病みゲー転生 〜誰も幸せになれない狂った世界で、悪役は理想のハッピーエンドを渇望する〜

一味違う一味

文字の大きさ
上 下
5 / 51

5

しおりを挟む
綺堂 薊きどう あざみ side







 壁の隙間から滲み出すように出現する『ブラッド・スライム』を、塩無双で順調に突き進む。

 ここに来るまでに、真上の天井にいたスライムに塩を掛けたら、スライムごと降ってきた塩の塊が目に入り悶絶する事件があったが攻略は順調である。順調と言ったら順調なのだ。



「クソ痛ぇ」



 そうして、赤くなった目を擦りながら煮干しモドキを量産していると行き止まりに辿り着いた。

 一時間ほどだろうか。ゲームでは入口からここまで十分ほどで着いていたので多く見積もっても三十分だなと思ってたが甘かったようだ。

 タイムを計測した時計は道具屋で買った品である。塩や油と一緒に買ったのだ。



「まぁ、そこまで急いでる訳でもないし別にいいか」



 そう呟きながら、行き止まりの壁を調べ始める。後から襲われたらたまったものではないので警戒はおこたらないようにしながら。

 なぜ、こんな事をするかと言うと先へ進むためである。現在地は行き止まりではあっても最奥ではなく、しかるべき手順を踏めば先へと進めるのだ。



「おっ、あった」



 ゴツゴツした岩肌を、下からすくい上げていくと一つだけめくれる箇所がある。そこを剥がすと小さなスイッチがあった。

 ようやく見つけたソレを、岩を撫で続けたせいで痛くなった指で押す。

 そうすれば───



「また壁?」



 ゆっくりと開いていく岩壁の先に出てきた壁を見て俺は首を傾げた。おかしい、ゲームならボスが出てくる筈なんだが。

 しかし、観察すればするほど新しい壁は不自然だ。今までの岩肌とは明らかに違い、ツルッとした滑らかな赤黒い壁だ。

 そう、ちょうど道中で倒してきた『ブラッド・スライム』のような……



「っ!」



 ここまで考えてハッとする。違う、コイツ・・・は壁なんかじゃない。どうして俺は、こんな定番テンプレに思い至らなかったんだ。

 コイツは───



「ギュアアアァァァァァッ」 



 モンスターだ。

 俺がいると思っていた『血封の迷宮』のボス、『ブラッド・スライム・キング』。

 ステータスは『ブラッド・スライム』を、そのまま強化したようなボスで手持ちの『清めの塩:下』で充分倒せる予定だった敵。

 きちんと出ると分かっていた敵なのに、なぜ俺が発見出来ずいたかと言えば。



「サイズが違い過ぎるだろ……」



 この一言に尽きる。

 ゲームだと通常の『ブラッド・スライム』の五倍程度の大きさだから油断してた。実物は数十倍あるなんて完全に想定外だったのだ。

 それに、先程の咆哮で耳が痛い、咆哮そんな攻撃手段はゲームでは無かった。クソッ、口なんてどこにも付いてないのに何処からあんな大声を出してやがる。

 こいつ一体に、これだけ想定外が重なるとゲーム知識を元にしたステータス情報もどこまで信じていいか不安になる。

 ゲーム時代と比較し、体積差が数十倍あるのならステータスもそれだけ上がってる可能性があるのだ。仮にそうなら俺の手に負えない。

 幸いにも、俺はまだボス部屋に侵入してない。何日かレベル上げしてからリベンジしよう。

 そう思って後ろに踏み出そうとした時、足が動かない。恐る恐る、目線を足へ向ければ赤黒い触手が巻き付いていた。



「……くっそ」



 自覚した途端に足が焼けるように痛み、思わずうめいた。

 当然だが、ゲームではボス部屋に入るまでは手出ししてこないため無意識にこう・・なる可能性を排除していた。

 思ってたよりゲーム知識は当てにならねぇな。俺の幸福への道はただでさえ高い難易度が、さらに跳ね上がったようだ。

 辛うじて塩を掴んだ所で、俺はボス部屋へ引き摺り込まれた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

護国の鳥

凪子
ファンタジー
異世界×士官学校×サスペンス!! サイクロイド士官学校はエスペラント帝国北西にある、国内最高峰の名門校である。 周囲を海に囲われた孤島を学び舎とするのは、十五歳の選りすぐりの少年達だった。 首席の問題児と呼ばれる美貌の少年ルート、天真爛漫で無邪気な子供フィン、軽薄で余裕綽々のレッド、大貴族の令息ユリシス。 同じ班に編成された彼らは、教官のルベリエや医務官のラグランジュ達と共に、士官候補生としての苛酷な訓練生活を送っていた。 外の世界から厳重に隔離され、治外法権下に置かれているサイクロイドでは、生徒の死すら明るみに出ることはない。 ある日同級生の突然死を目の当たりにし、ユリシスは不審を抱く。 校内に潜む闇と秘められた事実に近づいた四人は、否応なしに事件に巻き込まれていく……!

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい

恋愛
婚約者には初恋の人がいる。 王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。 待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。 婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。 従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。 ※なろうさんにも公開しています。 ※短編→長編に変更しました(2023.7.19)

処理中です...