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第三章 港町
第30話 港町グプタ③
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翌朝。
俺達はビーチに来ていた。
南方の暑さに対する訓練だ。
遊びではないが訓練がたまたま遊びだったのでしょうがない。
俺達はそれぞれ宿の売店で買った水着を着ている。
最初は服のまま入ろうと思っていたが、海に入るための専用の装備ということで仕方なく購入したのだ。
水にぬれても直ぐに乾く素材で出来ているそうだ。
それに布面積も少ない。なるほどな、泳ぐのに服は邪魔ということだ。
それに普通の服でこの場にきていたら逆に目立っただろう。ここではこれが正装なのだ。
……そう思うことにすればシャルロットと正面から話せる。
しかし、なんだろう。水着って下着と一緒じゃないだろうか。
なんやかんやで見慣れていた思っていたのだが。
白い砂に太陽が照り返されて、きらきらと輝く彼女の素肌に俺はドキドキしていた。
「ちょっと、あんまりじろじろ見ないでよ。べ、べつに見てもいいけど……黙ったままだと怖いからなんか言いなさいよ」
「あ、ああ。ごめん、綺麗だなと思って。その、良く似合ってると思う……」
「え? う、うん、ありがとう。あんたも素敵よ……」
少しの間沈黙が流れた。
「よ、よし、訓練開始だ。俺達、北方出身の人間は南方の日差しに弱いと聞いた。まずはこの日焼け止めの薬を体に塗る必要があるそうだ」
俺はシャルロットに日焼け止めの薬を渡す。
シャルロットは言われたとおりに日焼け止めの薬を足先から順番に塗っていった。
「ねえ、背中に手が届かないのだけど。手伝ってくれない?」
…………。
南方の夏に慣れるにはまだ時間がかかりそうだ。俺は暑さにすっかり参ってしまった。
……そういうことにする。
さて、夏に慣れるには、とにかく汗を流すことだ。体を動かし。この気温に適応すること。
つまりビーチで遊ぶことだ。
初めて見た滑らかな白い砂に俺達は感動した。周りにいる子供たちは砂を濡らして、なにか造形している。お城だろうか。
「なあ、シャルロット。俺達もあれを作ろうか」
「え? お城? いいけど、すぐ崩れちゃうわよ? うふふ、でも面白いかも。なら本当に崩れたエフタルの王城をリアルに再現してみましょうか」
お、おう。
そろそろ昼だ。
太陽が一番高くなっている。
夢中になって気が付かなかったが結構汗をかいたな、そろそろ休憩しないと。
砂の城も一通り完成した。
エフタル王城はもっと立派だったが、それはそれだ。
周りの子供達も俺達の造った砂の城の完成度にいつの間にか集まってきていた。
建設組合のバイト経験が生きたな。まあ石材運びしかしてなかったけどね。
しかし子供達の素直な称賛はありがたい。やったかいがあった。
「ところでシャルロット。城のとなりにある丸いのはなんだい? フクロウ?」
「いいえ、ドラゴンよ。エフタル王城といえばドラゴン、これは外せないわ」
ドラゴンって、全体的に丸みを帯びていてフクロウにしか見えない。
まあ、シャルロットはあの惨劇を克服したのだな。
このコミカルなフクロウ似のドラゴンが王城を襲う。まさに絵本の世界だ。
だが、子供たちは納得いかない様子だ。
「姉ちゃん、何やってんだよ。リアルなお城の造形にそんなデフォルメしたドラゴンなんて台無しだよ。ドラゴンってのはもっとしゅっとしてとげとげで、ああもう、姉ちゃんどいて」
シャルロットはドラゴンに造詣が深い謎の少年に、その場を追い出されて俺の隣にたっていた。
少年は砂のフクロウを削りだし、徐々に細かくリアルなドラゴンに加工していった。
「なあ、子供のやることだ、あんまし怒るなよ」
