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第四章 カルルク帝国
第65話 目的地へ③
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食事を終え、紅茶を飲みながら一息つく。
「ふう、お腹いっぱい。今すぐ寝たいけど、体中に煙と焼肉の臭いがしみついて気持ち悪いわね、このまま川で水浴びをしたい気分なんだけど……」
「シャルロット、雪解け水はかなり冷たいぞ? あんなのに入ったら風邪を引くというか、下手すると死ぬレベルだ」
すぐ側の山から流れてくる雪解け水は氷のように冷たい。そのまま飲み水として使えるくらいに澄んだ水ではあるのだが。
「お二方、こんなこともあろうかと、実はキッチンカーのオプションパーツを準備しております」
セバスティアーナさんは長いホースにシャワーヘッドのついた物を取り出す。
「これを蛇口に取り付けますと、なんと温水シャワーが出るようになります。ここは水が豊富にありますので、道中は毎日シャワーが使えますよ」
「素敵じゃない。早速使いましょうよ」
シャルロットは食い気味に返事をする。
「はい、もちろんですが、キッチンカーの給水タンクだと途中で水が無くなってしまいますね。この際ですから三人一緒に使いましょうか?」
セバスティアーナさんがまた俺をからかってきた。
「俺、そこの小川で水を汲んできます、お二人はお先にどうぞ!」
俺は逃げるように予備の給水タンクを持って小川に向かう。
「私は別に構わないのに……」
「ふふ、男心というやつですよ。素敵じゃないですか、大事にしてあげましょう。さてせっかくですから先にいただいてしまいましょうか」
…………。
小川の水は触るとかなりの冷たさがある。この冷たさでは水浴びなんてとてもじゃないが無理だったろう。
もっとも、セバスティアーナさんなら問題ないのかもしれないが……。
俺はなぜか滝に打たれるセバスティアーナさんを想像してしまった。
……似合い過ぎだ。
しかし、出発するときは予備の給水タンクが空だったのが気になったが、ここに来て理解した。
この周辺には少し歩けばどこにでも小川が流れている。それは下流に行くにしたがって大きな川に合流する。
その川がエフタルの首都ベラサグンの水源になっているのだ。
わざわざ上流に行くのに下流の水を汲んでいくのは考えてみたら実に愚かな行為に思えた。
それにしても、あの温水シャワーはきっと俺達の為に準備してくれたんだろう。
でなければこの先、風呂なしの旅になるところだった。俺もまだまだ旅を甘く見ていたということだな。
水を汲み終わりテントの側に来た。テントの裏側から二人の会話が聞こえた。
「すごい泡立ち。これって高級な石鹸でしょ? 私が使ってもいいんですか?」
「構いません。実は、ノイマン宰相から何度も香水やら石鹸をプレゼントされていたのです。
香水は私の職業柄、邪魔でしかありませんし捨てようかと思ってました。
しかし石鹸は有効ですので、せっかくですし皆で使うことにしましょう。
シャワーのお湯は限りがありますが、石鹸を使えば効率よく体を洗うことが出来ます」
「へえ、気が利くじゃない。……でもあのストーカーからのプレゼントだと気持ち悪さが増すわね。しかも素肌につけるものばかりをチョイスするなんて……キモ過ぎだわ」
「ええ、まったくです。ですが物に罪はありませんので。
ところでシャルロット様は最近、大きくなりましたね」
「え? 私、太ったのかしら、確かにベラサグンでは美味しいものをたくさん食べたわ……でもそれ以上に鍛えてたはずよ」
「はい、ですから、お尻とか太もも周りの筋肉は前よりもたくましくなってますね。それに胸囲や身長も伸びました。シャルロット様は成長期ですから、よいことです」
「でも、まだまだセバスティアーナさんのがおっきいじゃない、私もいつかそんなふうになれるかしら……」
「前にも言いましたが大きくても正直言って邪魔ですよ? 私はシャルロット様は今のままがちょうど良いと思います」
「それは褒めてるんだか……まあどちらでもいいわ」
聞こえる。こういう話は聞き耳を立てなくても聞こえてくるんだよな。
