりのように清那に不満をぶつけてしまい、そこから家を飛び出すほどの言い合いにまで発展してしまった。
「はぁ……」
 家から飛び出したことで多少冷静さを取り戻した結は大きく溜め息を吐く。清那は何も悪くないのにひどいことを言ってしまったことに今更ながらに後悔する。しかし、あんな風に飛び出してしまった手前、すぐに家に戻るのは気が引けた。
 どうしようかと考えながら夜道をとぼとぼと歩いていると一台の車が目の前に止まる。見覚えのない車を怪訝な表情で見つめていると、中から人が降りてきた。
その人物の姿を見た瞬間、ひゅっと喉から乾いた音がなり、身体からは血の気が引いてその場に硬直してしまう。
「結ちゃん、久しぶり。こんな時間に一人でどうしたの?」
 ニコニコと笑顔を浮かべる一見すると悪い人物には見えない男。しかし、結にとってその男はかなりの危険人物だった。心臓がバクバクと鼓動を速め、その場から逃げろと脳内で警鐘が鳴り響く。
「俺のこと忘れちゃった?」
 忘れるわけがない。その男は、以前居酒屋で一緒に酒を飲み、帰り道で結のことを襲ってきた奴だ。その時は清那が助けてくれたが、今ここに清那はいない。さっきあんな喧嘩をしてしまったのだから助けに来てくれる可能性も低い。
 結はガクガクと震える自身の脚を叱責し、男に背を向けて駈け出そうとした。だが、男のほうが動き出すのが早く、腕を掴まれてしまう。
「離せっ…うっ…」
 男の手を振り払おうとしたのだが、その瞬間、腹に衝撃と鈍痛が走る。男の拳が結の腹を殴ったのだ。本気の力で殴ったわけではなさそうだったが、それでもその痛みに身体を屈めてしまう。
「結ちゃん、逃げないでよ。せっかく会えたんだし、前にできなかった楽しいことしようぜ」
 ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべた男に引き摺られ、痛みで抵抗することができなくなった結は車の後部座席に放り込まれてしまった。
「やめっ…んんっ!」
 叫び声を上げようとしたが、球体のものを口に押し込まれ、その両側に付けられた革紐で素早く固定されてしまう。そのうえ、両手は背中側でロープのようなもので縛られ、目元も布で覆われて視界は完全に遮られてしまった。
「んーっ!んんっ!」
 口に咥えさせられた球体には穴が開いていたため呼吸することはできたが、言葉をまともに発することはできずに呻き声を上げる。
「ははっ、ボールギャグ使うの初めて?あんま騒いでると唾液が零れて恥ずかしいことになるよ」
 男の言葉に確かに唾液が口から零れそうになっていることに気付き、結は渋々大人しくするしかなかった。騒がなくても唾液は溢れてしまうが、それでも大人しくしているほうがまだ少量で済むはずだ。
 結が大人しくなると車が走り出す振動が身体に伝わってきた。一体何処に連れて行かれるのだろうかと不安で泣き出しそうになりながら、結は縛られた両手をぎゅっと握りしめ、清那と喧嘩したことの後悔をより深くした。

 車は暫く走った後、停止した。ドアが開けられ、男に抱き上げられる。この数分で飲み込めなかった唾液が口の周りを汚しており、非常に不快だった。だが、縛られたままではそれを綺麗にすることは叶わず、男の腕の中に大人しく収まるしかなかった。
「フッ、こんなに大人しくなっちゃって、諦めたの?」
「……」
 逃げ出したいに決まっている。しかし、ここで暴れたところで男から逃げるなんてこと到底できない。結が男の問いかけに反応せずにいると、彼は結のことを抱いたまま階段を上り始めた。
二階に上がったのだろうか。
男の腕から降ろされ、扉が開く気配を感じていると腰を押されて前に歩かされる。少し歩くと突然強い力で背中をドンッと押され、バランスを崩してそのまま前に向かって倒れてしまう。幸い、倒れた先はベッドだったようで痛みはなかった。
「結ちゃん、ここが何処だかわかる?」
「……」
 ベッドに顔を突っ伏したままでいると身体を仰向けにさせられ、口に挟まれていたボールギャグが外される。それと一緒に目元の布も外され、一気に視界が明るくなった。暗闇から突然明るくなったことに数回瞬きをしてから周りを見回す。
 まず見えたのはニヤけた表情を浮かべる男。そして、その男越しに見えた部屋の様子に絶句してしまう。
「どう?このラブホ。こういう部屋入ったことある?」
 ラブホ、と言われて結の頭は一瞬考えることを放棄しそうになった。驚愕の表情を浮かべる自分の顔が瞳に映り、ますます現実から目を背けたくなる。
自分の姿を映し出しているのは、鏡だ。その部屋は壁も天井も鏡張りだったのだ。縛られてベッドに転がされている姿も唾液で汚れた自身の顔もしっかりと鏡に映っている。
