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第四章 カルルク帝国
第54話 魔法機械技師ルカ②
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透視眼鏡は取り上げられてしまったが、吾輩にはもう一つテストする魔法機械がある。
その名も『キッチンカー』。これは画期的な発明品だ。
馬車とは違い、魔力を動力源に自立して動く。
大きさは馬車よりも小さい、中には調理器具にテーブルや椅子、そして食料貯蔵庫に冷蔵庫、まさに旅のお供に最適な吾輩の意欲作だ。
今まさに最終調整中なのに後から面倒くさい連中が近づいてきた。
「レスレクシオン卿、挨拶が遅れましたな、出発までが多忙で申し訳なかった。なんせ久しぶりの指揮官ですのでな。ははは」
このおっちゃん誰だっけ……セバスちゃんがそっと吾輩に耳打ちする。
「今回の遠征の責任者のレオンハルト・レーヴァテイン公爵さまです。ちなみに王様の叔父です。つまりめっちゃ偉いです。分かりますね!」
分かっておるわい。吾輩は作業を中断し、挨拶を返す。
「おー、これはこれは、吾輩も公爵閣下には挨拶せねばと思っておったのだが、吾輩も魔法機械の管理を任されておる身でのう、つまり、吾輩も忙しいのだ。わっはっは!」
「おお! それはご苦労ですな。今は何をされておるのですかな?」
「よく聞いてくれた公爵、これは最新の魔法機械『キッチンカー』だ。調整が間に合わなくてな、道中でも作業を続けておったのだよ。
だがもうすぐで完成だ、今夜のディナーは期待しておくとよいぞ!」
「それはすばらしい、さすがはレスレクシオン殿ですな、……おい! 聞いたか! 腕のいい料理人を数名、辺境伯のところに派遣するように」
隣の執事に公爵は命令をする。
ふむ、さすがの差配だ、適切なときに必要な戦力を送り込む。
指揮官としては優秀なようだ。吾輩も公爵家の料理は少し楽しみである。
食事を終え夜になると、それぞれが武器の手入れを始める。
ピクニックではないのだ。冒険者たちはそれぞれの武器を入念に手入れしている。
それに比べて貴族の若い連中ときたら。ぺちゃくちゃとまあ、楽しそうで。
「まったく最近の若い連中ときたら。まるでピクニックですな」
レーヴァテイン公爵はぼやきながら、自身の持っている魔法の杖の手入れをしている。
「お、公爵殿の持ってる杖は【フェニックスフェザー】ですな。それは公爵家に伝わる家宝ではないですかな?」
「はは、お恥ずかしい限りですが、私の主義としてどんな遠征でも全力で挑むのです。
まあ私は臆病者ですので、さて、すこし若い連中の気を引き締めねば」
ふむ、ただしい。別に恥ずべきことではない。
むしろ若い貴族たちの方がおかしい。公爵は溜息をつきながら。若い貴族を順番に説教をして周っている。
おっと吾輩も人のことを言ってる場合ではない。魔獣狩りということで今回もってきた武器はこれだ。
八番の魔剣。猛毒の細剣『ヴェノムバイト』、生き物全般に有効な毒の魔法が込められた、なかなかの傑作品だ。
吾輩は派手な魔法は好みではないし。目立たず、さくっとヤル、これでいいのだ。
手入れをしながら、ふとラングレン夫妻に目をやる。
「おや、ラングレン夫妻はその武器かの、それで獣の王といわれるベヒモスの機動力に対応できるかのう」
「はい、それは分かりませんが、かといって、他の武器でベヒモスの皮膚を貫けるとも思えませんので」
なるほど、一撃必殺か、ラングレン夫妻は夫のドイルが大きな鉄製の両手剣 妻のカレンがスパイク付きの大盾をもっている。
スパイク付きの盾で敵の突進を防いで剣で首を落とすという戦術だろう。うむ、なるほどな。
「ルカ様、これは妻の家系の伝統的な戦術なのです、私はそんなに筋力がないので恥ずかしながら、大剣を振るうくらいしかできないのです……」
たしかに、重いだろうな。鉄の塊じゃないか、特に盾、分厚い鉄板そのものだ。
吾輩は二人に提案した。
「さすがに鉄は重すぎじゃないか? 武器にするならミスリルとか、君達クラスの冒険者ならミスリルの武器くらい入手できるじゃろて」
「ミスリルですか、たしかに強度はすばらしいですけど軽すぎです。妻はそんな軽い武器に甘えるのは男じゃないといいまして」
「ちょっと、私のせいにしないで、ミスリルを買えるお金がないのが全てじゃない。家の借金だってあるのよ、でも鉄の武器がいいのは確かよ、我々冒険者は信頼のある武器を愛用するの、重さは強さに直結するし」
