1 / 39
1
しおりを挟む
「許さない、絶対に復讐してやるわ……」
そう言って、孤軍奮闘するも虚しく戦闘不能となった俺の推しキャラ。スマホ画面に広がる『You Lose』の文字がゲームで敗北したことを示していた。
また、負けた。
勝利ボイスを披露する、敵キャラに苛立ちは湧いても、かつての全盛期に抱いたような「勝つまで挑んでやる」と言う気概はなかった。
何故なら俺は大好きな筈のゲームを惰性で続けるだけの生ける屍だからだ。
◆
敵が使えば厄介だが、味方になると使いづらい。
昔、俺の推しキャラはそんな評価を受けていた。
某攻略サイトでは「使うのは変人しかいない」とまで断言する使いにくさで実装当初から、誰が使うかよと吐き捨てられた存在だ。
随分と巫山戯た評価だ。推しキャラが好きな俺からすれば到底許せない。
当然、怒り狂った俺は推しキャラを二度と侮辱させない為に行動を起こす。噂を広める第一人者である攻略勢、いわゆる上位ユーザーへの報復だ。
ほぼ独学でゲームのシステムを解明し、分からない事があれば全て自分で成し遂げたいというプライドを捨て去り、彼女をこんな存在として生み出した憎き運営に質問を投げたりもした。返ってくるのは曖昧なものばかりだったが。
そして苦悩の果てに推しキャラを軸とした俺史上最高のパーティ編成を考え、膠着状態となっていたユーザーアリーナへ殴り込みを掛けた。
そこからはトントン拍子だ。トップユーザーを根こそぎ狩り尽くし、トップ10内最低戦力でユーザーランキングの1位を取るという偉業を成した。
俺は、誇らしかった。これで、大好きなキャラを周囲に認めてもらえると。その切っ掛けを作ったのが俺自身だということが、何より誇らしかったのだ。
これで推しへの愛が証明出来たと思って。
しかし俺を待っていたのは、受けたことがないほどの悪意だった。
『ランキングの破壊者』『王道ユーザーへの冒涜』『陰キャの極み』等々。
これらは全て俺が原因で推しキャラについた異名である。
そこで、ようやく気づけた。どうやら勘違いをしてたらしい、と。
当時の俺が捨てたのはプライドだけではない。食費を削り、睡眠時間を削り、そして命を削った。そこまでしたのだから周囲から認められて当然だと思っていたのだ。
だが、命を削っていたのは俺だけではない。俺が蹂躙したトップユーザーも同じだったのだ。
そこまでして願いを叶えられなかった人間の行動は大きく別けて二つだ。一つは今の俺のように無気力になるか、そして───
他人を自分の下まで引き摺り下ろすか、だ。
SNSでの罵詈雑言など当たり前で、攻略サイトに名指しで悪質ユーザーだと書き込まれたり、ゲーム内のオープンチャットで証拠もなくチートをしていると吹聴されたり、仲の良かったユーザーに個人チャットで絶縁宣言をされたこともあった。
もちろん、この仕打ちは辛かったし苦しくもあった。でもそれは「次は言い訳出来ないほど、勝ち続けてやる」と思える、謂わば復讐心の燃料に出来る前向きな『怒り』でしかなかった。
けれど、俺への悪意というどうでもいい事よりも心を痛めたモノがある。それは、推しキャラへの風当たりが強くなったことだ。
俺に倒されるまで自分の編成が流行を作ったと自負する彼らにとって、よほど耐え難いことだったのだろう。見下していたキャラに蹂躙されるのは。
彼らの報復は、ただ悪評を流すに留まらなかった。
以前「変人しか使わない」と書いたサイトは「悪質ユーザーの証」と文を修整し、ランキング上位陣が多いトップクランでは俺の推しを使っていないことが入団条件になったりもした。
クソッ。なにが『正義』だ、なにが『流行り』だ。声を大きくして騒ぐしか脳のないクズと自己主張を無くした人形共め。
たしかに、俺の推しキャラは感情のないゲームデータだ。体は液晶、過去はパソコンで打ち込まれたフィクションストーリーでしかない。
それでも俺は彼女を愛していたのだ。まるで生きている人間のように。いや、この世を生きる全ての人間以上に。
