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◆綺堂 薊 side
「ぷはー。ありがとうございます、生き返りました」
「いや、昨日の礼だから気にしないでくれ」
あの後、「だいじょばない」宣言を受けた俺は即座にUターンを決め込んでドリンクを買ってきた。店員さんはサービスすると言ってくれたが、これは俺の恩返しなので流石に辞退した。
しかし、幽鬼のようだった彼女が元気になってくれて何よりである。
「それで、何かあったのか?」
ガラガラ声だったため少し自信はないが、彼女は「家に帰れない」と言った筈だ。ゲーム知識では彼女の家族関係は良好であったため、それが気掛かりである。
現在のステータスで解決出来る問題など高が知れてるが、彼女を含めたハッピーエンド《理想》の実現を掲げる俺にとって、無駄な情報などない。出来れば聞かせて欲しいところだ。
質問した途端、また雰囲気を暗くした彼女は重く口を開いた。
「……相談、乗ってもらえますか?」
「わかった」
どうやら込み入った事情かありそうだ。
長くなりそうだった為、近くに公園があったのでそこのベンチに移動した。
「実は……」
◆
「……って、みんな酷いんですよ!」
「……」
話を聞き始めてから小一時間、不平不満が出るわ出るわ。例の如く、信用ならない原作知識にない情報が山のように出て来て、かなり面食らう事になった。
父親への愚痴から始まり、中学時代の同級生に対する愚痴、ポーションが売れない事への愚痴と選り取り見取りだ。
「それでね、それでね!」
「あ、ああ……」
真新しい情報ばかりで飽きることはないし、自身が救いたいと願う相手の話だ。雑に対応などする筈がない。
……ないのだが、あまりの勢いに少々気圧されてしまう。
ゲームでいたはずの親友がいない彼女は、よほど人恋しかったのだろう。家族関係だけでなく、親に心配を掛けまいと押し留めていた不満が、決壊したように止まらないようだ。
「……そしたら話し掛けて来たんですけどね、誰ですか大柳って! こちとら初耳ですよ!」
「はは……ほんとに誰なんだろうな」
「ですよね、ですよね!」
いや、本当に誰だよ。
しかし、彼女の親友がいないのは不味い。かなり不味いのだ。
なぜなら彼女の親友は、所々で抜けてる雁野 来紅が、うっかり病みの底に堕ちないように絶妙な誘導をしてくれるのだ。
加えて、今知った事だが彼女の尋常ではない量の愚痴を聞いてくれてたのだろう。
「もう嫌なんです! 物を隠されるのも、無視されるのも、聞こえるように悪口言われるのも、ぜーんぶ嫌なんです!! うわーん」
現に、今日まで吐き出されなかった病みは涙と共に吐き出されているのだから。
当然、これもゲームではなかったイベントだ。彼女が人間関係に泣くほど悩んでいる描写など存在しない。
それはさて置き、今は他にやる事がある。
「ちょ!? お、落ち着けって」
「生きてるのも嫌なんですぅー!」
それは、極度の躁状態になった彼女を宥めることだ。泣くのは本当に勘弁してほしい。
周囲からチラホラと「あの男、クズね」「最っ低」「衛兵さん呼んだ方がいいかしら」等と、言われ始めた。
頼むから泣きやんで欲しい。だって今、聞こえるように悪口言われて、泣きたいのは俺の方なのだから。
そうして必死にあやすこと数分。なんとかバッドエンド前に片を付けた俺は引き攣った笑顔で話し掛ける。
「……スッキリしたか?」
「はぁはぁ……はい、ご迷惑お掛けしました……」
「いや、気にしないでくれ」
遠い目をしながら謝罪する彼女は、リストラされたサラリーマンの如き哀愁を漂わせている。
自分を厳しく律する彼女だからこそ、あのような状態は許し難く、激しい自己嫌悪に陥るのだろう。
「ふふふ……私、こんなのだから友達できないんですよね」
その証拠に、今度は目から光が消えて極度の鬱状態になってる。躁が過ぎれば、抜け出せない鬱に嵌る。
これぞ『病みラビ』ヒロインだ。一筋縄ではいかない。
しかし、この程度の病みイベントは、やり込み狂人たる俺にとって容易く超えられる壁である。対策の考案など児戯に等しい。
「やっぱり、そうなんですね。だって、自分の血を売り物にする女なんて……」
「なぁ、雁野」
あと一歩で、色々と取り返しが付かなくなりそうだったので、少し慌てて名前を呼ぶ。言葉を遮る形になったが問題はないだろう。
この手の相手は多少強引にやらないと、こちらに意識を向けないからだ。まぁ、強引にやり過ぎると当然のように心が折れるので匙加減が難しいが。
「……どうかしました?」
「っ」
虚空に話し掛けていた彼女は、胴体はそのままに首だけグリンと俺へ向けた。ちょっと怖かった。
さて、本番はここからだ。少々、照れくさいが仕方あるまい。
スウッと、小さく吸った息と共に覚悟を決めた俺は彼女へ提案をする。恐らく、俺と彼女にとって最も望ましい形のだ。
「よかったら俺と友達にならないか?」
「??………………えっ!? ええっ!!」
彼女の瞳に光が戻ったのを見て、俺は勝利を確信した。
