3024年宇宙のスズキ

神谷モロ

文字の大きさ
上 下
73 / 133
エピソード2

カニパーティー4/8

しおりを挟む
 ……目を覚ます。
 冷房のタイマー設定を間違えたのか、随分と寝苦しい夜だった。

 今は朝……11時か。
 大学生ともなると夜型人間になってしまう。

 ドタバタと騒がしく階段を駆け上がる音が聞こえる。
 あれはジローだな。
 まったく高校生にもなって落ち着きがないったらありゃしない。

「ジロー、うるさいぞ!」

 その足音は俺の部屋の前で止まる。
 俺の部屋には鍵が無い。だが弟はお母さんではない。

 その辺は気遣いができるといえる。

「兄さん! 大変なんだ! ……入るよ?」

 ワンテンポあけ、俺の部屋のドアが開く。

「何が大変なんだ。世の中そんなに驚くことなんてないもんだ。まったく、俺の推しの子がラブホで密会してたわけでもあるまいに……」

「え! 兄さん、知ってたの? そうだよ、これ見てよ! 今日の週刊マンデイにすっぱ抜かれて、ラブホ前で彼氏と密会デートって見出しで……」

「……なにぃ! マジか? ……いや、やはりそうだったのか、なぜだろう、そんな気がしてたんだ。
 いや、ほんと、なんでだろう。俺はずっと信じてたはずなのに……ジロー、今日はバイトを休む。っていうかバイト辞める。死にたくなった」

「兄さん。……さすがにドタキャンはマナー違反だよ。そんなの社会では通用しないよ」

「うるさい! 俺は頭が痛くなってきた。心も体もくちゃくちゃなんだ! 頼む、ジロー俺の代わりに電話してくれ」

 高校生の弟、ジローは溜息をつくと。
 週刊誌をそっと閉じる。
 表紙には『人気アイドルグループ○○、衝撃のラブホ密会写真流出!』と、でかでかと書かれている。

 くそ、アイドルには失望した。何を信じていいのやら。
「おい、ジロー。何をニヤニヤしてるんだ? 俺は死にたいと言ったんだぞ?」

「ふふふ、ウェルカムトゥ二次元、ようこそ真実の愛へ」

「おいおい、俺はそっちには興味が無いって言ったろ?」

「まったく、兄さんは懲りないなぁ。
 三次元は裏切るけど二次元は裏切らないよ? そして一生寄り添ってくれる至高の存在なんだよ」

「馬鹿言うな、触れることだってできないだろうが。
 ま、仮に二次元が画面から出て来てくれるならその限りではないが?
 ほら、ジローよ、今すぐ画面から美少女を出してください。そしたら俺は今すぐ二次元に鞍替えするから」

「兄さん……一休さんかよ。それにアイドルだって、触れられる存在じゃないじゃないか。
 ……まったく、そんだけ元気があるならバイトにでもいったら?」

「おう、そうだな。まあ、あれだよ、もし未来の世界で美少女アンドロイドなんかが出来たなら、俺も意見を変えるかもだぜ?
 そうだ、ジロー、お前この間クルマを買ったって言ってたろ? キャディラックだっけ。それでバイト先まで送迎たのむぜ」

「ん? 兄さん、何言ってんだよ。僕はクルマどころか免許すら持ってないよ。でもキャディラックは好きだ」

「うん? そうだよな……アレ? なんだろう前に乗せてもらった記憶が無きにしも……ん?」

 俺はショックのあまり頭がおかしくなっているのだろうか。
 脳裏には美少女メイドさんと、金髪美女を同伴してリムジンに乗るタキシードを着た俺が……。

 ……ありえない。明らかに夢の世界じゃないか。
 まあ、夢は寝てみるものだってな。しかし、いい夢だな。無理は承知だがいつかは現実にしたいところだ。

 しゃあない、現実は残酷だ。
 だが、俺にだって愛車はある。
 ママチャリだ、コスパ最強のクルマといえるだろう。

 弟は何か言いたげであったが、バイトの時間が迫っている。
 俺は勢いよく自転車をこぐ。


 何事も無い平凡な一日の始まりだ。

「……まあ、あれだな俺は所詮は一般人、大学を卒業したら普通の会社に就職して平凡な人生を歩むのだろう。俺の両親だってそうなんだ。
 それだってハッピーエンドに違いないのさ」

 自転車をこぐこと十数分。

 うん? こんなところにホテルなんて建ってたっけ?
 
