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◆綺堂 薊 side
全裸にローブという変態的な格好をしているため人目を気にしてキョロキョロするが、それで更に不審者レベルを上げるという負のスパイラルに陥りながらも、やっとの思いで家に到着する。
前世を含めて人生で一番、人目を気にしたかもしれない。
「ここが、あんたの家かい?」
そう、魔女から声が掛かる。
魔女が家まで着いてきているのはダンジョンになった館以外に住処を持っていなかったため、館を取り戻すまでの間、俺の家に泊めることになったからだ。
無論、俺も気楽な一人暮らしを守るため必死に抵抗したが、ダンジョンでの振る舞いを許してやるからと言われれば頷くしかなかった。
「変な実験とかしないで下さいよ」
「あたしの研究に変なのは無いから問題ないね」
「部屋で大人しくしてろって言ってんですよ」
そんな下らない会話をしながら家の扉を開ける。
転生してから、あまり時間が経っていないため我が家という意識は薄いが、それでも何となく懐かしさを覚え心が落ち着いた。
帰らなかったのは数時間程度なのに懐かしさを覚えるのは、ダンジョンにいた時の内容が濃すぎるためだろう。
それか、これまで微塵も蘇る気配のない本来の綺堂薊としての記憶が戻る兆候なのかもしれない。
まぁ、どちらでも構わないが。
「あっ、約束は守ってもらいますよ」
「分かってるよ。魔女は契約にうるさいんだ、心配いらないよ」
「では、お願いします」
「でも、あたしは吸血鬼が得意な魔法は苦手だから、あんまり期待するんじゃないよ?」
そう念押しされる。
約束とは家での俺と魔女の棲み分けと魔法の修行をつけてもらうことである。対価は定期的に俺の血液を渡すことで成立した。
『お菓子な魔女』の経験を踏まえて、自分にとって都合の悪い情報のみ信用出来ると判明したゲーム知識だが、その中には綺堂薊は魔法が苦手とある。
それは中身が俺になり、種族が吸血鬼になった今でも変わりなく、魔法スキルが生えたても使えそうにない。
故に、来紅のついでに魔女に魔法を教えて貰おうと思って頼んだのだ。
「ああ、そういえば」
「何ですか?」
「あんた、お嬢ちゃんの婚約者なのかい?」
「は!? 違いますけどっ!?」
それは俺にとって、完全に見に覚えのない疑いだった。
現在魔女は真剣な表情をしているが、もし仮に揶揄するような顔だったら敬語も忘れて「ババァ」呼ばわりした事は間違いないだろう。
「でも指輪を贈ってるじゃないか。あの娘、大切そうにしてたよ」
「あれはチェーンを通してネックレスにするんですよ。親友になった記念で渡したんです」
「ふむ、やっぱりかい」
いや、分かってるなら聞くなよ。
そう言いたくなったが、魔女は自分の世界に入っており何を言っても聞く耳を持たないだろう。同じ狂人たる俺には分かる。
しばらく立ち止まり考えを纏めている魔女を待ち、やがて顔を上げた彼女は一言だけ告げた。
「小僧、背中には気を付けな」
「え……」
普通に考えれば魔女が俺に対して殺意を持ってるように想えるが、彼女の表情を視れば違うと分かる。
九割の愉悦と一割の複雑な感情を混ぜたような顔は、傍観者に徹すると言ってるようなものだ。
「さっ、早いとこ案内しとくれ。狭い部屋なら承知しないよ」
俺の返事も聞かず、ズカズカと家にはいった魔女は、もはや家主の貫禄を放っていた。俺の家なのに。
チラッと後ろを見たような気もするが、そんなの確認してる暇はない。害があるなら魔女が対応していただろうしな。
だから俺は気付けなかったのだろう。
「まだ師匠は安全みたいね。早く、お父さんを説得しなきゃ」
俺達を尾行している存在に。
全裸にローブという変態的な格好をしているため人目を気にしてキョロキョロするが、それで更に不審者レベルを上げるという負のスパイラルに陥りながらも、やっとの思いで家に到着する。
前世を含めて人生で一番、人目を気にしたかもしれない。
「ここが、あんたの家かい?」
そう、魔女から声が掛かる。
魔女が家まで着いてきているのはダンジョンになった館以外に住処を持っていなかったため、館を取り戻すまでの間、俺の家に泊めることになったからだ。
無論、俺も気楽な一人暮らしを守るため必死に抵抗したが、ダンジョンでの振る舞いを許してやるからと言われれば頷くしかなかった。
「変な実験とかしないで下さいよ」
「あたしの研究に変なのは無いから問題ないね」
「部屋で大人しくしてろって言ってんですよ」
そんな下らない会話をしながら家の扉を開ける。
転生してから、あまり時間が経っていないため我が家という意識は薄いが、それでも何となく懐かしさを覚え心が落ち着いた。
帰らなかったのは数時間程度なのに懐かしさを覚えるのは、ダンジョンにいた時の内容が濃すぎるためだろう。
それか、これまで微塵も蘇る気配のない本来の綺堂薊としての記憶が戻る兆候なのかもしれない。
まぁ、どちらでも構わないが。
「あっ、約束は守ってもらいますよ」
「分かってるよ。魔女は契約にうるさいんだ、心配いらないよ」
「では、お願いします」
「でも、あたしは吸血鬼が得意な魔法は苦手だから、あんまり期待するんじゃないよ?」
そう念押しされる。
約束とは家での俺と魔女の棲み分けと魔法の修行をつけてもらうことである。対価は定期的に俺の血液を渡すことで成立した。
『お菓子な魔女』の経験を踏まえて、自分にとって都合の悪い情報のみ信用出来ると判明したゲーム知識だが、その中には綺堂薊は魔法が苦手とある。
それは中身が俺になり、種族が吸血鬼になった今でも変わりなく、魔法スキルが生えたても使えそうにない。
故に、来紅のついでに魔女に魔法を教えて貰おうと思って頼んだのだ。
「ああ、そういえば」
「何ですか?」
「あんた、お嬢ちゃんの婚約者なのかい?」
「は!? 違いますけどっ!?」
それは俺にとって、完全に見に覚えのない疑いだった。
現在魔女は真剣な表情をしているが、もし仮に揶揄するような顔だったら敬語も忘れて「ババァ」呼ばわりした事は間違いないだろう。
「でも指輪を贈ってるじゃないか。あの娘、大切そうにしてたよ」
「あれはチェーンを通してネックレスにするんですよ。親友になった記念で渡したんです」
「ふむ、やっぱりかい」
いや、分かってるなら聞くなよ。
そう言いたくなったが、魔女は自分の世界に入っており何を言っても聞く耳を持たないだろう。同じ狂人たる俺には分かる。
しばらく立ち止まり考えを纏めている魔女を待ち、やがて顔を上げた彼女は一言だけ告げた。
「小僧、背中には気を付けな」
「え……」
普通に考えれば魔女が俺に対して殺意を持ってるように想えるが、彼女の表情を視れば違うと分かる。
九割の愉悦と一割の複雑な感情を混ぜたような顔は、傍観者に徹すると言ってるようなものだ。
「さっ、早いとこ案内しとくれ。狭い部屋なら承知しないよ」
俺の返事も聞かず、ズカズカと家にはいった魔女は、もはや家主の貫禄を放っていた。俺の家なのに。
チラッと後ろを見たような気もするが、そんなの確認してる暇はない。害があるなら魔女が対応していただろうしな。
だから俺は気付けなかったのだろう。
「まだ師匠は安全みたいね。早く、お父さんを説得しなきゃ」
俺達を尾行している存在に。
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