自分をドラゴンロードの生まれ変わりと信じて止まない一般少女

神谷モロ

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第一章 我こそが

第7話 夢……

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 ルーシーは夢を見た……。

『フハハハ、我は呪いのドラゴンロード。漆黒の災厄。憎悪の君。我こそがこの世の頂点である』

 ルーシーは今、全能の存在であるドラゴンロードになっている。
 目の前には人間の戦士たちが自分に向かってあらゆる攻撃を仕掛けてくる。

 剣に弓、投げ槍、投石、魔法。数十人の人間たちが各々の得意とする攻撃を自分に浴びせかける。

 当然、夢の世界だ。まったく痛く無い。それにドラゴンの身体となっているルーシーはとても気分がいい。
 ドラゴンという巨大な体躯を前に、普段は自分を見下ろしている大人達を今は逆に見下ろしているのだから。

 目の前の大人の男たちは武器を手に持っているが虫のように小さいので、まるで人形遊びの兵士といった感じだ。

 ルーシーは上機嫌に、この人形たちに話す。

『我を知ってもなお向かってくるか。ハハハ! 人間にしてはなかなか肝が据わっているな』

 ルーシーは夢と分かっているからこそ、この状況を楽しむ。心の底から……。

 まるで地響きのように低く太い声。これが私の本当の声……。カッコいい。
 そして自分の手を見ると、全てを切り裂くような怪しい光を放つ鋭い爪が生えている。
 さらに全身を包む黒いウロコが指から腕、視界に入る自身の全ての身体を覆っている。

 ああ、鏡があれば今の自分の全身をじっくりと鑑賞できるのに。

 でもこれは夢だ。私は人間なのだし……。

 夢は次第におぼろげになり、現実の自分とごちゃまぜになり、カオスの様相となる。

 ただ、夢の中のルーシーは圧倒的に強かった。指先が触れるだけで戦士たちは勝手に死んでいった。
 バターとシロップを大量に含んだパンケーキにナイフを通すような感覚で……。

 夢の中のルーシーは自分の意思で身体を動かしているのか、それとも動かされているのか理解できない。そもそも自身には無い尻尾も自由自在に動かすことができたのだ。
 夢が覚めていく……そして現実の自分を思い出すにつれ、人間に尻尾は無いからどうやって動かしているのかなどの矛盾について考える。

 いや、これは夢だからそんなの関係ないか……。
 今の私はドラゴンロードなのだから、私の尻尾は人形を粉々に吹き飛ばし。私の爪は人形のはらわたを引き裂く。
 飛び散る赤色は妙にリアルに感じた。人形から血がでるだろうか、いや夢とはそういうものなのだろう。

 そうして抽象的な絵画のような風景は紙芝居のように次々と断片的に場面は移っていった。

『ハハハ、勇敢な騎士よ。ついにお前一人になったな。褒めてやる。我としては褒美を取らせたいくらいだ』

「ハァ、ハァ……おのれ! 邪竜め、貴様はここで、俺が殺す!」

 目の前に立つ最後の騎士は戦意を喪失していない。
 それにしても抽象画のように風景がぼやけている。夢だから。でももう少し詳しく見たい。
 目の前の騎士は強い。戯れに爪を振り下ろしたら、騎士は手に持った剣を器用に操り、爪を逸らすのだ。

 騎士……カッコいい、顔を見てみたいが、夢の中の自分は無関心なのか騎士の顔は靄がかかっている。
 騎士は精一杯の一撃を人差し指の爪に浴びせた。ドラゴンの爪は見事に切り落とされた。
 すごい! 夢の中のルーシーは自分がやられている意識は最早なかった。

 それにルーシーとしてはこの物語を最後まで見たい、どうせ夢の話だ、風景もぼやけてきたし。

 夢がいよいよ覚める瞬間なにか頭に響く音がした、それはおそらく現実世界の音、誰かがルーシーを起こしているのだろう。

 まだ夢を見ていたい。いい所なのだ、このカッコいい騎士は何者なのか……。
 顔はよく分からない。だが覚醒の瞬間はっきり見えた……。

 はあ、やっぱ夢だった。想像力が足りないのだ。目の前の騎士は良く知ってる人物だったのだから……。 

 目の前の騎士はお父様の顔だった。確かにお父様は元騎士で、カッコいい。でも……。私は…………それは望んでない。

 夢の中の私は剣を構えているお父様に向かって爪を振り下ろした。
 お父様の顔をした騎士は、赤に染まった。でも騎士は私を睨んだままその場に立っていた、死んでいるのに。

 いや、お父様が……そんな……嘘。

 遠くからお母様の叫び声が聞こえてきた。

「クロード! 待って! ドラゴンさん! 話を聞いて!」

 ああ、ごめんなさい。お母様。私。お父様を殺しちゃった。


 ――――っ!

 目が覚めた。

 やはり夢だった。夢でよかった……。
 最初は気分が良かったのに、よりによって敵がお父様だったとは、夢とはそんな不条理なものかと思った。

 そんな嫌な気分とは裏腹に窓からは心地よい風が吹き込みカーテンを躍らせる。

 悪夢を見たせいか全身は汗ばんでいた。そんな火照った身体に朝の冷たい風は心地よい。

 窓が開いているということはお母様が先程訪れたのだろう。
 おかげで悪夢はそこで終わった。私は、あの後何をしたのだろう。
 
 そしてパンが焼ける良い匂いにつられてお腹が鳴る。

 その頃には先程の悪夢の記憶はお腹の音と共に霧散した。
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