自身に害をなす事を許さぬ推しキャラであるが、それはゲームストーリーでの話だ。
現実では何の抵抗も出来ない。故に抵抗する余地のある俺より貶められるターゲットにされやすかったのだろう。
抵抗する術を持たない推しキャラは、俺の浅はかな行動により、さらに悪い立場へとなってしまった。
もう、俺が何をしても立場が悪くなるだけだと思い、推しの名誉を守るためゲームのプレイも消極的になり、ランキングも徐々に落ちていった。評判に相応しい順位へと。
どうしてこうなった。そう、何度も自問自答するが答えは出ない。それはそうだ、IFを確かめる事など出来ないのだから。
だが、それでも考えてしまう。俺に周囲の反応を予測できる協調性があれば違ったのではないか、逆にエリカには俺の愛だけがあれば他に何もいらないと周囲の反応を切り捨てられる強さがあればハッピーエンドを掴めたのではないかと。
しかし、全ては後の祭りだ。今となっては何も変えられない。
俺は、このまま終わるのか。
そんなことを考えながらゲームを続けていると運営から一つのメッセージが届いた。それも来るはずのない個人宛で。
何事かと恐る恐る開いてみれば、簡素な一文。
『あなたのエリカ・デュラへの愛は本物ですか?』
それだけだった。
エリカ・デュラとは俺の推しキャラの名前だ。他キャラに名前の被りはおらず、ついでに言えば嫌われキャラ故にユーザーがエリカの名前を使っているのも見たことはない。故にこれは俺の推しキャラの話だと断言できる。
そこまで考えれば、もう迷うことはなかった。メッセージの開封から僅か十秒足らずで返信する。『当たり前だ』、と。
『ならば証明して下さい。明日になれば意味がわかります』
そのメッセージを最後に運営の反応は無くなった。俺は何度も質問を投げたが返信は一切無い。
モヤモヤした気分を残しながら俺はベッドに向かった。明日も仕事があり、朝が早いからだ。
そのまま俺は眠りに落ちる。いつもと変わらない|憂鬱な明日が来ると疑いもせずに。
そう言って、孤軍奮闘するも虚しく戦闘不能となった俺の推しキャラ。スマホ画面に広がる『You Lose』の文字がゲームで敗北したことを示していた。
また、負けた。
勝利ボイスを披露する、敵キャラに苛立ちは湧いても、かつての全盛期に抱いたような「勝つまで挑んでやる」と言う気概はなかった。
何故なら俺は大好きな筈のゲームを惰性で続けるだけの生ける屍だからだ。
◆
敵が使えば厄介だが、味方になると使いづらい。
昔、俺の推しキャラはそんな評価を受けていた。
某攻略サイトでは「使うのは変人しかいない」とまで断言する使いにくさで実装当初から、誰が使うかよと吐き捨てられた存在だ。
随分と巫山戯た評価だ。推しキャラが好きな俺からすれば到底許せない。
当然、怒り狂った俺は推しキャラを二度と侮辱させない為に行動を起こす。噂を広める第一人者である攻略勢、いわゆる上位ユーザーへの報復だ。
ほぼ独学でゲームのシステムを解明し、分からない事があれば全て自分で成し遂げたいというプライドを捨て去り、彼女をこんな存在として生み出した憎き運営に質問を投げたりもした。返ってくるのは曖昧なものばかりだったが。
そして苦悩の果てに推しキャラを軸とした俺史上最高のパーティ編成を考え、膠着状態となっていたユーザーアリーナへ殴り込みを掛けた。
そこからはトントン拍子だ。トップユーザーを根こそぎ狩り尽くし、トップ10内最低戦力でユーザーランキングの1位を取るという偉業を成した。
俺は、誇らしかった。これで、大好きなキャラを周囲に認めてもらえると。その切っ掛けを作ったのが俺自身だということが、何より誇らしかったのだ。
これで推しへの愛が証明出来たと思って。
しかし俺を待っていたのは、受けたことがないほどの悪意だった。
『ランキングの破壊者』『王道ユーザーへの冒涜』『陰キャの極み』等々。
これらは全て俺が原因で推しキャラについた異名である。
そこで、ようやく気づけた。どうやら勘違いをしてたらしい、と。