「ははっ、驚いて声も出ないって感じだね。結ちゃん、ラブホに来たら何するかくらいわかるよね」
「……や、だ…」
 喉の奥から声を絞り出し、ふるふると小さく頭を振る。見開いた大きな瞳からは堪えようとしても涙が浮かんできてしまい、視界を歪めていく。
「気持ち良くしてあげるから安心して」
 男はそういうと小さな瓶を取り出した。明らかに怪しい液体が入っており、結は拘束されていない脚を使ってベッドの上で後退りしようとしたが、男の手によってあっさり掴まってしまった。そして、蓋を開けた瓶を口に突っ込まれてしまう。
「んんっ」
 舌の上に妙な甘さが広がっていく。絶対飲み込んだら駄目なやつだ。喉に流し込まないように抵抗していたものの、結の行動なんて男にはお見通しだった。瓶の中身を全て口内に入れられ、そのまま手で口を塞がれてしまう。吐き出したくても吐き出すことができず、瞳からぼろぼろと涙が零れ落ちていく。
「結ちゃん、そんな抵抗しても無駄だよ。早く飲んじゃったほうが楽になるからさ」
 言葉と同時に鼻も塞がれてしまい、完全に呼吸ができなくなってしまった。結にはその液体を飲み込むしか道が残されておらず、泣きながらゴクッとその甘い液体を飲み込んだ。
「危ない薬じゃないから大丈夫だよ。気持ち良くなるだけだから」
 鼻と口が解放され、荒い呼吸を繰り返す。体内に入った薬が何なのか結には理解できなかったが、徐々に身体が熱くなってきているような気がする。鼓動も早まっていき、頬も上気していく姿が鏡に映った。
 結の様子が変わっていく様に男は口角を上げ、結のシャツのボタンを外し始める。
「やめっ、やだっ」
 身を捩って逃げようとするものの、男の手を阻止することはできず、白い肌が露わになっていく。真っ白な肌の所々には清那によって付けられた情事の赤い跡が残っており、男はその跡を指でなぞった。
「フッ、結ちゃん、こんなに跡付けられて恥ずかしい身体にされちゃって。後ろも使い込まれてるのか?」
「っ…ふっ、ぅ…や、だぁ…」
 反応したくないのに男に触られると身体が勝手にぴくぴくと跳ねてしまい、現実から目を背けるようにぎゅっと瞼を閉じる。すると、男が結のズボンを下着ごと一気に脱がし、下半身が晒されてしまった。
 身体は飲まされた薬によって敏感になってしまっていたが、晒された陰茎はその昂ぶりに見合わず反応を示していない。これには男も驚きの表情を浮かべ、液体の入っていた小瓶のラベルをまじまじと読んだ。
「これ、即効性の媚薬だよな…」
 独り言のように呟いたあと、まるでその効果を確かめるかのように男は結の赤く色付いた乳首をきゅっと摘まんだ。
「あぁっ…!ゃ、あっ…」
 大袈裟なほどに身体がビクンッと跳ね、快感が一気に駆け抜ける。清那によってそこで快感を得ることを覚えさせられた身体は媚薬の効果もあり、強すぎる快感を覚えた。だが、相変わらず陰茎は勃起の兆しを見せずにいる。
「…結ちゃん、もしかしてEDなの?」
 勃起不全を疑われたことに結はふるふると首を横に振る。以前は勃起できないことが悩みだったが、その悩みは清那と付き合ったことで解消された。清那だったから、清那じゃないとダメなんだ。
「ふっ…ぅっ…清那じゃないと、勃たない」
「……ふぅん、まぁ後ろが使えればいいや」
 男は一瞬つまんなそうにしたものの、それは本当に一瞬のことで、すぐに開き直ったように結の両脚を持ち上げた。晒された後孔はひくひくと収縮を繰り返し、薄紅色の媚肉を僅かに覗かせている。
「や、あっ」
 バタバタと脚を動かそうとするが、これも媚薬のせいなのか、上手く力が入れられずにされるがままになってしまう。男がその部分をじっくりと見ながらニヤッと笑みを浮かべ、ローションのボトルの先端をそこに突き立てた。そして、躊躇することなく中に大量のローションを注ぎ込んだ。
「あっ、やぁぁっ」
 中に冷たい液体が流れ込んでくる。
清那はいつもローションをそのまま入れるなんてことはせずに必ず手で温めてくれていた。こんな風に冷たいままのものを入れられるのは初めてで、その感覚にボトルの先端をぎゅうっと締め付けるが、男は注入を止めてはくれない。
「俺のモノを挿れたいとこだけど、ちょっとこれで遊ぼうな」
 男は結の目の前に男性器を象ったバイブを見せつけた。電動式のようで、男がスイッチを入れるとぐるぐると回転し、中に埋め込まれている球が動き回る。
「やだっ、やだっ…」
「ははっ、良いね、その顔。最高にそそるよ」
 恐怖の表情を浮かべた結に構わず、男はそのバイブを後孔に押し当てた。ローションで十分に濡らされたそこは少し力を加えただけでバイブを飲み込んでいき、あっという間に亀頭部分まで飲み込んだ。
「こんなに簡単に挿っちゃうなんて。本当えろい身体にされたもんだな」
