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第五章 迷宮都市タラス
第81話 敵討ち③
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俺達は、まだ陽が明るいうちにテントの設営をした。
二つのテントの間にキッチンカーを設置し、その前にテーブルを置く。
「お二人ともお疲れさまでした。だいぶ森の戦闘に慣れてきましたね」
「セバスちゃんよ、吾輩にはねぎらいの言葉はないのかのう?」
「……はい、そうですね、珍しく外で歩いてお疲れ様です」
「ちがーう、吾輩は足が棒になってしまった。マッサージをしてほしいと言っておるんじゃ。吾輩はそれが楽しみで一日我慢して歩いたんじゃ」
「はあ、しょうがないですね。では先にお風呂にしましょうか。食事はその後で」
「お風呂って、シャワーですか?」
「ふっふっふ、少年に朗報じゃ、キッチンカーは改造によって浴槽が出せるようになったのじゃ。
もっとも組み立て式だし、少し狭いがのう。二人が入るには狭い、だが少年なら覗きのひとつはするじゃろうて?」
「し、しませんよ。俺は女性の風呂を覗くようなことはしたことありません」
そうだ、覗きは、していない。
「そ、そうよ、ルカ様。カイルには偶然覗かれたことはあったけど覗いたことはないのよ、(別に見てもいいっていってるんだけど……)」
……。俺を助けてくれたのか糾弾したいのかどっちだ。だが、あれは事故だったのだ、故意ではない。
「ふむ、初々しいのう。まあよい。ではさっそく浴槽に湯を張るとしよう」
…………。
「ふう、いいお湯じゃった。セバスちゃんに背中を流してもらったのも随分と久しぶりじゃのう。その石鹸は相変わらずノイマンからの贈り物であろう。
まったく、お主も彼の気持ちにこたえたらどうじゃ? お主もいい歳じゃろうて?」
「うふふ、ルカ様ったら、この後、私にマッサージを受けるというのに随分と強気な発言ですね。力加減を間違えてしまいそうですよ?」
「おっとそうじゃった。ではお二人よごゆっくり。ちなみに吾輩たちが少しお湯を無駄遣いしてしまってのう。シャワーがあと少しでなくなる。
すまんが、まとまって入ってくれんかのう。ではセバスちゃんよ、年寄り達はテントの中に退散しよう。このテントは防音の魔法が込められておる。
それにマッサージは個室で受けないと恥ずかしいからな。激痛の声が外に洩れては吾輩の沽券にかかる」
「まったく、激痛は嘘ですよ、それはやらせです。あ、カイル様にシャルロット様。浴槽の側にタオルを用意していますので、恥ずかしいならそれを使ってください。ではごゆっくり」
…………。
「どうしよっか……」
シャルロットは呆然としていた。
「悪い、お風呂はシャルロットが使ってくれ。俺は小川で水浴びをするよ。魔力だって無尽蔵じゃないし。魔石の節約にもなる」
「馬鹿、なら一緒に入った方が効率的でしょ。あんたそんな事いってるけど、私の裸は何回か見てるんでしょ? 今さらそんな態度とったって遅いんだからね」
そう言うとシャルロットは服を脱ぐ。
そうはいってもだ、あの時と比べて彼女は大人になった。
体つきだって以前と違う。タオルで隠しているといっても起伏のある体にどうしても意識してしまう。当たり前だ。
だが、彼女が良いというのだ。俺も覚悟を決めた……。
残り少ないシャワーで手早く体を洗うと、背中合わせに湯船に浸かる。
お互い無言だった。だが少しするとシャルロットが言った。
「ねえ、カイル。思ったんだけど。あんた、私のことどう思ってる? いいえ、ごめんなさい、今聞くのは卑怯よね。
でも、ずっと旅してたし。そりゃ私だって、どうしても思っちゃうの、感情がもやもやするのよ」
