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第四章 カルルク帝国
第67話 迷宮都市タラス①
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迷宮都市タラス。
ルカ・レスレクシオンの屋敷にて。
「さてと、はるばる大陸を渡り、最北端の迷宮都市タラスまでよくぞ参った。積もる話もあろう、お茶でも飲みながら話でもしようじゃないか」
「…………。」
「うん? セバスちゃんよ、なぜ黙っておる。いつもなら直ぐに準備をしますとか言うじゃろ?」
「……なぜ? とお聞きになりました。ではお答えします。どこでお茶の準備をするのですか?」
「そりゃ、台所に決まっているだろう。ここはお主の家でもあるんじゃ。一年でもう忘れてしまったのかのう?
お主はまだ、そこまで歳をとっておらんじゃろ? せいぜいお肌の曲がり角、程度ではないか、わっはっは」
「ふふ、おとぼけになるなんて。……いいですか? このゴミ屋敷で? それも洗ってない食器が山済みになった台所で? いったい何をしろと?」
「うっ、そりゃ……それ位なら、ゴミならどかして、ちょちょいとお茶くらい……吾輩だってそれでやってきたんじゃ、セバスちゃんのような有能なメイドにできないはずなかろう?」
「私を有能なメイドとおっしゃいました。では優秀なメイドならば、このゴミ屋敷を見たらまず何をするのかご存じですか?」
「ん? お茶を入れるのではないのか?」
「ふふふ、ご冗談でしょ……。掃除です! そ、う、じ! 正直申し上げて、このゴミ屋敷には一分たりとも居たくありません!
……ふぅ、カイル様にシャルロット様、お二方には申し訳ありませんが、お話は明後日にしましょう。そうですね、ここを降りると宿屋街がありますので、お二人はそこに滞在してください」
「あの……、俺達も手伝いましょうか?」
「いいえ、それには及びません。そうですね、せっかく初めての迷宮都市タラスですから。お二人でデートでもされたらよろしいかと」
「デ、デートですか?」
「お、それは名案じゃ、吾輩もお邪魔して――」
「ルカ様は、掃除を手伝ってもらいます。というかルカ様のせいでこうなっているのです。それにデートについていくとは本当にお邪魔ですよ? 馬に蹴られてください」
「セバスちゃん、しばらく見ない間に性格がきつくなってしまったのう」
「私もしばらく見ないうちに我が家がゴミ屋敷になってきついのですよ。さあ、早速始めましょう!」
もの凄い剣幕だった。表情こそ、いつも通りだったが……その怒りがオーラとなって見えそうになっていた。
俺達は言われたとおりに家の外に出て、街を目指した。
キッチンカーは屋敷の側に止めておくように言われたのでそれに従うことにした。
ルカ・レスレクシオンの屋敷を後に、俺達は再び街に向かった。
眼下に見えるタラスの街は建物が綺麗に建ち並んでいる。赤い屋根が太陽の光を反射し、輝いていた。
迷宮都市と言われているが新市街は綺麗なものだ。旧市街こそ迷宮都市らしいのだが、それはここからは遠い。
バシュミル大森林側にあるらしいので、そこに行くにはまたの機会にしよう。
「とりあえず、言われたとおりに宿を探すか」
「そうね、そうしましょう」
宿屋街に足を踏み入れると、立派な建物が建ち並び、色とりどりの看板が風に揺れていた。
石畳は古びているが、美しく保たれており、歩くたびに心地よい音が響き渡る。
ここはタラスでも古くからある通りだというのがうかがえる。
宿屋の前には広場が広がっており、人々で賑わっていた。
魔法使いや戦士などの冒険者と思われる人や、旅人たちが交流している様子が感じられる。
さすがは最北端の街だと実感した。広場には噴水があり、その水飛沫が太陽の光を受けて美しく輝いていた。
宿屋街の通りを進むと、色とりどりの屋台が連なっていて。食べ物の香りが立ち込めている。
そういえば昼食はまだだった。
肉を焼く香ばしい匂いの誘惑に逆らえず、俺達は屋台で遅めの昼食を取ることにした。
宿屋街の奥には川が流れており、その水は透明で澄んでいる。ここも俺達が越えてきた山脈を水源にしているのだろうか。
橋の上からは川の流れや魚たちが見渡せた。涼やかな風が吹き、水音が心地よく耳に響いてきた。
「シャルロット、今日はどこに泊まろうか?」
「そうね、さっきから気になってた場所があるのよ。一階が酒場になってる、通りで一番賑やかな宿があったでしょ? いかにも冒険者が泊まりそうな宿屋じゃない?」
「ああ、バーキンズレストだな、俺も良いなと思ってたんだ。冒険者との交流もしやすそうだし」
「じゃあ決まりね」
こうして、俺達は迷宮都市タラスでの一夜を迎えた。
ルカ・レスレクシオンの屋敷にて。
「さてと、はるばる大陸を渡り、最北端の迷宮都市タラスまでよくぞ参った。積もる話もあろう、お茶でも飲みながら話でもしようじゃないか」
「…………。」
「うん? セバスちゃんよ、なぜ黙っておる。いつもなら直ぐに準備をしますとか言うじゃろ?」
「……なぜ? とお聞きになりました。ではお答えします。どこでお茶の準備をするのですか?」
「そりゃ、台所に決まっているだろう。ここはお主の家でもあるんじゃ。一年でもう忘れてしまったのかのう?