「ぅ、うぅっ…やだぁっ…」
「身体は喜んでるみたいだけどなっ」
 その瞬間、亀頭まで飲み込んでいたバイブが一気に奥まで突っ込まれる。
「あぁぁっ!」
 中に注がれたローションが隙間から溢れ出てぐちゅっと淫猥な音を立てた。玩具を挿れられたことにショックで身体をがくがくと震わせていると、男はカチカチッとスイッチを入れ、中でバイブが激しく回転し始める。人間には到底できない動きで前立腺を押され、上げたくもないのに勝手に甲高い声が上がってしまう。
「ゃ、あぁっ、とめっ、やらぁっ、あぁっ、せなっ、たすけてっ」
 無意識に清那に助けを求めてしまったが、今ここに清那はいない。こんなところに連れ込まれてしまっては助けになんて来られないだろう。
 絶望感に泣き声混じりの喘ぎ声を零す。すると、何処からともなく着信音が聞こえてきた。男もそれに気付いたようで音の出所を探す。それは脱がされた結のズボンのポケットの中から鳴っていた。
 男がそれを見つけ、着信音を鳴らせ続けるスマートフォンを取り出した。そして、その画面に表示されている文字を見てニヤッと笑みを浮かべる。
「羽月清那って結ちゃんの彼氏だよな」
「えっ…せ、な…?」
 まさか清那からこのタイミングで電話がかかってくるなんて思わなかった。喧嘩して出て行ったのだからかけてくるとしてももっと時間が経ってからだろうと。
 男は呆然とする結を特に気にも留めず、清那からの電話に出た。
「もしもし、結ちゃんの旦那か?ははっ、そうだよ、よく声だけで俺だってわかったな。あぁ、待ってろ、結ちゃんの姿見せてやるから」
 男はそう言うとビデオ通話に切り替え、結の姿を映した。ベッドに寝かされ、後孔にバイブを咥え込む姿。そんな姿を清那に見られてしまい、結は大粒の涙を流しながら電話の向こうの清那に向かって謝罪の言葉を口にした。
「清那っ…ひっくっ…ごめっ、なさっ…ごめんっ、なさいっ…」
 男は結のことを映していたカメラで突然部屋の中をぐるりと映しだした。男の理解不能な行動を見つめていると、彼はビデオ通話から通常の通話に戻し、楽しそうに清那に話しかけた。
「旦那、ゲームをしよう。一時間以内にここに辿り着いたら結ちゃんを返してやるよ。だが、一分でも過ぎたら俺のモノ突っ込むからな」
 清那の返事を待たずに男は電話を切り、スマートフォンを放り投げた。そして、右手で結の顎をガッと掴み、真正面から視線を絡ませる。
「聞いただろ、一時間は待ってやる。それまで玩具でたくさん遊ぼうな」
 一時間。その時間はあまりにも短すぎる。男は車で移動した上に、さっきのあの映像だけでこの場所を特定するなんて。そんなことできるわけがない。
そもそも喧嘩してひどいことを言ってしまったのだから清那が助けに来てくれるかどうかもわからない。もしかしたら結に呆れて探すことすらしてくれないかも。
 良くない考えばかりが頭の中を巡り、表情を暗くすると男の手が突然後孔のバイブを引き抜いた。
「んぁっ!」
 突然のことに甲高い声を上げ、腰がびくっと跳ねる。結の足元では男がなにやらごそごそと鞄を漁っており、その方向をちらりと見て、大きく目を見開いた。
そこには先程よりもサイズの大きいバイブと数種類のローターが置かれている。
「さっきのバイブじゃ物足りなさそうだったからな。こっちにしよう」
「ぃ、やだっ…ゃあ、あぁぁっ!」
 抵抗する間もなく極太のバイブが後孔を広げていく。太さも長さもあるそれは先程よりも奥深くへと埋められていき、入ってはいけない場所にまで届きそうなことに全身から汗が噴き出る。このバイブもスイッチが付いているようだったが、男はそのスイッチは入れずに最奥でバイブを止めた。次いでクリップ状のローターを手に取り、それで両方の乳首を挟み込んだ。敏感になってしまった場所を摘ままれ、痛みと快感が綯い交ぜになる。
「ひっ、ぁっ!」
「結ちゃんは乳首が弱いんだね。でも、こっちも可愛がってあげないとな」
 残されていたローターを手に取り、男はそれを萎えている陰茎へと括り付けた。裏筋にローターが当たるように取り付けられ、大きく脚を広げさせられる。どれもまだスイッチは入れられていないが、男がこのままでおしまいにしてくれるわけがない。
 その予想通り、男はまたあの嫌な笑みを浮かべて最初に陰茎のローターのスイッチを入れた。
「あぁぁっ!」
 振動が陰茎全体に広がるが、そこは相変わらず萎えたままで、結本人ですら本当に勃起不全になってしまったのではないかと不安になってしまう。
 勃起しない陰茎には構わず、男は次に乳首のローターのスイッチを入れた。挟まれただけでも快感を得ていたそこに激しい振動を与えられ、結は目の前がチカチカと明滅する感覚を味わう。連動するように腰が勝手に上がってしまい、男に局部を見せつけるような体勢になるが、そんなこと気にしている余裕なんてなかった。
