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第三章 港町
第31話 港町グプタ④
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「海の幸ならこのレストランが一番よ、もちろん二番も悪くないわ、三番だってね。丁寧に作ってればランキングなんて簡単に入れ替わるものだし、入れ替わったお店は更に美味しくなってる。いいことだわ」
なるほど、この街のグルメランキングは入れ替わりが激しいらしい。
「これは女神様。ようこそお越しくださいました」
「うむ、相変わらず繁盛していて嬉しいぞ」
俺達は女神様と呼ばれる女性に連れられて、彼女が進めるレストランにいる。
彼女は、このレストランのオーナーに軽く挨拶をしていた。ウエイトレスさんはその後にいる。
コック長らしい長い帽子を被った初老の男性も側に立っている。
俺達はビップ待遇ということだろう、さすが女神様。
「今日は客人を招待しました、わかりますね? あまり騒がないでほしいの。その代わりだけど、握手会なら明日この店でやるからそれで勘弁しておくれ」
「はい、女神様、光栄です。ではお客様、リクエストはありますかな?」
「そうね、昨日はトップ10を食べたから。今日はそれ以上の逸品をお願いしたいわ。あと条件を追加します。高級食材は使わないこと。できるでしょ?」
シャルロットがオーナーに向かってそう言った。随分と慣れたやり取りだ。
そういえば貴族だったな。
オーナーはコック長を見た。彼はすこし考えた後に答えた。
「もちろんです。その条件、腕が鳴りますな。正直、高級食材を使ってしまってはコックの腕は関係なくなってしまいますからな。
高級食材とは味は二の次で、お金を食べる感覚に等しい。私の矜持に反しますからな。では私は厨房にもどります」
コック長はシャルロットのお題に闘争心を燃やすと厨房に戻った。
やるじゃないか、財布にも優しいし。
「お嬢ちゃん、別に高級食材でもよかったのだぞ? 今日は私が招いたのだからおもてなしくらいはするさ」
「いいえ、違うんですよ。シャルロットは高級食材は口に合わなかったんですよ。何て言うんでしょうか、磯臭いといいますか。海の香りにまだ慣れてなくって」
「ちょっと。私のせいにばかりしないでよ。あんただって、トップ3の生の魚卵のオンパレードには涙目だったじゃない」
うっ、ばれてたか。見た目は宝石のようだったけど、俺もあれは苦手だ。しょっぱさでかろうじで食べれたが生臭さはだめだった。
だが下のランクの火を通した魚介類は美味しかった。特にエビのバター焼きとかは最高だった。
「ふむ、お前たちは仲が良いのだな。安心した。あの呪いのドラゴンロードの臭いがしてたから心配しておったのだ」
「あの、そろそろ、教えて貰っていいですか? 女神様、貴方は何者なんですか?」
「おう、そうだったそうだった。では自己紹介をしよう。私の名はベアトリクス。
海のドラゴンロードとも呼ばれる。まあエフタル王国の住民は知らぬとは思うが。私は人化を憶えて以降、この土地に住んでるのだよ」
「海のドラゴンロード。シャルロット知ってる?」
「知らない、けど、理解はできる。エフタル王国の伝説ではドラゴンロードは一体。呪いのドラゴンロードの伝説しかないのよ。
でもおかしいでしょ? 世界でドラゴンが一体だけって。ありえない。きっと王国が隠していたのよ」
「お嬢ちゃん、半分正解。王国が隠していたのは事実。
でもね、ぶふっ!
ルシウスがそう言いふらしていたからよ。まったく自己顕示欲の塊というか。なんとまあ、ぶふふ」
ベアトリクスは笑いのツボに入ったのか。しばらく思い出し笑いを続けていた。
「あの、怒らないんですか? 俺は貴方の同族のドラゴンを殺してしまったんですよ?」
「ぶふふ、っく、我は漆黒のドラゴン。痛いわー。はぁはぁ。ぶふっ! ああごめん。同族のドラゴンって話だけど。そうね、もし友達を殺したら私だって怒るわよ?
……でも、うーん簡単に言えば。ルシウスは同族だけど嫌い。趣味が合わない。それに性格も最悪。陰湿、気持ち悪い。そう、一番の理由はきもいのよ。人間の若い女性を眷属にするとか。きもすぎじゃない?
