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第五章 学園編2
第79話 キャンプ実習④
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夜はすっかり更けていた。
食事の後しばらく談笑していたが、いよいよ魔法結界の当番が回ってきた。
ルーシー達の班は比較的早めだったのでコーヒーを飲みながら待っていたのだった。
四人は順番に『守護の杖』を発動させながら、世間話をして過ごす。
杖の先端から薄い膜の様な魔力の結界が周囲に広がる。
杖を使えば結界魔法の習得が出来ると聞いたが理由が分かった。
自身が杖に魔力を込めると杖からも逆に魔力の波動が伝わってきて、なぜ魔力が結界となっていくのか自然と理解できるのだ。
「たしかにマーガレット先生が言ってたことは最もだわ。冒険者パーティーでは魔法使いが一人ってのは当たり前だったんでしょ? もし、私一人だったらって思うとこんなの耐えられない」
リリアナは言う。皆も同じ意見だった。
「そうですわね、それに魔法使い以外のメンバーはぐっすり眠ってるんでしょ? 信じられないですわ」
「ソフィアさん、でも前衛は昼間身体を動かすから休まないと危険。魔法使いは昼寝ればいい」
セシリアは前衛だって大変だと言う。後衛の盾になる役割上、一番怪我をする可能性が高いのだ。
「セシリアさんの言う事もそうですけど、でもやっぱり戦闘になると起きなきゃいけないんでしょ? やっぱり不公平ですわ」
ソフィアは想像で昔の魔法使いの苦労をおもんばかる。
もちろん想像である。大変なのは間違いないが、魔法使いはそれだけ貴重な存在でありリターンも大きかった。
もちろん現代では魔法機械が発達したため、寝ずの番など必要ないし、オリビア学園が設立以降は優秀な魔法使いが増え状況はだいぶ改善されている。
「うーん、やっぱり私は干し肉は苦手だなー、ぶちぶちした食感は好きじゃない」
ルーシーは空気が読めず先程の食事の感想を言った。
だが、おかげで今は存在しない魔法使いの話で暗くなった雰囲気は消え去った。
「……そうね、あまり文句ばかり言ってては、せっかくのキャンプが台無しですわね。話題をかえましょうか」
「なら、怖い話をしましょう。お父さんが昔に教えてくれた本当にあった怖い話を……」
気分を変えるにはちょうど良いが、なぜかいきなり怖い話をしだすリリアナ。
「ちょっと、リリアナさん、冗談ですわよね。せっかくのキャンプだというのに……」
「ふふ、ソフィアさん、まさか怖いのですか? レーヴァテイン家のご令嬢ともあろうお方が? それに怖い話はキャンプの夜を彩る重要なイベントのはずですが?」
セシリアはソフィアを煽る。
「そ、そんなことないですわ。そ、そうよ、ルーシーさんが怖いんじゃないかって思って……」
「うん? 私は平気よ? むしろ大好物。昔、亡霊を探して冒険したこともあったっけ。でも、ソフィアさん、ハインド君はかっこいいって言ってたじゃない? あれでも一応亡霊なんだけど……」
「え? だってハインド君は理知的だし。なんか素敵じゃない。いかにも闇の者って感じで……ま、まあ、ルーシーさんがいいって言うなら聞いてあげないこともないですわ」
こうして満場一致の中、リリアナはとっておきの怖い話を始めたのだった。
◆◆◆
男は旅を続けた。
首都ベラサグンを出るとカルルク砂漠へと南下する。
オアシス都市へは向かわず、ひたすら南へ歩いた。
当然魔物とは何度も遭遇した。一人で歩いているのだ、格好の獲物であろう丸腰の男は狙われて当然である。
だがそれは男にとってもにとって好都合であった。
魔物が男を獲物と思っているように、男も魔物は獲物であった。
男は闇の魔法『ソウルスティール』により魔物の魂を喰らう。
何度も魔物の魂を喰らったのか身体は再び魔物のように変化していった。
ここには人間はいない……。人間の魂を喰らわなければやがて身も心も魔物になってしまうだろう。
もはや男は自分が何者であったのか忘れてしまった。
やがて、身体が魔物に変化したのか、食欲が沸いてきた。
これが魔物の本能なのか、気付けば男の手足は完全に魔物のそれとなっていた。
ここが砂漠でよかった。人に見られては、いや、鏡を見てしまったらと考えると恐ろしかった。
知性の衰えを感じる。その代わりに食欲は増すばかりだ。
なにか食べるものが欲しい。魂では満たせぬ肉体的な欲求。
生への激しい執着を感じるようになった。
さんざん魔物の魂を喰らったせいだろう。
ついに男は飢えを満たすために、手始めにサソリ型の魔物デスイーターを殺し、腹を引き裂きそのままかぶりつく。
だが死肉を食べても欲求はみたされない。
男は理解した、元々この身体は食事を必要としないのだ。
ではなぜ……それは生きている物をそのまま食べるという生への憎悪と欲求のみであると。
試しに死肉に回復魔法を掛けてみたが、かろうじで生きてる筋肉の一部がうごめくのみで生き返ることは無かった。
それでも幾分かは満たされた気がした。
しかし低俗な魔物では物足りない。
