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第五章 迷宮都市タラス
第70話 ルカとセバスティアーナの出会い②
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「ルカ様。お食事が出来ました」
「おう、いただこう」
「いかがでしょうか?」
「うむ、しょっぱい味付けだ。……おっと、だがライスを蒸したやつと食べれば丁度よい。うん、これはこれで旨いぞい」
………。
「ルカ様。お食事が出来ました」
「ほう、今日はパンにスープか、うむ、平均点でとてもいい、これくらいが丁度よい」
…………。
「ルカ様。お食事が出来ました」
「おお、今日は豪華だな。ステーキか、……セバスティアーナよ、べつに吾輩の好みに合わせなくてもよいぞ?
最初に食べたセバスティアーナの郷土料理も旨かった。だが少し塩分が強めでおどろいただけじゃ。つぎは塩分控えめでいくつか造ってくれるかのう」
「はい、了解いたしました」
数日間、セバスティアーナはルカを監視していた。
隙だらけだ、いつでもやれる? 何度もそう思ったがあと一歩のところで実行に移せない。
最初は食事に毒を混ぜることを考えたが、ここの食器は全てミスリル製で、毒検知の仕掛けが施してある。
試しに毒を皿に触れさせたら途端に変色してしまった。
やはり、マスター級の魔法使いは隙が無い。
セバスティアーナの技量不足を差し引いても彼女はかなり強い。慎重に観察して隙を探さなければと思った。
「ルカ様、それは何をやっているのですか?」
セバスティアーナは、掃除、洗濯を終え、夕食のリクエストを聞こうと思い、魔法機械の研究室に入っていた。
ルカは大きな箱の中に体半分が隠れていたので仕方なく近づいていったのだ。
これが首領の言ってた魔法機械という人類の災いの種となる禁忌の魔法。
セバスティアーナはそんな恐ろしい魔法機械に近づくのは極力さけていた。
「おう、これは魔法機械といってな。魔法の使えない平民でも魔法が使えるようになる吾輩の発明品じゃ。
いま造ってるのは、そうだな、キッチンカーと名付けよう。これがあればどこでも料理ができるのだ。
旅行に最適じゃろうて、旅行は人手もかかるし、いろいろ不便が多い。貴族にしか出来んが平民にもぜひ体験してほしいと思ってな」
平民でも使える魔法、それは全ての人間が魔法使いになるという事。
つまりは最終戦争への引き金になる。やはり魔法機械は悪い文明だ。
……でも道中で手の込んだ料理が出来るのは良い事だと思った。
セバスティアーナを含め、モガミの里の者は旅の時には火を極力さけ、乾燥した保存食を食べるだけだ。
暗殺者が移動の痕跡を残すのは悪手以外の何物でもない。
でもこれがあれば道中、温かいものが食べられる。
いいや、そんな誘惑に騙されてはいけない。
これこそが魔法機械が悪魔の発明品と言われる所以ではないか。セバスティアーナは自分に言い聞かせる。
「ルカ様。今日のお食事は何になさいますか? これからは毎回リクエストを聞くことにしました。なんでもおっしゃってください」
「うむ、無口なセバスちゃんも、やっと心を開いてくれたかのう、吾輩はうれしいぞい」
「セバスちゃん? ……なんですか、その執事みたいな呼び名は」
「よいよい、心を開いてくれたセバスちゃんに対して、吾輩も心を開くことにしたのだ。もともと全開じゃったがの、呼び名で愛情を表現しているのじゃ、わっはっは!」
しばらくの間、セバスティアーナはただただ働いた。
ルカの好みの食べ物もいくつか憶えた。
仕事以外の会話も増え、すっかり家族の様な間柄になっていった。
――ある夜の事。セバスティアーナはついに決断した。
やはり寝ているときにこっそりと毒針を撃ち込むしかない。
ここでの生活も一月はたった、私への警戒は薄くなっているはずだ。
殺るなら今……。
髪飾りから吹き矢と致死性の毒矢を取り出し装填する。
そして寝室へ侵入し。ベッドに向かって吹き矢を構える。
「痛っ! 首に虫がさしたかのう。うん? これは毒矢か……ふう、ついにこの時が来てしまったか。残念じゃのう」
嘘! 死なない? 毒に耐性があるのか?