というわけ、だから別にアレが死んでも何も思うことはないわね。ああ、いつかこうなるんじゃないかって思ってましたって感想かしら」
料理が運ばれてきた。
俺達の話を聞いていたのだろうか。手の平よりも大きなエビの料理が出てきた。
縦から半分に切られたエビの半身にバターを使ったソースがかけられている。
オーブンで程よく焼かれているのか香ばしい匂いが食欲をそそる。
そしてもう一品。大皿に盛られたパスタ。これはエフタル王国でも食べたことがある、小麦をつかった麺料理だ。
コック長は俺達に言った。
「お二方はエフタル出身と聞きました。ですので故郷の料理に近いものをメインにさせていただきました。もちろんこのパスタはフェルガナ近郊の穀倉地帯で取れた小麦をつかっております。
食べなれた食材がよいかと思いまして。
もちろんパスタはここグプタでも食べますので、この料理はお二人にピッタリかと。もちろんグプタですからパスタソースは魚介類をふんだんに使っております」
パスタにはエビやイカなどの魚介類をトマトで煮込んだソースが掛けられていた。
ニンニクや唐辛子などの香辛料も入っているのだろう。すこし辛い味付けはまさに至高だった。
俺達は会話を忘れた。とりあえず冷める前にこの料理をいただく。それ以外にない。
食事を終え。テーブルにはコーヒーカップが3つ並んでいた。
「コック長もよろこんでおったし。私も満足だ。さて話の続きをしようかのう」
俺達は食事に夢中になりすぎた。
だが、このお店の人はよろこんでいた。コック長の満面の笑みは忘れない。この街に溶け込むにはよいことだ。
それでいいのだ。
「それで、お主たちはこれからどうするつもりかい?」
「はい、できれば。この街の市民権を得て、仕事をしつつ。準備が出来ればカルルク帝国に行くつもりです」
カルルク帝国は環境が厳しいと聞く。
街を離れれば魔獣はどこにでもいる過酷な環境なのだ。
それに草原地帯も少なく土地のほとんどは岩石砂漠だと聞いている。
過酷な環境に備えて俺達はここで準備する必要がある。
「ふむ、なら市民権はあげちゃおっかな。そうね、一週間後に領主の館に来るといいわ。そこで一仕事してもらいましょうか」
話が上手くいきすぎている。でもこの人、いや海のドラゴンロードは嘘は言わないだろう。
それに、嘘は人間に許されたスキルだと言ってた……。
不名誉ではあるが彼女の誠実さを保障しているともいえる。納得せざるを得ないか。
なるほど、この街のグルメランキングは入れ替わりが激しいらしい。
「これは女神様。ようこそお越しくださいました」
「うむ、相変わらず繁盛していて嬉しいぞ」
俺達は女神様と呼ばれる女性に連れられて、彼女が進めるレストランにいる。
彼女は、このレストランのオーナーに軽く挨拶をしていた。ウエイトレスさんはその後にいる。
コック長らしい長い帽子を被った初老の男性も側に立っている。
俺達はビップ待遇ということだろう、さすが女神様。
「今日は客人を招待しました、わかりますね? あまり騒がないでほしいの。その代わりだけど、握手会なら明日この店でやるからそれで勘弁しておくれ」
「はい、女神様、光栄です。ではお客様、リクエストはありますかな?」
「そうね、昨日はトップ10を食べたから。今日はそれ以上の逸品をお願いしたいわ。あと条件を追加します。高級食材は使わないこと。できるでしょ?」
シャルロットがオーナーに向かってそう言った。随分と慣れたやり取りだ。
そういえば貴族だったな。
オーナーはコック長を見た。彼はすこし考えた後に答えた。
「もちろんです。その条件、腕が鳴りますな。正直、高級食材を使ってしまってはコックの腕は関係なくなってしまいますからな。
高級食材とは味は二の次で、お金を食べる感覚に等しい。私の矜持に反しますからな。では私は厨房にもどります」
コック長はシャルロットのお題に闘争心を燃やすと厨房に戻った。
やるじゃないか、財布にも優しいし。
「お嬢ちゃん、別に高級食材でもよかったのだぞ? 今日は私が招いたのだからおもてなしくらいはするさ」
「いいえ、違うんですよ。シャルロットは高級食材は口に合わなかったんですよ。何て言うんでしょうか、磯臭いといいますか。海の香りにまだ慣れてなくって」
「ちょっと。私のせいにばかりしないでよ。あんただって、トップ3の生の魚卵のオンパレードには涙目だったじゃない」
うっ、ばれてたか。見た目は宝石のようだったけど、俺もあれは苦手だ。しょっぱさでかろうじで食べれたが生臭さはだめだった。
だが下のランクの火を通した魚介類は美味しかった。特にエビのバター焼きとかは最高だった。
「ふむ、お前たちは仲が良いのだな。安心した。あの呪いのドラゴンロードの臭いがしてたから心配しておったのだ」
「あの、そろそろ、教えて貰っていいですか? 女神様、貴方は何者なんですか?」
「おう、そうだったそうだった。では自己紹介をしよう。私の名はベアトリクス。
海のドラゴンロードとも呼ばれる。まあエフタル王国の住民は知らぬとは思うが。私は人化を憶えて以降、この土地に住んでるのだよ」
「海のドラゴンロード。シャルロット知ってる?」
「知らない、けど、理解はできる。エフタル王国の伝説ではドラゴンロードは一体。呪いのドラゴンロードの伝説しかないのよ。
でもおかしいでしょ? 世界でドラゴンが一体だけって。ありえない。きっと王国が隠していたのよ」
「お嬢ちゃん、半分正解。王国が隠していたのは事実。
でもね、ぶふっ!