なるほど経済的事情は置いといて、信頼性という言葉は正しい。さすが場数を踏んだ冒険者らしい。
「あはは、なるほど、確かに鉄だって馬鹿にできない。鉄は鍛え方しだいでは、まったく別の金属になる。
我らのご先祖様の偉大な発明だね、鉄は本当に奥が深いのだよ、魔法が生まれて鉄に関する技術が失われつつあるのは人類の損失だ。貴族共は鉄を好まんからな」
「『鉄は平民の物、ミスリルは貴族の物』……ですか」
「おや、それはかつての、名前が思い出せないアホ貴族の偉大な……なんだっけ。そんなやつが言ってた迷言だね」
「ルカ様、それはミスリルを発見した偉大な伯爵様でミスリレ? あ、すいません俺も名前を思い出せません」
「もう、ちがうったら、ミスシターレ伯爵? あら、うふふ、ごめんなさい私も覚えてないわ、偉人の名前なんて覚えられないものね」
吾輩たちは結局、謎の貴族の名前を思い出せなかったが、すっかり仲良くなった。
「ほら、セバスちゃんよ、名前を覚えないことで友達ができたぞ。お主は人の名前を覚えない者に友達などできないと言っていたがどうだ! これで吾輩のことを『心まで辺境伯爵』とは言わせないぞ!」
「そこまでは言っていません。せめてお偉方の名前くらい覚えないと孤立しますよ? と言っただけです。……しかしお二方、その装備で大丈夫でしょうか。鉄の大盾は重たいですし、女性に持たせるのは正直ちょっとどうかと……」
「それですけど、カレンはオーガの血が混ざっておりまして、恥ずかしながら私よりも腕力があるのです。だからこの大盾はカレンしか持てません。本来なら私が妻を守りたいのですが……」
ふむ、ドイルの残念そうな顔からして彼も思うことがあるのだろう、まあ人間の限界だ、筋力の質が違うのだから。しかし、オーガの血か、なるほど納得だ。
うん? 少し閃いたぞ。
ミスリルは軽いし硬いし魔法特性においては完璧だが、重さから攻撃力は鉄に劣る。
しかし鉄とて当初は武器としてはそこまで役に立たなかった、時が過ぎて技術が洗練されていき、鍛えられたのだ。
より強靭に、折れず曲がらずの特性を持たせた武器として。
ならばミスリルだってそうなるだろう、これは吾輩の生涯の研究としては不足ないテーマだ。
ミスリルと鉄の融合なんか面白いかもしれん。
帰ったらさっそく新しい魔剣でも開発してみるか。
その名も『キッチンカー』。これは画期的な発明品だ。
馬車とは違い、魔力を動力源に自立して動く。
大きさは馬車よりも小さい、中には調理器具にテーブルや椅子、そして食料貯蔵庫に冷蔵庫、まさに旅のお供に最適な吾輩の意欲作だ。
今まさに最終調整中なのに後から面倒くさい連中が近づいてきた。
「レスレクシオン卿、挨拶が遅れましたな、出発までが多忙で申し訳なかった。なんせ久しぶりの指揮官ですのでな。ははは」
このおっちゃん誰だっけ……セバスちゃんがそっと吾輩に耳打ちする。
「今回の遠征の責任者のレオンハルト・レーヴァテイン公爵さまです。ちなみに王様の叔父です。つまりめっちゃ偉いです。分かりますね!」
分かっておるわい。吾輩は作業を中断し、挨拶を返す。
「おー、これはこれは、吾輩も公爵閣下には挨拶せねばと思っておったのだが、吾輩も魔法機械の管理を任されておる身でのう、つまり、吾輩も忙しいのだ。わっはっは!」
「おお! それはご苦労ですな。今は何をされておるのですかな?」
「よく聞いてくれた公爵、これは最新の魔法機械『キッチンカー』だ。調整が間に合わなくてな、道中でも作業を続けておったのだよ。
だがもうすぐで完成だ、今夜のディナーは期待しておくとよいぞ!」
「それはすばらしい、さすがはレスレクシオン殿ですな、……おい! 聞いたか! 腕のいい料理人を数名、辺境伯のところに派遣するように」
隣の執事に公爵は命令をする。
ふむ、さすがの差配だ、適切なときに必要な戦力を送り込む。
指揮官としては優秀なようだ。吾輩も公爵家の料理は少し楽しみである。
食事を終え夜になると、それぞれが武器の手入れを始める。
ピクニックではないのだ。冒険者たちはそれぞれの武器を入念に手入れしている。
それに比べて貴族の若い連中ときたら。ぺちゃくちゃとまあ、楽しそうで。
「まったく最近の若い連中ときたら。まるでピクニックですな」
レーヴァテイン公爵はぼやきながら、自身の持っている魔法の杖の手入れをしている。