当時の俺が捨てたのはプライドだけではない。食費を削り、睡眠時間を削り、そして命を削った。そこまでしたのだから周囲から認められて当然だと思っていたのだ。
だが、命を削っていたのは俺だけではない。俺が蹂躙したトップユーザーも同じだったのだ。
そこまでして願いを叶えられなかった人間の行動は大きく別けて二つだ。一つは今の俺のように無気力になるか、そして───
他人を自分の下まで引き摺り下ろすか、だ。
SNSでの罵詈雑言など当たり前で、攻略サイトに名指しで悪質ユーザーだと書き込まれたり、ゲーム内のオープンチャットで証拠もなくチートをしていると吹聴されたり、仲の良かったユーザーに個人チャットで絶縁宣言をされたこともあった。
もちろん、この仕打ちは辛かったし苦しくもあった。でもそれは「次は言い訳出来ないほど、勝ち続けてやる」と思える、謂わば復讐心の燃料に出来る前向きな『怒り』でしかなかった。
けれど、俺への悪意というどうでもいい事よりも心を痛めたモノがある。それは、推しキャラへの風当たりが強くなったことだ。
俺に倒されるまで自分の編成が流行を作ったと自負する彼らにとって、よほど耐え難いことだったのだろう。見下していたキャラに蹂躙されるのは。
彼らの報復は、ただ悪評を流すに留まらなかった。
以前「変人しか使わない」と書いたサイトは「悪質ユーザーの証」と文を修整し、ランキング上位陣が多いトップクランでは俺の推しを使っていないことが入団条件になったりもした。
クソッ。なにが『正義』だ、なにが『流行り』だ。声を大きくして騒ぐしか脳のないクズと自己主張を無くした人形共め。
たしかに、俺の推しキャラは感情のないゲームデータだ。体は液晶、過去はパソコンで打ち込まれたフィクションストーリーでしかない。
それでも俺は彼女を愛していたのだ。まるで生きている人間のように。いや、この世を生きる全ての人間以上に。
自身に害をなす事を許さぬ推しキャラであるが、それはゲームストーリーでの話だ。
現実では何の抵抗も出来ない。故に抵抗する余地のある俺より貶められるターゲットにされやすかったのだろう。
抵抗する術を持たない推しキャラは、俺の浅はかな行動により、さらに悪い立場へとなってしまった。
もう、俺が何をしても立場が悪くなるだけだと思い、推しの名誉を守るためゲームのプレイも消極的になり、ランキングも徐々に落ちていった。評判に相応しい順位へと。
どうしてこうなった。そう、何度も自問自答するが答えは出ない。それはそうだ、IFを確かめる事など出来ないのだから。
だが、それでも考えてしまう。俺に周囲の反応を予測できる協調性があれば違ったのではないか、逆にエリカには俺の愛だけがあれば他に何もいらないと周囲の反応を切り捨てられる強さがあればハッピーエンドを掴めたのではないかと。
しかし、全ては後の祭りだ。今となっては何も変えられない。
俺は、このまま終わるのか。
そんなことを考えながらゲームを続けていると運営から一つのメッセージが届いた。それも来るはずのない個人宛で。
何事かと恐る恐る開いてみれば、簡素な一文。
『あなたのエリカ・デュラへの愛は本物ですか?』
それだけだった。
エリカ・デュラとは俺の推しキャラの名前だ。他キャラに名前の被りはおらず、ついでに言えば嫌われキャラ故にユーザーがエリカの名前を使っているのも見たことはない。故にこれは俺の推しキャラの話だと断言できる。
そこまで考えれば、もう迷うことはなかった。メッセージの開封から僅か十秒足らずで返信する。『当たり前だ』、と。
『ならば証明して下さい。明日になれば意味がわかります』
そのメッセージを最後に運営の反応は無くなった。俺は何度も質問を投げたが返信は一切無い。
モヤモヤした気分を残しながら俺はベッドに向かった。明日も仕事があり、朝が早いからだ。
そのまま俺は眠りに落ちる。いつもと変わらない|憂鬱な明日が来ると疑いもせずに。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる