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第四章 カルルク帝国
第41話 カルルク帝国の旅①
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俺達は装備を一新した。
砂漠用のマントに衣服、そして保存の効く食料も、香辛料は東グプタで買いだめしてあるのでまだ余裕があった。
「シャルロット。問題が発生した」
「ええ、分かってるわ。お金がないのね。さすがに東グプタで豪遊しすぎたかしら」
先ほど貰った討伐任務の報酬を含めてもほとんど残っていない。
お金を稼ぐとは大変なことなのだ。俺達は今さらながら実感したのだった。
「おや、お二方。それでしたら道中でお金を稼げばいいではないですか。
私達は冒険者ですよ? 魔物を狩って、希少な部位を冒険者ギルドに持っていけば換金できます。
まあ微々たるものですが、旅の足しにはなります。
それに東グプタの香辛料をお持ちのようですので。それもお金の代わりになるでしょう。
カルルク帝国では香辛料は貴重なのですよ。
動物の生息する地域は少なく、魔物が徘徊してますし、それに魔物は大抵は美味しくありません。
しかし香辛料があれば美味しく食べられるようになるからです。
ですので、お金に変えなくても魔獣を討伐して食べれば食料の節約にもなりますし、剣の腕もあがるというもの、そういう方向で行きましょう」
こうして俺達の旅は再開された。
次の目的地はカルルク帝国の首都ベラサグンだ。
「ところでルカ様はずっと迷宮都市タラスにいるんですか?」
「はい、あの方はお歳ですし。それに旅はお好きでないようです。今頃は、引きこもって魔法機械の研究をしているかと」
俺は道中、セバスティアーナさんから剣の訓練を受けることにした。
「魔剣と違って、それはただの鉄製の剣です。斬ることを意識して使ってください。
まあ、叩きつけるだけでも充分威力はありますが。それはカイル様の望むことではないでしょう?」
「ああ、剣の使い方を今のうちに習得したい」
「であれば、そうですね。旅の最初ですし、訓練として先日戦ったデスイーターともう一回戦ってみましょうか」
「え? あれは既に討伐したじゃないですか」
「いいえ、まだ数匹はいるはずですよ? 一匹見たらなんとやらですから。
若い盟主は見落としているようですが。まあここは彼女の顔を立てて残りも討伐してしまいましょう。
奴らのいる場所はここに来る前に把握しておりますので。
では参りましょうか」
俺達はセバスティアーナさんに案内されるままに、大きな岩山にきた。
その岩山には洞窟の様な大きな穴が空いている。
「あの穴がデスイーターの住処のようですね、基本的に奴らは単独行動をしますので、また一対一で戦ってみてください」
「あの、セバスティアーナさん。さすがに敵の拠点に俺一人は、無謀だと思います。せめておびき出すための支援攻撃をお願いしたいのですが」
「おお、カイル様、さすがですね、それは良い提案です。戦術を理解しているとは、士官の素質があるようですね」
それはさすがにほめ過ぎだし常識だ。
敵の拠点に単騎で突撃は絵本のレベルだ。そんなのは自殺行為、セバスティアーナさんは俺を試したんだよな。そうだと思いたい。
俺はさっそく新しい剣を鞘から抜く。
いい剣だ。よく鍛えられた鉄の武器。
だが鍛冶屋は悪乗りしたのだろう。完成度は高いけど、重すぎて使える人がいなかった。
俺は素振りをする。
空気の斬れる音がする。美しい音だ。魔剣を持ってた時はなんというか、緊張感が増してそんな音を聞く余裕はなかった。
更に素早く剣を振ると空気の抵抗を感じた。これが普通の剣ということか。俺はしばらく素振りをして精神を落ち着かせていた。
だが、それを邪魔する声が聞こえた。
「いやよ、嫌、嫌、きもいのよ。ガサガサ系は私の嫌いな中で二番目よ。だから無理、無理、無理ですー!」
「シャルロット様。カイル様はそのガサガサ系を退治しようとしているのですよ? ここで頑張らないでどうするんですか。好感度アップのチャンスなのですよ?」
「うるさいわね、それとこれは関係ないでしょ!」
「関係ありますとも、それに、貴方は魔法使いです。遠距離攻撃をすればいいのですよ。簡単でしょ? 奴を住処から追い出すほどの騒音と振動を与える魔法をつかえばいいじゃないですか」
「そ、そうね、たしかにその通りだわ。このままだとただの足手まといになってしまうわね、よし、やるわ!」
何をやるのだろうか。
だが、シャルロットは静かになった。
精神を集中させている。これは遠距離に対して魔法を使おうとしているな。
座標を指定する魔法は距離が遠くなるほど綿密な計算が必要になる。
中級魔法では射程外のこの距離でシャルロットが攻撃魔法をするということは……まさか!