「お、公爵殿の持ってる杖は【フェニックスフェザー】ですな。それは公爵家に伝わる家宝ではないですかな?」
「はは、お恥ずかしい限りですが、私の主義としてどんな遠征でも全力で挑むのです。
まあ私は臆病者ですので、さて、すこし若い連中の気を引き締めねば」
ふむ、ただしい。別に恥ずべきことではない。
むしろ若い貴族たちの方がおかしい。公爵は溜息をつきながら。若い貴族を順番に説教をして周っている。
おっと吾輩も人のことを言ってる場合ではない。魔獣狩りということで今回もってきた武器はこれだ。
八番の魔剣。猛毒の細剣『ヴェノムバイト』、生き物全般に有効な毒の魔法が込められた、なかなかの傑作品だ。
吾輩は派手な魔法は好みではないし。目立たず、さくっとヤル、これでいいのだ。
手入れをしながら、ふとラングレン夫妻に目をやる。
「おや、ラングレン夫妻はその武器かの、それで獣の王といわれるベヒモスの機動力に対応できるかのう」
「はい、それは分かりませんが、かといって、他の武器でベヒモスの皮膚を貫けるとも思えませんので」
なるほど、一撃必殺か、ラングレン夫妻は夫のドイルが大きな鉄製の両手剣 妻のカレンがスパイク付きの大盾をもっている。
スパイク付きの盾で敵の突進を防いで剣で首を落とすという戦術だろう。うむ、なるほどな。
「ルカ様、これは妻の家系の伝統的な戦術なのです、私はそんなに筋力がないので恥ずかしながら、大剣を振るうくらいしかできないのです……」
たしかに、重いだろうな。鉄の塊じゃないか、特に盾、分厚い鉄板そのものだ。
吾輩は二人に提案した。
「さすがに鉄は重すぎじゃないか? 武器にするならミスリルとか、君達クラスの冒険者ならミスリルの武器くらい入手できるじゃろて」
「ミスリルですか、たしかに強度はすばらしいですけど軽すぎです。妻はそんな軽い武器に甘えるのは男じゃないといいまして」
「ちょっと、私のせいにしないで、ミスリルを買えるお金がないのが全てじゃない。家の借金だってあるのよ、でも鉄の武器がいいのは確かよ、我々冒険者は信頼のある武器を愛用するの、重さは強さに直結するし」
なるほど経済的事情は置いといて、信頼性という言葉は正しい。さすが場数を踏んだ冒険者らしい。
「あはは、なるほど、確かに鉄だって馬鹿にできない。鉄は鍛え方しだいでは、まったく別の金属になる。
我らのご先祖様の偉大な発明だね、鉄は本当に奥が深いのだよ、魔法が生まれて鉄に関する技術が失われつつあるのは人類の損失だ。貴族共は鉄を好まんからな」
「『鉄は平民の物、ミスリルは貴族の物』……ですか」
「おや、それはかつての、名前が思い出せないアホ貴族の偉大な……なんだっけ。そんなやつが言ってた迷言だね」
「ルカ様、それはミスリルを発見した偉大な伯爵様でミスリレ? あ、すいません俺も名前を思い出せません」
「もう、ちがうったら、ミスシターレ伯爵? あら、うふふ、ごめんなさい私も覚えてないわ、偉人の名前なんて覚えられないものね」
吾輩たちは結局、謎の貴族の名前を思い出せなかったが、すっかり仲良くなった。
「ほら、セバスちゃんよ、名前を覚えないことで友達ができたぞ。お主は人の名前を覚えない者に友達などできないと言っていたがどうだ! これで吾輩のことを『心まで辺境伯爵』とは言わせないぞ!」
「そこまでは言っていません。せめてお偉方の名前くらい覚えないと孤立しますよ? と言っただけです。……しかしお二方、その装備で大丈夫でしょうか。鉄の大盾は重たいですし、女性に持たせるのは正直ちょっとどうかと……」
「それですけど、カレンはオーガの血が混ざっておりまして、恥ずかしながら私よりも腕力があるのです。だからこの大盾はカレンしか持てません。本来なら私が妻を守りたいのですが……」
ふむ、ドイルの残念そうな顔からして彼も思うことがあるのだろう、まあ人間の限界だ、筋力の質が違うのだから。しかし、オーガの血か、なるほど納得だ。
うん? 少し閃いたぞ。
ミスリルは軽いし硬いし魔法特性においては完璧だが、重さから攻撃力は鉄に劣る。
しかし鉄とて当初は武器としてはそこまで役に立たなかった、時が過ぎて技術が洗練されていき、鍛えられたのだ。
より強靭に、折れず曲がらずの特性を持たせた武器として。
ならばミスリルだってそうなるだろう、これは吾輩の生涯の研究としては不足ないテーマだ。
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