「ぷはー。ありがとうございます、生き返りました」
「いや、昨日の礼だから気にしないでくれ」
あの後、「だいじょばない」宣言を受けた俺は即座にUターンを決め込んでドリンクを買ってきた。店員さんはサービスすると言ってくれたが、これは俺の恩返しなので流石に辞退した。
しかし、幽鬼のようだった彼女が元気になってくれて何よりである。
「それで、何かあったのか?」
ガラガラ声だったため少し自信はないが、彼女は「家に帰れない」と言った筈だ。ゲーム知識では彼女の家族関係は良好であったため、それが気掛かりである。
現在のステータスで解決出来る問題など高が知れてるが、彼女を含めたハッピーエンド《理想》の実現を掲げる俺にとって、無駄な情報などない。出来れば聞かせて欲しいところだ。
質問した途端、また雰囲気を暗くした彼女は重く口を開いた。
「……相談、乗ってもらえますか?」
「わかった」
どうやら込み入った事情かありそうだ。
長くなりそうだった為、近くに公園があったのでそこのベンチに移動した。
「実は……」
◆
「……って、みんな酷いんですよ!」
「……」
話を聞き始めてから小一時間、不平不満が出るわ出るわ。例の如く、信用ならない原作知識にない情報が山のように出て来て、かなり面食らう事になった。
父親への愚痴から始まり、中学時代の同級生に対する愚痴、ポーションが売れない事への愚痴と選り取り見取りだ。
「それでね、それでね!」
「あ、ああ……」
真新しい情報ばかりで飽きることはないし、自身が救いたいと願う相手の話だ。雑に対応などする筈がない。
……ないのだが、あまりの勢いに少々気圧されてしまう。
ゲームでいたはずの親友がいない彼女は、よほど人恋しかったのだろう。家族関係だけでなく、親に心配を掛けまいと押し留めていた不満が、決壊したように止まらないようだ。
「……そしたら話し掛けて来たんですけどね、誰ですか大柳って! こちとら初耳ですよ!」
「はは……ほんとに誰なんだろうな」
「ですよね、ですよね!」
いや、本当に誰だよ。
しかし、彼女の親友がいないのは不味い。かなり不味いのだ。
なぜなら彼女の親友は、所々で抜けてる雁野 来紅が、うっかり病みの底に堕ちないように絶妙な誘導をしてくれるのだ。
加えて、今知った事だが彼女の尋常ではない量の愚痴を聞いてくれてたのだろう。
「もう嫌なんです! 物を隠されるのも、無視されるのも、聞こえるように悪口言われるのも、ぜーんぶ嫌なんです!! うわーん」
現に、今日まで吐き出されなかった病みは涙と共に吐き出されているのだから。
当然、これもゲームではなかったイベントだ。彼女が人間関係に泣くほど悩んでいる描写など存在しない。
それはさて置き、今は他にやる事がある。
「ちょ!? お、落ち着けって」
「生きてるのも嫌なんですぅー!」
それは、極度の躁状態になった彼女を宥めることだ。泣くのは本当に勘弁してほしい。
周囲からチラホラと「あの男、クズね」「最っ低」「衛兵さん呼んだ方がいいかしら」等と、言われ始めた。
頼むから泣きやんで欲しい。だって今、聞こえるように悪口言われて、泣きたいのは俺の方なのだから。
そうして必死にあやすこと数分。なんとかバッドエンド前に片を付けた俺は引き攣った笑顔で話し掛ける。
「……スッキリしたか?」
「はぁはぁ……はい、ご迷惑お掛けしました……」
「いや、気にしないでくれ」
遠い目をしながら謝罪する彼女は、リストラされたサラリーマンの如き哀愁を漂わせている。
自分を厳しく律する彼女だからこそ、あのような状態は許し難く、激しい自己嫌悪に陥るのだろう。
「ふふふ……私、こんなのだから友達できないんですよね」
その証拠に、今度は目から光が消えて極度の鬱状態になってる。躁が過ぎれば、抜け出せない鬱に嵌る。
これぞ『病みラビ』ヒロインだ。一筋縄ではいかない。
しかし、この程度の病みイベントは、やり込み狂人たる俺にとって容易く超えられる壁である。対策の考案など児戯に等しい。
「やっぱり、そうなんですね。だって、自分の血を売り物にする女なんて……」
「なぁ、雁野」
あと一歩で、色々と取り返しが付かなくなりそうだったので、少し慌てて名前を呼ぶ。言葉を遮る形になったが問題はないだろう。
この手の相手は多少強引にやらないと、こちらに意識を向けないからだ。まぁ、強引にやり過ぎると当然のように心が折れるので匙加減が難しいが。
「……どうかしました?」
「っ」
虚空に話し掛けていた彼女は、胴体はそのままに首だけグリンと俺へ向けた。ちょっと怖かった。
さて、本番はここからだ。少々、照れくさいが仕方あるまい。
スウッと、小さく吸った息と共に覚悟を決めた俺は彼女へ提案をする。恐らく、俺と彼女にとって最も望ましい形のだ。
「よかったら俺と友達にならないか?」
「??………………えっ!? ええっ!!」
彼女の瞳に光が戻ったのを見て、俺は勝利を確信した。
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