「セバスティアーナさん、今の私では完璧に使えないけど、後方支援にはなると思います。
カイルばかりにいいカッコさせられないしね。今使える私の全力全開、くらえ! 極大火炎魔法、最終戦争、第一章、第一幕『流星群』!」
シャルロットは意識を失った。魔法は失敗だろう。どうして無理をしたんだ。そんなにガサガサ系が嫌なのか。
「カイル様、これは愛です。さて、失敗と決めつけるのはまだ早いですよ。空を見てください」
空を見る。失敗したとはいえ、たしかに魔法は発動した。空に赤い魔法陣が描かれる。くる!
燃える火の玉が一つ、空から振ってきた。それはデスイーターが住む岩山に落ちると、大きな爆発音をとどろかせた。
極大魔法『流星群』は無数の燃え盛る岩石を振らせる恐るべき魔法、それが一つだけ降ってきた。
効果は抜群だ。
この爆音で、一匹のサソリ型の魔物が岩山から出てきた。
逃がすものか。俺は奴の正面に立つ。
このデスイーターは前に戦った奴よりも一回り小さい。
だが、動きは機敏なようだ。
よし、やってやる。俺は剣を構える。
シャルロットはキッチンカーから取り出した、椅子を数個組み合わせた簡易ベッドで横になっている。
さすがセバスティアーナさんだ、キッチンカーの使い方を熟知している。椅子がベッドになるなんて初めて知った。
いや、今はそれはどうでもいい。
シャルロットは安全だ。なら目の前の相手に全力で立ち向かう。
デスイーターは尻尾の毒針を俺に振り下ろす。
俺は剣で毒針をはじき返す。重い攻撃だ。魔剣で受けたときはもっと楽だった。
なるほど、これが本当の実戦なんだ。
今までは魔剣のおかげで楽をさせてもらっていたということだ。
尻尾を剣で弾き、カウンターを喰らわせる。しかし、奴の甲殻に弾かれて傷はあさい。
尻尾を斬れば簡単だと思っていたが。奴は尻尾が最も発達しており一番硬い。
くそ、俺は甘えていたんだ。
「カイル様。剣の使い方で一つ助言を。
相手に対して刃筋を立てて下さい。そして斬るというのを意識してください。
叩きつけてもダメージはありますが。デスイーターのように硬い甲殻を持つ魔物に対しては意識して斬ることが重要です」
なるほど。刃筋を立てる。たしかに、斬るにはそれしかない。
いうのは簡単だが、やるのは難しい。
だが、それが訓練だ。
毒針を回避、剣を構える。斬る。
失敗だ、甲殻が少し欠けただけだ。
つぎ、毒針を回避。斬る。
失敗、
毒針を避ける…………。
斬れた。
デスイーターは尻尾を斬られて、這いつくばっていた。
俺は奴の頭に剣を叩きつけてとどめを刺す。
「よし、やったな!」
いつも通りの掛け声をするが、シャルロットは気を失っていたのだった。
返事がないのは寂しい。セバスティアーナさんは背中の剣を降ろし、左手で腰の高さに持っていた。
「カイル様、やっていません。つがいです。もう一匹います」
俺のうしろからもう一匹のデスイーターが襲ってきた。
しまった、もう一匹いたとは。
次の瞬間、目の前のセバスティアーナさんは消えた。
後を振り返ると、もう一匹のデスイーターはすでに尻尾を斬られていた。
凄い、今の一瞬で。
そして、這いつくばるデスイーターの頭部に地面ごと突き刺さされていた剣は、美しい湾曲した片刃の長剣だった。
斬ることに特化しているのだろう、美しく輝く研ぎ澄まされた刃は波の様な模様を描いている。
「先程の技は、抜刀術という故郷の剣術の一つです。この形状の剣で使うのに適した技ですので、カイル様の持っている真っすぐな剣では難しいでしょう。
ちなみに、これは九番の魔剣、鋼鉄の大刀『ノダチ』といいまして魔剣開放は使えませんが、私の故郷の剣術に関心を持たれたルカ様が造られた一振りです」
強いとは思っていたが、まさかここまでとは、俺は一瞬の出来事に驚愕していた。
砂漠用のマントに衣服、そして保存の効く食料も、香辛料は東グプタで買いだめしてあるのでまだ余裕があった。
「シャルロット。問題が発生した」
「ええ、分かってるわ。お金がないのね。さすがに東グプタで豪遊しすぎたかしら」
先ほど貰った討伐任務の報酬を含めてもほとんど残っていない。
