32 / 92
第三章 港町
第32話 港町グプタ⑤
しおりを挟む
「紹介しよう。東グプタの盟主アミールだ。またの名を砂いじりの王、いや造形王だったか、そんな感じで可愛い子だ」
「女神様。相変わらずですな。もう私は50に近いというのに」
「なんじゃ、もう砂はいじらんのか?」
「女神様が見てくれるならばよろこんで」
「もちろんさ、ならば、最近見込みのある子がいるのだ。あの子のドラゴンの造形はすばらしい。さっそく明日にでも行くとしようじゃないか」
「はい、ぜひその少年に会ってみたいものですな、はっはっは。……しかし、女神様。今日はその話をしに来たのではないでしょう。客人をお連れのようですが?」
「ああ、すまん、忘れていた。……わけでははないぞ。では君達も自己紹介してくれ」
「はい、俺はカイル・ラングレン。出身はエフタル王国の王都サマルカンドです」
「同じく。サマルカンド出身のシャルロット・レーヴァテインです」
まだ情勢が分からない状況で正直に名乗って良かったのかは分からない。
だがベアトリクスというドラゴンロードの言った、嘘は人間の特権という言葉が引っかかったのだ。
それに、ここまできて嘘を付くのも気分的に嫌だった。
「サマルカンドか、なるほどな。レーヴァテインということは貴族の生き残りということか……」
「俺達はどうなりますか?」
「ああ、安心したまえ、君たちが犯罪者で無い限りはエフタルに引き渡すことはしない。それにまだあの国は不安定だ。貿易は再開しているが。政治的な交渉をする段階ではないしな」
「盟主様、感謝いたします。何もお礼はできませんが、せめてこの国で何か仕事をさせていただけませんでしょうか」
「いや、気にせんでよい。むしろお礼を言いたいのは私の方だ。久しぶりに女神さまが訪ねてきてくれたのでな」
「あらあら、この間あったばかりではないか」
「はは、一年も前ですよ。まあ、それだけ私を認めてもらっているということですかな」
なるほど、時間の流れが人間とドラゴンでは違うのだろう。
「ところで君らはなかなか強いと聞いた。そうだな仕事というか、一つ頼まれてくれんか。
西グプタで冒険者になってはもらえないだろうか。
実は西グプタは昨年、盟主が代替わりしてのう。
私の娘なんだが、まだ若くいろいろと苦労しているようでな。それに最近カルルク帝国側から魔獣がたびたび襲撃していると聞いた、助けてやってほしいのだ」
グプタの盟主は西と東で分断しないように盟主は代々親子で努めるのだそうだ。
親子なら喧嘩にはなっても、殺し合いの戦争にはならない。海を挟んだ都市国家が一つでいられる重要な決め事の一つらしい。
ちなみに、先代の西グプタの盟主は東グプタの盟主の父親だ。今は隠居しており旅に出ているらしい。
この仕組みのデメリットは二世代の差があるため引継ぎには苦労することだ。それでも最初の一年か二年くらいで後は自然と上手くいくのだそうだ。
俺としては冒険者は望んでたことだし喜んで引き受けることにした。
「分かりました。微力ながら全力でお手伝いさせていただきます」
「そうか、引き受けてくれるか。今日は素晴らしい日だ。女神さまにも会えたしな。では今夜は宴といこうじゃないか。何か食べたいものはあるかな? 確か今週のトップランキングは……」
さすがに一週間も経つと魚介類も飽きてきた。肉が食べたいな。
シャルロットも同じ気持ちだろう。
「お、めずらしい。肉料理がランクインしておる。どうだ、お主らもそろそろ肉が恋しかろう。女神さまも食事くらいは付き合ってもらえるでしょうな?」
「わかったわかった。子供の様な目をするでない。まったく、だからお前はいつまでたっても子供だというのじゃ」
この街ではドラゴンと人間の関係は良好だった。
まあドラゴンと一括りにするのがそもそも間違いだったのだろう。いろんな人がいるようにドラゴンだっていろいろだ。
こうして俺達は船に乗り西グプタまでおよそ一週間ほどの船旅に出ることになった。
「女神様。相変わらずですな。もう私は50に近いというのに」
「なんじゃ、もう砂はいじらんのか?」
「女神様が見てくれるならばよろこんで」
「もちろんさ、ならば、最近見込みのある子がいるのだ。あの子のドラゴンの造形はすばらしい。さっそく明日にでも行くとしようじゃないか」
「はい、ぜひその少年に会ってみたいものですな、はっはっは。……しかし、女神様。今日はその話をしに来たのではないでしょう。客人をお連れのようですが?」
「ああ、すまん、忘れていた。……わけでははないぞ。では君達も自己紹介してくれ」
「はい、俺はカイル・ラングレン。出身はエフタル王国の王都サマルカンドです」
「同じく。サマルカンド出身のシャルロット・レーヴァテインです」
まだ情勢が分からない状況で正直に名乗って良かったのかは分からない。
だがベアトリクスというドラゴンロードの言った、嘘は人間の特権という言葉が引っかかったのだ。
それに、ここまできて嘘を付くのも気分的に嫌だった。
「サマルカンドか、なるほどな。レーヴァテインということは貴族の生き残りということか……」
「俺達はどうなりますか?」
「ああ、安心したまえ、君たちが犯罪者で無い限りはエフタルに引き渡すことはしない。それにまだあの国は不安定だ。貿易は再開しているが。政治的な交渉をする段階ではないしな」
