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第10話 王都燃える②
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王都を突っ切る。
外壁の門は素通りできた。
事前の根回しのおかげだ。
――数時間前に遡る。
私たちは城壁の修復工事をしている、建設組合の皆さんに酒や肉を大量に渡していた。
「今夜は満月ですし。ぜひお外で衛兵の皆さんや、町にいるご家族友人たちも集めてと一緒に楽しんでください。
私達も今夜は花火を打ち上げる予定ですので、そうですわ、城壁の上で宴会なんかきっと楽しいと思いますわ」
建設組合の親方さんは樽に入った。大量の酒に上機嫌だった。
「宴会ねぇ。いいかもだ、最近楽しいことも無かったしな。おい、カイル! ちょっと重たいから運ぶの手伝ってくれ」
先程から大きな石材を運んでいた青年が振り返ると側まで来た。
近くで見たら随分と若いようだ。まだ少年と言ってもいいかもしれない。
「どれを運ぶんですか? って、何ですかこの樽は、おっちゃん今日は宴会ですか? 飲み過ぎに気を付けてくださいよ?」
「はっはっは、飲みすぎなくて何が職人か。それに今日はもう上がりだ。この後、城壁の上で宴会やるから後でお前もこいよ。例のなんだっけ? シャル……なんだっけ、お前のお気に入りのお嬢ちゃんでも呼んで来いよ」
「シャルロットはまだ未成年ですよ。でも気が向いたら顔をだしますね。お疲れさまでした」
「親方さん、あの青年、随分若いようですけど。ずっとここで?」
「いや、あいつはアルバイトだ。まだ学生だけど体力があるからな。おかげで随分と助かってるぜ」
私とそんなに年齢も違わないだろう。あんな若者まで酷使されるなんて。
やはり、この国は亡ぶべきなのだ。そう思った。――
目指すは王城ただ一つ。
周囲の人々は混乱している、当たり前だ。
王城が燃えているのだから。
しかし、所々で歓喜の声が上がっていた。
そして私たちを妨害する者は一人もいなかった。
アランやアレンは先頭を走りながら大声をあげる。
「貴族を殺せぇぇ! 俺達は自由だぁぁぁ!」
私たちの味方は増えていく。
騎士たちは治安維持で手一杯になり、おかげで王城の前まですぐに到着できた。
周囲の貴族の屋敷は燃えている。
この辺に来ると煙で視界はよくなかった。
だが私はよく知っている。
真っすぐに城門の反対側に向かった。
王城の反対側、そこには人工林があり、人は滅多に訪れない。
しかし、そこには秘密の隠し通路がある。
王族と一部の者しか知らない緊急の脱出用の通路だ。
建国以来、一度も使われていないため、隠し通路がある城壁の石壁には苔や蔦が張っている。
普段なら、静寂しかないその通路だったが、声が聞こえた。我々ではない。
私たちは事前に部隊を分けており、隠し通路の攻略にはクロードとアランとアレンを含めた数名しかいない。
それに、今ここで場違いな大声を上げる愚かな人物など私は知らない。
その声の主は隠し通路から出てきたばかりだった。
「ええい! この儂が! くそ! こんな平民の服を着せられるとは! それにこの通路はなんだ! 儂は王であるぞ!」
太った醜い男が通路から、側近と思われる同じく平民の服をきた男たちを引き連れて出てくる。
ああ、これが父上? 肖像画と違って、随分醜い事。
私は脱力した。これが私の父親なのかと。
私は声を掛ける。
「あら、王様? ご家族は一緒ではなかったのですか? おひとりで避難とは随分と冷たいのですね」
この太った男は、私の声でびくっとしてこちらを見た。
そして私の服装や顔を見ると、ニタァ、と笑った。こちらを平民と思ったのだろう。
「なんだ! 小娘。儂は王だぞ! 無礼者め! ……いや、丁度よかった。
儂を街の外れまで案内せよ、そしたら無礼な態度は許してやろう、それに褒美をとらせるぞ? お前の様な平民の女では一生稼げぬほどのな」
我が父ながら実に愚かだ。