セバスティアーナはうろたえる。
ならばと、彼女は両手の指を絡め印を結ぶ。
「モガミ流忍術・裏。忍法『火遁の術』!」
……だが、何も起こらない。
「セバスちゃんよ。この建物内では魔法は発動せぬ。それはモガミ流忍術とて例外ではない。
それにな、吾輩は毒に耐性を持っておる。……実はのう、これじゃ、八番の魔剣『ヴェノムバイト』の開発中にうっかり自分を傷付けてしまってのう。
その時は死ぬかと思ったが、その教訓から吾輩は長い年月を掛けて毒耐性を得るに至ったのだ」
モガミ流忍術について知っている? ということは私のことなど最初からばれていた。そのうえで茶番に付き合っていたというのか。
セバスティアーナは考える。
……武器はない。ここに来るときに偽装できる吹き矢以外は全て置いてきた。
ならば、体術は? ……無理だ。私の未成熟な体と大人であるルカ様との間には倍の体重差があるだろう。
それにルカ・レスレクシオンは魔剣を持っている。
「……ひとつ、お聞きしてよいでしょうか?」
「うん? セバスちゃんのたのみなら一つと言わず何度でもよいぞ?」
「食器には全て毒対策が施されていました。ルカ様が毒耐性を持っているのを隠すためでしょうか?」
「ああ、それのことか。それはな、毒の武器を持ってる吾輩がうっかりお客さんを殺してしまわないようにじゃな。それにセバスちゃん、お主もじゃ、お主は吾輩の家族だしな」
「そうですか。ありがとうございます。……ルカ様、私の任務は失敗です。ニンジャーに失敗は許されません。
おさらばです。来世であったら、その時はぜひともルカ様の従者に……」
セバスティアーナは奥歯を深く噛み締めた。カチリと音がする。
次の瞬間、彼女は意識を失った。
「いかん! しまった。自害用の毒があったか。そうだった、あやつらは最強の暗殺者集団。いくら優秀な人間でも組織を守るためなら平気で切り捨てる。そういうやつらだった」
「おう、いただこう」
「いかがでしょうか?」
「うむ、しょっぱい味付けだ。……おっと、だがライスを蒸したやつと食べれば丁度よい。うん、これはこれで旨いぞい」
………。
「ルカ様。お食事が出来ました」
「ほう、今日はパンにスープか、うむ、平均点でとてもいい、これくらいが丁度よい」
…………。
「ルカ様。お食事が出来ました」
「おお、今日は豪華だな。ステーキか、……セバスティアーナよ、べつに吾輩の好みに合わせなくてもよいぞ?
最初に食べたセバスティアーナの郷土料理も旨かった。だが少し塩分が強めでおどろいただけじゃ。つぎは塩分控えめでいくつか造ってくれるかのう」
「はい、了解いたしました」
数日間、セバスティアーナはルカを監視していた。
隙だらけだ、いつでもやれる? 何度もそう思ったがあと一歩のところで実行に移せない。
最初は食事に毒を混ぜることを考えたが、ここの食器は全てミスリル製で、毒検知の仕掛けが施してある。
試しに毒を皿に触れさせたら途端に変色してしまった。
やはり、マスター級の魔法使いは隙が無い。
セバスティアーナの技量不足を差し引いても彼女はかなり強い。慎重に観察して隙を探さなければと思った。
「ルカ様、それは何をやっているのですか?」
セバスティアーナは、掃除、洗濯を終え、夕食のリクエストを聞こうと思い、魔法機械の研究室に入っていた。
ルカは大きな箱の中に体半分が隠れていたので仕方なく近づいていったのだ。
これが首領の言ってた魔法機械という人類の災いの種となる禁忌の魔法。
セバスティアーナはそんな恐ろしい魔法機械に近づくのは極力さけていた。
「おう、これは魔法機械といってな。魔法の使えない平民でも魔法が使えるようになる吾輩の発明品じゃ。
いま造ってるのは、そうだな、キッチンカーと名付けよう。これがあればどこでも料理ができるのだ。
旅行に最適じゃろうて、旅行は人手もかかるし、いろいろ不便が多い。貴族にしか出来んが平民にもぜひ体験してほしいと思ってな」