お主はまだ、そこまで歳をとっておらんじゃろ? せいぜいお肌の曲がり角、程度ではないか、わっはっは」
「ふふ、おとぼけになるなんて。……いいですか? このゴミ屋敷で? それも洗ってない食器が山済みになった台所で? いったい何をしろと?」
「うっ、そりゃ……それ位なら、ゴミならどかして、ちょちょいとお茶くらい……吾輩だってそれでやってきたんじゃ、セバスちゃんのような有能なメイドにできないはずなかろう?」
「私を有能なメイドとおっしゃいました。では優秀なメイドならば、このゴミ屋敷を見たらまず何をするのかご存じですか?」
「ん? お茶を入れるのではないのか?」
「ふふふ、ご冗談でしょ……。掃除です! そ、う、じ! 正直申し上げて、このゴミ屋敷には一分たりとも居たくありません!
……ふぅ、カイル様にシャルロット様、お二方には申し訳ありませんが、お話は明後日にしましょう。そうですね、ここを降りると宿屋街がありますので、お二人はそこに滞在してください」
「あの……、俺達も手伝いましょうか?」
「いいえ、それには及びません。そうですね、せっかく初めての迷宮都市タラスですから。お二人でデートでもされたらよろしいかと」
「デ、デートですか?」
「お、それは名案じゃ、吾輩もお邪魔して――」
「ルカ様は、掃除を手伝ってもらいます。というかルカ様のせいでこうなっているのです。それにデートについていくとは本当にお邪魔ですよ? 馬に蹴られてください」
「セバスちゃん、しばらく見ない間に性格がきつくなってしまったのう」
「私もしばらく見ないうちに我が家がゴミ屋敷になってきついのですよ。さあ、早速始めましょう!」
もの凄い剣幕だった。表情こそ、いつも通りだったが……その怒りがオーラとなって見えそうになっていた。
俺達は言われたとおりに家の外に出て、街を目指した。
キッチンカーは屋敷の側に止めておくように言われたのでそれに従うことにした。
ルカ・レスレクシオンの屋敷を後に、俺達は再び街に向かった。
眼下に見えるタラスの街は建物が綺麗に建ち並んでいる。赤い屋根が太陽の光を反射し、輝いていた。
迷宮都市と言われているが新市街は綺麗なものだ。旧市街こそ迷宮都市らしいのだが、それはここからは遠い。
バシュミル大森林側にあるらしいので、そこに行くにはまたの機会にしよう。
「とりあえず、言われたとおりに宿を探すか」
「そうね、そうしましょう」
宿屋街に足を踏み入れると、立派な建物が建ち並び、色とりどりの看板が風に揺れていた。
石畳は古びているが、美しく保たれており、歩くたびに心地よい音が響き渡る。
ここはタラスでも古くからある通りだというのがうかがえる。
宿屋の前には広場が広がっており、人々で賑わっていた。
魔法使いや戦士などの冒険者と思われる人や、旅人たちが交流している様子が感じられる。
さすがは最北端の街だと実感した。広場には噴水があり、その水飛沫が太陽の光を受けて美しく輝いていた。
宿屋街の通りを進むと、色とりどりの屋台が連なっていて。食べ物の香りが立ち込めている。
そういえば昼食はまだだった。
肉を焼く香ばしい匂いの誘惑に逆らえず、俺達は屋台で遅めの昼食を取ることにした。
宿屋街の奥には川が流れており、その水は透明で澄んでいる。ここも俺達が越えてきた山脈を水源にしているのだろうか。
橋の上からは川の流れや魚たちが見渡せた。涼やかな風が吹き、水音が心地よく耳に響いてきた。
「シャルロット、今日はどこに泊まろうか?」
「そうね、さっきから気になってた場所があるのよ。一階が酒場になってる、通りで一番賑やかな宿があったでしょ? いかにも冒険者が泊まりそうな宿屋じゃない?」
「ああ、バーキンズレストだな、俺も良いなと思ってたんだ。冒険者との交流もしやすそうだし」
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