自分をドラゴンロードの生まれ変わりと信じて止まない一般少女

神谷モロ

文字の大きさ
上 下
18 / 151
第二章 船旅

第18話 クルーズ船の旅①

しおりを挟む
「すっごーい、見て見てルーシーちゃん。街があんなにちっちゃくなってるよ!」

 船は静かな波の上をゆっくりと進んでいた。
 ルーシー達は船尾に立って、出発したばかりの港を見つめていた。港の建物や人々は、まるで豆粒のように小さく見えた。

 ルーシーは海に出るのは初めてだった。

「くっ、奴のテリトリーに来てしまった。だがいい眺めには違いない。……あ! あそこにいるのはお父様!」

「え? ルーシーちゃんのパパ? どこ?」

 港に見える赤毛の男性は間違いなく父親だ。
 船はかなり沖の方に来ているため人の見分けはつかないが、ルーシーはシルエットだけで大好きな父親だとわかる。

 そして父親と向かい合う一人、全体に青いシルエットの女性。ベアトリクスだ。

 父は警備隊長をしている仕事柄ベアトリクスと一緒にいることが多い。

「ち、またあの女か。許してやったとはいえ、……余りお父様にまとわりつくなよ……」

「えー? ルーシーちゃん女神様と仲直りしたんじゃないの?」

「アンナちゃんよ。確かに仲直りはしたが、私は馴れ馴れしくするつもりはないのだ、わっはっは」

 船は進む。心地よい潮風は彼女たちを祝福するかのようにスカートを優雅に揺らす。

「おーい、二人とも、こんなとこにいないで船内を冒険しようぜ。せっかくのクルーズ船なんだぜ?」

 ルーシー達は今、豪華クルーズ船「レスレクシオン号」に乗っている。


 ◇◇◇◇◇

 時は遡る。

 いつもの塾の帰りにて。ジャンはやや興奮気味にルーシー達に話しかけた。

「ふふふ、聞いて驚けよ! 父ちゃんの知り合いから特別にクルーズ船のチケットをもらったんだ。4人分あるから友達誘って行って来いって」

 ジャンの父親は船大工である。クルーズ船の製造にも関わっていたため特別にチケットをもらったのだった。
 本来なら家族で行くはずだったが。ジャンの家族は仕事が忙しく、子供達で行ってきなさいと譲ってもらったそうだ。

「すっごーい、クルーズ船ってとっても豪華なんでしょ? はっ! どうしよう、着る服がないわ!」

「おいおい、着る服ってなんだよ。お前服着てるじゃんか」

「もう、ジャン君は何もわかってない。これ一等客室のチケットでしょ? こんな服じゃだめだよ」

 クルーズ船、一等客室のチケット、それはセレブに許された娯楽だ。
 子供だとしても相応しい服がある。アンナは何も知らないジャンに数分にわたって説教をした。

「お、おう。そうなのか? 服なんて清潔なら何でもいいんじゃないのか?」

「だめだって、ジャン君、今から服を買いにいかなきゃ」

 ジャンは職人の息子ということもあって専門知識はあるし、頭もいい、算数はルーシーよりも得意だ。
 しかし一般教養といったところで時々ポンコツになる。

 そこをうまくフォローするのはアンナであった。
 彼女は勉強は苦手な方で、普段おっとりした性格であるが、料理や裁縫は得意で、実に家庭的である。

 この二人はお似合いだと、ルーシーはニヤニヤしながら二人のやり取りを見ていた。
 

「姉ちゃん、どうしよう。僕らそんなにいい服もってないよ」

 弟の発言で他人事ではないと気づくルーシーだったが……解決策はある。
 そして、大人らしく余裕の態度で弟に返す。

「そういうことならレオ、お父様に相談するのよ。いいこと? 私がお父様に相談するから、お母様にはしぶしぶ了承するようにしなきゃ。お母様は……ちょっとケチだから」

 大人であるルーシーは父親から衣装代を出してもらうという結論に出たのだった……。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【宮廷魔法士のやり直し!】~王宮を追放された天才魔法士は山奥の村の変な野菜娘に拾われたので新たな人生を『なんでも屋』で謳歌したい!~

夕姫
ファンタジー
【私。この『なんでも屋』で高級ラディッシュになります(?)】 「今日であなたはクビです。今までフローレンス王宮の宮廷魔法士としてお勤めご苦労様でした。」 アイリーン=アドネスは宮廷魔法士を束ねている筆頭魔法士のシャーロット=マリーゴールド女史にそう言われる。 理由は国の禁書庫の古代文献を持ち出したという。そんな嘘をエレイナとアストンという2人の貴族出身の宮廷魔法士に告げ口される。この2人は平民出身で王立学院を首席で卒業、そしてフローレンス王国の第一王女クリスティーナの親友という存在のアイリーンのことをよく思っていなかった。 もちろん周りの同僚の魔法士たちも平民出身の魔法士などいても邪魔にしかならない、誰もアイリーンを助けてくれない。 自分は何もしてない、しかも突然辞めろと言われ、挙句の果てにはエレイナに平手で殴られる始末。 王国を追放され、すべてを失ったアイリーンは途方に暮れあてもなく歩いていると森の中へ。そこで悔しさから下を向き泣いていると 「どうしたのお姉さん?そんな収穫3日後のラディッシュみたいな顔しちゃって?」 オレンジ色の髪のおさげの少女エイミーと出会う。彼女は自分の仕事にアイリーンを雇ってあげるといい、山奥の農村ピースフルに連れていく。そのエイミーの仕事とは「なんでも屋」だと言うのだが…… アイリーンは新規一転、自分の魔法能力を使い、エイミーや仲間と共にこの山奥の農村ピースフルの「なんでも屋」で働くことになる。 そして今日も大きなあの声が聞こえる。 「いらっしゃいませ!なんでも屋へようこそ!」 と

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

処理中です...