病みゲー転生 〜誰も幸せになれない狂った世界で、悪役は理想のハッピーエンドを渇望する〜

一味違う一味

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雁野 来紅かりの らいく side







「笑ってないで追撃するよ」


「はい、師匠!」



 血と涙で汚れた幼い双子に、魔女の師弟は襲いかかる。

 無言で放たれた彼女等の攻撃は、視界を埋め尽くす密度で行われ数分間、止むことはなかった。

 やがて来紅が座ることすらままならないほど、骨を失ってから攻撃が終わる。どう考えても死んでいる。

 そう思いながら爆煙が晴れるのを待てば、現れたのは己の足で立つ双子の姿だった。



「あれ? まだ生きてた」


「……お婆さん達、幼気な子供をイジメて恥ずかしくないの?」


「老人を労らないクソガキは死ねばいいと思ってるよ」



 爆煙の中から現れた双子は満身創痍だ。強がりを口にするヘンゼルだが、膝は笑い、張り付いていた笑顔は剥がれかけていた。

 それも当然だ。ヘンゼルの死物狂いの迎撃とグレーテルの自身の治療と並行した支援で防いだとは言え、館内で一番頑丈な工房の壁が半壊しているのだ。

 生きていたのは奇跡と言っていい。



「でも、これで仕切り直しだね」


「お兄様、強化魔法を掛け直します」



 新米であろうと館の主である双子は館から魔力を供給される。メリッサが百年単位で溜め込んだのだ。その総量は、双子が戦闘に使った分を補填しても余りある。

 しかし、グレーテルによって完治した今でも仕切り直しには程遠いい。なぜなら精神的疲労は蓄積されているからだ。



「アハハッ、薊くんの場所を吐くまで何度でも壊してあげる♪」


「ヒッヒッヒ、あんたらを悲鳴を聞くのは愉しいから構わないよ」



 普通の相手ならば互いに精神的疲労が蓄積される事になる。しかし、魔女師弟は現在の戦闘を愉しんでおり、むしろ回復してすらいた。

 自身でほぼ完治させられる来紅と、館に溜め込まれた量より劣るとはいえ尋常ではない魔力量を誇るメリッサに持久戦で挑めば、双子の心が先に折れる事は必至。



「化け物の居場所なんか知らないよ。だから死ね!」



 故に双子には特攻の選択肢しかない。

 強化魔法の光を纏ったヘンゼルが突っ込み、グレーテルが大魔法の準備を始める。

 そんな双子を来紅達はつたない形ではあるが連携を取りながら押していた。

 元々メリッサ一人でも、ある程度拮抗していたのだ。そこに来紅のバフと援護が加わり怒りで冷静さを欠いているヘンゼルとグレーテルは、どんどん追い詰められていった。



「死にな、クソガキ共!」


「ぐっ」



 そう言いながら接近してきたヘンゼルを、防御に使った剣ごと杖で殴り飛ばしたメリッサ。

 ここにきて初めて知ったがメリッサは近接戦闘も出来るらしい。本当にすごい。



「ヘンゼルに杖を」


「はいっ」



 メリッサ指示に従って体制の崩れたヘンゼルへと杖の力を開放する。

 杖から吐き出された白い霧は床を腐食しながらヘンゼルを包み込まんとするがギリギリで、それを叶わなかった。



「〘ウィンド・ストーム〙」



 グレーテルだ。彼女がメリッサの牽制で放たれた魔法をやり過ごしヘンゼルへの防御魔法を発動した。風で散らされた杖の霧が薄まって館の霧と混じりわからなくなる。



「むぅ」



 来紅が『奪骨だっこつの杖』の代償で失った骨を治しながら、当たらなかった事に不満を感じて少し膨れた。

 見れば隣でメリッサも不機嫌そうに舌打ちをしていた。さっきのは当たると思ったんだけどなあ。



「ありがとう、グレーテル」


「こんな時でもなければ、石になったお兄様を永遠に愛でるのも悪くなかったのですけど。残念です」


「まったく、こんな時まで冗談を……冗談だよね?」


「ふふっ♡」



 それから少しの間、攻撃の応酬おうしゅうをした後、決め手に欠けて膠着こうちゃく状態となる四人。僅かな物音一つで再び戦いが始まる緊張感につつまれる。

 全員が敵を視線で牽制し合っていると───



 ゴォォォン



「「「「!?」」」」



 突然響いた音に驚き敵から意識を逸らさないようにしつつ、音の発生源を探る四人。



 ゴッ、ゴォォォン



 今度は二回響く、どうやら扉から鳴っているようだった。

 でも何故? と皆が悩む中、来紅一人が「もしや?」と期待の眼差しを扉へ向け、それを見た三人も来紅と同じ人物に思い至る。

 扉から響く轟音を牽制し合っているため誰も手が出せないでいると、とうとう扉が壊れる。



 ゴガァァァンッ



 盛大な破壊音と舞い上がった粉塵と共に現れたのは、やはりあざみだった。

 喜びのあまり薊へ声を掛けようとした来紅だが、薊の声に遮られる。



「薊く───」


「魔女はどこだぁぁぁっ!!」



 彼の第一声に双子は希望を抱き、メリッサは「誰だコイツ」と言わんばかりの視線を向けた。

 そんな中、セリフを遮られた来紅の表情は怒りでもなく悲しみもなく、あるのはただ笑顔だけ。



「私に狂わせてあげる」



 しかし、薄っすら開かれた瞳には光が宿っていなかった。
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