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第四章 カルルク帝国

第42話 カルルク帝国の旅②

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「さて、これでこの辺のデスイーターは全て倒したでしょう」

 俺達は切断した毒針を回収する。毒針は結構なお金になるらしい。

 デスイーターの中で最も希少な部位だ。
 奴の外皮も価値はあるが持っていけないので、道中、商人に場所を教えておいた。
 西グプタから回収部隊をよこすようにと。あと盟主ミリアム宛に手紙を添えて。

「夕食の準備をしましょうか」

 セバスティアーナさんは率先して夕食を作っていた。

 いつもなら俺が作るのだが。今日はお疲れだろうというので遠慮なくお任せした。
 シャルロットはまだ眠っている。極大魔法はまだ彼女には早かったのだろう。

 だが、甲殻類の焼ける匂いがただようと彼女は目を覚ました。

「いい匂い。焼いたエビの匂いがするわ」

 たしかに、いい匂いだ。でもここはグプタではない。新鮮な魚介類など手に入らない。

 俺は察した。だが黙っておこう。シャルロットは既に食べ始めていたのだ。
 綺麗に皮むきされたエビの様な身がお皿にのっているし、バターを使ったソースが味に深みをあたえている。

「おいしいわね、もうエビは食べられないと思ってたけど、さすがはセバスティアーナさんね」

「はい、新鮮なエビを偶然通りすがりの商人からおすそ分けしていただきましたので」

 嘘だ、あの商人はカルルク帝国側から来ていた。
 まあ。それは必要な嘘だと言える。このエビの正体がデスイーターの肉だといったら彼女は今すぐ吐き出してしまうだろうから。

「ところでセバスティアーナさん。俺達はどこへ向かっているんでしょうか?」

「はい、当面はオアシス都市をいくつか経由して、カルルク帝国の首都ベラサグンへ向かいます。
 そこで皇帝陛下に会っていただきます。エフタル王国が崩壊したことを直接お二方から聞きたいとおっしゃっておりましたので」

「皇帝と謁見か、緊張するな。俺はそんな偉い人と会話したことなんてないし」

「あら、そう? グプタの盟主様二人にあったじゃない。それにベアトリクスさんともお話してたでしょ。楽勝じゃない」

 そう言われればそうだ、すこし気が楽になった。まあなるようになるしかない。

「さて、それでは寝る前に一仕事しておきましょうか、シャルロット様にも手伝っていただきましょう」

「一仕事ですか? 俺はいいんですか?」

「はい、飲み水を補給しておこうと思いまして。水は貴重ですし、道中の商人にも差し上げられる程度には補給しておこうと思いまして。カイル様は水魔法が使えますか?」

「いいえ、残念ながら使えません」

「あら、初級魔法のウォーターボールも使えないの?」
 シャルロットは若干、呆れた顔をして俺に聞いた。

「使えないよ、俺は平民なんだ」

「うそでしょ? 中級魔法の『ヘイスト』は私よりもレベルが高いのに、信じられないわね。しょうがない、道中私が教えてあげるわ。感謝しなさい」

「よろしくたのむよ」

「ええ、たのまれました。ところで商人に差し上げるって。彼らだって水は持ってるでしょ?」

「もちろんその通りですが。彼らはギリギリの量しか持っていないことがほとんどです。積み荷をできるだけ多く積み込むため結構危険な事をしているのですよ。
 そんな彼らに水を与えるとどうなります? お礼として何か食料をくれるのですよ。私はそのおかげで食料を節約しながら旅ができましたので」

 なるほど、どおりでセバスティアーナさんは軽装だったのか。

 俺はキッチンカーの貯水タンクを取り出すと、シャルロットは手をかざし魔力を調節する。
 彼女の魔力だと勢いがありすぎるためギリギリまで弱くする必要があるらしい。

「じゃあ、見てなさい。こうして魔力を集中させ詠唱するのよ。ウォーターボール!」
 手から水がぽたぽたと落ちる。

「少なくないか? まだ魔力が回復してないんじゃないか?」

「いいえ、そんなことないわよ。すっかり回復したと思ってたんだけど」

「あら、そうですね。ここはカルルク帝国ですから空気と大地がエフタルに比べて乾燥しているのですよ。
 魔力は少し多めに消費してしまいます。見ていてください。モガミ流忍術、忍法、『水遁の術』!」

 セバスティアーナさんは、初めて聞く呪文を唱えると。両手の指を複雑に絡めて模様を作った。

 次の瞬間。両手の間から水があふれ出ていた。

「水のない空間で、これほどの水遁の術を使うのは魔力の消費が大きいです。
 シャルロット様、中級魔法くらいの魔力を込めて唱えてみることをお勧めします」

「そ、そうなのね、勉強になったわ。でも、そんな事よりもセバスティアーナさん。その魔法はなんですか? 初めて見たんですけど」

「ああ、モガミ流忍術のことですか。これは極秘ですので出来れば口外しないでほしいのですが」

 俺も気になる。そんな魔法は聞いたことがない。
 シャルロットは魔法馬鹿なところがあるので興味津々なのは当たり前だが、俺だって気になってしょうがない。

「しょうがないですね。そんなに興味がありますか? ですが、教えられることはそんなに多くないです。
 これは私の故郷に伝わる独自の魔法だと思ってください。

 遥か昔に、開祖ユーギ・モガミが考案したオリジナルの魔法体系なのです。私もそれ以外のことは知りません。

 あとは口伝で伝わった術ですから。書物も残っていないのです。
 私が知るユーギ・モガミの伝説は母から教えられましたが。それも先祖代々の口伝で脚色が多いでしょう。

 私もにわかに信じられませんが。開祖のユーギ・モガミには神の加護があったそうです。
 そして前世の記憶を持っていて、その知識は神に匹敵するとも、じつは神そのものだったとも言われています。

 まあ神話の話が混ざっていますので聞き流してください。

 そしてこのモガミ流忍術ですが。
 その発祥は異世界の北米帝国にあるホーリウッドという魔法使いの聖地で、ニンジャーという一族が生み出した暗殺術が起源だというのです。
 先ほどお見せしたのは忍法と呼ばれる『モガミ流忍術・裏』になります。
 ちなみに体術を基本とした暗殺術として『モガミ流忍術・表』もあります。

 しかしながら、北米帝国って何のことか分からないでしょう? 異世界の伝説といわれても私もよく分かりません。
 ホーリウッドはどうやら魔法学院のような場所であったのは理解できますが。まあ神話の話ですので話半分でいいかと。

 というわけで恥ずかしながら、そういう独自の魔法体系である以外は私もよくしらないのです」

 シャルロットの目はとてもキラキラしている。
 新しい知識、魔法体系。とても楽しそうだ。もちろん俺もだ。

 いつのまにか魔力の調節を憶えたシャルロットの手からは水が噴き出していた。

 俺はというと、なにも起きない。やはり俺には才能がないのか。

「カイル様。そう悲観することではありません。カイル様にはモガミ流忍術の表である体術を教えようと思います。貴方の体力ならばきっと習得出来るでしょう」
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