34 / 39
33
しおりを挟む
◆ルーベンside
「やったのは俺だ!」
そう、リコリスの『姉』である、空飛ぶ生首の質問に答えてやる。トドメは黒い水晶玉だったが、それ以外は俺(と、俺が原因だとリコリスが言い張る謎の現象)なので問題ないだろう。
不意打ちをしないというのはリコリスだけでなく、その姉にも適用される。『姉』もリコリス一味の一人であり、『証明』のための大事な敵なのだから。
「お前かぁぁぁっ!」
彼女は杖本体と自身の生首を分離すると、首の断面から急速に体を再生させ、リコリスを包む光と同色の翠光を手に纏い、殴り掛かってきた。
リコリスの姉ならばコイツも貴族だろうに、戦闘方法がステゴロとは一体どんな教育を受けたのだろうか。
「いや、教育は禄に受けてなかったな」
何せ彼女らは物心ついて間もなく、生来の趣味が原因で勘当されているのだから。『姉』の拳を避けながら、そんなどうでもいい事を考える。
しかし、硬いな。
それが、軽く斬りつけてみた俺の感想だ。
今の俺はATKは未強化時の五倍はある。ただでさえ、ゲーム中最高クラスのATKを持つエリカの火力だというのに、それだけ強化されればスキルを使わない通常攻撃でさえ、並のURのスキル攻撃に匹敵する火力が出る。
だと言うのに、『姉』はまるで効いてる素振りはない。一応傷はつけられるのだが、僅かについた傷もパッシブスキルであろう回復力に癒やされてしまった。
流石は未実装だったとはいえ、後半ボスキャラと言ったところか。まだ喰らっていないが、翠拳も受けたら手酷いダメージがあるのだろう。いくら何でも理不尽に過ぎる。
「あはっ、あはははははははっ!」
でも、それが楽しい。
通常攻撃でもダメージを与えられるなら、スキルを使えば効果的なダメージが期待できる。それだけの火力が出るのはバカみたいに多い腐肉戦士のお陰だ。
俺には敵が増えるほどATKが上昇するパッシブスキルがあるので、こうして明らかに単騎で戦うべきでない敵と戦えているのだ。その点は感謝だな。
「おい、リコリス! 折角姉上が来たんだから、お前もこっちに来いよ!」
『姉』が出てきてからずっとリコリスは発狂したように奇声を上げながら、のたうち回っていた。
彼女は黒い水晶玉を呑んだことにより、意識を失うほどの何かがあったのだ。
普通に考えて気を失う程の何かがあれば『姉の近くにいたかった』事など忘れても仕方ないのだろう。
ゲームでも、実際に会った今でも、まるで全てを捧げてでも叶えたい願いのであるかのように言っていたので、リコリス自身が生きてさえいるなら『姉』反応すると思っていたが、どうやら違ったらしい。
彼女にとって、口先の悲願達成より目先の苦しみに藻掻く方が重要なのだろう。
そう思ったが────
「ぁぁぁぁうぇぇぇっ!」
「あん?」
ただ悲鳴を上げてるだけだと思っていたリコリスの声に違和感を覚えた。
相変わらず床の上をのたうち回っており、その姿は普通のか弱い少女にしか見えないが。俺の気の所為か?