ドキッとした。俺の心は既に決まってるんだ、けど。なんて言ったらいいか。
長い間ずっと一緒だったから。いいだせないでいた。
そういえばベアトリクスも言ってた、時を拗らせると大変だと。
俺は背中越しに彼女の心臓の鼓動を感じた。彼女だって緊張しているのだ。
「シャルロット。俺だって大事に思ってるんだ。いや、ごめん、それは遠回しな表現で、その今の状況でいうセリフじゃないけど、分かってくれ。俺達は今死ぬかもしれない戦いに挑もうとしている。
その道中で、それを言ってしまうと死亡フラグを立てるっていうだろ? だから、無事帰るまで待ってくれないか? ちゃんとした場所で二人っきりで話そう……」
「……うん。ありがとう。うれしい。でも、馬鹿ね。もう、それは言ってるのと一緒よ。フラグなら立ってるんじゃないの? じゃあ、帰ったら、タラスの街でデートしましょうよ」
湯船から出る。俺達はルカとセバスティアーナさんのテントに近づく。
「いだだだー。痛い! 足は痛い! それはどこのツボじゃ!」
「はい、頭のツボです、ルカ様、嘘をつきましたね? このテントに防音の魔法など掛かっていないと」
「ふん、セバスちゃんもばっちり会話を盗み聞いていたじゃろうが? 激甘トークを聞くことで吾輩は若さを保つのじゃ。年寄りの楽しみを奪うでないわ! いだだだっ!」
「確かに聞いていました、ですがそれはそれ、私はルカ様の頭を癒しているのですよ?」
「いだい、足のツボで頭を直すとかおかしいじゃろが!」
ふう、俺達の会話は聞かれていたか、まあ、彼女たちは親切心から俺達にお節介を焼いているのだろう。
「シャルロット、俺ってそんなに頼りないかな」
「そうね、じれったいのよ、まあ、私も人のこと言えないけど……」
悶絶するルカの声が響く中、俺はシャルロットに向き合う。
「なら、約束するよ。言葉は言わないけど。……誓う、俺は……」
「うん、誓いなら死亡フラグには……なるのかしら?……」
シャルロットは目を閉じる。
俺は彼女の唇に自身の唇を重ねた。
二つのテントの間にキッチンカーを設置し、その前にテーブルを置く。
「お二人ともお疲れさまでした。だいぶ森の戦闘に慣れてきましたね」
「セバスちゃんよ、吾輩にはねぎらいの言葉はないのかのう?」
「……はい、そうですね、珍しく外で歩いてお疲れ様です」
「ちがーう、吾輩は足が棒になってしまった。マッサージをしてほしいと言っておるんじゃ。吾輩はそれが楽しみで一日我慢して歩いたんじゃ」
「はあ、しょうがないですね。では先にお風呂にしましょうか。食事はその後で」
「お風呂って、シャワーですか?」
「ふっふっふ、少年に朗報じゃ、キッチンカーは改造によって浴槽が出せるようになったのじゃ。
もっとも組み立て式だし、少し狭いがのう。二人が入るには狭い、だが少年なら覗きのひとつはするじゃろうて?」
「し、しませんよ。俺は女性の風呂を覗くようなことはしたことありません」
そうだ、覗きは、していない。
「そ、そうよ、ルカ様。カイルには偶然覗かれたことはあったけど覗いたことはないのよ、(別に見てもいいっていってるんだけど……)」
……。俺を助けてくれたのか糾弾したいのかどっちだ。だが、あれは事故だったのだ、故意ではない。
「ふむ、初々しいのう。まあよい。ではさっそく浴槽に湯を張るとしよう」
…………。
「ふう、いいお湯じゃった。セバスちゃんに背中を流してもらったのも随分と久しぶりじゃのう。その石鹸は相変わらずノイマンからの贈り物であろう。
まったく、お主も彼の気持ちにこたえたらどうじゃ? お主もいい歳じゃろうて?」
「うふふ、ルカ様ったら、この後、私にマッサージを受けるというのに随分と強気な発言ですね。力加減を間違えてしまいそうですよ?」
