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第七章 学園編3
第113話 宝石箱
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「マーガレット先生、その宝石箱はどうされたのですか?」
ルーシー達は、闇の魔法に対する防衛術の授業を受けるために古代魔法研究室に入ると、マーガレットがルーペを使いながら古いデザインの宝石箱を隅々まで観察しているのを見た。
彼女は研究室に入ってきたルーシー達を見るとルーペを机に戻し時計を確認する。
「ああ、もう授業の時間だったね」
ルカもそうだったが研究者というのは集中すると食事もろくに取らずに研究に没頭する生き物のようだ。
「しょうがないですね、こんなこともあろうかと、おやつを持参しておりますので、お茶の準備をしてきます」
セシリアは真っ白なエプロンを付けると、研究室内の魔法のティーポットをまるで自分の私物の様に使いだす。
さすがセバスティアーナさんの娘さんだなとルーシーが感心していると、後から入ってきたニコラスが素っ頓狂な声を上げた。
「ひっ! 先生……その宝石箱は……」
「ああ、殿下にはトラウマものだったね、これはすまんことをしたよ。
実はな、宮廷から依頼があってな、この魔法道具の調査研究をしているところだったんだよ。
この古代の魔法道具、いや今は何の反応もない抜け殻だけどね。それでも何か痕跡があればと思ってね」
この魔法の宝石箱は、かつてニコラスに憑りついたハヴォックを封印していた魔法道具。
今では中身はからであり、皇室騎士団の調査も虚しく、何も手がかりもないことからマーガレットの手に渡っていた。
ニコラスは一瞬声をうわずらせたが、直ぐにいつもの調子を取り戻す。
「……いえ、むしろ、マーガレット先生が管理してくれるなら安心です。
もしもあの時、あの古道具屋でそれを購入してたのがマーガレット先生だったら、俺みたいな失敗は無かったでしょうし……」
「ああ、そう言ってくれるのは嬉しいね。だが……私も教授である前に魔法道具のマニアなんだよ。
もし私が手に入れていたら結果はもっと最悪だったかもしれん。まあ、たらればの話をしても意味がないさ。
さて授業を始めようか。
そうだな、今日はこの魔法道具について当事者である殿下もいることだし、皆でこの魔法道具に関しての考察をしようじゃないか」
「あの、先生。カリキュラムはよろしいのですか?」
ソフィアは一応だが質問する。
マーガレットの授業はよく脱線するからだ。
「ああ、そもそもカリキュラムなど20年以上も前に作ったきりで一度も見ておらん。
あれは建前で書いただけだしな、単位は出席さえしてればあげるから安心しなさい。それよりも、今起きている魔法道具事件について勉強した方が余程有意義というものさね」
こうして今日の授業は昨今に起きたニコラス殿下呪い事件についての考察となった。
当事者であるニコラスは、改めてこの魔法道具について知っていることを話す。
もちろん皇室騎士団の取り調べで全て報告済みであるが、他に見落としがないか確認の為である。
「まず、この魔法の宝石箱は、古道具屋の店主が言うには【憎悪の君の祝福】というそうです。
そういえば、あの店主は捕まったのですか?」
「いや、その報告は聞いてないね。まあ、アラン先生が言うには、もし奴が黒幕でないならばとっくに消されてるだろうってさ」
「そうですか、俺はあの店主が人を貶めるような悪人とは思いませんでした。古道具にしては価格も手ごろだったし。でも今にして思えば俺に買わせる為だったのでしょうか」
「いや、奴は十年ほど前に古道具屋を開いてから一度も悪い噂を聞いたことがないね。
昔はトレジャーハンターとしてある程度の無茶はしたようだが、引退してからは年相応に落ち着いたって何度か聞いたからね。私としても奴が黒幕とは思えん」
「ではやはり、その闇の貴族連合という組織に捨て駒にされたという事でしょうか……」
「ああ、今のところその線で妥当だよ。そういえば殿下を呪ったやつについてもう一度聞かせてくれるかね?」