「ねうぇぇぇぇっ!」
「おっ」
どうやら俺の気の所為では無かったようだ。リコリスの心は生きているし願いも諦めていない。普通などではなく、しっかりと狂ってるようだ。
つまり、まだ戦えるということだ。現在の黒い水晶玉に強化かれているであろうリコリスと。
「死ねクソ野郎!!」
リコリスに目覚めの一発で【絶対制裁】でも当ててやろうと思って斬りかかれば、瓦礫の山に蹴り飛ばしていた筈の『姉』が攻撃してきた。
まだ二秒と経過してないのに凄まじい姉妹愛ぶりだと関心する。
さらに、今までの攻撃は翠色に光る拳だけだったと言うのに、妹へ敵が近寄った途端、新技の範囲攻撃を放ってきたのだ。
『姉』を中心に広がる翠色の粒子はリコリスの命令がくるまで待機していた腐肉戦士にもダメージを与えて俺へ迫ってくる。だが、無防備に受けるつもりはない。
「お前が死ね!」
子供の言い合いのような返答と共に【同胞渇望】を放つ。
見たところ『姉』の範囲攻撃は【同胞渇望】と同じく、物質には干渉しない生物(?)のみにダメージを与えるスキルだ。
ならば、俺も似たような原理の【同胞渇望】を放てば相殺できるのではないかと考えた。
「はっ!?」
結果は大成功。
『姉』の驚く声は、迫り合う黒と翠に掻き消される。
スキルのぶつかり合いは、互いに気体のような見た目をしてるというのに、その威力は凄まじく大気が揺れるような競り合いを繰り広げていた。
「っ!」
やがて黒蛇が翠光を食い破り、そのまま『姉』へ牙を剥いた。
正直、この結果は想像以上だ。
せいぜい、相手の攻撃を掻き消すのが限界だと思っていたのだから。流石はエリカのスキルである。エリカ万歳。
本来の性能を考えればぶっ壊れと言っても過言ではないほど強化された【同胞渇望】は、未実装ボスである『姉』の攻撃を相殺に留まらず、撃ち破ってダメージを与えるに至った。
しかし、敵も見事なものだと思う。『姉』として矜持なのか不意を突かれたであろう攻撃でも、悲鳴を飲み込み妹を背に庇ってるのだから。
奥歯が砕けるほど噛み締め、全身を襲っているであろう脱力感を耐えきった。
でも、まぁ──
「ア゛ア゛ァァァァァァッ!!」
無駄なんだけどな。
「やったのは俺だ!」
そう、リコリスの『姉』である、空飛ぶ生首の質問に答えてやる。トドメは黒い水晶玉だったが、それ以外は俺(と、俺が原因だとリコリスが言い張る謎の現象)なので問題ないだろう。
不意打ちをしないというのはリコリスだけでなく、その姉にも適用される。『姉』もリコリス一味の一人であり、『証明』のための大事な敵なのだから。
「お前かぁぁぁっ!」
彼女は杖本体と自身の生首を分離すると、首の断面から急速に体を再生させ、リコリスを包む光と同色の翠光を手に纏い、殴り掛かってきた。
リコリスの姉ならばコイツも貴族だろうに、戦闘方法がステゴロとは一体どんな教育を受けたのだろうか。
「いや、教育は禄に受けてなかったな」
何せ彼女らは物心ついて間もなく、生来の趣味が原因で勘当されているのだから。『姉』の拳を避けながら、そんなどうでもいい事を考える。
しかし、硬いな。
それが、軽く斬りつけてみた俺の感想だ。
今の俺はATKは未強化時の五倍はある。ただでさえ、ゲーム中最高クラスのATKを持つエリカの火力だというのに、それだけ強化されればスキルを使わない通常攻撃でさえ、並のURのスキル攻撃に匹敵する火力が出る。
だと言うのに、『姉』はまるで効いてる素振りはない。一応傷はつけられるのだが、僅かについた傷もパッシブスキルであろう回復力に癒やされてしまった。
流石は未実装だったとはいえ、後半ボスキャラと言ったところか。まだ喰らっていないが、翠拳も受けたら手酷いダメージがあるのだろう。いくら何でも理不尽に過ぎる。
「あはっ、あはははははははっ!」
でも、それが楽しい。
通常攻撃でもダメージを与えられるなら、スキルを使えば効果的なダメージが期待できる。それだけの火力が出るのはバカみたいに多い腐肉戦士のお陰だ。
俺には敵が増えるほどATKが上昇するパッシブスキルがあるので、こうして明らかに単騎で戦うべきでない敵と戦えているのだ。その点は感謝だな。
「おい、リコリス! 折角姉上が来たんだから、お前もこっちに来いよ!」
『姉』が出てきてからずっとリコリスは発狂したように奇声を上げながら、のたうち回っていた。
彼女は黒い水晶玉を呑んだことにより、意識を失うほどの何かがあったのだ。
普通に考えて気を失う程の何かがあれば『姉の近くにいたかった』事など忘れても仕方ないのだろう。
ゲームでも、実際に会った今でも、まるで全てを捧げてでも叶えたい願いのであるかのように言っていたので、リコリス自身が生きてさえいるなら『姉』反応すると思っていたが、どうやら違ったらしい。
彼女にとって、口先の悲願達成より目先の苦しみに藻掻く方が重要なのだろう。
そう思ったが────
「ぁぁぁぁうぇぇぇっ!」
「あん?」
ただ悲鳴を上げてるだけだと思っていたリコリスの声に違和感を覚えた。
相変わらず床の上をのたうち回っており、その姿は普通のか弱い少女にしか見えないが。俺の気の所為か?
