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第五章 迷宮都市タラス
第89話 敵討ち⑪
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ベヒモスの心臓は鼓動を止める。
そして、直立していたベヒモスは渾身の力を込めた二十番の魔剣の一撃で仰向けに倒れた。
今度こそ奴を倒した……。
……だが、冷静になるにつれ、嫌な予感がする。
そうだ、今度こそ、という言葉に違和感を覚えるのだ。
首を切断しても生きてた奴が心臓を砕いたところで……。それはもはや生き物なのだろうか。
なぜ、やつは首なしで生きていた? いや、奴はそもそも生きていないのでは……。
くそ、嫌な予感は当たるものだ。
魔剣に貫かれて倒れているベヒモス、いやその心臓の部分から轟音のような声が聞こえた。
『おのれぇー! またしても人間、我が復活を妨げる害虫どもがぁあああー!』
ベヒモスの心臓は破壊されている。鼓動はしていない。ではどこからこの声は聞こえているのか。
俺の疑問を他所に謎の声は続く。
『許せぬ! ……うん? 剣? 見覚えがあるな。……そうか。これか、これが我の復活を阻むくさびか、ならば跡形もなく粉々に砕いてやろう……』
ベヒモスの死体がひび割れ、その隙間から光りが溢れだす。
大気に満ちた魔力を感じる。これは極大魔法……いやその比じゃない!
俺は全てを真っ白に染めるような眩しい光に包まれる。
まずい! 俺は確実に死ぬ。ごめん……シャルロット。
次の瞬間、周囲に爆音がとどろく。大きな火柱は天高く昇り。それは上空の冷たい大気に混ざり。まるでキノコの様な形の爆炎を上げた。
…………。
「カイル! 無事ね? 怪我はないわよね?」
気が付いたら、俺はキッチンカーのある魔法結界の陣地の中にいた。
シャルロットは全身汗びっしょりになっている。それに顔が青い、満身創痍だ。
「シャルロット様、これを飲んでください。さすがに体力、魔力を消耗しすぎです。七番の魔剣のリジェネレーションの効果があるとしても体が追い付いていません。しばらくの休息をしないと危険です」
セバスティアーナさんが、シャルロットに果実水を飲ませる。モガミの里に伝わる飲み物で、少し塩が入っており疲労回復に効果があるそうだ。
それを飲み干すとシャルロットは少し落ち着いたのか、再び俺に話す。
「ふぅ。実戦で初めて『グレーターテレポーテーション』が使えたわ。さすがルカ様ね、こんなのよく連続で使えるわよね、私は往復しただけでこの有様よ」
どうやら俺はシャルロットに窮地から助けられたようだ。
シャルロットは謙遜しているが、完璧なグレーターテレポーテーションだった。
グレーターテレポーテーションは極大魔法ほどの魔力の消費はないが、それに次ぐ準極大魔法といえる。
それに正確な座標計算が必要なため、マスター級の魔法使いでも実戦で使える魔法使いはそうそういない。
それを俺を助けるために二回連続で詠唱したのだ。
シャルロットはやはり天才だ。
今の俺達はキッチンカーの魔法結界のおかげで先程の大爆発を逃れることが出来た。
だがあれはいったいなんだ。
くそ、何があった。
「カイル様、にシャルロット様。落ち着かれましたか? では現状を整理しましょう」
魔法結界内には気を失っているルカが簡易ベッドに横たわっている。
よかった。セバスティアーナさんがここまで運んでいたのだろう。
不幸中の幸いだ。ここにきて、まだ誰一人として欠けていない。
まだ、充分巻き返せるはずだ。
「せバスティアーナさん。あれは何ですか? ベヒモスは倒したはずなのに、それともあれが奴の真の姿だというのですか?」
「いいえ、カイル様、ベヒモスは完全に殺しました。というか、おそらく首を切断した時点でベヒモスは死んでいたのでしょう」
「なら、あれはいったい?」
いや、俺はあの声に聞き覚えがある。それに人語を話せる魔物は少ない。俺の知っている魔物といえば……
「カイル様は既にお察しのようですね。あれは間違いなく呪いのドラゴンロードです。4年前にエフタルの王都でカイル様に殺されたかに見えましたが。奴は眷属を媒介に復活を企んでいたようですね」
4年前。たしかに俺は呪いのドラゴンロードの首を落とした。だが、奴は死んでいなかったということか。
まあ、おかしいと思っていたのだ。呪いのドラゴンロードの力は呪いそのものだ。
世界に憎悪がある限り呪いのドラゴンロードは転生を繰り返す……だったか。物語の話だけだと思ってたけど、それは真実だったのだ。
そして、直立していたベヒモスは渾身の力を込めた二十番の魔剣の一撃で仰向けに倒れた。
今度こそ奴を倒した……。
……だが、冷静になるにつれ、嫌な予感がする。
そうだ、今度こそ、という言葉に違和感を覚えるのだ。
首を切断しても生きてた奴が心臓を砕いたところで……。それはもはや生き物なのだろうか。
なぜ、やつは首なしで生きていた? いや、奴はそもそも生きていないのでは……。
くそ、嫌な予感は当たるものだ。
魔剣に貫かれて倒れているベヒモス、いやその心臓の部分から轟音のような声が聞こえた。
『おのれぇー! またしても人間、我が復活を妨げる害虫どもがぁあああー!』
ベヒモスの心臓は破壊されている。鼓動はしていない。ではどこからこの声は聞こえているのか。
俺の疑問を他所に謎の声は続く。
『許せぬ! ……うん? 剣? 見覚えがあるな。……そうか。これか、これが我の復活を阻むくさびか、ならば跡形もなく粉々に砕いてやろう……』
ベヒモスの死体がひび割れ、その隙間から光りが溢れだす。
大気に満ちた魔力を感じる。これは極大魔法……いやその比じゃない!