もっと高度の知性体を味わってみたいものだ。そう、贅沢は言わない。
せめて人間を……。
食事の後しばらく談笑していたが、いよいよ魔法結界の当番が回ってきた。
ルーシー達の班は比較的早めだったのでコーヒーを飲みながら待っていたのだった。
四人は順番に『守護の杖』を発動させながら、世間話をして過ごす。
杖の先端から薄い膜の様な魔力の結界が周囲に広がる。
杖を使えば結界魔法の習得が出来ると聞いたが理由が分かった。
自身が杖に魔力を込めると杖からも逆に魔力の波動が伝わってきて、なぜ魔力が結界となっていくのか自然と理解できるのだ。
「たしかにマーガレット先生が言ってたことは最もだわ。冒険者パーティーでは魔法使いが一人ってのは当たり前だったんでしょ? もし、私一人だったらって思うとこんなの耐えられない」
リリアナは言う。皆も同じ意見だった。
「そうですわね、それに魔法使い以外のメンバーはぐっすり眠ってるんでしょ? 信じられないですわ」
「ソフィアさん、でも前衛は昼間身体を動かすから休まないと危険。魔法使いは昼寝ればいい」
セシリアは前衛だって大変だと言う。後衛の盾になる役割上、一番怪我をする可能性が高いのだ。
「セシリアさんの言う事もそうですけど、でもやっぱり戦闘になると起きなきゃいけないんでしょ? やっぱり不公平ですわ」
ソフィアは想像で昔の魔法使いの苦労をおもんばかる。
もちろん想像である。大変なのは間違いないが、魔法使いはそれだけ貴重な存在でありリターンも大きかった。
もちろん現代では魔法機械が発達したため、寝ずの番など必要ないし、オリビア学園が設立以降は優秀な魔法使いが増え状況はだいぶ改善されている。
「うーん、やっぱり私は干し肉は苦手だなー、ぶちぶちした食感は好きじゃない」
ルーシーは空気が読めず先程の食事の感想を言った。
だが、おかげで今は存在しない魔法使いの話で暗くなった雰囲気は消え去った。
「……そうね、あまり文句ばかり言ってては、せっかくのキャンプが台無しですわね。話題をかえましょうか」
「なら、怖い話をしましょう。お父さんが昔に教えてくれた本当にあった怖い話を……」
気分を変えるにはちょうど良いが、なぜかいきなり怖い話をしだすリリアナ。
「ちょっと、リリアナさん、冗談ですわよね。せっかくのキャンプだというのに……」
「ふふ、ソフィアさん、まさか怖いのですか? レーヴァテイン家のご令嬢ともあろうお方が? それに怖い話はキャンプの夜を彩る重要なイベントのはずですが?」
セシリアはソフィアを煽る。
「そ、そんなことないですわ。そ、そうよ、ルーシーさんが怖いんじゃないかって思って……」
「うん? 私は平気よ? むしろ大好物。昔、亡霊を探して冒険したこともあったっけ。でも、ソフィアさん、ハインド君はかっこいいって言ってたじゃない? あれでも一応亡霊なんだけど……」
「え? だってハインド君は理知的だし。なんか素敵じゃない。いかにも闇の者って感じで……ま、まあ、ルーシーさんがいいって言うなら聞いてあげないこともないですわ」
こうして満場一致の中、リリアナはとっておきの怖い話を始めたのだった。
◆◆◆
男は旅を続けた。
首都ベラサグンを出るとカルルク砂漠へと南下する。
オアシス都市へは向かわず、ひたすら南へ歩いた。
当然魔物とは何度も遭遇した。一人で歩いているのだ、格好の獲物であろう丸腰の男は狙われて当然である。
だがそれは男にとってもにとって好都合であった。
魔物が男を獲物と思っているように、男も魔物は獲物であった。
男は闇の魔法『ソウルスティール』により魔物の魂を喰らう。
何度も魔物の魂を喰らったのか身体は再び魔物のように変化していった。
ここには人間はいない……。人間の魂を喰らわなければやがて身も心も魔物になってしまうだろう。
もはや男は自分が何者であったのか忘れてしまった。
やがて、身体が魔物に変化したのか、食欲が沸いてきた。
これが魔物の本能なのか、気付けば男の手足は完全に魔物のそれとなっていた。
ここが砂漠でよかった。人に見られては、いや、鏡を見てしまったらと考えると恐ろしかった。
知性の衰えを感じる。その代わりに食欲は増すばかりだ。
なにか食べるものが欲しい。魂では満たせぬ肉体的な欲求。
生への激しい執着を感じるようになった。
さんざん魔物の魂を喰らったせいだろう。
ついに男は飢えを満たすために、手始めにサソリ型の魔物デスイーターを殺し、腹を引き裂きそのままかぶりつく。
だが死肉を食べても欲求はみたされない。
男は理解した、元々この身体は食事を必要としないのだ。
ではなぜ……それは生きている物をそのまま食べるという生への憎悪と欲求のみであると。
試しに死肉に回復魔法を掛けてみたが、かろうじで生きてる筋肉の一部がうごめくのみで生き返ることは無かった。
それでも幾分かは満たされた気がした。
しかし低俗な魔物では物足りない。
もっと高度の知性体を味わってみたいものだ。そう、贅沢は言わない。
せめて人間を……。
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