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等しく起こること
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月日は流れる。
相変わらずの日常を繰り返す孤児院であったが、一つ大きな出来事が起きた。
人間ならば一度は必ず経験すること。どれだけ財産を持とうと権力を持とうと。
善人であろうと悪人であろうとソレは平等に訪れる当たり前の出来事ではあるのだが……。
ではなぜ大きな出来事というのか。
――シスター・テレサが死んだのだ。
死因は老衰。
最後まで孤児たちのことを考えて行動していた。彼女は本物の聖女だ。僕が認めるんだから間違いない。
葬儀はひっそりと行われた。シスター・テレサは生前、大げさな葬儀はしないでほしいとの言葉を残していたためだ。
それでも、彼女に縁のある者達は自主的に献花に訪れ長蛇の列が出来ていた。
その列の中には質素な黒衣に身を包んだ王様の姿も見えた。
王様が民衆の前に姿を現す時は、毎回必ず軍服をベースに様々な装飾や勲章の付いた衣装を着ている。
そんな彼を人々は英雄王と称えていた。
僕が来るずっと前に彼は前王家の腐敗を一掃し、王国をたてなおした英雄だからだ。
しかし、英雄王との呼び声もある彼だって年老いた普通の人間なのだと改めて思った。
「シスター・ユーギ。貴女って本当に魔女なんじゃないかしら? どうすればそんなに若々しさを保てるのかしら。正直、不気味よ?」
僕に話しかける彼女は、最初に孤児院でお世話になった先輩シスターだった。
彼女はシスター・テレサの訃報を聞いて真っ先に駆けつけてくれた。
もちろん他の元シスターも数名来ている。全員というわけではない。遠方に嫁いでいる方々はここまで来るのに時間が掛かるからだ。
連絡はしているので、数日後には来るかもしれない。
「いやー、魔女は無いでしょう。せめて美魔女と呼んでほしいかなー」
「お母様。このお姉ちゃん魔女なのー? シスターさんなのにー?」
目線の下から小さな男の子が僕を見上げてそういう。魔女と聞いて警戒しているのか母親のスカートを小さな手でぎゅっと握っている。
僕はその場にしゃがみ込み。子供に挨拶する。
「やあ、可愛い坊や。僕はユーギ・モガミ。17歳ですっ!」
「17さいー? 嘘だ―。お母様の後輩だって聞いたよー? おばちゃんなんでしょー?」
ふ、さすがは子供。容赦がないな。でも可愛いじゃないか。
「こら! そういう言葉は思っていても絶対に本人には言ってはいけません。特に明らかにサバを読んでる女性の場合は、聞き流すのが貴族の男子たる者の最低限のマナーですよ!」
先輩よ、マナーを言うなら本人に聞こえないところで指導してほしいものだ。
「それにしても先輩。言った通りだったでしょ? 立派に育てれたじゃないですか」
「ええ、本当に。嫁いだばかりの頃は不安だったけど。なんやかんやで3人の子供に恵まれたわ。孤児院で学んだことも役に立った。シスター・ユーギの言った通りだったわ」
「でしょー。何とかなるって」
あれだけ子守が苦手だといってた彼女はすっかり良いお母さんになっている。シスター・テレサの死は悲しいけど、そればかりに囚われてはいけないのだ。
「ところで、シスター・ユーギ……、この孤児院はどうなるのかしら。貴女はよくやってるけど。正直心配だわ、今の王様なら安心だけど……彼だって不老不死ではない。貴族たちの噂だと、次期国王の継承争いが起きてるみたいだし」
それは僕も知ってる。
現国王には父の栄光の陰で、劣等感を抱いて育った王太子。そして様々な貴族派閥に後押しされ、有頂天になっている王子達。
基本的には王太子が継げばいいだけの話だが。どうでしょう。
きっと……いや、絶対に揉める。これだけは確信が持てる。
それがあってこその人間なのだ。
でもまあ、今の僕の立場で考えてもしかたない。
異世界の神様がチート無双しても……やれやれな結果になるだけだしね。
それに、何もしないのは女神シャルロッテとの約束だしね。僕はこの世界の大きな出来事にはかかわらない。
あくまで、この世界の一つの命として人生を全うするのみだ。
◆
ひっそりと行われた葬儀も無事終わり、数日たった。
シスター・テレサの遺言通りに僕は正式に院長になった。
彼女ほどのカリスマ性は無いがそれでも上手くやってきた。
それなりの人望はある。
相変わらずシスターの成り手は少ないが回せないほどではない。
クレアちゃんも最近はすっかり一人前になって子供達にも好かれている。
そろそろ彼女にも礼拝の主宰を教えないといけないかな。
僕がやると、女神シャルロッテへのツッコミ漫才になってしまうからね。
お前んとこの教義、おかしいやろがい!ってな感じで。
………………。