 そのホテルの前に立つ美少女が一人。
 俺をじっと見つめている。

 思わず自転車を止める。

 あ、あれは! もしやスキャンダルのさなかにいる、俺の推しの子。
 AK47メンバーのミヤムラ・メグミちゃん?

「ちょっと、アンタ、何言ってんのよ。元AK47メンバーでしょうが! あんたのせいで私のアイドル人生が無茶苦茶じゃない!」

 うん? 俺は何も言ってない。けど、彼女は間違いなく俺に向かって言っている。

 念のため後ろを振り返るが、誰もいないので間違いなく俺に向かって言っているのだ。

 あの、アイドルがだ! それに、スキャンダルがあったとはいえ、やっぱり可愛い。
 罵る声なんか最高だ。彼女はきっと声優業界でもやっていけるだろう。

 ……また好きになっちゃうじゃないか。

「ねえ、聞いてるの? で、責任取ってよね。私の事、守るっていったじゃない!」

「え、メグタソ、何を言ってるんだ?」

「ひどい! お腹には貴方の赤ちゃんがいるのに。許せない、コロしてやる!」

 え? な、なにが……どうなってるんだ。

 ガシャン。
 自転車が倒れる。

「うぐ、く、くるしい……メグ……タソ」

 どういうアレだ! 処理が追い付かない。俺をスキャンダルで裏切った彼女が、俺の子供を身ごもってる?

 いや、ワンチャンそれはあるとしてだ。
 なぜ、その彼女が俺の首を絞めるんだ。

 それにもの凄い力。
 ヤバい、意識が……。

 俺は自分の首を絞める彼女の手を外そうと、必死にもがく。

 意識が薄れそうになるが俺は渾身の力で彼女を引き離す。

 勢いあまって……そう力をこめすぎたのだ。

 彼女は後ろの壁に頭をぶつけたかと思ったら動かなくなってしまった。

 ……う、うそだろ?
 俺は恐る恐る。彼女に近寄り手首に触れる。

「脈が無い。そ、そんな。俺は人を殺してしまった!」

 そして彼女の股下からは大量の血が流れていた。

 ……ああ、……俺は、俺は何と言う事をしてしまったんだ……。

 俺は、好きな人を、そしてその人との子供を殺してしまったのか!

 ――もう、俺には生きる価値が無い。
 罪を償って生きていても、俺は一生、平凡な幸せなど決して望んではならないのだ。 

 俺はポケットから拳銃を取り出しこめかみにあてる。

「すまん、父さん母さん、そして弟よ。おれはもう生きていけない」


 …………ター……マス……し………だい……。 

 ……きこ…………か?……。

 ……マス……。

 end

 いや、さっきからこの雑音はなんだ! 俺は自殺もさせてくれないのか!

『……ター!……マスター聞こえますか! マスターしっかりしてください!』
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

異世界宇宙SFの建艦記 ――最強の宇宙戦艦を建造せよ――

黒鯛の刺身♪
SF
主人公の飯富晴信(16)はしがない高校生。 ある朝目覚めると、そこは見たことのない工場の中だった。 この工場は宇宙船を作るための設備であり、材料さえあれば巨大な宇宙船を造ることもできた。 未知の世界を開拓しながら、主人公は現地の生物達とも交流。 そして時には、戦乱にも巻き込まれ……。

クロノ・コード - 成長の螺旋 -

シマセイ
SF
2045年、東京。16歳になると国から「ホワイトチップ」が支給され、一度装着すると外せないそのチップで特別な能力が目覚める。 ハルトはFランクの「成長促進」という地味な能力を持つ高校生。 幼馴染でSランクの天才、サクラとは違い、平凡な日々を送るが、チップを新たに連結すれば能力が強くなるという噂を知る。 ハルトは仲間と共に、ダンジョンや大会に挑みながら、自分の能力とチップの秘密に迫っていく。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

処理中です...