【完結】カイルとシャルロットの冒険 ~ドラゴンと魔剣~

神谷モロ

文字の大きさ
上 下
30 / 92
第三章 港町

第30話 港町グプタ③

しおりを挟む
 翌朝。
 俺達はビーチに来ていた。

 南方の暑さに対する訓練だ。
 遊びではないが訓練がたまたま遊びだったのでしょうがない。

 俺達はそれぞれ宿の売店で買った水着を着ている。

 最初は服のまま入ろうと思っていたが、海に入るための専用の装備ということで仕方なく購入したのだ。

 水にぬれても直ぐに乾く素材で出来ているそうだ。
 それに布面積も少ない。なるほどな、泳ぐのに服は邪魔ということだ。

 それに普通の服でこの場にきていたら逆に目立っただろう。ここではこれが正装なのだ。

 ……そう思うことにすればシャルロットと正面から話せる。
 しかし、なんだろう。水着って下着と一緒じゃないだろうか。

 なんやかんやで見慣れていた思っていたのだが。
 白い砂に太陽が照り返されて、きらきらと輝く彼女の素肌に俺はドキドキしていた。

「ちょっと、あんまりじろじろ見ないでよ。べ、べつに見てもいいけど……黙ったままだと怖いからなんか言いなさいよ」

「あ、ああ。ごめん、綺麗だなと思って。その、良く似合ってると思う……」

「え? う、うん、ありがとう。あんたも素敵よ……」

 少しの間沈黙が流れた。

「よ、よし、訓練開始だ。俺達、北方出身の人間は南方の日差しに弱いと聞いた。まずはこの日焼け止めの薬を体に塗る必要があるそうだ」

 俺はシャルロットに日焼け止めの薬を渡す。
 シャルロットは言われたとおりに日焼け止めの薬を足先から順番に塗っていった。

「ねえ、背中に手が届かないのだけど。手伝ってくれない?」

 …………。

 南方の夏に慣れるにはまだ時間がかかりそうだ。俺は暑さにすっかり参ってしまった。
 ……そういうことにする。

 さて、夏に慣れるには、とにかく汗を流すことだ。体を動かし。この気温に適応すること。
 つまりビーチで遊ぶことだ。

 初めて見た滑らかな白い砂に俺達は感動した。周りにいる子供たちは砂を濡らして、なにか造形している。お城だろうか。

「なあ、シャルロット。俺達もあれを作ろうか」

「え? お城? いいけど、すぐ崩れちゃうわよ? うふふ、でも面白いかも。なら本当に崩れたエフタルの王城をリアルに再現してみましょうか」

 お、おう。

 そろそろ昼だ。
 太陽が一番高くなっている。
 夢中になって気が付かなかったが結構汗をかいたな、そろそろ休憩しないと。

 砂の城も一通り完成した。
 エフタル王城はもっと立派だったが、それはそれだ。
 周りの子供達も俺達の造った砂の城の完成度にいつの間にか集まってきていた。
 建設組合のバイト経験が生きたな。まあ石材運びしかしてなかったけどね。

 しかし子供達の素直な称賛はありがたい。やったかいがあった。

「ところでシャルロット。城のとなりにある丸いのはなんだい? フクロウ?」

「いいえ、ドラゴンよ。エフタル王城といえばドラゴン、これは外せないわ」

 ドラゴンって、全体的に丸みを帯びていてフクロウにしか見えない。
 まあ、シャルロットはあの惨劇を克服したのだな。
 このコミカルなフクロウ似のドラゴンが王城を襲う。まさに絵本の世界だ。

 だが、子供たちは納得いかない様子だ。

「姉ちゃん、何やってんだよ。リアルなお城の造形にそんなデフォルメしたドラゴンなんて台無しだよ。ドラゴンってのはもっとしゅっとしてとげとげで、ああもう、姉ちゃんどいて」

 シャルロットはドラゴンに造詣が深い謎の少年に、その場を追い出されて俺の隣にたっていた。
 少年は砂のフクロウを削りだし、徐々に細かくリアルなドラゴンに加工していった。

「なあ、子供のやることだ、あんまし怒るなよ」

「怒ってないって。というか嬉しいかな。私と年齢はそんなに変らないのに、この子は笑顔でとても楽しそう。
 このドラゴンが何だったのかなんて関係なく楽しく遊んでいる。それが一番よ」

「そうだな……おっと、そろそろ休憩しないか? 水分補給をしないといけないし。海はまた明日来よう、ここで頑張っても体はついてこないしな」

「ふむ、そうしなさい。これ以上いるなら注意しようと思ったが、洗濯の少年は分かっておるようで安心したわ」

 背中がぞくっとした。後から女性の声が聞こえる。聞いたことのある声、あいつだ。

「洗濯の女神様か、俺達に何の用だ?」

「なんのよう? お茶でもどうかと誘ったつもりだったのだけど。もちろんお茶でなくてもいいわ。
 お茶に誘ったからといって果実水を飲んでもいいのだぞ? しかし、ぶふっ。だいぶまともになったのう、さすがにあれがルシウスだと言われても可愛すぎて。ぶふふ」

「あ、女神様だ。どうですか? この姉ちゃんへたっぴだから、これがドラゴンロードでしょ? とげとげで、がりがりのいかつい感じに、今度は上手くできたでしょ?」

「うーん、おしい。80点。カッコよすぎです。それなら私はルシウスを好きになってたでしょう。
 本物はもっと不細工よ? まあ、不細工な造形ばかり憶えてしまったら、君の将来の為にならないわね、おまけで100点あげちゃうわ。じゃあ頑張ってね」

「ちぇ、おまけで100点かよ。女神様! 次はがんばるから、また見に来てくれよな!」

「うふふ、いいわよ、頑張んなさい。でも、こまめに水分補給はするのよ? それに遠くまで泳がないこと。それを守ってくれれば、お姉さんまた会いに来るから」

 洗濯の女神は本当にこの街の女神だったようだ。こんなに子供たちに慕われている。
 いや子供だけではない。大人達も慕っている正真正銘の女神だ。

「じゃあ、行きましょうか。せっかくだし食事でもしながらお話ししましょう。洗濯のお兄さん。いや、ドラゴン殺しのお兄さん?」



しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

半神の守護者

ぴっさま
ファンタジー
ロッドは何の力も無い少年だったが、異世界の創造神の血縁者だった。 超能力を手に入れたロッドは前世のペット、忠実な従者をお供に世界の守護者として邪神に立ち向かう。 〜概要〜 臨時パーティーにオークの群れの中に取り残されたロッドは、不思議な生き物に助けられこの世界の神と出会う。 実は神の遠い血縁者でこの世界の守護を頼まれたロッドは承諾し、通常では得られない超能力を得る。 そして魂の絆で結ばれたユニークモンスターのペット、従者のホムンクルスの少女を供にした旅が始まる。 ■注記 本作品のメインはファンタジー世界においての超能力の行使になります。 他サイトにも投稿中

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

処理中です...