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第五章 迷宮都市タラス
第74話 二年後
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二年が経った。
迷宮都市タラス。
ここは魔獣の住処であり、国よりも大きな領域を持つバシュミル大森林と接触する重要拠点。
街自体が要塞と化しているここは、カルルク帝国で最も多くの冒険者が活動している。
今回の俺達の仕事は、タラスの北側の城壁を出てすぐのバシュミル大森林の入り口にある平原に現れた数匹の魔物の集団の討伐任務だ。
先任の冒険者がついこの間、討伐したはずなのにすぐに依頼書が張られていた。
やはりバシュミル大森林の魔物はこの街では常に現れるのだろう。
「敵はマンイーターの集団だ! シャルロット、いつも通りいくぞ!」
「オーケー、うしろは任せてちょうだい」
マンイーター。
ハムスターに似ているが魔獣である。
外見こそ可愛い魔獣であるが、鋭い牙と爪を持ち、大きさが大人の人間よりやや大きいため、それなりに脅威の魔物である。
「ヘイスト!」
俺は魔法を唱えると、身体が軽くなるのを感じた。
ヘイストは俺が使える魔法の中でもっとも高位の魔法だ。身体能力の向上により接近戦の補助に向く中級魔法。
そういえばセバスティアーナさんは俺のヘイストに関して以前こう言っていた。
「カイル様のヘイストは独自の魔法と言えるまで進化しました。やはり身体能力の向上がオーガの血と相性がいいのでしょうね」
なるほど、シャルロットも俺のヘイストはどこかおかしいと言っていた。これが俺の力なのか、ご先祖様に感謝しかない。
俺は九番の魔剣『ノダチ』を鞘から抜き、切っ先を水平に構えると敵の集団に突っ込む。
モガミ流忍術・表。壱の太刀『牙』。この技はヘイストと相性が抜群に良い。
一瞬で距離を縮めると、奴らの中で一番大きな個体、おそらくマンイーターのリーダーだろう。
やつの分厚い胸筋と肋骨ごと心臓を貫く。
「まずは一匹」
ノダチを引き抜くと、敵は声を上げることなくその場に倒れた。
敵はリーダー格である個体を失ったのか後は無秩序に暴れるのみだった。
マンイーターはそれなりに知能があるため、集団戦闘をする。
そのため数が揃うと討伐の難易度は比例して上がる。
だがリーダーを倒せばずっと簡単になる。
後は個別に撃破するのみだ、ヘイストの効果が残っているあいだにもう一匹しとめたい。
一瞬の出来事にうろたえていたもう一匹が、状況を理解すると、こちらに襲い掛かってくる。
俺はそいつに対して正面に剣を構える。
そして奴を袈裟切りにする。
手ごたえはあるが、浅い! 分厚い毛皮のせいで刃が滑ってしまったのだろう。
マンイーターの毛皮は防具として、防寒、防刃に優れた特性があり冒険者たちに重宝される。
なるほどな。今ので致命傷にはならなかったか。
マンイーターは両手を広げて、攻撃の構えを取る。
だが、後衛の魔法使いであるシャルロットがとどめを刺す。
氷の中級魔法、アイスジャベリン。奴の背中から心臓を貫き、胸から氷の槍の先端が覗いていた。
俺達は前衛と後衛の役割をこなしつつ一匹一匹、順番に仕留めていく。
課題であった連携も様になってきた。
マンイーターは瞬発力があるため、魔法使いにとっては案外苦戦しやすい魔物である。
前衛によるサポートがなければ思わぬ反撃に殺されるという事故は数年に一回はあるほどだ。
よし、これで最後の一匹。
ヘイストが切れてしまっているが、もう俺達の勝ちだ。
俺は大振りのノダチの横なぎを最後の一匹にむかって放つ。
奴は俺のノダチの横なぎを勢いよくジャンプしてかわすが。
「残念でした、『ヘルファイア』!」
後に控えていたシャルロットが待ってましたとばかりに魔法を撃つ。
その瞬間、燃え盛るマンイーターは地面に落ちると、悶えながら消し炭となった。
「やったな!」
「そうねやったわ!」
最後の一匹を仕留めると、俺達はハイタッチをする。
周りを見回すと、首をはねられたもの、焼け焦げたもの、体中に切り傷を付けて焼かれたもの、心臓を貫かれて絶命したもの様々な死体が転がっている。
「全部で5匹か、ここのところマンイーターばかりを狩ってるな」
最近はずっと、バシュミル大森林の手前にある平原で、森から溢れてきたマンイーターの討伐任務をしている。
やつらは個体数が増えるとこうして人里にやってくることがあるのだ。
生存競争にやぶれて逃げ延びた魔物は行き先を求めて人里にやってくる。