「怒ってないって。というか嬉しいかな。私と年齢はそんなに変らないのに、この子は笑顔でとても楽しそう。
このドラゴンが何だったのかなんて関係なく楽しく遊んでいる。それが一番よ」
「そうだな……おっと、そろそろ休憩しないか? 水分補給をしないといけないし。海はまた明日来よう、ここで頑張っても体はついてこないしな」
「ふむ、そうしなさい。これ以上いるなら注意しようと思ったが、洗濯の少年は分かっておるようで安心したわ」
背中がぞくっとした。後から女性の声が聞こえる。聞いたことのある声、あいつだ。
「洗濯の女神様か、俺達に何の用だ?」
「なんのよう? お茶でもどうかと誘ったつもりだったのだけど。もちろんお茶でなくてもいいわ。
お茶に誘ったからといって果実水を飲んでもいいのだぞ? しかし、ぶふっ。だいぶまともになったのう、さすがにあれがルシウスだと言われても可愛すぎて。ぶふふ」
「あ、女神様だ。どうですか? この姉ちゃんへたっぴだから、これがドラゴンロードでしょ? とげとげで、がりがりのいかつい感じに、今度は上手くできたでしょ?」
「うーん、おしい。80点。カッコよすぎです。それなら私はルシウスを好きになってたでしょう。
本物はもっと不細工よ? まあ、不細工な造形ばかり憶えてしまったら、君の将来の為にならないわね、おまけで100点あげちゃうわ。じゃあ頑張ってね」
「ちぇ、おまけで100点かよ。女神様! 次はがんばるから、また見に来てくれよな!」
「うふふ、いいわよ、頑張んなさい。でも、こまめに水分補給はするのよ? それに遠くまで泳がないこと。それを守ってくれれば、お姉さんまた会いに来るから」
洗濯の女神は本当にこの街の女神だったようだ。こんなに子供たちに慕われている。
いや子供だけではない。大人達も慕っている正真正銘の女神だ。
「じゃあ、行きましょうか。せっかくだし食事でもしながらお話ししましょう。洗濯のお兄さん。いや、ドラゴン殺しのお兄さん?」
俺達はビーチに来ていた。
南方の暑さに対する訓練だ。
遊びではないが訓練がたまたま遊びだったのでしょうがない。
俺達はそれぞれ宿の売店で買った水着を着ている。
最初は服のまま入ろうと思っていたが、海に入るための専用の装備ということで仕方なく購入したのだ。
水にぬれても直ぐに乾く素材で出来ているそうだ。
それに布面積も少ない。なるほどな、泳ぐのに服は邪魔ということだ。
それに普通の服でこの場にきていたら逆に目立っただろう。ここではこれが正装なのだ。
……そう思うことにすればシャルロットと正面から話せる。
しかし、なんだろう。水着って下着と一緒じゃないだろうか。
なんやかんやで見慣れていた思っていたのだが。
白い砂に太陽が照り返されて、きらきらと輝く彼女の素肌に俺はドキドキしていた。
「ちょっと、あんまりじろじろ見ないでよ。べ、べつに見てもいいけど……黙ったままだと怖いからなんか言いなさいよ」
「あ、ああ。ごめん、綺麗だなと思って。その、良く似合ってると思う……」
「え? う、うん、ありがとう。あんたも素敵よ……」
少しの間沈黙が流れた。
「よ、よし、訓練開始だ。俺達、北方出身の人間は南方の日差しに弱いと聞いた。まずはこの日焼け止めの薬を体に塗る必要があるそうだ」
俺はシャルロットに日焼け止めの薬を渡す。
シャルロットは言われたとおりに日焼け止めの薬を足先から順番に塗っていった。
「ねえ、背中に手が届かないのだけど。手伝ってくれない?」
…………。
南方の夏に慣れるにはまだ時間がかかりそうだ。俺は暑さにすっかり参ってしまった。
……そういうことにする。
さて、夏に慣れるには、とにかく汗を流すことだ。体を動かし。この気温に適応すること。
つまりビーチで遊ぶことだ。