ルシウスがそう言いふらしていたからよ。まったく自己顕示欲の塊というか。なんとまあ、ぶふふ」
ベアトリクスは笑いのツボに入ったのか。しばらく思い出し笑いを続けていた。
「あの、怒らないんですか? 俺は貴方の同族のドラゴンを殺してしまったんですよ?」
「ぶふふ、っく、我は漆黒のドラゴン。痛いわー。はぁはぁ。ぶふっ! ああごめん。同族のドラゴンって話だけど。そうね、もし友達を殺したら私だって怒るわよ?
……でも、うーん簡単に言えば。ルシウスは同族だけど嫌い。趣味が合わない。それに性格も最悪。陰湿、気持ち悪い。そう、一番の理由はきもいのよ。人間の若い女性を眷属にするとか。きもすぎじゃない?
というわけ、だから別にアレが死んでも何も思うことはないわね。ああ、いつかこうなるんじゃないかって思ってましたって感想かしら」
料理が運ばれてきた。
俺達の話を聞いていたのだろうか。手の平よりも大きなエビの料理が出てきた。
縦から半分に切られたエビの半身にバターを使ったソースがかけられている。
オーブンで程よく焼かれているのか香ばしい匂いが食欲をそそる。
そしてもう一品。大皿に盛られたパスタ。これはエフタル王国でも食べたことがある、小麦をつかった麺料理だ。
コック長は俺達に言った。
「お二方はエフタル出身と聞きました。ですので故郷の料理に近いものをメインにさせていただきました。もちろんこのパスタはフェルガナ近郊の穀倉地帯で取れた小麦をつかっております。
食べなれた食材がよいかと思いまして。
もちろんパスタはここグプタでも食べますので、この料理はお二人にピッタリかと。もちろんグプタですからパスタソースは魚介類をふんだんに使っております」
パスタにはエビやイカなどの魚介類をトマトで煮込んだソースが掛けられていた。
ニンニクや唐辛子などの香辛料も入っているのだろう。すこし辛い味付けはまさに至高だった。
俺達は会話を忘れた。とりあえず冷める前にこの料理をいただく。それ以外にない。
食事を終え。テーブルにはコーヒーカップが3つ並んでいた。
「コック長もよろこんでおったし。私も満足だ。さて話の続きをしようかのう」
俺達は食事に夢中になりすぎた。
だが、このお店の人はよろこんでいた。コック長の満面の笑みは忘れない。この街に溶け込むにはよいことだ。
それでいいのだ。
「それで、お主たちはこれからどうするつもりかい?」
「はい、できれば。この街の市民権を得て、仕事をしつつ。準備が出来ればカルルク帝国に行くつもりです」
カルルク帝国は環境が厳しいと聞く。
街を離れれば魔獣はどこにでもいる過酷な環境なのだ。
それに草原地帯も少なく土地のほとんどは岩石砂漠だと聞いている。
過酷な環境に備えて俺達はここで準備する必要がある。
「ふむ、なら市民権はあげちゃおっかな。そうね、一週間後に領主の館に来るといいわ。そこで一仕事してもらいましょうか」
話が上手くいきすぎている。でもこの人、いや海のドラゴンロードは嘘は言わないだろう。
それに、嘘は人間に許されたスキルだと言ってた……。
不名誉ではあるが彼女の誠実さを保障しているともいえる。納得せざるを得ないか。
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