もっと警戒しなさいよ。平民の格好をしているのに、なぜ王だと分かったのか。そしてなぜ私たちがここにいるのか。
それにドラゴンを放っておいて自分だけ逃げるとか。ほんと救いようがないわね。
でも同時に安心した。これから私がすることに、なんの後悔も無いからだ。
「ほんと、お父様には失望したわ。いいえ元々なにも期待してなかったし。私の顔を見ても思い出してくれないのだから……。クロード、やってしまいなさい」
クロードは剣を抜き王に近づいていく。
「なんだ! 小娘。気でも狂ったか! おい! こいつを処刑しろ!」
しかし側近らしい男の反応はない。
王が振り返ると、そこには倒れている側近と代わりにナイフを持った男が立っていた。
「へへ、俺っち、親子でここまで違うのかと、吐き気がして気が狂って、手元も狂って殺しちまったっす」
王の側近は背後からアランによってナイフを刺されて殺されていた。
王はそれを確認すると。腰を抜かして倒れた。
クロードは剣を王に向けたまま私に言った。
「クリスティーナ様、最後に何か言う事はないですか? 一応、お父上なのですから」
王は、腰を抜かしたまま。口を開いた。
何か命乞いのような言葉を。
「クリスティーナ? 小娘、お前、クリスティーナだったのか? そ、そうだ、娘よ、命令だ! い、いや、た、たのむ、命は、そうだこれからお前を正式に王女として――」
目の前の醜い生き物は何かを言っていた。
人間の耳は余程醜悪な言葉は耳に入らなくなるのだろうか。
それともドラゴンの呪いのせいかしら。
いや、さすがにドラゴンロードは無関係だろう、目の前のこれはくだらなすぎる。
あのドラゴンロードがこんな小物に関心を持つわけもないし。
あら、いけない、今はそんな事を考えている場合ではない。
……それにしても、この生き物は何を言ってるのだろうか……
「何か言う事……そうね、無いわね。意味が分からないわ。それにクロード、醜い雑音で気分が悪くなりそう。すぐに止めてちょうだい」
「御意!」
クロードの剣が走ると、静かになった。
聞こえる音といえば遠くに響く心地の良い爆発の音だけだった。
外壁の門は素通りできた。
事前の根回しのおかげだ。
――数時間前に遡る。
私たちは城壁の修復工事をしている、建設組合の皆さんに酒や肉を大量に渡していた。
「今夜は満月ですし。ぜひお外で衛兵の皆さんや、町にいるご家族友人たちも集めてと一緒に楽しんでください。
私達も今夜は花火を打ち上げる予定ですので、そうですわ、城壁の上で宴会なんかきっと楽しいと思いますわ」
建設組合の親方さんは樽に入った。大量の酒に上機嫌だった。
「宴会ねぇ。いいかもだ、最近楽しいことも無かったしな。おい、カイル! ちょっと重たいから運ぶの手伝ってくれ」
先程から大きな石材を運んでいた青年が振り返ると側まで来た。
近くで見たら随分と若いようだ。まだ少年と言ってもいいかもしれない。
「どれを運ぶんですか? って、何ですかこの樽は、おっちゃん今日は宴会ですか? 飲み過ぎに気を付けてくださいよ?」
「はっはっは、飲みすぎなくて何が職人か。それに今日はもう上がりだ。この後、城壁の上で宴会やるから後でお前もこいよ。例のなんだっけ? シャル……なんだっけ、お前のお気に入りのお嬢ちゃんでも呼んで来いよ」
「シャルロットはまだ未成年ですよ。でも気が向いたら顔をだしますね。お疲れさまでした」
「親方さん、あの青年、随分若いようですけど。ずっとここで?」
「いや、あいつはアルバイトだ。まだ学生だけど体力があるからな。おかげで随分と助かってるぜ」
私とそんなに年齢も違わないだろう。あんな若者まで酷使されるなんて。
やはり、この国は亡ぶべきなのだ。そう思った。――
目指すは王城ただ一つ。
周囲の人々は混乱している、当たり前だ。
王城が燃えているのだから。
しかし、所々で歓喜の声が上がっていた。
そして私たちを妨害する者は一人もいなかった。
アランやアレンは先頭を走りながら大声をあげる。
「貴族を殺せぇぇ! 俺達は自由だぁぁぁ!」
私たちの味方は増えていく。
