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第五章 迷宮都市タラス
第87話 敵討ち⑨
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迫りくるベヒモス。
俺達はキッチンカーの後ろに避難し、魔法結界の中で少しだけ休憩する。
先程、全力で魔法を放った俺達は魔力枯渇を起こしていたが、七番の魔剣開放の効果のおかげで、少し休憩すれば回復は直ぐに終わる。
魔法結界の外にいるルカは一人で立っていた。セバスティアーナさんは隠密行動を取っているようだ。
ルカの手には先程とは違う魔剣が握られていた。
「さてと、懐かしの再会じゃな、吾輩はお主に会えるのをずっと待ちわびていたぞ。おかげで吾輩の左手からは無いはずの痛みを感じるわい!」
ルカは左手の義手。十九番の魔剣『ザハンド』を前方に伸ばす。
「では行くか。魔剣開放! からのー『ストーンウォール』!」
ルカの十九番の魔剣は左手の義手だ。
俺は以前、ルカに質問したことがあるが、義手には剣が隠されているわけではないらしい。
ルカは「吾輩自身が魔剣よ」と訳のわからない事をいってた。
魔剣とは何なのかと聞こうとしたがルカ自身が魔剣ならば何も言えない。
ちなみに十九番の魔剣は、二十番の魔剣の魔力増幅機能の試作品らしい。
二十番ほどの威力と容量は無いが、軽量であり、もともとマスター級の魔法使いであるルカをサポートするには充分な魔力容量を持っている。
そして、ルカの義手を通して放たれたストーンウォールは中級魔法、石の壁をつくる防御魔法だが、魔力増幅によって石の壁は何重にも重なり、塔の様にそびえ立った。
ベヒモスは勢いのままその石の塔に突っ込む。
一本の角が根元まで突き刺さると、石の塔には大きな亀裂が走る。
崩壊は時間の問題だろう。
もし、ベヒモスの角が二本だったら石の塔は簡単に粉砕されていただろう。
だが一本の角では突き刺すだけで破壊には至らなかった。
一瞬、ベヒモスの動きがとまった。
そして石の塔のてっぺんに立つ人影。
「モガミ流忍術・裏。忍法『火遁・ほむら』!」
まるで太陽の様な光を放つ、白い火球が頭上からベヒモスの左目に向かって降り注ぐ。
強力な魔法防御力を誇るベヒモスの左目を潰すには至らないが、目くらませには効果があるだろう。
ベヒモスは不快に思ったのか、前腕を使い、角が刺さった石の搭を力任せに粉砕する。
城壁の様な石の壁を、いともたやすく粉砕する奴の力。
俺は思った。
ベヒモスがもし街を襲撃したら同じように城壁を粉砕してしまっただろうと。だから籠城戦の選択肢がなかったのだ。
ベヒモスが石の塔を破壊している隙をついて、素早く奴の下に滑り込んだルカは手に持っていた二番の魔剣。氷の剣『フリージア』を上に向けて構える。
「魔剣崩壊・フリージア」
次の瞬間、先程崩れた石の搭と同じくらいの高さの氷の槍がそびえ立った。
その氷はベヒモスの上半身を包み込んでいた。
だがベヒモスは何事もなかったように体を捻り上半身を覆った氷を砕く。
恐ろしい魔法防御力だ、俺達の渾身の魔力を込めて放った魔法でも右目と右の角しか破壊できなかったのが理解できた。
そしてベヒモスは前腕でルカを攻撃する。
ルカは間一髪でシールド魔法を張るが勢いよく後に吹っ飛んだ。
かろうじで受け身を取るとルカは自身に回復魔法を掛ける。
「ち、魔剣開放した十九番のシールド魔法だというのになんという威力よ。
それに吾輩の魔剣の一撃を喰らっても無傷とはのう……素晴らしい魔法防御力、さすがは魔獣の王よ。
だがのう、魔法機械技師の吾輩に言わせるとだな、熱々に熱せられた角に冷え冷えはまずいんじゃないかのう? 今、ぴきっと音を立てんかったか?
