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第三章 港町

第32話 港町グプタ⑤

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「紹介しよう。東グプタの盟主アミールだ。またの名を砂いじりの王、いや造形王だったか、そんな感じで可愛い子だ」

「女神様。相変わらずですな。もう私は50に近いというのに」

「なんじゃ、もう砂はいじらんのか?」

「女神様が見てくれるならばよろこんで」

「もちろんさ、ならば、最近見込みのある子がいるのだ。あの子のドラゴンの造形はすばらしい。さっそく明日にでも行くとしようじゃないか」

「はい、ぜひその少年に会ってみたいものですな、はっはっは。……しかし、女神様。今日はその話をしに来たのではないでしょう。客人をお連れのようですが?」

「ああ、すまん、忘れていた。……わけでははないぞ。では君達も自己紹介してくれ」

「はい、俺はカイル・ラングレン。出身はエフタル王国の王都サマルカンドです」

「同じく。サマルカンド出身のシャルロット・レーヴァテインです」

 まだ情勢が分からない状況で正直に名乗って良かったのかは分からない。

 だがベアトリクスというドラゴンロードの言った、嘘は人間の特権という言葉が引っかかったのだ。

 それに、ここまできて嘘を付くのも気分的に嫌だった。

「サマルカンドか、なるほどな。レーヴァテインということは貴族の生き残りということか……」

「俺達はどうなりますか?」

「ああ、安心したまえ、君たちが犯罪者で無い限りはエフタルに引き渡すことはしない。それにまだあの国は不安定だ。貿易は再開しているが。政治的な交渉をする段階ではないしな」

「盟主様、感謝いたします。何もお礼はできませんが、せめてこの国で何か仕事をさせていただけませんでしょうか」

「いや、気にせんでよい。むしろお礼を言いたいのは私の方だ。久しぶりに女神さまが訪ねてきてくれたのでな」

「あらあら、この間あったばかりではないか」

「はは、一年も前ですよ。まあ、それだけ私を認めてもらっているということですかな」

 なるほど、時間の流れが人間とドラゴンでは違うのだろう。

「ところで君らはなかなか強いと聞いた。そうだな仕事というか、一つ頼まれてくれんか。
 西グプタで冒険者になってはもらえないだろうか。

 実は西グプタは昨年、盟主が代替わりしてのう。
 私の娘なんだが、まだ若くいろいろと苦労しているようでな。それに最近カルルク帝国側から魔獣がたびたび襲撃していると聞いた、助けてやってほしいのだ」

 グプタの盟主は西と東で分断しないように盟主は代々親子で努めるのだそうだ。
 親子なら喧嘩にはなっても、殺し合いの戦争にはならない。海を挟んだ都市国家が一つでいられる重要な決め事の一つらしい。

 ちなみに、先代の西グプタの盟主は東グプタの盟主の父親だ。今は隠居しており旅に出ているらしい。

 この仕組みのデメリットは二世代の差があるため引継ぎには苦労することだ。それでも最初の一年か二年くらいで後は自然と上手くいくのだそうだ。

 俺としては冒険者は望んでたことだし喜んで引き受けることにした。

「分かりました。微力ながら全力でお手伝いさせていただきます」

「そうか、引き受けてくれるか。今日は素晴らしい日だ。女神さまにも会えたしな。では今夜は宴といこうじゃないか。何か食べたいものはあるかな? 確か今週のトップランキングは……」

 さすがに一週間も経つと魚介類も飽きてきた。肉が食べたいな。
 シャルロットも同じ気持ちだろう。
 
「お、めずらしい。肉料理がランクインしておる。どうだ、お主らもそろそろ肉が恋しかろう。女神さまも食事くらいは付き合ってもらえるでしょうな?」

「わかったわかった。子供の様な目をするでない。まったく、だからお前はいつまでたっても子供だというのじゃ」

 この街ではドラゴンと人間の関係は良好だった。
 まあドラゴンと一括りにするのがそもそも間違いだったのだろう。いろんな人がいるようにドラゴンだっていろいろだ。

 こうして俺達は船に乗り西グプタまでおよそ一週間ほどの船旅に出ることになった。
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