「あははっ、結ちゃんすごいえっちな恰好じゃん。あ、そうだ」
 男は何かを思い出したかのように先程放り投げた結のスマートフォンを拾い上げ、カメラを起動させた。そして、結の恥ずかしい写真を何枚か撮り、その写真を結に見せつける。
「結ちゃん、見てよこの写真。最高だね。これは旦那にも送ってあげないとな」
「や、やだっ、だめっ、やめてっ…」
「焦っちゃって可愛いね。けど、だめだよ」
 結の見ている目の前で男は清那の連絡先を探し出し、撮った写真をそこに送り付けた。すぐに既読がついたものの少し待っても返信は来ず、男はつまらなそうにスマートフォンを再び放り投げた。
「既読無視とはね。まぁ、いいや。最後のこれも付けようね」
 優し気な口調で男は後孔に埋まるバイブのスイッチを入れた。それは先程入れられたバイブよりも激しく回転し、最奥を抉るような動きをしてくる。それに加えてバイブに埋め込まれた球も激しく動き、前立腺を叩きつけた。
「ゃ、あぁぁっ!やらぁっ、あ、あぁっ」
 ビクビクと激しく身体が跳ね、どうにかして快感を逃がそうとするが、逃げることは許さないとでもいうように男の手がバイブとローターの強さを変えてくる。
「結ちゃん、イっても良いんだよ」
「や、だぁっ、イきたくなっ、あぁぁっ」
「強情だね」
 身体はとっくに限界を迎えていたが、結はこの男の手でイかされるわけにはいかないとギリギリのところで耐えていた。早くこの責め苦から逃げたい気持ちと、時間が早く経ってしまったらこの男とセックスしなければいけないということに涙が次から次へと溢れ出てくる。
 しばらくの間、玩具の刺激を変えたり、バイブを抜き挿ししたりして楽しんでいた男がチラッと自身の時計で時間を確認した。
「あぁ、あと10分か」
 あと10分。
清那は来てくれるのだろうか。迫りくる時間に焦りを滲ませていると、突然目元を布で覆われてしまった。そして、身体を反転させられ、うつ伏せで腰だけを高く上げた状態にさせられてしまう。後孔に入っていたバイブがずるっと引き抜かれ、急になくなった質量に後孔はぱくぱくと収縮を繰り返す。
 身を捩ろうとすると、ビリッと袋を破るような音が耳に入った。それはコンドームの袋を開けるときの音のようだ。次いで、後孔に再び何かが宛がわれた。先程の袋の音と後孔に触れたものに嫌な予感が広がる。
 まさか、男は玩具ではなく陰茎を挿れようとしているのでは。一時間は待ってくれるはずだったのでは。
清那以外の男の陰茎を挿れられるということに結はパニックになって悲鳴に近い声を上げた。だが、バイブで広げられ続けていた後孔は上手く力を入れることができなくなってしまっており、男の侵入を拒むことができない。
「やぁっ、やだっ、抜いてっ、ゃだぁっ…んぁっ…やだぁ……清那っ…ごめっ…清那…ごめん、なさいっ…」
 後孔の中へと進んでくる感覚に、抵抗の言葉は清那への謝罪の言葉へと変わっていく。覆われた布に涙が沁み込んでいき、目の周りもしっとりと濡れていった。
「ゃ、あっ…ごめっ、なさっ…せ、なっ…ひっ、くっ…ごめっ、なさっ…」
 こんな俺でごめんなさい。
 今ここで何度謝ったって意味がないことはわかっていたが、それでも謝罪の言葉は止まらなかった。
「結ちゃん、そんなにあいつのことが好きなの?」
 泣き過ぎて言葉が上手く出てこなくなってしまい、結はこくこくと頷きを返す。
「ふーん…」
 男のつまらなそうな声に、もしかしたら呆れて止めてくれるかもしれないと、一瞬そんな淡い期待を抱いてしまった。
だが、途中まで埋められていたそれは抜かれることはなく、無慈悲にも最奥まで一気に貫いた。
「ゃあぁぁぁっ!」
 完全に奥まで挿れられてしまった。
 絶望感に包まれ、頭の中が真っ白になる。びくびくと身体を痙攣させ、言葉にならない嗚咽を零す。すると、男の笑い声が後ろから聞こえてきた。
「はははっ、そんなに泣いちゃって、俺のやつだと思った?残念、これも玩具だよ。これでも約束は守る男だからね。まぁあと5分もないけど」
 男のものではなかったことに少しだけ安堵したものの、あと5分もないという事実に息ができなくなりそうになる。
間に合うわけなんてなかったんだ。あんな一瞬のカメラの映像だけで清那がどうやってこの場所を見つけ出せるっていうんだ。そもそもこれは自分で蒔いてしまった種だ。清那は何も悪くないのに期待ばかりしてしまっていた。
 残り3分。
うつ伏せにされていた身体が再びひっくり返され仰向けにさせられる。バイブを咥え込む後孔の淵を指先でゆっくりとなぞられ、それはまるで今からそこに挿れることを示しているかのようだ。