「ええ、やつは旧エフタル王国の闇の執行官、ハヴォックと名乗っていました。以前も言いましたが、それ以上の情報は得られませんでしたが」
ルーシーはセシリアの持参したお菓子に夢中で話半分であったが、一つ気になる単語を聞いた。
「あっ! 闇の執行官といえば、あいつのことだ。 いでよ! ハインド君」
ボフンと音をたて出現するハインド。
『今日二度目の呼び出しに感謝します。ですが魔力はまだ回復しておりませんが』
「うむ、ハインド君、今日は話だけだから。さてと君の元居た組織はなんと言ったっけ?」
『はあ。エフタル王国、国王直属の独立暗殺部隊、闇の執行官ですが。それがなにか? ……言っておきますが私が知ってるのはそれくらいで、マスターと出会う以前の記憶はほとんどありませんぞ?』
マーガレットはハインドの言葉に何かヒントを得たのか。
「エフタル王直属の暗殺部隊……。ハインドよ、ハヴォックという名に心当たりはないか?」
『マーガレット殿。残念ながらそこまでの記憶は残っておりませんな。ですが、ニコラス殿を呪った魔法は間違いなく闇の魔法の奥義の一つですな。
闇の執行官はかつての私を含め闇の魔法に憑りつかれた者達の集まりですからな』
「なるほど【憎悪の君の祝福】に闇に憑りつかれた魔法使いの集団か、ちなみにお前さんたちは憎悪の君って言葉にどんな意味があるか知ってるかい?」
「そうですわね、カッコいいですわ。……こほん、それは置いといて、たしか、呪いのドラゴンロード・ルシウスの二つ名だと聞いたことがあります、エフタルの人ならだれでも知ってるって両親が言ってたのを思い出しましたわ」
「そうさね、私も昔はエフタルに住んでた。その名は知ってたが、まさか呪いのドラゴンロードが今回の黒幕だというのか……」
マーガレットの予想に、ソフィアは声を大きくして否定した。
「そんな、有り得ませんわ。それは10年以上も前に両親やルカ様達によって討伐されたって……」
「うむ、だが、もし復活してたら……。いや、復活していたらこんな小規模な事件では済まない。
そうか、今回の主犯の狙い、呪いのドラゴンロードの復活をたくらんでいるのでは?
そう考えれば奴らの今後の動きが何か分かるやもしれん」
ルーシー達は、闇の魔法に対する防衛術の授業を受けるために古代魔法研究室に入ると、マーガレットがルーペを使いながら古いデザインの宝石箱を隅々まで観察しているのを見た。
彼女は研究室に入ってきたルーシー達を見るとルーペを机に戻し時計を確認する。
「ああ、もう授業の時間だったね」
ルカもそうだったが研究者というのは集中すると食事もろくに取らずに研究に没頭する生き物のようだ。
「しょうがないですね、こんなこともあろうかと、おやつを持参しておりますので、お茶の準備をしてきます」
セシリアは真っ白なエプロンを付けると、研究室内の魔法のティーポットをまるで自分の私物の様に使いだす。
さすがセバスティアーナさんの娘さんだなとルーシーが感心していると、後から入ってきたニコラスが素っ頓狂な声を上げた。
「ひっ! 先生……その宝石箱は……」
「ああ、殿下にはトラウマものだったね、これはすまんことをしたよ。
実はな、宮廷から依頼があってな、この魔法道具の調査研究をしているところだったんだよ。
この古代の魔法道具、いや今は何の反応もない抜け殻だけどね。それでも何か痕跡があればと思ってね」
この魔法の宝石箱は、かつてニコラスに憑りついたハヴォックを封印していた魔法道具。
今では中身はからであり、皇室騎士団の調査も虚しく、何も手がかりもないことからマーガレットの手に渡っていた。
ニコラスは一瞬声をうわずらせたが、直ぐにいつもの調子を取り戻す。
「……いえ、むしろ、マーガレット先生が管理してくれるなら安心です。
もしもあの時、あの古道具屋でそれを購入してたのがマーガレット先生だったら、俺みたいな失敗は無かったでしょうし……」
「ああ、そう言ってくれるのは嬉しいね。だが……私も教授である前に魔法道具のマニアなんだよ。
もし私が手に入れていたら結果はもっと最悪だったかもしれん。まあ、たらればの話をしても意味がないさ。