俺は『ノダチ』を手に取り、少し離れた場所で素振りをすることにした。
「ふう、お腹いっぱい。今すぐ寝たいけど、体中に煙と焼肉の臭いがしみついて気持ち悪いわね、このまま川で水浴びをしたい気分なんだけど……」
「シャルロット、雪解け水はかなり冷たいぞ? あんなのに入ったら風邪を引くというか、下手すると死ぬレベルだ」
すぐ側の山から流れてくる雪解け水は氷のように冷たい。そのまま飲み水として使えるくらいに澄んだ水ではあるのだが。
「お二方、こんなこともあろうかと、実はキッチンカーのオプションパーツを準備しております」
セバスティアーナさんは長いホースにシャワーヘッドのついた物を取り出す。
「これを蛇口に取り付けますと、なんと温水シャワーが出るようになります。ここは水が豊富にありますので、道中は毎日シャワーが使えますよ」
「素敵じゃない。早速使いましょうよ」
シャルロットは食い気味に返事をする。
「はい、もちろんですが、キッチンカーの給水タンクだと途中で水が無くなってしまいますね。この際ですから三人一緒に使いましょうか?」
セバスティアーナさんがまた俺をからかってきた。
「俺、そこの小川で水を汲んできます、お二人はお先にどうぞ!」
俺は逃げるように予備の給水タンクを持って小川に向かう。
「私は別に構わないのに……」
「ふふ、男心というやつですよ。素敵じゃないですか、大事にしてあげましょう。さてせっかくですから先にいただいてしまいましょうか」
…………。
小川の水は触るとかなりの冷たさがある。この冷たさでは水浴びなんてとてもじゃないが無理だったろう。
もっとも、セバスティアーナさんなら問題ないのかもしれないが……。
俺はなぜか滝に打たれるセバスティアーナさんを想像してしまった。
……似合い過ぎだ。
しかし、出発するときは予備の給水タンクが空だったのが気になったが、ここに来て理解した。
この周辺には少し歩けばどこにでも小川が流れている。それは下流に行くにしたがって大きな川に合流する。
その川がエフタルの首都ベラサグンの水源になっているのだ。
わざわざ上流に行くのに下流の水を汲んでいくのは考えてみたら実に愚かな行為に思えた。
それにしても、あの温水シャワーはきっと俺達の為に準備してくれたんだろう。
でなければこの先、風呂なしの旅になるところだった。俺もまだまだ旅を甘く見ていたということだな。
水を汲み終わりテントの側に来た。テントの裏側から二人の会話が聞こえた。
「すごい泡立ち。これって高級な石鹸でしょ? 私が使ってもいいんですか?」
「構いません。実は、ノイマン宰相から何度も香水やら石鹸をプレゼントされていたのです。
香水は私の職業柄、邪魔でしかありませんし捨てようかと思ってました。
しかし石鹸は有効ですので、せっかくですし皆で使うことにしましょう。
シャワーのお湯は限りがありますが、石鹸を使えば効率よく体を洗うことが出来ます」
「へえ、気が利くじゃない。……でもあのストーカーからのプレゼントだと気持ち悪さが増すわね。しかも素肌につけるものばかりをチョイスするなんて……キモ過ぎだわ」
「ええ、まったくです。ですが物に罪はありませんので。
ところでシャルロット様は最近、大きくなりましたね」
「え? 私、太ったのかしら、確かにベラサグンでは美味しいものをたくさん食べたわ……でもそれ以上に鍛えてたはずよ」
「はい、ですから、お尻とか太もも周りの筋肉は前よりもたくましくなってますね。それに胸囲や身長も伸びました。シャルロット様は成長期ですから、よいことです」
「でも、まだまだセバスティアーナさんのがおっきいじゃない、私もいつかそんなふうになれるかしら……」
「前にも言いましたが大きくても正直言って邪魔ですよ? 私はシャルロット様は今のままがちょうど良いと思います」
「それは褒めてるんだか……まあどちらでもいいわ」
聞こえる。こういう話は聞き耳を立てなくても聞こえてくるんだよな。
俺は『ノダチ』を手に取り、少し離れた場所で素振りをすることにした。
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