3024年宇宙のスズキ

神谷モロ

文字の大きさ
上 下
95 / 133
エピソード3

サターン10/13

しおりを挟む
「そろそろ式典が始まる頃だな。予定だと戦艦サターンの艦内を見学できるみたいだ」

『そうですね。我々は優先的に入場を許可されるようです。マスターは並ぶのがお嫌いですから良かったですね』

「おう、当然だ、俺は握手会以外で自分の意思で行列に並んだことがない!」

 そう、例え行列のできるラーメン屋だって一度も並んで入ったことはない。
 一時間待つくらいならチェーン店の無難なラーメンで満足なのだ。

 俺達は宇宙ステーション『クロノス』から特別に設置されたゲートに案内される。
 そこからはチューブ状に繋がった三次元エレベーターで戦艦サターンまであっという間であった。

 全長20キロメートルの宇宙戦艦。

 その広大な艦内の移動には電車の様な乗り物が使われていた。
 ついた場所は大会議室。

 ちなみに俺達はVIP専用の個室に案内された。
 会場全体を俯瞰できる、所謂スタジアムなどにあるボックス席というやつだ。

「ちなみに、席は五人分だからな、もったいないからお前等も誘ってやったんだ。勘違いするなよ?」

「お! 古き良きツンデレですな、さすがイチロー殿。やはりこちら側の人間だったでござる」

「ちっ。たしかに俺はお前ら側だと言われれば何も言えんが……」

『ええ、そうですね。まったく、先程の怪しい電気屋で何を買ったのでしょう……』

「ふ、それは秘密さ。まあ納品まで少し時間が掛かるそうだから、それまでのお楽しみってことで」

「……最低です、やはりエッチな物を買ったんですね。シズカちゃんが言ってた通りです。見損ないました」

「ミシェル殿、それは違うでござる!」
「そうですよ、ちなみに、そういう物を買う場合は一人でこっそりと買うものです。
 イチロー殿が買ったのは正真正銘の芸術作品です!」

 サガ兄弟が一生懸命に弁護してくれる。……これほど心強くない弁護も初めてだ。
 余計に疑惑の目で見られてしまうだろう。

「そ、そうだよ。ミシェルさん。決していかがわしいもんじゃないよ……」

 ……特注品の女性型アンドロイド。
 いかがわしくはない……。だが、今はそれは言わないでおこう。
 説明しても誤解を招くだけなのだから。


 パーン、パパパパーン、パパパパーパーパーパパ、パパパパーン。


 突如、大音量の管楽器の音が聞こえてきた。
 ファンファーレのようだ。

 やっと竣工式が始まる。

 煌びやかな衣装を着たブラスバンドによるオープニングセレモニーから始まり。

 艦隊司令官。上級将校、関連企業の社長、重役などがステージにずらっと並んでいる。

 女性士官に挟まれる形でセーラー服の少女二人もその列に並んでいる。
 
 彼女らは直立して微動だにしない。

「おっ。さすがのギャルもこれには緊張を隠せないか。ほら、ミシェルさん、あそこ! セーラー服の二人!」

 ミシェルさんは先ほどから二人を探していたのだろう。
 心配そうにキョロキョロしていたが、俺が指さす方向を見て笑顔にもどる。

「あっ! ほんとだ、うふふ。二人共、さっきまでの元気はどこに行ったのやら、すっかり固まっちゃって」  

 ミシェルさんはきっと親目線で彼女たちを心配しているのだろう。いや、ここは姉目線が正しいだろうか。

「いやー、ギャルとは不思議でござるなー、拙者たちには、あれやこれやと要求してきたと言うのに……」
「同感ですね。まあ、軍服を着た大人に囲まれるという状況に慣れていないのでしょう」

「おいおい、サガ兄弟よ、それは当たり前だろうが。
 そう言うお前等こそどうなんだよ。
 軍人に囲まれたら、そのござる口調も標準語に変わるんじゃないのか?」

「ふ、我らはオタクですよ。軍服を着た方とは必ず写真撮影をお願いしているので慣れたものです。
 オタクのたしなみと言いますか。ちなみに私はござる口調など御免ですがね……」

 キザなキャラの弟セイジは前髪を払いながらそう言い放った。オタクファッションのくせに……。
 しかし、納得することもある。

 たしかに俺の弟もそうだった。
 毎年自衛隊のイベントには必ず参加して、記念写真を俺に自慢してたっけ。
 一緒に写っていた自衛官のお兄さんや、ちょっと階級が高そうなおっちゃん自衛官も等しく皆ニコニコとしていた。

 軍人だって、普通の人なんだと思ったものだった。 


 ……おっと、ステージではブラスバンドによるファンファーレを終えて、いよいよ開催の挨拶が始まるようだ。

 観客に向けて大きなお辞儀をしながら退場するブラスバンド。
 その次に、胸にたくさんのギラギラと輝く勲章を付けた初老の軍人が出てきた。

 帽子を脱ぐと、連合国旗に一礼。
 そして、俺達観客に向けて一礼すると、マイクの前に立つ。

 白髪交じりではあるが、短く切り揃えた清潔な髪型。
 そして眼光は鋭く、いかにも司令官って感じだ。

『皆様、今日はようこそお越しくださいました。
 私は連合宇宙軍のタチバナと申します。
 このような盛大な竣工式は私の軍人生活において初めての経験です。
 これも無事に戦艦サターンが完成したおかげですな。
 ……実は私が生きている間に完成などしないと思っておりました。
 後輩にこの栄誉を奪われずに済みましたな。はっはっは!』

 ジョークを交えながら挨拶をする、司令官らしい軍人。

 だが、俺は長い話は嫌いだ。

『さて、皆様にはこの船が計画された経緯から説明せねばなりませんな、少し長い話になってしまいますが――』

 ほら、はじまった。

「アイちゃん。緊急事態だ! 偉いおじさんの長話が始まるぞ!」

『はい、了解です。スケジュール的に一時間ほどお話をされるようですね』

 ニコニコ笑顔のアイちゃんは当然の様に俺の警告に返す。

「……まじ? それって、だめだろ!」

『いいえ。タイムテーブルにはそう書かれています。司令官としても度重なる建造計画の遅延に思うことがあるのでしょう。いいじゃないですか。
 最後の晴れ舞台かもしれませんし』

 たしかに、それを言われると何も言えない。
 これは毎週朝礼で聞かされる校長先生のどうでもいい話じゃないんだ。
 彼にとっては軍人としての最後の晴れ舞台、ともいうべき大切なイベントなのだろう。

 ……だが、正直、俺にとってはどうでもいい。

 校長先生の話は本当に長いのだから……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

亂世 ~幾千万の声、幾億の無言~

るてん
SF
2041年、台湾を巡る国際情勢は緊迫の度を増していた。 中国軍の異常な動きを察知した台湾参謀本部は、戦争の兆しを確信する。 世界が再び戦火に包まれるのか?沢山の人々の運命が交錯していく。 ※実験的な側面のある小説です。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

kabuto

SF
モノづくりが得意な日本の独特な技術で世界の軍事常識を覆し、戦争のない世界を目指す。

『邪馬壱国の壱与~1,769年の眠りから覚めた美女とおっさん。時代考証や設定などは完全無視です!~』

姜維信繁
SF
1,769年の時を超えて目覚めた古代の女王壱与と、現代の考古学者が織り成す異色のタイムトラベルファンタジー!過去の邪馬壱国を再興し、平和を取り戻すために、二人は歴史の謎を解き明かし、未来を変えるための冒険に挑む。時代考証や設定を完全無視して描かれる、奇想天外で心温まる(?)物語!となる予定です……!

処理中です...