騎士たちは治安維持で手一杯になり、おかげで王城の前まですぐに到着できた。
周囲の貴族の屋敷は燃えている。
この辺に来ると煙で視界はよくなかった。
だが私はよく知っている。
真っすぐに城門の反対側に向かった。
王城の反対側、そこには人工林があり、人は滅多に訪れない。
しかし、そこには秘密の隠し通路がある。
王族と一部の者しか知らない緊急の脱出用の通路だ。
建国以来、一度も使われていないため、隠し通路がある城壁の石壁には苔や蔦が張っている。
普段なら、静寂しかないその通路だったが、声が聞こえた。我々ではない。
私たちは事前に部隊を分けており、隠し通路の攻略にはクロードとアランとアレンを含めた数名しかいない。
それに、今ここで場違いな大声を上げる愚かな人物など私は知らない。
その声の主は隠し通路から出てきたばかりだった。
「ええい! この儂が! くそ! こんな平民の服を着せられるとは! それにこの通路はなんだ! 儂は王であるぞ!」
太った醜い男が通路から、側近と思われる同じく平民の服をきた男たちを引き連れて出てくる。
ああ、これが父上? 肖像画と違って、随分醜い事。
私は脱力した。これが私の父親なのかと。
私は声を掛ける。
「あら、王様? ご家族は一緒ではなかったのですか? おひとりで避難とは随分と冷たいのですね」
この太った男は、私の声でびくっとしてこちらを見た。
そして私の服装や顔を見ると、ニタァ、と笑った。こちらを平民と思ったのだろう。
「なんだ! 小娘。儂は王だぞ! 無礼者め! ……いや、丁度よかった。
儂を街の外れまで案内せよ、そしたら無礼な態度は許してやろう、それに褒美をとらせるぞ? お前の様な平民の女では一生稼げぬほどのな」
我が父ながら実に愚かだ。
もっと警戒しなさいよ。平民の格好をしているのに、なぜ王だと分かったのか。そしてなぜ私たちがここにいるのか。
それにドラゴンを放っておいて自分だけ逃げるとか。ほんと救いようがないわね。
でも同時に安心した。これから私がすることに、なんの後悔も無いからだ。
「ほんと、お父様には失望したわ。いいえ元々なにも期待してなかったし。私の顔を見ても思い出してくれないのだから……。クロード、やってしまいなさい」
クロードは剣を抜き王に近づいていく。
「なんだ! 小娘。気でも狂ったか! おい! こいつを処刑しろ!」
しかし側近らしい男の反応はない。
王が振り返ると、そこには倒れている側近と代わりにナイフを持った男が立っていた。
「へへ、俺っち、親子でここまで違うのかと、吐き気がして気が狂って、手元も狂って殺しちまったっす」
王の側近は背後からアランによってナイフを刺されて殺されていた。
王はそれを確認すると。腰を抜かして倒れた。
クロードは剣を王に向けたまま私に言った。
「クリスティーナ様、最後に何か言う事はないですか? 一応、お父上なのですから」
王は、腰を抜かしたまま。口を開いた。
何か命乞いのような言葉を。
「クリスティーナ? 小娘、お前、クリスティーナだったのか? そ、そうだ、娘よ、命令だ! い、いや、た、たのむ、命は、そうだこれからお前を正式に王女として――」
目の前の醜い生き物は何かを言っていた。
人間の耳は余程醜悪な言葉は耳に入らなくなるのだろうか。
それともドラゴンの呪いのせいかしら。
いや、さすがにドラゴンロードは無関係だろう、目の前のこれはくだらなすぎる。
あのドラゴンロードがこんな小物に関心を持つわけもないし。
あら、いけない、今はそんな事を考えている場合ではない。
……それにしても、この生き物は何を言ってるのだろうか……
「何か言う事……そうね、無いわね。意味が分からないわ。それにクロード、醜い雑音で気分が悪くなりそう。すぐに止めてちょうだい」
「御意!」
クロードの剣が走ると、静かになった。
聞こえる音といえば遠くに響く心地の良い爆発の音だけだった。
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