結はもう何も考えることができなくなっており、頭の中は真っ白だった。身体の感覚も失われたようで、ただ自分の運命を受け入れるしかないと涙を流す。
その時、ドンッドンッと強く扉を叩く音が鳴り響いた。
「チッ…」
 忌々し気な舌打ちをした男がベッドから離れていく。
結も呆然としながら音のしたほうへと顔を向けた。目隠しのせいで何も見えなかったが、男は扉のほうへと向かっていったようだ。そして、その扉に向かって声を上げた。
「結ちゃんの旦那か?」
「そうだ。結を返せ」
「はぁ…あとちょっとだったのにな。いいよ、俺の負けだ。俺のこと殴らないって約束するなら開けてやる」
「わかった。早く開けろ」
 ガチャッと扉の開く音が聞こえたが、目隠しをしている結には誰が入ってきたのかまだわからない。何やら二人で会話をしているようだが、その声は小さい上に未だ振動し続けているローターとバイブの音が邪魔をした。
少しすると、突然男が大声で笑い出した。
「ハッ、お前もなかなかだな。しょうがないから手を引いてやるよ。十分遊ばせてもらったし、もう手は出さない」
 その言葉を最後に男は部屋から出て行ったようだ。扉の閉まる音と鍵をかける音が聞こえ、慌てた足取りで清那が近付いてくる。
「結!」
 身体を抱き起され、目隠しと手首のロープが外される。目の前には心配そうな表情を浮かべた清那がおり、結の瞳には再び涙が浮かび上がった。
「清那…ひっくっ…清那…ごめっ、ごめんなさいっ…」
 涙腺が壊れてしまったかのように涙は次から次へと溢れ出て止まらなくなってしまう。そんな結の頭を清那は優しく撫で、唇を重ね合わせた。
清那の温かさがじんわりと結の心を癒していく。慰めるような優しい口付けに次第に涙は収まっていき、唇を離すと目尻に溜まった涙を親指で拭われた。
「結、もう大丈夫だから」
「んっ…」
 こくっと頷き、清那の顔を見つめる。安心感から失われていた身体の感覚が徐々に戻ってきたようで、それと同時に未だ身体に残ったままの玩具の存在を思い出した。ローターは振動したまま、バイブも挿れられっぱなしでその恥ずかしい姿にカーッと顔が熱くなる。
力の入らなくなってしまった震える手でローターのスイッチを切ろうとするが上手く操作することができず、清那が代わりに止めてくれた。そのままローターもバイブも全て外してもらい、やっとのことで玩具からの責め苦から解放される。
「身体、大丈夫?」
「んっ…怪我とかはしてない……けど……」
 少し言いにくそうに視線を彷徨わせ、俯き気味でごにょごにょと不安に思っていることを口にする。
「媚薬飲まされたんだけど、その……勃たなくて…また勃たない身体になっちゃったのかもしれない…」
 その心配事に清那がふっと笑みを浮かべて結の頬を撫でた。彼に触れられると媚薬とは関係なく身体の熱が上がっていくような気分になる。
「そんなに心配しないで。あの男相手に勃たなくて俺は嬉しいよ。それに、俺とだったら勃つかもしれないでしょ?」
 清那の言葉に一瞬ぽかんとしてしまうものの、彼のその言葉は男から与えられた恐怖心を和らげてくれた。
 こんな状況になっても結のことを責めないでいてくれる彼の優しさに笑みを浮かべる。
「ふふっ…そうだね。ねぇ、清那……身体、まだ変な感じしてて…」
 媚薬の効果はまだ消えておらず、結は少し恥じらいながらも清那のことを上目遣いで見つめた。
泣きすぎた瞳は未だうるうると潤んでおり、目の周りには赤みが差している。
縋るように清那の服をきゅっと掴むと彼は結のふわふわとした髪を優しく撫でた。
「ん、治してあげる」
 前だけを開けた状態にさせられていたシャツを脱がされ、ベッドへと優しく押し倒される。清那の指がクリップで挟まれて赤く腫れてしまった乳首に触れると強い快感が駆け抜け、結は甲高い喘ぎ声を上げた。
「あぁっ!そこっ、今日はだめっ」
「どうして?」
「……さっきの玩具のせいで…敏感になってるから…だめ」
 その言葉に清那は意地の悪い笑みを浮かべた。清那の表情に自ら墓穴を掘ってしまったことに気付いたが、それは時すでに遅しというやつだった。指で触れた部分に清那は唇を寄せ、乳首を口に含んだ。そして、舌先で乳頭をぺろぺろと舐められた瞬間、全身に快感が走り、身体がびくびくと跳ね上がる。
「あぁっ!だめっ、あぁっ、おかしくっ、なっちゃっ、んぁっ」
 片方を舌で舐められ、もう片方を指先でくりくりと弄られて頭が真っ白になる。乳首だけで絶頂してしまうのではないかと思うほどの快感に清那の両肩を両手でぎゅっと握った。乳首を舐めることは止めてくれなかったが、乳首を弄っていた手は身体をなぞりながら下へと降りていき、結の陰茎へと触れた。
「んぁっ!」
