殉愛の狂ゲーマー 〜俺は終末世界で推しキャラの最強を証明する〜

一味違う一味

文字の大きさ
上 下
28 / 39

27

しおりを挟む
◆リコリスside








 新装備を手に入れ、ルンルン気分で帰ってきたリコリスを待っていたのは固く扉の閉ざされた自身の祭壇住処だった。

 訳がわからない。あの扉は、そこらの人間や魔物モンスターに動かせる重量ではないからだ。それは、かつて非力であった自身が魔法で強化せねば開け閉め出来なかったことが証明している。

 もしや、いつの間にか生まれた腐肉戦士が勝手に帰って勝手に閉めたのか? もちろん、そんな事はありえない。そもそも腐肉戦士に、そこまでの知能がないからだ。

 ならば、誰がやったのだ。ここの祭壇は自身と腐肉戦士しか知らぬ筈、他に考えられなかった。



「おおーい、開けるのじゃ。ここはわらわの祭壇じゃぞ!」



 もしや空き巣か? ここには盗る物など何もないぞ! そんな風に呼び掛けていると扉が開かれる。

 やはり勝手に帰った腐肉戦士じゃったか。自身の指示を聞くと言う事は、そうなのだろう。どう叱ってやろうかと考えながら出てくるのを待つ。



「はいはーい、どちら様ですか?」


「ぬおっ、誰じゃ!?」



 現れたのは見知らぬ男だ。愛想は良さそうだが、それは不法占拠を許す理由にはならない。

 ガツンと言ってやらねばと息を巻けば、男はリコリスの態度を心底不思議だと言わんばかりに平然と言葉を返す。



「? 初めまして、ルーベン・と申します。以後お見知り置きを」


「ああ、これはご丁寧にどうもなのじゃ。妾はリコリスと申す、性は訳あって名乗れぬが許すがよい」



 随分と丁寧に挨拶をされた。

 あれ? これ妾が家を間違えちゃった『ぱたーん』かのぅ? 心配になったリコリスが真偽を見極めんと扉の内を見てみれば、見覚えのない内装が広がっている。

 吸い込まれそうなほどに純粋な黒が部屋中に塗られており、最低限の家具を除けば中央に剣が飾ってある以外に何もない質素な部屋だった。こんな部屋は知らない、どうやら帰る場所を間違えたようだった。