平民でも使える魔法、それは全ての人間が魔法使いになるという事。
つまりは最終戦争への引き金になる。やはり魔法機械は悪い文明だ。
……でも道中で手の込んだ料理が出来るのは良い事だと思った。
セバスティアーナを含め、モガミの里の者は旅の時には火を極力さけ、乾燥した保存食を食べるだけだ。
暗殺者が移動の痕跡を残すのは悪手以外の何物でもない。
でもこれがあれば道中、温かいものが食べられる。
いいや、そんな誘惑に騙されてはいけない。
これこそが魔法機械が悪魔の発明品と言われる所以ではないか。セバスティアーナは自分に言い聞かせる。
「ルカ様。今日のお食事は何になさいますか? これからは毎回リクエストを聞くことにしました。なんでもおっしゃってください」
「うむ、無口なセバスちゃんも、やっと心を開いてくれたかのう、吾輩はうれしいぞい」
「セバスちゃん? ……なんですか、その執事みたいな呼び名は」
「よいよい、心を開いてくれたセバスちゃんに対して、吾輩も心を開くことにしたのだ。もともと全開じゃったがの、呼び名で愛情を表現しているのじゃ、わっはっは!」
しばらくの間、セバスティアーナはただただ働いた。
ルカの好みの食べ物もいくつか憶えた。
仕事以外の会話も増え、すっかり家族の様な間柄になっていった。
――ある夜の事。セバスティアーナはついに決断した。
やはり寝ているときにこっそりと毒針を撃ち込むしかない。
ここでの生活も一月はたった、私への警戒は薄くなっているはずだ。
殺るなら今……。
髪飾りから吹き矢と致死性の毒矢を取り出し装填する。
そして寝室へ侵入し。ベッドに向かって吹き矢を構える。
「痛っ! 首に虫がさしたかのう。うん? これは毒矢か……ふう、ついにこの時が来てしまったか。残念じゃのう」
嘘! 死なない? 毒に耐性があるのか?
セバスティアーナはうろたえる。
ならばと、彼女は両手の指を絡め印を結ぶ。
「モガミ流忍術・裏。忍法『火遁の術』!」
……だが、何も起こらない。
「セバスちゃんよ。この建物内では魔法は発動せぬ。それはモガミ流忍術とて例外ではない。
それにな、吾輩は毒に耐性を持っておる。……実はのう、これじゃ、八番の魔剣『ヴェノムバイト』の開発中にうっかり自分を傷付けてしまってのう。
その時は死ぬかと思ったが、その教訓から吾輩は長い年月を掛けて毒耐性を得るに至ったのだ」
モガミ流忍術について知っている? ということは私のことなど最初からばれていた。そのうえで茶番に付き合っていたというのか。
セバスティアーナは考える。
……武器はない。ここに来るときに偽装できる吹き矢以外は全て置いてきた。
ならば、体術は? ……無理だ。私の未成熟な体と大人であるルカ様との間には倍の体重差があるだろう。
それにルカ・レスレクシオンは魔剣を持っている。
「……ひとつ、お聞きしてよいでしょうか?」
「うん? セバスちゃんのたのみなら一つと言わず何度でもよいぞ?」
「食器には全て毒対策が施されていました。ルカ様が毒耐性を持っているのを隠すためでしょうか?」
「ああ、それのことか。それはな、毒の武器を持ってる吾輩がうっかりお客さんを殺してしまわないようにじゃな。それにセバスちゃん、お主もじゃ、お主は吾輩の家族だしな」
「そうですか。ありがとうございます。……ルカ様、私の任務は失敗です。ニンジャーに失敗は許されません。
おさらばです。来世であったら、その時はぜひともルカ様の従者に……」
セバスティアーナは奥歯を深く噛み締めた。カチリと音がする。
次の瞬間、彼女は意識を失った。
「いかん! しまった。自害用の毒があったか。そうだった、あやつらは最強の暗殺者集団。いくら優秀な人間でも組織を守るためなら平気で切り捨てる。そういうやつらだった」
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