 ビクンッと身体が跳ね、手が触れた場所からの快感に目を見開く。そこは先端からじんわりと液体を滲ませており、全く反応しなかったのが嘘かのように勃起し始めていた。
「結、ちゃんと勃ってるよ」
「ぁえっ……ふっ…ふふっ…やっぱ俺、清那じゃないと勃たないみたい」
 自分の身体がここまで正直だとは思わなかったが、心配事が一つ解消されたことに嬉しくなってくる。清那の手がそのまま陰茎を擦り始めたので、結はくいくいっと清那の服を引っ張った。
「んっ、清那っ、清那も服脱いで…早く、清那の欲しいから…」
 微笑みを浮かべた清那が結の身体から身を起こし、着ていた服を脱いでいく。ふと鏡張りになっている壁を見ると普段見ることがそうそうない清那の背中が目に入った。そこに見えたのはしっかりと鍛え上げられた背筋と何本か残る赤い爪痕。それは間違いなく結が付けたものだ。まさかこんなはっきり残ってしまっていたとは思わず、鏡の中の背中を見た後、清那の顔をじっと見つめる。
「どうした?」
「…背中、痛くない?」
「ん?あぁ、これくらい平気だよ。結が必死に縋ってくれた証だからね」
「……ばか」
 軽口を叩く清那に小さく悪態を吐くと、裸になった清那にぎゅっと抱き締められた。素肌同士が触れ合う安心感に包まれ、結も彼の背中へと手を回し、先程鏡に映った傷跡をそっと撫でる。
「結、挿れたい」
「ん、きて」
 唇を重ね合い、ちゅっと軽い音を鳴らせた後、清那が顔を上げて壁のほうを見た。すると、「あっ…」と小さく声を漏らし、僅かながらに困惑の表情を浮かべる。
 一体何があったのだろうかと、結も首を捻って清那の視線の先を追った。そこには開封されたコンドームの袋だけが残されていた。きっとあの男が結を脅すためにコンドームの袋を開け、中身は何処かにやってしまったのだろう。
「……買ってくる」
「…いい」
「ん?」
「付けなくて、いい。そのまま挿れて」
 今までお腹を壊す可能性があるからと言ってコンドームなしでセックスをしたことはなかった。しかし、今のこの状態で清那が買いに行って戻ってくるのを待っていられるわけがない。そして、何より今日はコンドームなしでセックスをしたかった。怖い思いをしたからこそ、清那をたくさん感じたかったからだ。
 未だ迷っている様子の清那を促すように彼の腰に両脚を回し、ぎゅっと力を込める。彼の身体が近付くとすでに勃ち上がった陰茎が肌に当たり、結は吐息を零した。
「お願い、清那、今日は中に出してほしい。清那のこといっぱい感じたい」
「…後でちゃんと掻き出すよ」
 先走りの液体を零す先端が後孔に当てられる。散々苛められたその場所は本当に欲しいものが与えられるという喜びからきゅうきゅうと先端に絡みついた。
 ドキドキと心臓の鼓動が早まっていき、清那の顔を見つめるとぐちゅっと音を鳴らせて陰茎が押し入ってくる。
「んぁっ…!」
 ローションと玩具で広げられたそこはいつもよりも抵抗なく陰茎を飲み込んでいく。それに加え、結は身体に違和感のようなものを感じた。
 このまま一気に挿入されたらまずい気がする。
「せ、なっ…ちょっと、待っ…あぁっ!」
 制止の言葉を口にした瞬間、ずっちゅっと一気に奥まで陰茎が突き立てられた。
「ゃあ、あぁぁっ!」
 頭が真っ白になる。身体ががくがくと震え、喉を仰け反らせる。そして二人の間に生温かい液体が飛び散り、身体を汚していった。
 結は挿入されただけでイってしまったのだ。まさか抽挿されることもなくイってしまうとは結本人も思わず、混乱しそうになる。目を白黒させていると清那が微笑みを浮かべて結の頭を撫でた。
「挿れただけでイっちゃった?」
「ゃ、あっ…からだ、へんっ…」
 一回イったことで熱が収まるかと思いきや、陰茎は再び頭を擡げ始めており、先程よりも疼きがひどくなっている気さえする。最奥に埋まる陰茎を無意識にきゅうきゅうと締め付けてしまい、清那の眉間に僅かに皺が寄った。
「結、あの男の前でイった?」
「イって、ないっ…我慢したから…」
「こんな敏感なのによく我慢できたね」
「……いじわる」
「ふふっ、結、我慢できて偉かった」
 宥めるように額に口付けを落とされ、清那の腰がゆっくりと引かれていく。張り上がったカリが前立腺を擦るとそれだけでまたイってしまいそうになり、背中に回した手につい力が入ってしまう。
 抜けるギリギリまで引かれ、それは再び中へと押し入ってくる。そのスピードが徐々に速まっていき、結の声からは甲高い喘ぎ声がひっきりなしに上がった。
「あ、あっ、せなっ、あぁっ、またイっちゃっ」
「うん、イって良いよ」
 水音の混じったばちゅばちゅと肌がぶつかる音が響き渡り、達しそうになった瞬間、清那が赤く腫れあがった乳首をぎゅっと摘まんできた。
