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緊急事態2

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この世界に来てから魔物討伐という言葉は聞いていたけれど、もっと安全なイメージを持っていた。
魔法で「えい」とやっつける。そんなイメージをしていた自分が恥ずかしい。

ルドーさんを始め、騎士達は身を挺して皆んなの安全を保っていてくれていたのだ。
前世でも戦争は昔話。他国同士でやっているらしい。という平和ボケしていた日本人だった私は目の前に血を流して運ばれてくる人を見て怖くなってしまった。

治癒師が怪我の具合を判断してポーションで回復をさせる人、治癒魔法をかける人などをエリアごとに搬送されてくる。
震える手と足をなんとか動かしてポーションを飲ませて、簡単な手当を施していく。









目の前に運ばれてくる怪我人を指示通りにポーションを飲ませたり、患部にかけた後手当をしていった。



それにしても怪我人が多すぎる。
全然間に合っていない。

もっと効率よく…広範囲に治癒魔法が使えたらいいのに。
そう思ったが聖女でもない限りそんなことは不可能だ。

広範囲に…





私はあることを思い付き、ポーションが積まれているところへ行くと大きなポーションの水玉を作った。
そして空高く魔法で持ち上げる。


「おい!お前!何をしている!大事なポーションを!やめろ!」

そして強くイメージする。

雨のように…霧のように…広く散布されるようにと。



弾けたポーションの水玉はドームを作りゆっくりと広範囲に広がった。
負傷した人達を包んだポーションは効果を発揮して一気に治療が進む。
軽傷だった人は動けるようになり、重傷の人も血が止まったり痛みが軽減されたようだ。
その後も治癒師と共に全力を尽くした。
すると前線で動かせないほどの重傷者がいると聞いた。


「お願いします!…前線まで同行を!」

治癒師に声をかけたが2人とも渋い顔をしている。

「私達はここにいる患者で手一杯だ。…残念だが…。」

「私が行きます!」
立ち上がり、声をあげると周りは静まり返った。

「…あなたでは…っ」

「上級ポーションがあります。…そしてそのポーションが作れるくらいの力はあります。」
今まで隠していたがこんな状況だ。
自分の身を守っている場合ではないと申告した。

「え?…そんなことが?…いえ、ではお願いします。」

半信半疑な騎士だったが藁をもすがる思いで私に声をかけた。

周りではそんなはずばない。あの人は商人としては一流かもしらないが治癒に関してはど素人だ。という声が聞こえてくる。
上級ポーションも本当にあるのか?という声を無視して患者の居る位置を確認する。

「ご案内します!乗ってください!」

鞄の中のポーションの数を確信して騎士の後ろに乗るとあっという間に空に舞い上がった。
ここまで移動していた速度とは比べ物にならないくらい速く飛び、あっという間に前線が見えてくる。

下では爆砕音や魔物の唸り声が響いている。

近くに降りると魔物が見える位置に人が2人も血だらけで倒れている。
一緒にいた騎士にポーションを渡して手分けして上級ポーションを使った。
血は止まり、ぱっくり開いていた深い傷が少しずつ治っていくがまだまだ油断できない。

やったことはないが上級ポーションを作るときと同じように手をかざし傷を治すイメージをした。
ルドーさんに教えて貰ったように魔力を集中させていると身体の損傷した箇所がわかった。
そこに意識を向けて魔法を放つ。

「うそだろ…えぐれた腹が治っていく…」

見ていた騎士が呟くと倒れていた騎士も意識を取り戻した。

「あれ。俺は…なんで…。」

身体の損傷箇所は粗方治ったはずだ。
しかし完璧だという自信もない。

「念のため安全なところに移動して安静にしててください。あとで治癒師に見てもらってくださいね!」

そしてもう1人の元へと向かいすぐに治療箇所を確認する。
目を瞑り、同じように魔法に集中した。
こちらも意識を取り戻したので安堵していると「危ない!」と言われて振り返ると目の前に魔物が放ったであろう黒い塊が見えた。

その光景はスローモーションで流れている。

あ、これ毒っぽいな…当たったら皮膚溶けそう。
みんな避けたからここまで飛んできたのね…
流れ弾的なやつか。避けれなさそう。

なぜか呑気に目の前で起こっている危機に対して感想を心の中で述べていた。
そして死ぬのか…と悟ったときに不意にルドーさんが恋しくなった。

そのときに「私ってルドーさんのこと好きだったんだな。」と確信した。
でも今そんなことを思っても仕方がない。
一度死んでこの世界にきた。
また同じように転生出来るならこの世界でお願いしよう。
また生まれ変わってもルドーさんに会えますようにと祈った。








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