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第二章 船旅
第20話 クルーズ船の旅③
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ひとしきり食事を終えると4人はダイニングルームを後にする。
「くっ、食べ過ぎてしまった。まさかここまでの量があるとはな、だがドレスが可哀そうだからこの辺にしておいてやろう」
子供用のドレスなのでウエストを引き締める構造ではないのだが、さすがに食べすぎは控えるルーシー。大人なのだ。
「ほんとだねー。私もちょっと食べ過ぎっちゃかも、ちょっと休憩しよー」
クルーズ船『レスレクシオン号』には食事の後の娯楽も豊富にある。
大人の男性たちは、喫煙室に行くそうだ。
文字通りに煙草を吸う場所ではあるが社交場という面もあり、交友関係を広げたりする目的に重宝される。
ジャンとしては将来の為、顔を広げる目的もあり是非にと思っていたようだが、当たり前だが未成年の入室は断られてしまった。
「くっくっく。ジャン君にはまだ早い、それにタバコを吸ったことないだろ? そうだ、キッズルームがあるそうだし、そっちで交友関係を結んではいかがかしら? 将来の世界一さん、ぶふっ」
先ほどジャンから葬式の衣装と言われて少し根に持ったルーシーはここぞとばかりに反撃に出た。
「う、うるさいぞ。ルーシーにだけは言われたくない。それに12歳になってキッズルームなんか行けるか!」
「ねえ、皆、少し外を歩かない? プロムナードデッキってお船をぐるっと一周できるんだって」
「お、さすがアンナ。ルーシーと違って建設的な意見ができる。これが大人ってやつだぜ」
「うむ、アンナちゃんは大人だ、それは否定するところではない。では行こうじゃないか。いざ決戦のプロムナードデッキへ!」
「姉ちゃん、そういうところが子供っぽいって言うんだよ……」
ディナーの後、プロムナードデッキに足を踏み入れた瞬間、そこは船内の騒がしさから解放され静寂と優雅さが彼女らを迎えてくれた。
太陽はすでに水平線の彼方に沈み、海は深い青に染まっていた。
プロムナードデッキの通路には、柔らかな灯りが幻想的な輝きを与え、風が心地よく髪をなびかせた。
デッキの一角に座る乗客たちは、防風ガラスに囲まれた空間から見える星座をじっと眺めていた。
遠くの海面では、月の光が水面に揺らめき、夜空には星々がきらめいていた。
船の動きは静かで、その揺れは穏やかで心地よかった。
また通路には、ディナーの余韻に浸りながらゆっくりと歩く乗客たちがいた。
優雅な服装を身にまとった人々が会話を楽しみながら、海の静寂に包まれた瞬間を共有していた。
この時間、プロムナードデッキはロマンチックな雰囲気に包まれ、乗客たちは静かな幸せを見つけているようだった。
船内での喧騒とは対照的な、穏やかで魅力的な瞬間が広がっていた。
「すっごーい。圧倒されちゃうねー。ジャン君はこれよりも大きな船を作るんだよねー。すっごーい」
何気にプレッシャーを与えるアンナである。
「お、おう。いつかはな。……だが、出来るのか。外から見たときはでっかいだけで何とかなると思ってたけど。船の中がまるで一つの街じゃないか……く。ここまでとは」
手を振るわせながら悔しそうに溜息をつく。
「なんだ、ジャン君よ。珍しく弱気になってるな、大丈夫だ、今できることを一歩一歩やればいいだけだろうが」
「ルーシー。……確かにな。たまにはいいこと言うじゃないか」
「そうだよ、ジャン君。姉ちゃんの言うとおり、一歩ずつだよ。この船を作った人だって最初は小さな船から作ってたはずだし。そういえばこの船を作った人ってどういう人なの?」
「ああ、そういえば。まだ言ってなかったっけ。父ちゃんも造船に関わってたから少し詳しいよ。
まず『レスレクシオン号』って名前のとおり、船の動力から船体の大まかな構造は全てルカ・レスレクシオンって貴族の人が設計してたんだ」
「ふむ、自分の名前を船に付けるとは……、なんて自己顕示欲の強さよ。うむ、我も見習わないとな」
「レスレクシオンさん……あっ! 魔法機械の発明家で有名な人だよねー。家にもあるよー、冷蔵庫とか洗濯機を作った人でしょ?」
「おう、そのとおりだ。俺も会ったことは無いけど、父ちゃんの話だとすっごい人だったって。まるでルーシーみたいな横柄な態度で……」
ジャンが言い終わる前に後ろから大きな声が聞こえた。
「おお、少年たちよ。吾輩の事を話しているな! はっはっは。よいよい。吾輩の功績、大いに語るとよい!」
声を掛けてきたのは一人の大人の女性だった。貴族然とした仕立ての良いジャケットにズボン、長く伸びた銀髪に知的さを思わせる眼鏡を掛けた姿は、声を発するまで女性だと思わなかった。
見ただけで偉人のオーラを放つ立ち姿にどこかの国の王子様かと思っていたくらいだ。
「まさか、あなたは……あの偉大な!」
ジャンは直ぐに気が付く。キラキラと輝く瞳は英雄を目の前にした無垢な少年そのものである。