 目の前に光が瞬き、全身が快感で包まれる。
「あ、あぁぁっ!」
 どぴゅっと再び精液が撒き散らされ、二人の腹を汚していく。絶頂にぴくぴくと震え、その余韻に浸ろうとしたのだが、清那は腰の動きを止めてはくれなかった。それどころかより一層突き上げを激しくし、それは絶頂の真っただ中にいる結にとってある意味拷問のようなものだ。ずっとイきっぱなしになっているような感覚の中、射精とは違うものを感じて結は焦って声を上げた。
「せなっ、待っ、あぁっ、なんか、でちゃっ…ゃああっ!」
 結の制止は受け入れてもらえず、最奥を思いっきり突き上げられてしまった。その瞬間、結の陰茎から無色透明の液体が飛び散り、粘り気のないそれは二人の身体をびしゃびしゃと濡らしていく。
 まさか漏らしてしまったのか。セックス中に漏らしてしまうなんて。あまりの羞恥に瞳に涙が浮かんでくる。
 涙を浮かべる結に、さすがの清那も動きを緩め、慰めるように唇同士を重ね合わせた。
「せなっ、ごめっ…ごめんっ…」
「結、これはおしっこじゃなくて潮だよ」
「え…?」
「気持ち良くなると男でも潮吹きできるみたい。だから謝らなくて良いよ」
 潮、なんて言われてもいまいちピンとこなかったが、漏らしたわけではなったことに僅かばかり安堵する。その安心したのが清那にも伝わったのか、彼は腰の動きを再開させてきた。
「あ、あぁっ!せなっ、ちょっと、きゅうけっ、あぁっ!」
「だめ」
 ばちゅっと突かれる度に精液なのか潮なのかわからないものが飛び散り、頭がおかしくなりそうになる。必死に背中に縋りつき、飛びそうになる意識をぎりぎりのところで保つ。
 清那もイきそうになっているのか額に薄っすらと汗を浮かべており、涙の膜が張った瞳でそれを見つめていると彼が微笑みを浮かべた。
「あっ、んっ、ぁっ、せな、せなっ…」
「んっ、ゆいっ」
 唇を重ね合わせ、舌を激しく絡ませ合う。それと同時に清那が激しく腰を打ち付け、最奥で止まった瞬間、彼の陰茎から大量の精液が結の中に叩きつけられた。
 どくどくと注ぎ込まれる精液に満たされながら結も絶頂を感じたが、陰茎からは何も出ることなく、終わりのない絶頂に襲われているような感覚になる。
「ゃっ…ぁっ…せな…っ…きもちぃのっ…ぁっ…とまらなっ…」
 ぴくぴくと細かい痙攣を繰り返す身体をぎゅっと抱き締められ、清那の肩口に顔を埋めて乱れる呼吸を繰り返す。
「は、ぁ…ゆい、気持ちいい…」
「んぁっ…せなの、いっぱい…きもちいい…」
 その言葉に、結の中に埋まる清那の陰茎がピクッと反応したような気がして、結は顔を少し上げて涙の膜が張った瞳で清那を見つめた。
 清那もその視線に気付き、結のことを見つめ返す。そして、少し苦笑いを浮かべた。
「…気付いた?」
「……おっきくなった」
 結の身体からはまだ快感の波は引いておらず、ひくひくと後孔が収縮して清那の陰茎を締め付ける。清那がまた抽挿をし始めそうな気配を感じたため、結は彼の身体をぎゅっと抱き締めてその動きを阻止した。玩具で散々いじめられ、射精も潮吹きもして体力の限界だったからだ。
 清那も結の様子に気付いたようで無理強いはせず、代わりにくしゃくしゃと頭を撫でてきた。
「もうちょっとこのまま、ね」
「んっ…」
清那の温もりに徐々に熱が落ち着いていき、ふと清那の顔越しに天井の鏡を見つめる。そこに映っていた清那の背中には新たな赤い爪痕が残ってしまっており、結は鏡を見ながらそのあとを優しく撫でた。すると、清那の身体がぴくっと反応し、その顔を覗き込む。
「清那、痛い?」
「平気だよ。結は身体、治まった?」
「んっ、大丈夫」
 清那の大きな手が結の頭を撫で、結はにこりと笑みを浮かべた。



「ねぇ、本当にしなきゃだめ?」
「だめ。お腹壊したら大変なのは結だよ?」
「うー…わかったよぉ…」
 セックス後、いろんな液体でベタベタになってしまった二人はそのまま帰るわけにもいかず風呂に入ることにした。シャワーで身体を洗い流し、すっきりして風呂に浸かろうとしたところ、清那に中に出した精液を掻き出さなければいけないと言われてしまったのだ。中出しされても勝手に流れ落ちてくるのを待てば良いと思っていたのだが、清那の押しに負けてしまい、結は渋々清那に背中を向けて壁に手をついた。
「結、脚広げて。指入れるよ」
「んっ……あっ…!」
 清那の二本の指が後孔を広げるとその隙間からどろっとした液体が零れ落ちてくる。精液だけでなくローションも大量に注ぎ込まれていたそこからは粘着質の液体が次から次へと溢れ、最初はなんとか耐えようとしていた結だったが、すぐに脚がガクガクと震えて立っていられなくなってしまった。