初めて見た滑らかな白い砂に俺達は感動した。周りにいる子供たちは砂を濡らして、なにか造形している。お城だろうか。
「なあ、シャルロット。俺達もあれを作ろうか」
「え? お城? いいけど、すぐ崩れちゃうわよ? うふふ、でも面白いかも。なら本当に崩れたエフタルの王城をリアルに再現してみましょうか」
お、おう。
そろそろ昼だ。
太陽が一番高くなっている。
夢中になって気が付かなかったが結構汗をかいたな、そろそろ休憩しないと。
砂の城も一通り完成した。
エフタル王城はもっと立派だったが、それはそれだ。
周りの子供達も俺達の造った砂の城の完成度にいつの間にか集まってきていた。
建設組合のバイト経験が生きたな。まあ石材運びしかしてなかったけどね。
しかし子供達の素直な称賛はありがたい。やったかいがあった。
「ところでシャルロット。城のとなりにある丸いのはなんだい? フクロウ?」
「いいえ、ドラゴンよ。エフタル王城といえばドラゴン、これは外せないわ」
ドラゴンって、全体的に丸みを帯びていてフクロウにしか見えない。
まあ、シャルロットはあの惨劇を克服したのだな。
このコミカルなフクロウ似のドラゴンが王城を襲う。まさに絵本の世界だ。
だが、子供たちは納得いかない様子だ。
「姉ちゃん、何やってんだよ。リアルなお城の造形にそんなデフォルメしたドラゴンなんて台無しだよ。ドラゴンってのはもっとしゅっとしてとげとげで、ああもう、姉ちゃんどいて」
シャルロットはドラゴンに造詣が深い謎の少年に、その場を追い出されて俺の隣にたっていた。
少年は砂のフクロウを削りだし、徐々に細かくリアルなドラゴンに加工していった。
「なあ、子供のやることだ、あんまし怒るなよ」
「怒ってないって。というか嬉しいかな。私と年齢はそんなに変らないのに、この子は笑顔でとても楽しそう。
このドラゴンが何だったのかなんて関係なく楽しく遊んでいる。それが一番よ」
「そうだな……おっと、そろそろ休憩しないか? 水分補給をしないといけないし。海はまた明日来よう、ここで頑張っても体はついてこないしな」
「ふむ、そうしなさい。これ以上いるなら注意しようと思ったが、洗濯の少年は分かっておるようで安心したわ」
背中がぞくっとした。後から女性の声が聞こえる。聞いたことのある声、あいつだ。
「洗濯の女神様か、俺達に何の用だ?」
「なんのよう? お茶でもどうかと誘ったつもりだったのだけど。もちろんお茶でなくてもいいわ。
お茶に誘ったからといって果実水を飲んでもいいのだぞ? しかし、ぶふっ。だいぶまともになったのう、さすがにあれがルシウスだと言われても可愛すぎて。ぶふふ」
「あ、女神様だ。どうですか? この姉ちゃんへたっぴだから、これがドラゴンロードでしょ? とげとげで、がりがりのいかつい感じに、今度は上手くできたでしょ?」
「うーん、おしい。80点。カッコよすぎです。それなら私はルシウスを好きになってたでしょう。
本物はもっと不細工よ? まあ、不細工な造形ばかり憶えてしまったら、君の将来の為にならないわね、おまけで100点あげちゃうわ。じゃあ頑張ってね」
「ちぇ、おまけで100点かよ。女神様! 次はがんばるから、また見に来てくれよな!」
「うふふ、いいわよ、頑張んなさい。でも、こまめに水分補給はするのよ? それに遠くまで泳がないこと。それを守ってくれれば、お姉さんまた会いに来るから」
洗濯の女神は本当にこの街の女神だったようだ。こんなに子供たちに慕われている。
いや子供だけではない。大人達も慕っている正真正銘の女神だ。
「じゃあ、行きましょうか。せっかくだし食事でもしながらお話ししましょう。洗濯のお兄さん。いや、ドラゴン殺しのお兄さん?」
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