「盟主様、感謝いたします。何もお礼はできませんが、せめてこの国で何か仕事をさせていただけませんでしょうか」
「いや、気にせんでよい。むしろお礼を言いたいのは私の方だ。久しぶりに女神さまが訪ねてきてくれたのでな」
「あらあら、この間あったばかりではないか」
「はは、一年も前ですよ。まあ、それだけ私を認めてもらっているということですかな」
なるほど、時間の流れが人間とドラゴンでは違うのだろう。
「ところで君らはなかなか強いと聞いた。そうだな仕事というか、一つ頼まれてくれんか。
西グプタで冒険者になってはもらえないだろうか。
実は西グプタは昨年、盟主が代替わりしてのう。
私の娘なんだが、まだ若くいろいろと苦労しているようでな。それに最近カルルク帝国側から魔獣がたびたび襲撃していると聞いた、助けてやってほしいのだ」
グプタの盟主は西と東で分断しないように盟主は代々親子で努めるのだそうだ。
親子なら喧嘩にはなっても、殺し合いの戦争にはならない。海を挟んだ都市国家が一つでいられる重要な決め事の一つらしい。
ちなみに、先代の西グプタの盟主は東グプタの盟主の父親だ。今は隠居しており旅に出ているらしい。
この仕組みのデメリットは二世代の差があるため引継ぎには苦労することだ。それでも最初の一年か二年くらいで後は自然と上手くいくのだそうだ。
俺としては冒険者は望んでたことだし喜んで引き受けることにした。
「分かりました。微力ながら全力でお手伝いさせていただきます」
「そうか、引き受けてくれるか。今日は素晴らしい日だ。女神さまにも会えたしな。では今夜は宴といこうじゃないか。何か食べたいものはあるかな? 確か今週のトップランキングは……」
さすがに一週間も経つと魚介類も飽きてきた。肉が食べたいな。
シャルロットも同じ気持ちだろう。
「お、めずらしい。肉料理がランクインしておる。どうだ、お主らもそろそろ肉が恋しかろう。女神さまも食事くらいは付き合ってもらえるでしょうな?」
「わかったわかった。子供の様な目をするでない。まったく、だからお前はいつまでたっても子供だというのじゃ」
この街ではドラゴンと人間の関係は良好だった。
まあドラゴンと一括りにするのがそもそも間違いだったのだろう。いろんな人がいるようにドラゴンだっていろいろだ。
こうして俺達は船に乗り西グプタまでおよそ一週間ほどの船旅に出ることになった。
2
お気に入りに追加
76
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
妹に全部取られたけど、幸せ確定の私は「ざまぁ」なんてしない!
石のやっさん
恋愛
マリアはドレーク伯爵家の長女で、ドリアーク伯爵家のフリードと婚約していた。
だが、パーティ会場で一方的に婚約を解消させられる。
しかも新たな婚約者は妹のロゼ。
誰が見てもそれは陥れられた物である事は明らかだった。
だが、敢えて反論もせずにそのまま受け入れた。
それはマリアにとって実にどうでも良い事だったからだ。
主人公は何も「ざまぁ」はしません(正当性の主張はしますが)ですが...二人は。
婚約破棄をすれば、本来なら、こうなるのでは、そんな感じで書いてみました。
この作品は昔の方が良いという感想があったのでそのまま残し。
これに追加して書いていきます。
新しい作品では
①主人公の感情が薄い
②視点変更で読みずらい
というご指摘がありましたので、以上2点の修正はこちらでしながら書いてみます。
見比べて見るのも面白いかも知れません。
ご迷惑をお掛けいたしました
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
悪役令嬢にざまぁされた王子のその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。
その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。
そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。
マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。
人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。
骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。
【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~
胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。
時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。
王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。
処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。
これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる