自分をドラゴンロードの生まれ変わりと信じて止まない一般少女

神谷モロ

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第二章 船旅

第24話 クルーズ船の旅⑦

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 日が暮れる。
 夜の暗闇に抗うように、あるいは星々に対して抗うかのようにレスレクシオン号の船体は光り輝いた。
 船体中の照明が光り輝き、その明かりは広大な海原で2つ目の月の様であった。

 テーブルを綺麗に片づけられたダイニングルームが仮装パーティーの舞台だ。
 シャンデリアから降り注ぐ柔らかな光が、部屋を温かく照らし、乗客たちの鮮やかな仮装がその中で際立っていた。

『レスレクシオン号』の人気イベント、立食形式の仮装パーティーが開催された。

 立食テーブルには、美味しいフィンガーフードとカクテルが並び、乗客たちは自由に選んで楽しんでいる。
 フィンガーフードは星型や船型など様々な形をしたものが多く、見た目にも楽しい料理が豊富に用意されていた。

 乗客たちは立食の間にダンスや音楽を楽しんでいる。
 音楽が響き渡り、ライトアップされた舞台は幻想的で非日常的な空間に包まれていた。

 周りには魔法使いに騎士、妖精に海賊にメイドさん?
 見知ったメイドさんが子供たちを迎えてくれた。

「お待ちしておりました。立食形式のパーティーですので、いろいろと作法があろうかと思いまして。あとルカ様の粗相をあらかじめお詫びします」

「なんじゃ、セバスちゃん、吾輩はてっきり来ないものと思っておったぞ」

「いいえ、私はルカ様の準備した衣装を着るのが嫌なだけですので……マーメイドとか勘弁してくださいよ」

「何を言う、似合うと思ったのにもったいない。まあお主のメイド服も仮装と言えば仮装か」

 確かに、この船の給仕さんの服とはデザインが違う。
 それに不思議な形をした短い剣の様な物を二本、腰の後のエプロンの結び目のあたりで左右対称に差しているので仮装としては成立しているといえる。
 戦うメイドは現実には居ないので仮装なのだ。

「よーし、レオ! とりあえず腹ごしらえよ。ハインド君は……食べれないよね?」

『はい、もちろんです。ですがマスターが美味しく食べることで私もその幸福感は感じ取ることが出来ます』

「ならば問題なし! 皆、いくぞー!」

「おー。うふふ、ルーシーちゃんには負けちゃうよー。ダイエットはこの船では忘れるねー」

「おう、アンナは太っても可愛いぞ! よし、俺も海賊らしく暴食してやるぜ!」

「姉ちゃん! もうちょっとおしとやかにしてよ。深淵の魔女とか、何でもいいからさ、せめてキャラクター設定は守ってよね、あと太ったら父上ががっかりするから……もう! 聞いてないんだから」

「うむ、よいよい、子供は少し太ってたくらいが健康的でよい」

 ルカも子供たちの後についてフードコーナーに向かう。

「はあ、まったく。料理は一度に取りすぎてはいけませんよ、あと食べ過ぎに気を付けてくださいね」

「セバスちゃんよ、良いではないか。相手は子供なのだぞ?」

「はい、ですので私はルカ様に言ったつもりなのですが?」

 …………。

 ふいに照明が点滅する。

 そして一時的に暗闇が包む。

 フロアにいる乗客たちはこれも演出の一部だと思って特に動揺していなかった。

 再び明かりが消える。そしてまた点灯する。

「うん? なんじゃ? エンジンの出力が足らんのか? 余裕のある設計にしたつもりじゃが……。
 子供達よ、すまんな。吾輩は少し機関室の様子を見てくる。セバスちゃんは子供たちをたのむぞい」

 ルカが会場を後にし、機関室へやや急ぎ足で向かう。

「うーん、なにか問題があったのかな? やはり天才とはいえ完ぺきではないのか。ジャン君よ、発明家を目指すならアフターケアも大事だぞ? 作ったら、はいお終い、では話にならんからな」

 ドヤ顔で言うルーシー。それっぽい意見を言ってみただけだが、船大工の息子のジャンには正論に思えた。

「そうだよな、最初から完璧な物なんて作れないってことだよな。船大工は既にある物を完璧に作るのが仕事だし、畑が違うっていうか……」

 フロアで流れている音楽が終わった。ピアノを弾いていたピエロの格好をした男性が立ち上がり挨拶をする。

 それと同時に拍手が沸き起こる。

「皆さま、僕の楽曲、最後までお聞きくださり感謝いたします。……そしてお眠りなさい。極大呪術『冥王の夜想曲』!」

 次の瞬間、フロアにいた全ての乗客は強烈な眠気に襲われその場に倒れた。
「くっくっく。成功だな。警戒すべきはマスター級魔法使いルカ・レスレクシオン。やつは今頃機関室で原因不明のトラブルの対処で大忙しだろう。もっともトラブルなどないのだがな」

 ピエロは警戒するもう一人の存在、ルカのメイドが術にかかって眠っている姿を確認するとほっと胸をなでおろした。

「あの二人が一緒だと厄介だからな。このタイミングを待って正解だった」

 あとは財布から金を回収して、忘却の魔法を掛ければ皆何事もなかったかのように、元通りのんきに船旅を楽しめばいい。

 ピエロは近くで倒れている夫人が持っていたハンドバッグから金貨をあさる。

「おっと、全部取ってしまってはバレてしまうからな。ほんの少し、財布から多少の金が無くなっても、こいつらの金銭感覚ならバレることはないさ」

 10枚の金貨が入っていれば1枚だけ盗む。こうすれば少し不思議だと思っても、そこまで深くは考えない。ピエロが考えた完全犯罪である。

「どうしたんだ皆! おい。レオ、起きろ! アンナちゃん、ジャン君。それにセバスティアーナさんまで。なんだこれは!」
『マスター、 落ち着いてください。これは何らかの魔法によるものかと……』

 ――っ!

「馬鹿な、なぜ眠っていない。曲は最後まで聞いていたはず。仮に外に出ていたとしても、僕の魔法はフロアの外まで聞こえたはずだ!」

 全て眠らせたはずのフロアには魔女の格好をした少女と。骸骨の仮面をかぶった男が立っていた。
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