それにのう、吾輩ばかりに構ってっていいのかのう?」
次の瞬間。
上空から舞い降りる黒い影。
「ルカ様はさすがに天然のタンカーです。言葉の通じぬ魔物にも見事なヘイトコントロール……では、その厄介な角、落とします! モガミ流忍術・表。二刀流『剣舞』!」
上空から振り下ろされるセバスティアーナの剣、回転しながら放たれる十数発の斬撃により、ベヒモスの角は根本からを折れた。
ベヒモスは怒り狂いセバスティアーナに反撃を加える。
セバスティアーナは回避行動を取るが、やつの全力の攻撃に間に合わない。
彼女はベヒモスの攻撃を回避できず、手に持った二本の剣をクロスさせて攻撃を受け止める。
だがベヒモスの膂力を前にセバスティアーナは後方に吹き飛んだ。
セバスティアーナは地面に叩きつけられるが咄嗟に受け身を取り立ち上がる、だがその手には剣は無い。
両腕の力は抜け、だらんとぶら下がっていた。
「ち、今ので両腕が折れてしまいましたか。……ですが、どうですか? 自慢の角は折れ、頭上は無防備ですね?」
絶好の機会だ。
「行くぞ、シャルロット!」
「おっけー、私に任せなさい!」
上空に飛ぶ二つの人影。
二本の角を失ったベヒモスの頭部は隙だらけだ。
だが、圧倒的な膂力をもつベヒモスの両腕は二つの人影を掴むとそのまま地面に叩きつけた。
ベヒモスは力をこめ二人の人影を握りつぶす。
その人影は胴と首が放れるとチリのように消えた。
「残念、おとりでしたー。カイル! 今よ!」
「おう!」
俺はヘイストを最大出力で唱えると大きく跳躍しそのままやつの首に思い切り剣を振り下ろした。
俺達はキッチンカーの後ろに避難し、魔法結界の中で少しだけ休憩する。
先程、全力で魔法を放った俺達は魔力枯渇を起こしていたが、七番の魔剣開放の効果のおかげで、少し休憩すれば回復は直ぐに終わる。
魔法結界の外にいるルカは一人で立っていた。セバスティアーナさんは隠密行動を取っているようだ。
ルカの手には先程とは違う魔剣が握られていた。
「さてと、懐かしの再会じゃな、吾輩はお主に会えるのをずっと待ちわびていたぞ。おかげで吾輩の左手からは無いはずの痛みを感じるわい!」
ルカは左手の義手。十九番の魔剣『ザハンド』を前方に伸ばす。
「では行くか。魔剣開放! からのー『ストーンウォール』!」
ルカの十九番の魔剣は左手の義手だ。
俺は以前、ルカに質問したことがあるが、義手には剣が隠されているわけではないらしい。
ルカは「吾輩自身が魔剣よ」と訳のわからない事をいってた。
魔剣とは何なのかと聞こうとしたがルカ自身が魔剣ならば何も言えない。
ちなみに十九番の魔剣は、二十番の魔剣の魔力増幅機能の試作品らしい。
二十番ほどの威力と容量は無いが、軽量であり、もともとマスター級の魔法使いであるルカをサポートするには充分な魔力容量を持っている。
そして、ルカの義手を通して放たれたストーンウォールは中級魔法、石の壁をつくる防御魔法だが、魔力増幅によって石の壁は何重にも重なり、塔の様にそびえ立った。
ベヒモスは勢いのままその石の塔に突っ込む。
一本の角が根元まで突き刺さると、石の塔には大きな亀裂が走る。
崩壊は時間の問題だろう。
もし、ベヒモスの角が二本だったら石の塔は簡単に粉砕されていただろう。
だが一本の角では突き刺すだけで破壊には至らなかった。
一瞬、ベヒモスの動きがとまった。
そして石の塔のてっぺんに立つ人影。
「モガミ流忍術・裏。忍法『火遁・ほむら』!」
まるで太陽の様な光を放つ、白い火球が頭上からベヒモスの左目に向かって降り注ぐ。
強力な魔法防御力を誇るベヒモスの左目を潰すには至らないが、目くらませには効果があるだろう。
ベヒモスは不快に思ったのか、前腕を使い、角が刺さった石の搭を力任せに粉砕する。
城壁の様な石の壁を、いともたやすく粉砕する奴の力。
俺は思った。
ベヒモスがもし街を襲撃したら同じように城壁を粉砕してしまっただろうと。だから籠城戦の選択肢がなかったのだ。
ベヒモスが石の塔を破壊している隙をついて、素早く奴の下に滑り込んだルカは手に持っていた二番の魔剣。氷の剣『フリージア』を上に向けて構える。
「魔剣崩壊・フリージア」
次の瞬間、先程崩れた石の搭と同じくらいの高さの氷の槍がそびえ立った。
その氷はベヒモスの上半身を包み込んでいた。
だがベヒモスは何事もなかったように体を捻り上半身を覆った氷を砕く。
恐ろしい魔法防御力だ、俺達の渾身の魔力を込めて放った魔法でも右目と右の角しか破壊できなかったのが理解できた。
そしてベヒモスは前腕でルカを攻撃する。
ルカは間一髪でシールド魔法を張るが勢いよく後に吹っ飛んだ。
かろうじで受け身を取るとルカは自身に回復魔法を掛ける。
「ち、魔剣開放した十九番のシールド魔法だというのになんという威力よ。
それに吾輩の魔剣の一撃を喰らっても無傷とはのう……素晴らしい魔法防御力、さすがは魔獣の王よ。
だがのう、魔法機械技師の吾輩に言わせるとだな、熱々に熱せられた角に冷え冷えはまずいんじゃないかのう? 今、ぴきっと音を立てんかったか?
それにのう、吾輩ばかりに構ってっていいのかのう?」
次の瞬間。
上空から舞い降りる黒い影。
「ルカ様はさすがに天然のタンカーです。言葉の通じぬ魔物にも見事なヘイトコントロール……では、その厄介な角、落とします! モガミ流忍術・表。二刀流『剣舞』!」
上空から振り下ろされるセバスティアーナの剣、回転しながら放たれる十数発の斬撃により、ベヒモスの角は根本からを折れた。
ベヒモスは怒り狂いセバスティアーナに反撃を加える。
セバスティアーナは回避行動を取るが、やつの全力の攻撃に間に合わない。
彼女はベヒモスの攻撃を回避できず、手に持った二本の剣をクロスさせて攻撃を受け止める。
だがベヒモスの膂力を前にセバスティアーナは後方に吹き飛んだ。
セバスティアーナは地面に叩きつけられるが咄嗟に受け身を取り立ち上がる、だがその手には剣は無い。
両腕の力は抜け、だらんとぶら下がっていた。
「ち、今ので両腕が折れてしまいましたか。……ですが、どうですか? 自慢の角は折れ、頭上は無防備ですね?」
絶好の機会だ。
「行くぞ、シャルロット!」
「おっけー、私に任せなさい!」
上空に飛ぶ二つの人影。
二本の角を失ったベヒモスの頭部は隙だらけだ。
だが、圧倒的な膂力をもつベヒモスの両腕は二つの人影を掴むとそのまま地面に叩きつけた。
ベヒモスは力をこめ二人の人影を握りつぶす。
その人影は胴と首が放れるとチリのように消えた。
「残念、おとりでしたー。カイル! 今よ!」
「おう!」
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