俺は全てを真っ白に染めるような眩しい光に包まれる。
まずい! 俺は確実に死ぬ。ごめん……シャルロット。
次の瞬間、周囲に爆音がとどろく。大きな火柱は天高く昇り。それは上空の冷たい大気に混ざり。まるでキノコの様な形の爆炎を上げた。
…………。
「カイル! 無事ね? 怪我はないわよね?」
気が付いたら、俺はキッチンカーのある魔法結界の陣地の中にいた。
シャルロットは全身汗びっしょりになっている。それに顔が青い、満身創痍だ。
「シャルロット様、これを飲んでください。さすがに体力、魔力を消耗しすぎです。七番の魔剣のリジェネレーションの効果があるとしても体が追い付いていません。しばらくの休息をしないと危険です」
セバスティアーナさんが、シャルロットに果実水を飲ませる。モガミの里に伝わる飲み物で、少し塩が入っており疲労回復に効果があるそうだ。
それを飲み干すとシャルロットは少し落ち着いたのか、再び俺に話す。
「ふぅ。実戦で初めて『グレーターテレポーテーション』が使えたわ。さすがルカ様ね、こんなのよく連続で使えるわよね、私は往復しただけでこの有様よ」
どうやら俺はシャルロットに窮地から助けられたようだ。
シャルロットは謙遜しているが、完璧なグレーターテレポーテーションだった。
グレーターテレポーテーションは極大魔法ほどの魔力の消費はないが、それに次ぐ準極大魔法といえる。
それに正確な座標計算が必要なため、マスター級の魔法使いでも実戦で使える魔法使いはそうそういない。
それを俺を助けるために二回連続で詠唱したのだ。
シャルロットはやはり天才だ。
今の俺達はキッチンカーの魔法結界のおかげで先程の大爆発を逃れることが出来た。
だがあれはいったいなんだ。
くそ、何があった。
「カイル様、にシャルロット様。落ち着かれましたか? では現状を整理しましょう」
魔法結界内には気を失っているルカが簡易ベッドに横たわっている。
よかった。セバスティアーナさんがここまで運んでいたのだろう。
不幸中の幸いだ。ここにきて、まだ誰一人として欠けていない。
まだ、充分巻き返せるはずだ。
「せバスティアーナさん。あれは何ですか? ベヒモスは倒したはずなのに、それともあれが奴の真の姿だというのですか?」
「いいえ、カイル様、ベヒモスは完全に殺しました。というか、おそらく首を切断した時点でベヒモスは死んでいたのでしょう」
「なら、あれはいったい?」
いや、俺はあの声に聞き覚えがある。それに人語を話せる魔物は少ない。俺の知っている魔物といえば……
「カイル様は既にお察しのようですね。あれは間違いなく呪いのドラゴンロードです。4年前にエフタルの王都でカイル様に殺されたかに見えましたが。奴は眷属を媒介に復活を企んでいたようですね」
4年前。たしかに俺は呪いのドラゴンロードの首を落とした。だが、奴は死んでいなかったということか。
まあ、おかしいと思っていたのだ。呪いのドラゴンロードの力は呪いそのものだ。
世界に憎悪がある限り呪いのドラゴンロードは転生を繰り返す……だったか。物語の話だけだと思ってたけど、それは真実だったのだ。
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