それにしても最近はマンイーターしか見ない。まるでマンイーターの森にでもなってしまったかのようだった。
迷宮都市タラス。
ここは魔獣の住処であり、国よりも大きな領域を持つバシュミル大森林と接触する重要拠点。
街自体が要塞と化しているここは、カルルク帝国で最も多くの冒険者が活動している。
今回の俺達の仕事は、タラスの北側の城壁を出てすぐのバシュミル大森林の入り口にある平原に現れた数匹の魔物の集団の討伐任務だ。
先任の冒険者がついこの間、討伐したはずなのにすぐに依頼書が張られていた。
やはりバシュミル大森林の魔物はこの街では常に現れるのだろう。
「敵はマンイーターの集団だ! シャルロット、いつも通りいくぞ!」
「オーケー、うしろは任せてちょうだい」
マンイーター。
ハムスターに似ているが魔獣である。
外見こそ可愛い魔獣であるが、鋭い牙と爪を持ち、大きさが大人の人間よりやや大きいため、それなりに脅威の魔物である。
「ヘイスト!」
俺は魔法を唱えると、身体が軽くなるのを感じた。
ヘイストは俺が使える魔法の中でもっとも高位の魔法だ。身体能力の向上により接近戦の補助に向く中級魔法。
そういえばセバスティアーナさんは俺のヘイストに関して以前こう言っていた。
「カイル様のヘイストは独自の魔法と言えるまで進化しました。やはり身体能力の向上がオーガの血と相性がいいのでしょうね」
なるほど、シャルロットも俺のヘイストはどこかおかしいと言っていた。これが俺の力なのか、ご先祖様に感謝しかない。
俺は九番の魔剣『ノダチ』を鞘から抜き、切っ先を水平に構えると敵の集団に突っ込む。
モガミ流忍術・表。壱の太刀『牙』。この技はヘイストと相性が抜群に良い。
一瞬で距離を縮めると、奴らの中で一番大きな個体、おそらくマンイーターのリーダーだろう。
やつの分厚い胸筋と肋骨ごと心臓を貫く。
「まずは一匹」
ノダチを引き抜くと、敵は声を上げることなくその場に倒れた。
敵はリーダー格である個体を失ったのか後は無秩序に暴れるのみだった。
マンイーターはそれなりに知能があるため、集団戦闘をする。
そのため数が揃うと討伐の難易度は比例して上がる。
だがリーダーを倒せばずっと簡単になる。
後は個別に撃破するのみだ、ヘイストの効果が残っているあいだにもう一匹しとめたい。
一瞬の出来事にうろたえていたもう一匹が、状況を理解すると、こちらに襲い掛かってくる。
俺はそいつに対して正面に剣を構える。
そして奴を袈裟切りにする。
手ごたえはあるが、浅い! 分厚い毛皮のせいで刃が滑ってしまったのだろう。
マンイーターの毛皮は防具として、防寒、防刃に優れた特性があり冒険者たちに重宝される。
なるほどな。今ので致命傷にはならなかったか。
マンイーターは両手を広げて、攻撃の構えを取る。
だが、後衛の魔法使いであるシャルロットがとどめを刺す。
氷の中級魔法、アイスジャベリン。奴の背中から心臓を貫き、胸から氷の槍の先端が覗いていた。
俺達は前衛と後衛の役割をこなしつつ一匹一匹、順番に仕留めていく。
課題であった連携も様になってきた。
マンイーターは瞬発力があるため、魔法使いにとっては案外苦戦しやすい魔物である。
前衛によるサポートがなければ思わぬ反撃に殺されるという事故は数年に一回はあるほどだ。
よし、これで最後の一匹。
ヘイストが切れてしまっているが、もう俺達の勝ちだ。
俺は大振りのノダチの横なぎを最後の一匹にむかって放つ。
奴は俺のノダチの横なぎを勢いよくジャンプしてかわすが。
「残念でした、『ヘルファイア』!」
後に控えていたシャルロットが待ってましたとばかりに魔法を撃つ。
その瞬間、燃え盛るマンイーターは地面に落ちると、悶えながら消し炭となった。
「やったな!」
「そうねやったわ!」
最後の一匹を仕留めると、俺達はハイタッチをする。
周りを見回すと、首をはねられたもの、焼け焦げたもの、体中に切り傷を付けて焼かれたもの、心臓を貫かれて絶命したもの様々な死体が転がっている。
「全部で5匹か、ここのところマンイーターばかりを狩ってるな」
最近はずっと、バシュミル大森林の手前にある平原で、森から溢れてきたマンイーターの討伐任務をしている。
やつらは個体数が増えるとこうして人里にやってくることがあるのだ。
生存競争にやぶれて逃げ延びた魔物は行き先を求めて人里にやってくる。
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