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第一章 我こそが
第13話 千年牢獄②
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再び静寂に包まれた牢獄の中で。
ベアトリクスに対する怒りはあるが。本人が目の前にいないので次第に冷静になっていった。
とりあえずは一人ぼっちではない。何とかなるだろう。
それにしてもハインドという牢獄の同居人、意外にもそんなに悪い奴じゃないのかも。
お墓で話をしたときにも思ったが、彼は嫉妬を拗らせていただけで基本的にエリートなのだ、宮廷魔法使いの中でも王様が直轄する特務部隊、執行官だと言っていたのを思い出す。殺しが仕事のだけで別に好きでやっていたわけではないのだろう。
いや、実際は自分に死に至る闇の魔法を掛けたらしいが。まったく無傷だったから別に気にしていない。それに少し煽りすぎた自分も悪かったと反省する。
今となってはベアトリクスの方が絶対に悪い奴だ。
やはり海のドラゴンロードは敵なのだ。
そして敵の敵は味方。ここは協力して立ち回ろうとルーシーはハインドに声を掛ける。
「ところで、ハインド君。千年牢獄ってどんな魔法なのだ? 随分と詳しいみたいだけど」
ハインドも冷静だった。なんとか現状を打開するために骨の手を顎に当てながら考えているポーズを取る。
ルーシーは不覚にもハインドがカッコいいと思ってしまった。
彼女が物語の本で得た知識ではスケルトンは知能が無い雑魚モンスターとしてしか扱われていなかった。それに対し目の前の彼は黒いローブを着た外見と相まって、その知的な姿とのギャップが余計にそう思わせたのだ。
「うむ、よく知っている。極大呪術『千年牢獄』とは対象の魂を時空間の牢獄に閉じ込める拷問の為の魔法。一度魔法に掛けられてしまったら術者の許可なく出ることはできない。刑期は名の通り千年だ。
だが、現実の時間経過は数分にも満たないし肉体的なダメージは一切ない」
「うそ、私、千年もこんな牢獄に閉じ込められるってこと? 最低じゃない! 退屈で死んじゃうわ、それに御飯とか御手洗とかどうしよう……」
「いや、そういう問題ではないのだが……。それに今の我々の身体はイメージに過ぎないから食事や睡眠などは必要ない」
「むう、なら退屈なのが問題ね。暇つぶしの方法を考えないと」
「いやいや、だから、君も言っただろう。退屈で死ぬと……つまり魂が死んだ廃人になってしまうというのだ。だから私はこれを死よりも罪深い非人道的な魔法だと言ったのだ」
「なるほど、ベアトリクスの奴、いよいよ化けの皮が剥がれたな、何が女神様だ」
「うん? 君の場合は言えばいいだけじゃないのか? 私は無理だが君は助かるだろう「大好きベアトリクス様」と言えば」
「――っ! それだけは絶対に嫌! ……それに私だけ助かってもハインド君はどうなるの?」
「ふっ、まったく……。殺そうとした相手のことを心配するとは。君は変わった娘だな。ところで先程から随分と態度が違うな。普段の大げさな振る舞いは無理してたのかな? 私としては今の方が良いと思うが」
いつのまにか普段の口調でしゃべっていた。
ルーシーは努力してドラゴンロードの口調をしているので語彙が少ないのだ。だから日常会話となると普段の口調に戻ってしまう。
それに今は緊急事態である為それどころではなかった。
だが指摘されると急に恥ずかしくなる。
「う、うるさいぞ! 我は奴の言いなりになるのが嫌なだけじゃ! こんな牢獄など我が力で――」
ルーシーは照れ隠しに鉄格子の扉を押す。当然鍵が掛けられており開くはずがない。
ゴキン!
金属が断裂する音が牢獄全体に響く。
鉄格子の扉はそのまま外側にゆっくりと開いていった。
「あれ? 私なんかやっちゃった? 錆びてたのかな? でもラッキー!」
ハインドは有り得ない光景に無いはずの骸骨の目を見開いて今起きた現象を考える。
(ありえない。ここは精神の世界で現実ではないのだ。鍵が錆びているとか絶対にありえない。
だが、ルーシーという娘は特に何かしたわけでもない。それに『千年牢獄』を破るには術者以上の魔法使いでなければ不可能だ。この娘はいったい何者なのだ……)
バキン!
