【完結】カイルとシャルロットの冒険 ~ドラゴンと魔剣~

神谷モロ

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第三章 港町

第37話 冒険者①

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 翌朝。
 俺達は城壁から街の外に出るための門の前に来ていた。

 約束の時刻より少し早かった。
 まあ、初めての任務だし何事も早めに行動するのがいい。

 そして時間になると。筋骨隆々な外見のおじさんやら、それよりも一回り小さいがたくましい青年が数人来ていた。

「あんたらが、ラングレン兄妹かい? 随分若いな。それにお嬢ちゃんはまだ子供じゃないか、大丈夫かい?」

 シャルロットは何も言わずにすました顔をしている。
 そして俺の脇腹を肘で小突く。
 そうだった、俺は仕事中は彼女の兄の設定だった。俺が仕切ることになっていたのだった。

「大丈夫です。妹はこう見えてマスター級の魔法使いですから。俺よりも強いですよ?」

「へえ、それはおっかねぇ。しかし兄ちゃん。あんた武器は無いのかい? そのバランスの取れた筋肉を見るに腕はたしかなようだが……」

 建設ギルドの人は大体は相手の筋肉を見て人となりを判断する人が多い。おっちゃんたちがそうだったように。
 どこでも職人さんはそうなのだ。おれは懐かしく思った。

「武器はありますよ。今はキッチンカーにしまってあります」

 俺は久しぶりに二十番の魔剣。機械魔剣『ベヒモス』をとりだすと職人さんたちに見せる。

「おお、それが噂のドラゴン殺しですかい。たしかにその鉄塊なら可能かもしれねぇ。それに顔色一つ変えずに持ち上げる兄ちゃんもやるじゃねえか。頼りにしてるぜ」

 シャルロットは何も言わないが、自分が褒められたかのように誇らしげな顔をしている。

 俺達は城門から外に出る。
 そして外壁沿いを歩き、現場に到着した。

 なるほど。これは修復を急がないとだめだな、いずれ崩れてしまうだろう。

 外壁には大きなへこみが出来ており、その周囲から壁にひびが入っていた。これは時間の問題だな。
 俺は建設組合でバイトしていた経験から、外壁の深刻さは大体わかる、修理には一週間ほどかかるだろう。

「じゃあな、ラングレン兄妹。俺達は仕事に入るから護衛は任せたぜ。お互い街の為にひと汗かこうじゃないか」

「はい、こちらこそ、ではさっそく警護に入ります」

 俺達は彼らから少し距離を取ると城壁と反対側を向く。周りは緑は無く赤茶けた岩石砂漠が見渡す限りに続いていた。
 密林とは違った恐ろしさがそこには広がっていた。

 話によると魔物たちは城壁の外に出た人間の臭いを嗅ぎ取ると、一時間かそこらでここにやってくるのだそうだ。

 中には待ち伏せしている奴もいる。警戒は怠らない。
 俺はキッチンカーを地面に設置すると魔剣を抜く。

 魔剣を抜くと魔力源を失ったのか魔法結界は自動的に解かれてしまった。
 だが今回はあの建設ギルドの人たちを守るのだ優先だ。俺達二人だけ守られてもしょうがない。

 俺達に注意を惹きつける必要があるため、むしろ魔法結界は邪魔だしちょうどよかった。

 しばらくすると地平線から魔物が数匹現れるのが見えた。
 狼に似た魔獣。嗅覚に優れたそいつらはまさに魔獣の先ぶれと呼ぶにふさわしい。

「来たわね、グリムハウンドだわ。さすが鼻が利くわね。一時間も経ってないのに、おそらく奴らは先遣隊の一部でしょうね。群れが来るまでにさっさとやっちゃいましょう」

 …………。
 ……。

「やったわ!」
「ああ、やったな!」

 俺達はハイタッチをする。

 俺達の周囲にはグリムハウンドの死体が転がっている。

 あれから、数回の襲撃をうけたが、あらかた殺すと群れは引き下がっていった。

 そろそろ日が暮れる。今日の城壁の修理作業は終わりだ。
 しかし、今日の戦いは反省が多い。

 グリムハウンドの様な、すばしっこい魔獣相手だと俺の魔剣は相性が悪いのだ。
 俺が一匹倒している間にシャルロットは五匹は倒している。

 まあ、遠距離攻撃と接近戦の差ではあるのだが。
 すこし悔しいのだ。

 かといって魔剣開放はやるつもりはない。
 あれは威力が大きすぎるし魔剣自体の魔力を使い果たしてしまうだろう。

 そうなれば、これは本当にただの鉄の塊になる。魔力の補給は魔物を斬ればいいとは最初に聞いたが。グリムハウンドごときでは雀の涙だ。

 ちなみにベアトリクスの手の平を斬ったときには随分と魔力回復したらしく。そのおかげで切れかけの魔力が半分以上回復していたのには驚いた。

「任務初日は大成功。明日も頑張りましょう!」

 冒険者ご用達の食堂で、ドヤ顔のシャルロットが豪快に肉を食べている。

「まあまあ、カイル落ち込まないでって。今までの旅で私はまるで足手まといだったから。これくらいの活躍はあってしかるべしよ」

 そうだな、忘れていたがシャルロットはスーパーエリート魔法使いだった。
 全ての中級魔法が使えて、極大魔法も時間の問題だと言われる魔法学院きっての天才。

 旅の道中は世間知らずの12歳、年相応の少女でしかなかったからすっかり忘れていた。

 ふう、これが才能の差なのか。まあ、適材適所だろうし納得するしかない。
 これはただの醜い嫉妬なのだ。
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