病みゲー転生 〜誰も幸せになれない狂った世界で、悪役は理想のハッピーエンドを渇望する〜

一味違う一味

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綺堂 薊きどう あざみ side







「ねぇ、どういうこと?」


「何がだ?」



 いつもの道具屋で店員さんと話していると、暗い顔をした来紅らいくが入店して来た。

 どうやら俺に質問してるらしいが、何を不満に思ってるのか不明な為、素直に質問する。



「約束したよね? これ以上増やさないって」



 どうやら昨日の去り際のセリフを言っているようだ。しかし、それは色々と誤解である。

 店員さんにはお世話になってるだけで友達とかではないし、そもそも昨日のは約束した覚えもない。

 まぁ、ハッピーエンド理想の実現には来紅の信用を得ることは大前提であるので、昨日のセリフについては後で話し合うつもりだったのだ。そう、後で・・

 つまり今の状況は完全に想定外である。平たく言えば超やばい。



「ち、違うんだ。この人は普段お世話になってる店員さんで……」


「言い訳しないで」



 取り付く島もない。

 男は女に口喧嘩で勝てないと言うが、こういう事なのかと実感する。



「ねぇ、薊くんと私はまだ友達かな?」


「と、当然だろ?」


「うん、そうだよね♪」



 そうなんだよ。だから、いつの間にか取り出したナイフに頬擦りするのは止めてくれ。素直に怖い。

 いや待てよ。確かこの光景を何処かで───



「ならさ、これからもずっと私達が友達でいられる方法があったら手伝ってくれる?」


「勿論するよ」



 関係ない考え事へと流れていた思考を来紅へと引き戻す。

 ここから先の一問一答にミスは許されない。なんとしても来紅と和解してハッピーエンド理想へ導くんだ。

 さあ、何でも言ってくれ。

 それがこのバッドエンド絶望を乗り越える鍵となるのだから。



「なら、死んで」


「は?」



 流れるような動作で振るわれたナイフは、あっさりと俺の腹を切り裂いた。

 まるで現実味のない光景だが、遅れてやってきた燃えるような痛みと、凍えるような喪失感が現実であると告げた。

 嘘だろ。ハッピーエンド理想をまだ見れてないんだぞ。

 それなのに───



「ふふっ、これで私達は永遠に友達だよ。だって薊くんは友達のまま死んだ終わったんだから。もう誰にも邪魔されないもん」



 来紅は、自身の白髪を瞳と同じ紅に染めて、妖しく微笑む。

 俺は救いを求めるように手を伸ばすと、来紅はその手を取って抱き寄せた。



「私もすぐソッチに行くから待ってて。今度こそ約束破っちゃダメだよ」



 来紅の言葉を最後に、意識は虚無に飲み込まれた。















「待ってくれぇぇぇぇぇっ!」



 ガバッとベッドから・・・・・起きあがっ俺はキョロキョロと見回す。そして来紅が居ない事を確認し、切られた筈の腹に傷がない事を確認すると一つの結論を出す。

 すなわち、夢オチであると。



「焦った~」



 さっき見た夢は来紅らいくの友情エンドの要素が、ふんだんに盛り込まれており、妙にリアリティがあった。それこそ、本気で命の危機を感じるレベルで。

 昨日の来紅の言葉は友情エンドの時に出る確率が高いセリフなのだ。さっきのが、正夢になる可能性は否定できない。

 実際同じ状況になれば、【不死の残滓】があるので死ぬ事はないだろうが、その時は来紅の気が済むまで切られ続けるだろう。それはそれで恐ろしい。



「疲れてるのか?」



 転生してからまだ三日目だぞ!? それも大好きな世界への転生だと言うのにだ。

 流石は『病みラビ』、病みゲーの通称に恥じぬ世界観である。



「いや、決めつけるには早すぎるだろ」



 昨日考えた通り、俺の気考え過ぎである可能性も充分にあるのだ。せっかく出来た友人を疑いたくはない。

 それに俺が知ってる来紅の知識は、信用ならないゲーム知識が出処なのだ。違った結末になる可能性は非常に高い。

 高いが、



「対策は必要だよな。うん」



 そう。信用することと、IFもしもを考えて対策をすることは別である。元とは言え、社会人として当然の考えだろう。

 なので俺は、この時間に来紅が居るであろう露店市場へと向かうことにした。







────────────────────────

 薊「((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル」
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