お金を稼ぐとは大変なことなのだ。俺達は今さらながら実感したのだった。
「おや、お二方。それでしたら道中でお金を稼げばいいではないですか。
私達は冒険者ですよ? 魔物を狩って、希少な部位を冒険者ギルドに持っていけば換金できます。
まあ微々たるものですが、旅の足しにはなります。
それに東グプタの香辛料をお持ちのようですので。それもお金の代わりになるでしょう。
カルルク帝国では香辛料は貴重なのですよ。
動物の生息する地域は少なく、魔物が徘徊してますし、それに魔物は大抵は美味しくありません。
しかし香辛料があれば美味しく食べられるようになるからです。
ですので、お金に変えなくても魔獣を討伐して食べれば食料の節約にもなりますし、剣の腕もあがるというもの、そういう方向で行きましょう」
こうして俺達の旅は再開された。
次の目的地はカルルク帝国の首都ベラサグンだ。
「ところでルカ様はずっと迷宮都市タラスにいるんですか?」
「はい、あの方はお歳ですし。それに旅はお好きでないようです。今頃は、引きこもって魔法機械の研究をしているかと」
俺は道中、セバスティアーナさんから剣の訓練を受けることにした。
「魔剣と違って、それはただの鉄製の剣です。斬ることを意識して使ってください。
まあ、叩きつけるだけでも充分威力はありますが。それはカイル様の望むことではないでしょう?」
「ああ、剣の使い方を今のうちに習得したい」
「であれば、そうですね。旅の最初ですし、訓練として先日戦ったデスイーターともう一回戦ってみましょうか」
「え? あれは既に討伐したじゃないですか」
「いいえ、まだ数匹はいるはずですよ? 一匹見たらなんとやらですから。
若い盟主は見落としているようですが。まあここは彼女の顔を立てて残りも討伐してしまいましょう。
奴らのいる場所はここに来る前に把握しておりますので。
では参りましょうか」
俺達はセバスティアーナさんに案内されるままに、大きな岩山にきた。
その岩山には洞窟の様な大きな穴が空いている。
「あの穴がデスイーターの住処のようですね、基本的に奴らは単独行動をしますので、また一対一で戦ってみてください」
「あの、セバスティアーナさん。さすがに敵の拠点に俺一人は、無謀だと思います。せめておびき出すための支援攻撃をお願いしたいのですが」
「おお、カイル様、さすがですね、それは良い提案です。戦術を理解しているとは、士官の素質があるようですね」
それはさすがにほめ過ぎだし常識だ。
敵の拠点に単騎で突撃は絵本のレベルだ。そんなのは自殺行為、セバスティアーナさんは俺を試したんだよな。そうだと思いたい。
俺はさっそく新しい剣を鞘から抜く。
いい剣だ。よく鍛えられた鉄の武器。
だが鍛冶屋は悪乗りしたのだろう。完成度は高いけど、重すぎて使える人がいなかった。
俺は素振りをする。
空気の斬れる音がする。美しい音だ。魔剣を持ってた時はなんというか、緊張感が増してそんな音を聞く余裕はなかった。
更に素早く剣を振ると空気の抵抗を感じた。これが普通の剣ということか。俺はしばらく素振りをして精神を落ち着かせていた。
だが、それを邪魔する声が聞こえた。
「いやよ、嫌、嫌、きもいのよ。ガサガサ系は私の嫌いな中で二番目よ。だから無理、無理、無理ですー!」
「シャルロット様。カイル様はそのガサガサ系を退治しようとしているのですよ? ここで頑張らないでどうするんですか。好感度アップのチャンスなのですよ?」
「うるさいわね、それとこれは関係ないでしょ!」
「関係ありますとも、それに、貴方は魔法使いです。遠距離攻撃をすればいいのですよ。簡単でしょ? 奴を住処から追い出すほどの騒音と振動を与える魔法をつかえばいいじゃないですか」
「そ、そうね、たしかにその通りだわ。このままだとただの足手まといになってしまうわね、よし、やるわ!」
何をやるのだろうか。
だが、シャルロットは静かになった。
精神を集中させている。これは遠距離に対して魔法を使おうとしているな。
座標を指定する魔法は距離が遠くなるほど綿密な計算が必要になる。
中級魔法では射程外のこの距離でシャルロットが攻撃魔法をするということは……まさか!