さて授業を始めようか。
そうだな、今日はこの魔法道具について当事者である殿下もいることだし、皆でこの魔法道具に関しての考察をしようじゃないか」
「あの、先生。カリキュラムはよろしいのですか?」
ソフィアは一応だが質問する。
マーガレットの授業はよく脱線するからだ。
「ああ、そもそもカリキュラムなど20年以上も前に作ったきりで一度も見ておらん。
あれは建前で書いただけだしな、単位は出席さえしてればあげるから安心しなさい。それよりも、今起きている魔法道具事件について勉強した方が余程有意義というものさね」
こうして今日の授業は昨今に起きたニコラス殿下呪い事件についての考察となった。
当事者であるニコラスは、改めてこの魔法道具について知っていることを話す。
もちろん皇室騎士団の取り調べで全て報告済みであるが、他に見落としがないか確認の為である。
「まず、この魔法の宝石箱は、古道具屋の店主が言うには【憎悪の君の祝福】というそうです。
そういえば、あの店主は捕まったのですか?」
「いや、その報告は聞いてないね。まあ、アラン先生が言うには、もし奴が黒幕でないならばとっくに消されてるだろうってさ」
「そうですか、俺はあの店主が人を貶めるような悪人とは思いませんでした。古道具にしては価格も手ごろだったし。でも今にして思えば俺に買わせる為だったのでしょうか」
「いや、奴は十年ほど前に古道具屋を開いてから一度も悪い噂を聞いたことがないね。
昔はトレジャーハンターとしてある程度の無茶はしたようだが、引退してからは年相応に落ち着いたって何度か聞いたからね。私としても奴が黒幕とは思えん」
「ではやはり、その闇の貴族連合という組織に捨て駒にされたという事でしょうか……」
「ああ、今のところその線で妥当だよ。そういえば殿下を呪ったやつについてもう一度聞かせてくれるかね?」
「ええ、やつは旧エフタル王国の闇の執行官、ハヴォックと名乗っていました。以前も言いましたが、それ以上の情報は得られませんでしたが」
ルーシーはセシリアの持参したお菓子に夢中で話半分であったが、一つ気になる単語を聞いた。
「あっ! 闇の執行官といえば、あいつのことだ。 いでよ! ハインド君」
ボフンと音をたて出現するハインド。
『今日二度目の呼び出しに感謝します。ですが魔力はまだ回復しておりませんが』
「うむ、ハインド君、今日は話だけだから。さてと君の元居た組織はなんと言ったっけ?」
『はあ。エフタル王国、国王直属の独立暗殺部隊、闇の執行官ですが。それがなにか? ……言っておきますが私が知ってるのはそれくらいで、マスターと出会う以前の記憶はほとんどありませんぞ?』
マーガレットはハインドの言葉に何かヒントを得たのか。
「エフタル王直属の暗殺部隊……。ハインドよ、ハヴォックという名に心当たりはないか?」
『マーガレット殿。残念ながらそこまでの記憶は残っておりませんな。ですが、ニコラス殿を呪った魔法は間違いなく闇の魔法の奥義の一つですな。
闇の執行官はかつての私を含め闇の魔法に憑りつかれた者達の集まりですからな』
「なるほど【憎悪の君の祝福】に闇に憑りつかれた魔法使いの集団か、ちなみにお前さんたちは憎悪の君って言葉にどんな意味があるか知ってるかい?」
「そうですわね、カッコいいですわ。……こほん、それは置いといて、たしか、呪いのドラゴンロード・ルシウスの二つ名だと聞いたことがあります、エフタルの人ならだれでも知ってるって両親が言ってたのを思い出しましたわ」
「そうさね、私も昔はエフタルに住んでた。その名は知ってたが、まさか呪いのドラゴンロードが今回の黒幕だというのか……」
マーガレットの予想に、ソフィアは声を大きくして否定した。
「そんな、有り得ませんわ。それは10年以上も前に両親やルカ様達によって討伐されたって……」
「うむ、だが、もし復活してたら……。いや、復活していたらこんな小規模な事件では済まない。
そうか、今回の主犯の狙い、呪いのドラゴンロードの復活をたくらんでいるのでは?
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