上 下
61 / 92
第四章 カルルク帝国

第61話 冬の冒険者①

しおりを挟む
 首都ベラサグンの街は寒波に見舞われた。
 この辺は雪は滅多に降らないらしいが、数年に一度は大寒波が来るときもある。

「寒いわね。冬服を買っておいて正解だったわ。さすがにいつもの服は着てらんないもの」

「あら、残念ですね。凄くお似合いでしたのに、カイル様もそう思いますでしょ?」

「ああ、でもさすがにノースリーブは無茶だろう。でもそれも似合ってるから大丈夫だ」

 少し大きめのロングコートを着ている彼女は少し幼く見えた。
 普段は温暖な地域であるここは、真冬用の装備は品ぞろえが良くなかった。

 特に大人用のロングコートは冒険者仕様となっておりサイズも大きいのばかりだ。
 だからシャルロットは子供用のコートを着ている。もこもことしたデザインが可愛らしい。 

「ふん、別に似合って無かろうと実用性で選んだのだから問題ないのよ。でも一応ありがと」

 ちなみに俺は冒険者用のロングコートで飾りっ気のない実用一辺倒だ。

 セバスティアーナさんもいつものメイド服だ。
 ちなみに替えのメイド服は何着かあるようだ。
 いつも同じ服を着ていると誤解されかねないと、以前真面目な顔で注意されたので訂正しておく。

 俺達はいつも通りに冒険者ギルドまで来ていた。
 ギルド内の人たちはまばらだった。

 冬になると魔物も冬ごもりをする個体がほとんどだから、ベテラン冒険者は南にいって稼ぐか、首都でゆっくりと過ごすかの二択だ。
 オーガラバーズの皆さんは商隊の護衛任務でオアシス都市を経由して西グプタまで行くと言ってた。

 だがまったく魔物が出ないかというとそうでもない。

 特に大寒波は珍しい。
 こういう時はだいたいイレギュラーは起こるものだ。

 あった。緊急討伐依頼だ。
 ――急募。大型魔獣フロストベアの討伐任務。

 北方の魔獣フロストベアが寒波に乗じてベラサグンまで来ている。
 現在は街の城壁を徘徊しているという目撃情報があった。

 現状は被害がでていないが、このままでは商人や旅人に被害が出る。
 冒険者には周囲の探索調査、発見した場合は速やかに討伐すること。――

 よし、これを受けよう。

「二人とも問題ないね」

「もちろんよ」

「はい、よろしいと思います。ちょうどカイル様の修行もひと段落ついたところです。実戦訓練の相手として申し分ないでしょう」

 修行……セバスティアーナさんは普段は優しいが修行となると鬼のように厳しかった。だがなんとか乗り越えることができた。

 俺達はすっかり雪に覆われた街を抜け城壁の外に来た。

 そのまま街道を外れ城壁沿いにフロストベアが発見されたという場所に向かう。

 普段は枯れた草原が広がっているこの場所だが、昨日まで降っていた雪のせいで一面真っ白になっている。

 しかし、そこまで深く積もってはいないため歩行には特に問題はなかった。

「さて、ここで休憩をしましょうか。カイル様、キッチンカーを展開してお茶の準備をお願いします。私は少し偵察に行ってきますので」

 俺とシャルロットは言われたとおりにキッチンカーを固定しテーブルを広げる。

「セバスティアーナさんっていったいいつ休んでるのかしら」

「うーん、不思議だよな。任務中は休んでるところを見たことがない。もっとも彼女の実力からして休むまでもないのだろうけど」

 お湯が沸く。
 俺はティーカップを三つ用意して。ティーポットから紅茶を注ぐ。

「おや、私の分も用意してくれたのですか?」

「はい、というか本当に速いですね」

「ええ、相手は知能の低い魔物ですから見つけるのは簡単です。マーキングしていますので、お茶を飲んだら行きましょうか」

 セバスティアーナさんが余りにも有能すぎて、俺とシャルロットははっきり言って邪魔なんじゃないだろうか。

 少しだけ嫉妬心を抱いてしまう。いや、修行を付けてもらっている身でなんてことを考えるのだろう。

「何か気になることでも?」

「いえ、なんか俺達足手まといなんじゃなかなと」

「あら、そのことですか。気になさらないでください、といっても余計に気にしてしまうでしょうね。そうですね、でしたら今回はお二人だけで戦っていただきましょうか。
 私は斥候としての仕事は終えました。高みの見物をさせていただきましょう」

 よし、ならば。
 俺は気合を入れる。

「ちなみにフロストベアは二体いました。つがいでしょうか。連携攻撃を仕掛けてくるかもしれませんので、お二人も連携して戦うことをお勧めします」

 二対二、やってやろうじゃないか。
 俺はシャルロットを見ると彼女も力強く頷いた。


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろうにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

転生調理令嬢は諦めることを知らない

eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。 それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。 子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。 最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。 八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。 それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。 また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。 オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。 同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。 それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。 弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。  主人公が酷く虐げられる描写が苦手な方は、回避をお薦めします。そういう意味もあって、R15指定をしています。  追放令嬢ものに分類されるのでしょうが、追放後の展開はあまり類を見ないものになっていると思います。  2章立てになりますが、1章終盤から2章にかけては、「令嬢」のイメージがぶち壊されるかもしれません。不快に思われる方にはご容赦いただければと存じます。

異世界に来たからといってヒロインとは限らない

あろまりん
ファンタジー
※ようやく修正終わりました!加筆&纏めたため、26~50までは欠番とします(笑)これ以降の番号振り直すなんて無理! ごめんなさい、変な番号降ってますが、内容は繋がってますから許してください!!!※ ファンタジー小説大賞結果発表!!! \9位/ ٩( 'ω' )و \奨励賞/ (嬉しかったので自慢します) 書籍化は考えていま…いな…してみたく…したいな…(ゲフンゲフン) 変わらず応援して頂ければと思います。よろしくお願いします! (誰かイラスト化してくれる人いませんか?)←他力本願 ※誤字脱字報告につきましては、返信等一切しませんのでご了承ください。しかるべき時期に手直しいたします。      * * * やってきました、異世界。 学生の頃は楽しく読みました、ラノベ。 いえ、今でも懐かしく読んでます。 好きですよ?異世界転移&転生モノ。 だからといって自分もそうなるなんて考えませんよね? 『ラッキー』と思うか『アンラッキー』と思うか。 実際来てみれば、乙女ゲームもかくやと思う世界。 でもね、誰もがヒロインになる訳じゃないんですよ、ホント。 モブキャラの方が楽しみは多いかもしれないよ? 帰る方法を探して四苦八苦? はてさて帰る事ができるかな… アラフォー女のドタバタ劇…?かな…? *********************** 基本、ノリと勢いで書いてます。 どこかで見たような展開かも知れません。 暇つぶしに書いている作品なので、多くは望まないでくださると嬉しいです。

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

処理中です...