「ああ、すまんのぅ。間違えたようじゃ、許せ」


「大丈夫ですよー」



 よく見れば『デュラ』と表札が出ているではないか。妾のうっかりさん♪

 後で、ご近所付き合いの品として『インテリア』でも持って行ってやるかと踵を返すと偶然視界に入った、見覚えのある……作り覚えのある『インテリア』が見える。

 なぜ、これがここに? いや、そう言えば扉は妾の祭壇住処と似ておるのぅ。色も形も瓜二つじゃ。

 頭が「?」で埋め尽くされてフリーズしていると、先程の男が、再度出てくる。



「ちょっと、ごめんなさいねー」


「お、おお。こちらこそ、すまぬな」


「いやー、そう言えば扉だけ塗料を塗り忘れちゃってたんですよ。未完成の自宅でお恥ずかしい限りです」


「そんなことはない。これはこれで立派な扉じゃろう」


「そう言って頂けると嬉しい限りです」



 うむ、やはり人間は謙虚が一番じゃな。はて、何か重要な事を考えていた気もするが忘れてしまった。

 まぁ、いい。本当に重要な事なら思い出すじゃろう、とリコリスは思考を放棄した。



「しかし、見事な黒じゃのぅ。妾の魔導色である紫には劣るが、ある種の特化された『美』というものを感じる。どれ、妾にも少し分けて貰えぬか」


「あ~、ごめんなさいリコリスさん。実はコレ貰い物なので人にあげられる程、持ってなくて……」


「そういう事なら仕方ない。妾こそ無理を言ったな」



 会話してる間にもペタペタと塗り替えられていく自身の祭壇住処

 慣れたものじゃのー、と彼の手際を感心していると目の前のルーベンがこちらを向く。



「あっ、そうだリコリスさん。『ゆるふわ』という人をご存知ないですか?」


「『ゆるふわ』とな? わらわは知らんがどんなヤツじゃ?」



 頭の悪そうな名前じゃ、と思うが彼の友人であったりすれば気を悪くするであろうし黙っておく。

 質問には最初に迷惑を掛けた負い目もあるし、知ってること位なら話してやるかと協力してやることにした。



「そうですねー。自分が大好きな相手のお姉さんを気持ち悪いと言うようなクソ女です」


「なんじゃ、それは。もはや、ぶち殺されても文句は言えん程の糞女じゃ」



 それはリコリスからすれば絶対に許せない存在であった。

 たとえ自身に関わりのない人間関係であったとしても『姉』という存在への冒涜は許せるものではない。

 最悪、リコリスの姉も被害に遭うかもしれない。それだけは避けなければならなかった。



「そうでしょう。しかも、その大好きな相手にとってお姉さんは何者にも代えられない大切な存在らしいんですよ。許せないですよね」


「まったくじゃな。よし、見つけたらお主に伝えるとしよう」



 処刑確定じゃ。

 幸運な事にルーベンの口振りから『ゆるふわ』との仲は好ましくないのだろう。これなら発見時に死んでいたとしても、彼が嘆くことはない筈だ。



「ええ、お願いします。『ゆるふわ』が生きているなら我々夫婦の力で盛大にもてなしたいので」



 予定変更、摘まみ食いに留めるとする。せっかく見つけた好ましい相手の獲物を奪うのは気が引けるからのぅ。



「では、妾は帰るとする。達者でな、ルーベン」


「さようならリコリスさん。また、お会いしましょう」


「うむ、その時は是非に妻殿にも会わせてくれ」


「はい! 妻は照れ屋ですが、必ず説得してみせます」


 そのやり取りを最後に『デュラ家』を後にする。久しぶりに、本当に久しぶりに好ましい人間に出会ったと思う。



「妾が禁忌の魔導を使うと知った時あの夫婦は……いや、せめてルーベンだけでも仲良くし続けて欲しいものじゃ」



 これまで出会った人間は姉を除く家族を含め、全てリコリスの趣味か使用する魔導を知ると離れて行った。

 自宅に、あの狂気的なを使っている事から自身の趣味は受け容れてもらえると思うが禁忌の魔導、反魂の術については分からない。

 これに関しては、あまりに冒涜的な術でありリコリス最愛の姉上ですら受け容れてくれるか不明なのだから。

 きっと大丈夫じゃ、そう思う自分もいるがリコリスは『姉上』本人ではないのだから分からない。しかし、たとえ『姉上』に受け容れられず嫌われたとしても後悔はないだろう。

 姉の復活これは好きでやっている事であり、誰かに好かれたり褒められたりするために、やっている訳ではないのだから。



「まっ、好かれるに越したことはないのじゃがな」



 自身が好ましく思ってる相手限定だが。

 と、そうこうしてる間にまで辿り着く。

 見張りとして置いた腐肉戦士が相も変わらぬ無表情で立っているのを眺めていると、直前の自身の思考に不審な点を発見する。



「ここって妾が壊した階段じゃよな?」



 そう、この階段はリコリスが祭壇から出たときに勢い余って破壊した階段である。祭壇から出た直後にあった階段だ。そして思い出す、扉の前に転がっていた数々の『インテリア』。

 つまり、さっきの『デュラ』家は──



「やっぱり、ルーベンは嫌いじゃーっ!」



 すでにを塗り終えて閉ざされた扉へとリコリスは突撃した。野郎、ぶっ殺してやるのじゃ。








 ───────────────────────

※エリカのフルネームは『エリカ・デュラ』です(#^^#)
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

処理中です...