「おっとそうじゃった。ではお二人よごゆっくり。ちなみに吾輩たちが少しお湯を無駄遣いしてしまってのう。シャワーがあと少しでなくなる。
すまんが、まとまって入ってくれんかのう。ではセバスちゃんよ、年寄り達はテントの中に退散しよう。このテントは防音の魔法が込められておる。
それにマッサージは個室で受けないと恥ずかしいからな。激痛の声が外に洩れては吾輩の沽券にかかる」
「まったく、激痛は嘘ですよ、それはやらせです。あ、カイル様にシャルロット様。浴槽の側にタオルを用意していますので、恥ずかしいならそれを使ってください。ではごゆっくり」
…………。
「どうしよっか……」
シャルロットは呆然としていた。
「悪い、お風呂はシャルロットが使ってくれ。俺は小川で水浴びをするよ。魔力だって無尽蔵じゃないし。魔石の節約にもなる」
「馬鹿、なら一緒に入った方が効率的でしょ。あんたそんな事いってるけど、私の裸は何回か見てるんでしょ? 今さらそんな態度とったって遅いんだからね」
そう言うとシャルロットは服を脱ぐ。
そうはいってもだ、あの時と比べて彼女は大人になった。
体つきだって以前と違う。タオルで隠しているといっても起伏のある体にどうしても意識してしまう。当たり前だ。
だが、彼女が良いというのだ。俺も覚悟を決めた……。
残り少ないシャワーで手早く体を洗うと、背中合わせに湯船に浸かる。
お互い無言だった。だが少しするとシャルロットが言った。
「ねえ、カイル。思ったんだけど。あんた、私のことどう思ってる? いいえ、ごめんなさい、今聞くのは卑怯よね。
でも、ずっと旅してたし。そりゃ私だって、どうしても思っちゃうの、感情がもやもやするのよ」
ドキッとした。俺の心は既に決まってるんだ、けど。なんて言ったらいいか。
長い間ずっと一緒だったから。いいだせないでいた。
そういえばベアトリクスも言ってた、時を拗らせると大変だと。
俺は背中越しに彼女の心臓の鼓動を感じた。彼女だって緊張しているのだ。
「シャルロット。俺だって大事に思ってるんだ。いや、ごめん、それは遠回しな表現で、その今の状況でいうセリフじゃないけど、分かってくれ。俺達は今死ぬかもしれない戦いに挑もうとしている。
その道中で、それを言ってしまうと死亡フラグを立てるっていうだろ? だから、無事帰るまで待ってくれないか? ちゃんとした場所で二人っきりで話そう……」
「……うん。ありがとう。うれしい。でも、馬鹿ね。もう、それは言ってるのと一緒よ。フラグなら立ってるんじゃないの? じゃあ、帰ったら、タラスの街でデートしましょうよ」
湯船から出る。俺達はルカとセバスティアーナさんのテントに近づく。
「いだだだー。痛い! 足は痛い! それはどこのツボじゃ!」
「はい、頭のツボです、ルカ様、嘘をつきましたね? このテントに防音の魔法など掛かっていないと」
「ふん、セバスちゃんもばっちり会話を盗み聞いていたじゃろうが? 激甘トークを聞くことで吾輩は若さを保つのじゃ。年寄りの楽しみを奪うでないわ! いだだだっ!」
「確かに聞いていました、ですがそれはそれ、私はルカ様の頭を癒しているのですよ?」
「いだい、足のツボで頭を直すとかおかしいじゃろが!」
ふう、俺達の会話は聞かれていたか、まあ、彼女たちは親切心から俺達にお節介を焼いているのだろう。
「シャルロット、俺ってそんなに頼りないかな」
「そうね、じれったいのよ、まあ、私も人のこと言えないけど……」
悶絶するルカの声が響く中、俺はシャルロットに向き合う。
「なら、約束するよ。言葉は言わないけど。……誓う、俺は……」
「うん、誓いなら死亡フラグには……なるのかしら?……」
シャルロットは目を閉じる。
俺は彼女の唇に自身の唇を重ねた。
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