「セバスティアーナさん、今の私では完璧に使えないけど、後方支援にはなると思います。
カイルばかりにいいカッコさせられないしね。今使える私の全力全開、くらえ! 極大火炎魔法、最終戦争、第一章、第一幕『流星群』!」
シャルロットは意識を失った。魔法は失敗だろう。どうして無理をしたんだ。そんなにガサガサ系が嫌なのか。
「カイル様、これは愛です。さて、失敗と決めつけるのはまだ早いですよ。空を見てください」
空を見る。失敗したとはいえ、たしかに魔法は発動した。空に赤い魔法陣が描かれる。くる!
燃える火の玉が一つ、空から振ってきた。それはデスイーターが住む岩山に落ちると、大きな爆発音をとどろかせた。
極大魔法『流星群』は無数の燃え盛る岩石を振らせる恐るべき魔法、それが一つだけ降ってきた。
効果は抜群だ。
この爆音で、一匹のサソリ型の魔物が岩山から出てきた。
逃がすものか。俺は奴の正面に立つ。
このデスイーターは前に戦った奴よりも一回り小さい。
だが、動きは機敏なようだ。
よし、やってやる。俺は剣を構える。
シャルロットはキッチンカーから取り出した、椅子を数個組み合わせた簡易ベッドで横になっている。
さすがセバスティアーナさんだ、キッチンカーの使い方を熟知している。椅子がベッドになるなんて初めて知った。
いや、今はそれはどうでもいい。
シャルロットは安全だ。なら目の前の相手に全力で立ち向かう。
デスイーターは尻尾の毒針を俺に振り下ろす。
俺は剣で毒針をはじき返す。重い攻撃だ。魔剣で受けたときはもっと楽だった。
なるほど、これが本当の実戦なんだ。
今までは魔剣のおかげで楽をさせてもらっていたということだ。
尻尾を剣で弾き、カウンターを喰らわせる。しかし、奴の甲殻に弾かれて傷はあさい。
尻尾を斬れば簡単だと思っていたが。奴は尻尾が最も発達しており一番硬い。
くそ、俺は甘えていたんだ。
「カイル様。剣の使い方で一つ助言を。
相手に対して刃筋を立てて下さい。そして斬るというのを意識してください。
叩きつけてもダメージはありますが。デスイーターのように硬い甲殻を持つ魔物に対しては意識して斬ることが重要です」
なるほど。刃筋を立てる。たしかに、斬るにはそれしかない。
いうのは簡単だが、やるのは難しい。
だが、それが訓練だ。
毒針を回避、剣を構える。斬る。
失敗だ、甲殻が少し欠けただけだ。
つぎ、毒針を回避。斬る。
失敗、
毒針を避ける…………。
斬れた。
デスイーターは尻尾を斬られて、這いつくばっていた。
俺は奴の頭に剣を叩きつけてとどめを刺す。
「よし、やったな!」
いつも通りの掛け声をするが、シャルロットは気を失っていたのだった。
返事がないのは寂しい。セバスティアーナさんは背中の剣を降ろし、左手で腰の高さに持っていた。
「カイル様、やっていません。つがいです。もう一匹います」
俺のうしろからもう一匹のデスイーターが襲ってきた。
しまった、もう一匹いたとは。
次の瞬間、目の前のセバスティアーナさんは消えた。
後を振り返ると、もう一匹のデスイーターはすでに尻尾を斬られていた。
凄い、今の一瞬で。
そして、這いつくばるデスイーターの頭部に地面ごと突き刺さされていた剣は、美しい湾曲した片刃の長剣だった。
斬ることに特化しているのだろう、美しく輝く研ぎ澄まされた刃は波の様な模様を描いている。
「先程の技は、抜刀術という故郷の剣術の一つです。この形状の剣で使うのに適した技ですので、カイル様の持っている真っすぐな剣では難しいでしょう。
ちなみに、これは九番の魔剣、鋼鉄の大刀『ノダチ』といいまして魔剣開放は使えませんが、私の故郷の剣術に関心を持たれたルカ様が造られた一振りです」
強いとは思っていたが、まさかここまでとは、俺は一瞬の出来事に驚愕していた。
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