「ふっふっふ、そのとーり! 少年よ、吾輩こそが天才発明家のルカ・レスレクシオンであーる!」
「くっ、食べ過ぎてしまった。まさかここまでの量があるとはな、だがドレスが可哀そうだからこの辺にしておいてやろう」
子供用のドレスなのでウエストを引き締める構造ではないのだが、さすがに食べすぎは控えるルーシー。大人なのだ。
「ほんとだねー。私もちょっと食べ過ぎっちゃかも、ちょっと休憩しよー」
クルーズ船『レスレクシオン号』には食事の後の娯楽も豊富にある。
大人の男性たちは、喫煙室に行くそうだ。
文字通りに煙草を吸う場所ではあるが社交場という面もあり、交友関係を広げたりする目的に重宝される。
ジャンとしては将来の為、顔を広げる目的もあり是非にと思っていたようだが、当たり前だが未成年の入室は断られてしまった。
「くっくっく。ジャン君にはまだ早い、それにタバコを吸ったことないだろ? そうだ、キッズルームがあるそうだし、そっちで交友関係を結んではいかがかしら? 将来の世界一さん、ぶふっ」
先ほどジャンから葬式の衣装と言われて少し根に持ったルーシーはここぞとばかりに反撃に出た。
「う、うるさいぞ。ルーシーにだけは言われたくない。それに12歳になってキッズルームなんか行けるか!」
「ねえ、皆、少し外を歩かない? プロムナードデッキってお船をぐるっと一周できるんだって」
「お、さすがアンナ。ルーシーと違って建設的な意見ができる。これが大人ってやつだぜ」
「うむ、アンナちゃんは大人だ、それは否定するところではない。では行こうじゃないか。いざ決戦のプロムナードデッキへ!」
「姉ちゃん、そういうところが子供っぽいって言うんだよ……」
ディナーの後、プロムナードデッキに足を踏み入れた瞬間、そこは船内の騒がしさから解放され静寂と優雅さが彼女らを迎えてくれた。
太陽はすでに水平線の彼方に沈み、海は深い青に染まっていた。
プロムナードデッキの通路には、柔らかな灯りが幻想的な輝きを与え、風が心地よく髪をなびかせた。
デッキの一角に座る乗客たちは、防風ガラスに囲まれた空間から見える星座をじっと眺めていた。
遠くの海面では、月の光が水面に揺らめき、夜空には星々がきらめいていた。
船の動きは静かで、その揺れは穏やかで心地よかった。
また通路には、ディナーの余韻に浸りながらゆっくりと歩く乗客たちがいた。
優雅な服装を身にまとった人々が会話を楽しみながら、海の静寂に包まれた瞬間を共有していた。
この時間、プロムナードデッキはロマンチックな雰囲気に包まれ、乗客たちは静かな幸せを見つけているようだった。
船内での喧騒とは対照的な、穏やかで魅力的な瞬間が広がっていた。
「すっごーい。圧倒されちゃうねー。ジャン君はこれよりも大きな船を作るんだよねー。すっごーい」
何気にプレッシャーを与えるアンナである。
「お、おう。いつかはな。……だが、出来るのか。外から見たときはでっかいだけで何とかなると思ってたけど。船の中がまるで一つの街じゃないか……く。ここまでとは」
手を振るわせながら悔しそうに溜息をつく。
「なんだ、ジャン君よ。珍しく弱気になってるな、大丈夫だ、今できることを一歩一歩やればいいだけだろうが」
「ルーシー。……確かにな。たまにはいいこと言うじゃないか」
「そうだよ、ジャン君。姉ちゃんの言うとおり、一歩ずつだよ。この船を作った人だって最初は小さな船から作ってたはずだし。そういえばこの船を作った人ってどういう人なの?」
「ああ、そういえば。まだ言ってなかったっけ。父ちゃんも造船に関わってたから少し詳しいよ。
まず『レスレクシオン号』って名前のとおり、船の動力から船体の大まかな構造は全てルカ・レスレクシオンって貴族の人が設計してたんだ」
「ふむ、自分の名前を船に付けるとは……、なんて自己顕示欲の強さよ。うむ、我も見習わないとな」
「レスレクシオンさん……あっ! 魔法機械の発明家で有名な人だよねー。家にもあるよー、冷蔵庫とか洗濯機を作った人でしょ?」
「おう、そのとおりだ。俺も会ったことは無いけど、父ちゃんの話だとすっごい人だったって。まるでルーシーみたいな横柄な態度で……」
ジャンが言い終わる前に後ろから大きな声が聞こえた。
「おお、少年たちよ。吾輩の事を話しているな! はっはっは。よいよい。吾輩の功績、大いに語るとよい!」
声を掛けてきたのは一人の大人の女性だった。貴族然とした仕立ての良いジャケットにズボン、長く伸びた銀髪に知的さを思わせる眼鏡を掛けた姿は、声を発するまで女性だと思わなかった。
見ただけで偉人のオーラを放つ立ち姿にどこかの国の王子様かと思っていたくらいだ。
「まさか、あなたは……あの偉大な!」
ジャンは直ぐに気が付く。キラキラと輝く瞳は英雄を目の前にした無垢な少年そのものである。
「ふっふっふ、そのとーり! 少年よ、吾輩こそが天才発明家のルカ・レスレクシオンであーる!」
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