今度は鉄格子が折れた。
「なーんだ、これおもちゃじゃない。何で出来てるのかな。飴かしら? でも断面はキラキラしてて金属っぽいけど……」
ルーシーは折れた鉄の棒を振り回すが持った部分から粉々になって崩れていった。
「うーん、ベアトリクスにまんまと騙されたのか。おのれー、どうやって仕返しをしてやろう」
ハインドはルーシーによって破壊された鉄格子の破片を拾う。
(間違いなく鉄だ。生身の力、いや精神世界での私の力では決して壊すことはできないだろう)
「ねぇハインド君。さっきからずっと黙ってるけど、ほら、扉が開いたじゃない。これで私達外に出られるわ」
「あ、ああ。そのようだ。だが、本当に外に出ていいものか。私はお前を殺そうとしたのだぞ?」
「お前じゃない。ルーシーよ。私は……いや。ゴホン。我は呪いのドラゴンロード、ルーシーである! ハインドよ、お主を我が眷属に迎えよう。だから一緒に外の世界へ行こうではないか!」
差し出したルーシーの手を取るハインド。
手をつないだ少女と骸骨は、光が漏れる外への扉に向かって歩いて行った。
ベアトリクスに対する怒りはあるが。本人が目の前にいないので次第に冷静になっていった。
とりあえずは一人ぼっちではない。何とかなるだろう。
それにしてもハインドという牢獄の同居人、意外にもそんなに悪い奴じゃないのかも。
お墓で話をしたときにも思ったが、彼は嫉妬を拗らせていただけで基本的にエリートなのだ、宮廷魔法使いの中でも王様が直轄する特務部隊、執行官だと言っていたのを思い出す。殺しが仕事のだけで別に好きでやっていたわけではないのだろう。
いや、実際は自分に死に至る闇の魔法を掛けたらしいが。まったく無傷だったから別に気にしていない。それに少し煽りすぎた自分も悪かったと反省する。
今となってはベアトリクスの方が絶対に悪い奴だ。
やはり海のドラゴンロードは敵なのだ。
そして敵の敵は味方。ここは協力して立ち回ろうとルーシーはハインドに声を掛ける。
「ところで、ハインド君。千年牢獄ってどんな魔法なのだ? 随分と詳しいみたいだけど」
ハインドも冷静だった。なんとか現状を打開するために骨の手を顎に当てながら考えているポーズを取る。
ルーシーは不覚にもハインドがカッコいいと思ってしまった。
彼女が物語の本で得た知識ではスケルトンは知能が無い雑魚モンスターとしてしか扱われていなかった。それに対し目の前の彼は黒いローブを着た外見と相まって、その知的な姿とのギャップが余計にそう思わせたのだ。
「うむ、よく知っている。極大呪術『千年牢獄』とは対象の魂を時空間の牢獄に閉じ込める拷問の為の魔法。一度魔法に掛けられてしまったら術者の許可なく出ることはできない。刑期は名の通り千年だ。
だが、現実の時間経過は数分にも満たないし肉体的なダメージは一切ない」
「うそ、私、千年もこんな牢獄に閉じ込められるってこと? 最低じゃない! 退屈で死んじゃうわ、それに御飯とか御手洗とかどうしよう……」
「いや、そういう問題ではないのだが……。それに今の我々の身体はイメージに過ぎないから食事や睡眠などは必要ない」
「むう、なら退屈なのが問題ね。暇つぶしの方法を考えないと」
「いやいや、だから、君も言っただろう。退屈で死ぬと……つまり魂が死んだ廃人になってしまうというのだ。だから私はこれを死よりも罪深い非人道的な魔法だと言ったのだ」
「なるほど、ベアトリクスの奴、いよいよ化けの皮が剥がれたな、何が女神様だ」
「うん? 君の場合は言えばいいだけじゃないのか? 私は無理だが君は助かるだろう「大好きベアトリクス様」と言えば」
「――っ! それだけは絶対に嫌! ……それに私だけ助かってもハインド君はどうなるの?」
「ふっ、まったく……。殺そうとした相手のことを心配するとは。君は変わった娘だな。ところで先程から随分と態度が違うな。普段の大げさな振る舞いは無理してたのかな? 私としては今の方が良いと思うが」
いつのまにか普段の口調でしゃべっていた。
ルーシーは努力してドラゴンロードの口調をしているので語彙が少ないのだ。だから日常会話となると普段の口調に戻ってしまう。
それに今は緊急事態である為それどころではなかった。
だが指摘されると急に恥ずかしくなる。
「う、うるさいぞ! 我は奴の言いなりになるのが嫌なだけじゃ! こんな牢獄など我が力で――」
ルーシーは照れ隠しに鉄格子の扉を押す。当然鍵が掛けられており開くはずがない。
ゴキン!
金属が断裂する音が牢獄全体に響く。
鉄格子の扉はそのまま外側にゆっくりと開いていった。
「あれ? 私なんかやっちゃった? 錆びてたのかな? でもラッキー!」
ハインドは有り得ない光景に無いはずの骸骨の目を見開いて今起きた現象を考える。
(ありえない。ここは精神の世界で現実ではないのだ。鍵が錆びているとか絶対にありえない。
だが、ルーシーという娘は特に何かしたわけでもない。それに『千年牢獄』を破るには術者以上の魔法使いでなければ不可能だ。この娘はいったい何者なのだ……)
バキン!
今度は鉄格子が折れた。
「なーんだ、これおもちゃじゃない。何で出来てるのかな。飴かしら? でも断面はキラキラしてて金属っぽいけど……」
ルーシーは折れた鉄の棒を振り回すが持った部分から粉々になって崩れていった。
「うーん、ベアトリクスにまんまと騙されたのか。おのれー、どうやって仕返しをしてやろう」
ハインドはルーシーによって破壊された鉄格子の破片を拾う。
(間違いなく鉄だ。生身の力、いや精神世界での私の力では決して壊すことはできないだろう)
「ねぇハインド君。さっきからずっと黙ってるけど、ほら、扉が開いたじゃない。これで私達外に出られるわ」
「あ、ああ。そのようだ。だが、本当に外に出ていいものか。私はお前を殺そうとしたのだぞ?」
「お前じゃない。ルーシーよ。私は……いや。ゴホン。我は呪いのドラゴンロード、ルーシーである! ハインドよ、お主を我が眷属に迎えよう。だから一緒に外の世界へ行こうではないか!」
差し出したルーシーの手を取るハインド。
手をつないだ少女と骸骨は、光が漏れる外への扉に向かって歩いて行った。
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