「ねうぇぇぇぇっ!」
「おっ」
どうやら俺の気の所為では無かったようだ。リコリスの心は生きているし願いも諦めていない。普通などではなく、しっかりと狂ってるようだ。
つまり、まだ戦えるということだ。現在の黒い水晶玉に強化かれているであろうリコリスと。
「死ねクソ野郎!!」
リコリスに目覚めの一発で【絶対制裁】でも当ててやろうと思って斬りかかれば、瓦礫の山に蹴り飛ばしていた筈の『姉』が攻撃してきた。
まだ二秒と経過してないのに凄まじい姉妹愛ぶりだと関心する。
さらに、今までの攻撃は翠色に光る拳だけだったと言うのに、妹へ敵が近寄った途端、新技の範囲攻撃を放ってきたのだ。
『姉』を中心に広がる翠色の粒子はリコリスの命令がくるまで待機していた腐肉戦士にもダメージを与えて俺へ迫ってくる。だが、無防備に受けるつもりはない。
「お前が死ね!」
子供の言い合いのような返答と共に【同胞渇望】を放つ。
見たところ『姉』の範囲攻撃は【同胞渇望】と同じく、物質には干渉しない生物(?)のみにダメージを与えるスキルだ。
ならば、俺も似たような原理の【同胞渇望】を放てば相殺できるのではないかと考えた。
「はっ!?」
結果は大成功。
『姉』の驚く声は、迫り合う黒と翠に掻き消される。
スキルのぶつかり合いは、互いに気体のような見た目をしてるというのに、その威力は凄まじく大気が揺れるような競り合いを繰り広げていた。
「っ!」
やがて黒蛇が翠光を食い破り、そのまま『姉』へ牙を剥いた。
正直、この結果は想像以上だ。
せいぜい、相手の攻撃を掻き消すのが限界だと思っていたのだから。流石はエリカのスキルである。エリカ万歳。
本来の性能を考えればぶっ壊れと言っても過言ではないほど強化された【同胞渇望】は、未実装ボスである『姉』の攻撃を相殺に留まらず、撃ち破ってダメージを与えるに至った。
しかし、敵も見事なものだと思う。『姉』として矜持なのか不意を突かれたであろう攻撃でも、悲鳴を飲み込み妹を背に庇ってるのだから。
奥歯が砕けるほど噛み締め、全身を襲っているであろう脱力感を耐えきった。
でも、まぁ──
「ア゛ア゛ァァァァァァッ!!」
無駄なんだけどな。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
元おっさんの幼馴染育成計画
みずがめ
恋愛
独身貴族のおっさんが逆行転生してしまった。結婚願望がなかったわけじゃない、むしろ強く思っていた。今度こそ人並みのささやかな夢を叶えるために彼女を作るのだ。
だけど結婚どころか彼女すらできたことのないような日陰ものの自分にそんなことができるのだろうか? 軟派なことをできる自信がない。ならば幼馴染の女の子を作ってそのままゴールインすればいい。という考えのもと始まる元おっさんの幼馴染育成計画。
※この作品は小説家になろうにも掲載しています。
※【挿絵あり】の話にはいただいたイラストを載せています。表紙はチャーコさんが依頼して、まるぶち銀河さんに描いていただきました。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
愛しのお姉様(悪役令嬢)を守る為、ぽっちゃり双子は暗躍する
清澄 セイ
ファンタジー
エトワナ公爵家に生を受けたぽっちゃり双子のケイティベルとルシフォードは、八つ歳の離れた姉・リリアンナのことが大嫌い、というよりも怖くて仕方がなかった。悪役令嬢と言われ、両親からも周囲からも愛情をもらえず、彼女は常にひとりぼっち。溢れんばかりの愛情に包まれて育った双子とは、天と地の差があった。
たった十歳でその生を終えることとなった二人は、死の直前リリアンナが自分達を助けようと命を投げ出した瞬間を目にする。
神の気まぐれにより時を逆行した二人は、今度は姉を好きになり協力して三人で生き残ろうと決意する。
悪役令嬢で嫌われ者のリリアンナを人気者にすべく、愛らしいぽっちゃりボディを武器に、二人で力を合わせて暗躍するのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる