殉愛の狂ゲーマー 〜俺は終末世界で推しキャラの最強を証明する〜

一味違う一味

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◆マトンside




  

「ちっ、だりィなァ」



 ペっ、と唾を吐いてガニ股で歩きをするのは『自称』神と最高の女に選ばれた男であるマトンだ。彼は苛立ちを隠そうともせず練り歩いているが、それには理由がある。

 マトンは、ついさっきまでの真っ最中だったのだ。生の人間相手には初めての体験で心底から楽しんでいたところ、連続する爆発への怯えが限界となった避難者達に様子見を頼まれたのだ。

 何度も行ったばかりだから必要ないと突っ撥ねたが十を数えた辺りで、他の避難者の声が鬱陶うっとうしくなり渋々行くことにしたのだ。



「まだ、メインをなかってのによォ」



 リーダー勢の菅谷とか言う女、なかなか美人だった。昨日までの自分なら見向きもされないようなレベルだ。

 そいつが筆頭となりマトンを行かせたのだ。後で覚えてろよ、とメインからデザートへ変更した女に怒りを募らせる。

 怒りを覚えるのは菅谷だけではない。他の避難者達もだ。あの怯えるだけで何も出来ない情け無い姿を見ていると昨日の自分を思い出し、とても不快になる。

 だが、彼等とマトンは決定的に違う点がある。


「オレはァ、神に選ばれた」



 マトンは昨日からの記憶を振り返った。

 『コグモ』の魔物モンスターが現実に現れてから、早一日。死もの狂いで生き延びた初日、駆け込んだトイレで眠れぬ夜を過ごした。

 奇跡的にも一晩魔物に襲撃されることなく乗り切れた。しかし、そんな奇跡がいつまでも続く筈がないことは分かりきっており、現状を脱却するには誰かの助けが必要だ。

 真っ先に思い付いたのは警備員だが、その選択肢は無い。初めて魔物が現れた時、ここの警備は役に立たず食われるだけだった。

 しかし警備員と違い装備の充実した警察ならば勝てるかもしれない。そんな風に考えスマホを取り出した。

 しかし、慌てたせいか開いたのは電話アプリの横にあった『蠱毒の蜘蛛糸』だった。なんて無様なんだと自己嫌悪して最初はすぐに閉じようと思った。

 だが、ホーム画面を飾る自分の好きなキャラを見た途端、そんな気は失せた。見惚れてしまったからだ。

 小一時間、好きなキャラ……【ネラム】を愛でていると、普段は滅多にこないメッセージが届いていることに気付く。

 どうせクラメンがクランボードでバカ丸出しの下ネタでも書いたのだろう、こんな時に下らないことしやがって。そう思っていたが、意外なことに運営からだった。



 『おめでとうございます。

 全プレイヤー中でネラムの親愛度が最も高い貴方へ彼女の能力を進呈します。能力はステータスで確認出来るので、ご自身でご確認下さい。

 所持アイテムやキャラクター等は一部を除きリセットされますので、ご了承下さい』



 最初は意味が分からなかったが、前日に聞こえた神の言葉を思い出し自分がだと気づいたのだ。人類の希望にして、神に選ばれた存在。



「オレが、オレだけが選ばれたんだ。」



 眉唾ものの話だが、半信半疑で呼べば出てきたゲーステータスやその他の機能と、何より……



〔続きはまだかしら? 待ち遠しいのだけれど〕



 ネラムの声だ。彼女はサキュバスの種族名に恥じぬ蠱惑的な甘い声をしており、聞いてるだけで熱が特定の箇所に集まる。



「爆発が起きたんだよォ。避難所あそこじゃ好き勝手する条件として戦闘全般を任せれたから仕方ねぇだろ」


〔どうせまたガス爆発でしょう? 燃え移ってなければ帰りましょ〕



 最初の爆発はキッチンがある辺りからだったのでガス爆発だと思われた。瓦礫が多くて現場には近づけなかった上、専門知識もないので確実とは言えないが別に構わないだろう。

 どうせ俺以外に現場を確かめられる人間など、あそこには存在しないのだから。



「じゃあ、さっさと行くか。一章の雑魚敵くらい俺達なら余裕だかんなァ」


〔あら、そうなの。まぁ、『証明』してくれたら私としては何でもいいけどね〕


「やってやるよ。だから、お前も終わったらは奮発しろよォ」


〔もちろんよ〕



 こうして、色欲の化物達が動き始めた。
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