変わらない日常は続いた。
だがそれでも少しずつ時代は変わっていくのだった。
相変わらずの日常を繰り返す孤児院であったが、一つ大きな出来事が起きた。
人間ならば一度は必ず経験すること。どれだけ財産を持とうと権力を持とうと。
善人であろうと悪人であろうとソレは平等に訪れる当たり前の出来事ではあるのだが……。
ではなぜ大きな出来事というのか。
――シスター・テレサが死んだのだ。
死因は老衰。
最後まで孤児たちのことを考えて行動していた。彼女は本物の聖女だ。僕が認めるんだから間違いない。
葬儀はひっそりと行われた。シスター・テレサは生前、大げさな葬儀はしないでほしいとの言葉を残していたためだ。
それでも、彼女に縁のある者達は自主的に献花に訪れ長蛇の列が出来ていた。
その列の中には質素な黒衣に身を包んだ王様の姿も見えた。
王様が民衆の前に姿を現す時は、毎回必ず軍服をベースに様々な装飾や勲章の付いた衣装を着ている。
そんな彼を人々は英雄王と称えていた。
僕が来るずっと前に彼は前王家の腐敗を一掃し、王国をたてなおした英雄だからだ。
しかし、英雄王との呼び声もある彼だって年老いた普通の人間なのだと改めて思った。
「シスター・ユーギ。貴女って本当に魔女なんじゃないかしら? どうすればそんなに若々しさを保てるのかしら。正直、不気味よ?」
僕に話しかける彼女は、最初に孤児院でお世話になった先輩シスターだった。
彼女はシスター・テレサの訃報を聞いて真っ先に駆けつけてくれた。
もちろん他の元シスターも数名来ている。全員というわけではない。遠方に嫁いでいる方々はここまで来るのに時間が掛かるからだ。
連絡はしているので、数日後には来るかもしれない。
「いやー、魔女は無いでしょう。せめて美魔女と呼んでほしいかなー」
「お母様。このお姉ちゃん魔女なのー? シスターさんなのにー?」
目線の下から小さな男の子が僕を見上げてそういう。魔女と聞いて警戒しているのか母親のスカートを小さな手でぎゅっと握っている。
僕はその場にしゃがみ込み。子供に挨拶する。
「やあ、可愛い坊や。僕はユーギ・モガミ。17歳ですっ!」
「17さいー? 嘘だ―。お母様の後輩だって聞いたよー? おばちゃんなんでしょー?」
ふ、さすがは子供。容赦がないな。でも可愛いじゃないか。
「こら! そういう言葉は思っていても絶対に本人には言ってはいけません。特に明らかにサバを読んでる女性の場合は、聞き流すのが貴族の男子たる者の最低限のマナーですよ!」
先輩よ、マナーを言うなら本人に聞こえないところで指導してほしいものだ。
「それにしても先輩。言った通りだったでしょ? 立派に育てれたじゃないですか」
「ええ、本当に。嫁いだばかりの頃は不安だったけど。なんやかんやで3人の子供に恵まれたわ。孤児院で学んだことも役に立った。シスター・ユーギの言った通りだったわ」
「でしょー。何とかなるって」
あれだけ子守が苦手だといってた彼女はすっかり良いお母さんになっている。シスター・テレサの死は悲しいけど、そればかりに囚われてはいけないのだ。
「ところで、シスター・ユーギ……、この孤児院はどうなるのかしら。貴女はよくやってるけど。正直心配だわ、今の王様なら安心だけど……彼だって不老不死ではない。貴族たちの噂だと、次期国王の継承争いが起きてるみたいだし」
それは僕も知ってる。
現国王には父の栄光の陰で、劣等感を抱いて育った王太子。そして様々な貴族派閥に後押しされ、有頂天になっている王子達。
基本的には王太子が継げばいいだけの話だが。どうでしょう。
きっと……いや、絶対に揉める。これだけは確信が持てる。
それがあってこその人間なのだ。
でもまあ、今の僕の立場で考えてもしかたない。
異世界の神様がチート無双しても……やれやれな結果になるだけだしね。
それに、何もしないのは女神シャルロッテとの約束だしね。僕はこの世界の大きな出来事にはかかわらない。
あくまで、この世界の一つの命として人生を全うするのみだ。
◆
ひっそりと行われた葬儀も無事終わり、数日たった。
シスター・テレサの遺言通りに僕は正式に院長になった。
彼女ほどのカリスマ性は無いがそれでも上手くやってきた。
それなりの人望はある。
相変わらずシスターの成り手は少ないが回せないほどではない。
クレアちゃんも最近はすっかり一人前になって子供達にも好かれている。
そろそろ彼女にも礼拝の主宰を教えないといけないかな。
僕がやると、女神シャルロッテへのツッコミ漫才になってしまうからね。
お前んとこの教義、おかしいやろがい!ってな感じで。
………………。
変わらない日常は続いた。
だがそれでも少しずつ時代は変わっていくのだった。
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