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第一章

第23話 ユニバーサルソルジャー

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 午後の訓練が始まる、戦争を想定した集団戦の訓練でこのキャンプのメインイベントである。

 もちろん一年生なので緩めの設定ではあるが。

 
 今回は班ではなく生徒全員対アンデッド軍団ということである。

 もちろんアンデッドは武装していない。今回は木の棒すら持っていない素手である。

 しかしその数はすさまじい。100体以上いるんじゃないだろうか。

「500体はいますわね」

 シルビアさんは言った。うん100体以上いるね。……俺はこんなに数字に弱かったか。


 それはそれだ、俺は前衛なのだ、目の前の敵、そうだ、せいぜい目の前に移る五体に集中してればそれでいいのだ。

「アール、いいこと? 無茶はしないでね、いくら医療班が完璧だからって怪我していいってことじゃないから」

 たしかに、結構本格的だ。医療テントが設営されている。怪我はするって前提だな。まあ集団戦闘なのだから当然だろう。
 
 ちなみに医療現場に学生は一人もいない、一年生に医療は無理だという判断である。二年生からはヒーラー候補の学生は参加できるそうだ。


 前衛は横一列で長めの棒を皆構えている。俺もさすがにここでスコップは空気を読めてない子になってしまうので長い棒をもっている。

 そして後衛はスケルトンの軍団に向かって協力して広域火炎魔法を放つと言う段取りである。

 この時は先生が数人側に控えている。前衛に間違えて撃ってしまわないためだろう。結構安全に配慮しているので俺は安心していたが。

 学生諸君は緊張している。味方に打つかもしれないという緊張感はとてもいい経験になる。

 前衛は前衛で、戦線での後方魔法支援の重要性を理解することが出来るため、よい現場指揮官になるための経験になるのである。


 俺は結構感動していた。たしかに5000年前に俺が勇者だったときはこんなことはなかったと思う。人類は成長していると思った。

「ぐは、もうだめだ」

「ああーやられた」

「いたい、ヒット、ヒット」


 前言撤回だ。サバゲーかこれは。

 前衛諸君は、スケルトンに殴られたと自己申告して戦線を離脱。

 まあ確かにちょっと殴られたのだろう。赤くはれている。医療テントに行列ができていた。

 しかし、そこにはAクラスの生徒はいない。

 いつの間にか前衛は見知った仲間たちになっていた。皆、Aクラスだったのだ。いまこそ団結の時だ。

 俺たちは密集陣形をとる。ファランクスというやつだ。さあ来いスケルトンども。



 前衛の奮戦で、後衛の魔法使いたちは無事、広域火炎魔法をスケルトン軍団の中央に叩き込んだ。
 
 前衛の俺たちは前からくる熱気に喚起した。あとは個別に叩くのみである。俺たちの勝ちだ。

 シルビアさんも個別の戦闘に切り替わったため俺を見つけると側まできてくれた。

「シルビア、凄い、あれはシルビアの案でしょ?」

 シルビアさんはにっこりしていた。

「ええ、アールたちのおかげで時間は十分だったもの、あれで失敗したら一生の恥じよ」

 私もにっこりをお返しした。

「こほん、アールさんシルビアさん、まだ戦いは終わっていませんわよ」

 アンネさんとローゼさんもいた。

 久しぶりに仲良しグループがそろった。前よりももっと仲良くなったんじゃないだろうか。やっぱりこのキャンプは素晴らしいと思った。


「(詠唱省略)上位アンデッド召喚【不死の万能兵士】」

 バンデル先生の声が響いた。前方、煙でよく見えないが巨大な魔法陣の光は見える。

「ぐあぁ!」

 前衛の子が後まで吹っ飛んできた。あれはドルフ君だ、受け身を取っており怪我はないようだった。前にも思ったが彼は結構体術が得意である。

 もう起き上がってきて俺たちに合流した。アンネさんは回復魔法を彼に施していた。

「ぐは!」

「くそ! こんなところで、カハッ!」

 前方で断末魔が聞こえる。

 やがてその原因である上位アンデッドは姿を現した。

 アンデッドというからにはゾンビなのだろう、だがあれはゾンビ? 生きている人間に見える。生気がみなぎっているのだ。

 というか筋肉もりもりのマッチョマンの変態である、上半身は裸だったがちゃんとズボンをはいているのでそこまでは変態とはいえないが。



「これは上位アンデッド【不死の万能兵士】だ、このキャンプの最終課題といったところだ」


 やはりか、さすがはバンデル先生、ネクロマンサーの頂点だ。【不死の万ユニバーサル能兵士ソルジャー】をこの目で見るとは思わなかった。


 【不死の万ユニバーサル能兵士ソルジャー】略してユニソルである。


 生徒たちは火炎魔法を浴びせる、正解だ。ユニソルもスケルトン同様に火が弱点だ。

 しかし。バンデル先生の呪文が聞こえる。

「(詠唱省略)氷結せよ!」

 ユニソルは氷に包まれた。ユニソルは冷却すれば何も問題ないのだ、俺は感動のあまり身動きがとれない。


 しかもこのユニソルは動きがいい。ゾンビやスケルトンとまったくちがう。


 武器は持っていないがパンチやキックが凄いのだ。とても機敏に動く、体操選手顔負けの運動能力だ。

 前衛の男子生徒はつぎつぎと倒れていく、だらしない。腹をワンパンされただけで気絶するなんて。

 ぜひ素晴らしいアクションシーンを見せてほしいものだ。

 シルビアさんは俺の近くに来た。他の二人の班員もいっしょだ。彼女たちとこれからの対策をねる。


 どうする、ユニソル相手に銃は悪手だ、効かないに決まってる。


 いろいろ考えてる隙に周りは俺達だけとなった。

 一緒にいたドルフ君はけっこういい線いってたが、みごとなローリングソバットをくらって気を失ってしまった。

 まずいぞ、前衛はもう俺しかいない。スコップを構える俺。

 ここは俺の身体を信じて本気でいくしかないか。

 身体能力はユニソルに引けを取らないはずだ。

 というかスペックでは圧倒しているはずだ、俺の三号介護用メイドロボットをなめるなよ。


 俺はユニソルに向かってスコップを上段から振り下ろした。


 ……しかし、気づいたら、天地が逆さまになっていた。
 
 あれ、起き上がり周りを見ると、シルビアさんや、他の女子達は全員地面に横たわっていた。

 どうやら女子達は男子と違って殴られていない。どちらかというと柔道技をくらって転んだだけである。


 俺もどうやら足を払われてすってんころりんで終わったのだと後で聞いた。


 もちろん男子たちも本気で殴られていない。女子達が全員倒されて訓練終了のタイミングですぐに起き上がってきたのを見るとわざと倒れていたようだ。

 ふがいない男子たちに怒りを覚えたがしょうがない、相手はユニソルなのだ。

 しかし、その中でもドルフ君は格闘戦ができたのでなかなかにダメージを負っていた。
 ユニソル相手に何発かくらわしていたのでカウンターをもらってしまったのだ。

 ローリングソバットが見れたのはドルフ君のおかげでもある。

 今回のMVPは君だろう。アンネさんはドルフ君に回復魔法を施していた。医療テントは空いているのに。おやおや、これはこれは。

 
 しかしユニソルの体術はすごかった。あれがアンデッドなんて誰が馬鹿にできようか、往年のアクションスターのような体術を体験できてとても感動したのだ。
 
 
 こうして午後の訓練は終わった。
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