 清那に腰を支えてもらったが、それも我慢できずに結局四つん這いの姿勢になるしかなく、羞恥に震えながら清那に尻を向けた。
「お湯入れるからちょっと我慢してね」
「んっ……ひぅっ…!」
 お湯が体内に入ってくる感覚にビクンッと身体が跳ね上がる。中を綺麗にしてもらっているだけだと思いながらも清那の指が前立腺を掠めたりするせいで変な声が上がってしまう。
「ゃ…ぁっ…んっ……清那っ…まだ…?」
「あと少し」
 もういい加減いいだろうと思ったが、清那の掻き出したものに目を向けると確かに色は薄まっているものの、まだ若干白濁としたものが混じっている。
 身体を支える腕がぷるぷると震え、崩れ落ちてしまうのではないかと思った瞬間、清那の指がぐっと前立腺を押し上げてきた。突然の強い刺激に耐えられるわけもなく、本当に腰だけを高く上げた状態で突っ伏してしまう。
「ゃ、あぁっ!清那、そこ、だめっ…掻き出すだけだって…」
「ごめん、結の反応が可愛くて、つい」
「ばかっ」
 振り向いて叩いてやろうかと思ったが、身体からは完全に力が抜けてしまい、悪態を吐くことしかできなかった。
「悪かったって。ほら、もう終わったから一緒に入ろう」
「……起こして」
 ぼそっと呟くと後ろで笑いが零れた気配がし、少し不貞腐れながらも清那に抱き上げてもらう。そのまま清那に抱きかかえられた状態で温かい湯船に浸かると疲れが一気に和らぐような気がした。
 背後にいる清那に寄りかかりながら、ずっと不思議に思っていたが聞くタイミングを失っていた事を口にする。
「清那、よくこのホテルの場所わかったな」
 あんな少しのヒントで時間内に辿り着けるなんて未だに信じられない。もしかして、このホテルを使ったことがあったとか…?そんな嫌な想像をしてしまい、小さく首を振る。
 結の問いかけに清那はなかなか答えず、不安になって彼のことをチラッと見た。
「清那…?どうした?」
「……アプリ」
「え?」
「結の位置情報がわかるように位置情報共有アプリ入れてた」
「いつの間に⁉」
 驚く結に、清那は観念したように一つ息を吐く。そして、アプリを入れた経緯を説明し始めた。
 以前にも一度、二人はちょっとした喧嘩をしたことがあった。理由なんて覚えていないから本当に些細なことだったのだろう。その時も結は家から飛び出してしまい、清那は結のことをかなり探し回ったそうだ。結局、その時の結は自分のアパートに帰っており、次の日に清那の家へと戻ってきた。
 その時、結がまた何処かに行ってしまったらどうしようかという不安から、結がお風呂に入っている間にこっそり位置情報共有アプリを入れたのだ。アプリが増えていたら普通は気付きそうなものだが、結は使用頻度が低いものはフォルダにまとめて入れていたため、その中のアプリが一つ増えたところで気付かなかったというわけだ。
位置情報はすぐに特定できたものの、男は車で移動しており、車を持っていない清那は辿り着くまでに時間がかかってしまった。幸いだったのは男も他人に見られることを懸念して部屋に駐車場が付いているタイプのラブホを選んでいたこと。そして、他に停まっている車が少なく、建物の外に各部屋の紹介写真が飾られていたことで特定することができた。
あの時、清那と会話していた男が突然笑い出したのは清那がここに辿り着いた経緯を話したからだという。
「結、勝手にアプリ入れて、ごめん」
 清那の話を彼の腕の中で大人しく聞いていた結は身体を捩り、清那にぎゅっと抱きついた。そして、彼の耳にちゅっと口付けをして耳元で囁く。
「俺のほうこそ不安にさせてごめん。位置情報のアプリはちょっと驚いたけど、それも俺が前に不安にさせちゃったせいだからだよな。今日、清那が来てくれて本当に良かった。ありがとう」
 身体を起こして彼の綺麗な黒い瞳をしっかりと見つめる。その瞳には結の姿がはっきりと映っている。にこりと笑みを浮かべて唇を重ね合わせてから、申し訳なさげに眉尻を下げた。
「あと、喧嘩して大嫌いなんて言ってごめんなさい。清那のこと大好きだし、清那じゃないとダメってよくわかったから……」
 後半はごにょごにょと消え入りそうな声になっていき、それに清那が笑みを浮かべた。
「良いよ。結の身体がすごく素直で嬉しい」
 清那の手がお湯の中で結の陰茎を軽く撫で上げ、ピクッと身体が跳ね上がる。顔を少し赤らめていると身体に硬いものが当たり、結は悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「清那の身体も素直じゃん」
「結のことが好きだからね」
 そう言うと二人はくすくすと笑いを零しながらどちらともなく唇を重ね合わせた。
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