3024年宇宙のスズキ

神谷モロ

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エピソード2

シンドローム15/27

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 ドンッ! ドンッ! ドンッ!

 30ミリ徹甲弾の薬莢がガランガランと俺の足元に転がる。

 ダメージは入っている。実体の無いのモンスター、アポカリプス相手に貫通属性の徹甲弾でたしかに手ごたえのあるダメージが入っている。
 これが高レベルのテンプラーの恩恵だろう。
 
 だが、さすがはシン・アポカリプス。HPが高い……。 

 アイちゃんも極大魔法をひとしきり使い果たした。リキャストタイムは一時間。
 連発の効く中級魔法では高い魔法防御力を持つ世界系モンスターには雀の涙である。

「ふむ、やはり火力が足らんでござるな。
 サンバ殿はローグのスキル『とんずら』で戦闘エリアから一端離脱、帰還ポータルで街に戻ってアロンダイトの弾丸とHPポーションと酸耐性ポーションを買ってくるでござる。
 プリーストのいないパーティーでは持久戦は不利。ここからはローグのとんずらポータルが攻略の鍵でござる」

「ぐへへ、俺っちが攻略の鍵……。まかされたでござる!」

【サンバDEルンバはパーティーから離脱しました】

「キー! また、サンバが活躍するですー。くやしいですー!」

「いや、ミシェルン殿。貴殿も今回の攻略の鍵ですぞ?
 シン・アポカリプスはHPが5割を切ると、攻撃パターンが変わり、自身よりも高レベルのプレイヤーに対して、レベルに応じた防御力無視の割合ダメージをぶつけてくるのでござる。
 そうなると、レベルが高すぎる我としては攻撃を引き付けることはできぬ。

 故に、適正レベルのミシェルン殿と我でタンク回しをする必要があるのでござる。

 デスキャンサーの防御力は高い。同レベル帯の適正装備のテンプラーよりもな。

 それに、知っておったかのう? スキル『デスシザース』はボスには全く役に立たない即死攻撃だが、一つメリットがあってな。
 ヘイトを稼ぎやすいのだ。故にミシェルン殿は我のHPが半分を切ったら『デスシザース』を撃つ。
 一撃でターゲットはミシェルン殿に移るであろう。

 その間に我はHPポーションで回復に努める。
 そしてミシェルン殿のHPが半分を切ったら再び我がターゲットを取る、これをずっと繰り返すのがタンク回し。
 ヒーラーの居ないこのパーティーでは最適解であろう?

 ……しかし、久しぶりにヒーラーの居ないパーティーに参加したでござるな。
 まるで姉上のようなハードコアなプレイスタイルに我も充実しているでござる。わっはっは!」

「すごいですー。さすがアイさんの弟さんですー。さすが廃ゲーマー、これで勝つるですー」

 凄い……。
 俺はマシーンには無いはずの喉をごくりと鳴らす。

 ミシェルンは純粋に畏敬の念をもって廃ゲーマーと言っているが……。まさに廃……正直ドン引きだ……。

「……アイちゃん。スサノオさんには優しくしてね。……約束したでしょ?」

「ちっ、いいえ。はい。マスター。もちろんです。でもちょっと……霊子フラクタルに揺らぎが……。うっ、これが怒りの感情なのでしょうか?」

 返答がちぐはぐだ。でも……。気持ちは分かる。
 スサノオさんの言っていることは半分も分からなかったけど……。

 廃ゲーマーを家族に持つと……いろいろ複雑だな。

「愚弟よ、本当にゲームに詳しいようですね。随分とお暇な時間を過ごして何よりです」

 アイちゃんの顔が怖い……。

「……むう、姉上、ご勘弁を……。それは致し方ないと言ったでござる。
 まあ、おかげでイチロー殿……いいえ、義兄殿のお役に立てておるのです! 弟として義兄殿に奉公できておると我は存じますぞ?」

 うん? 義兄? 義理の兄? 俺はスサノオさんのお兄さんになった? どの文脈で? 桃園の誓いをしたわけではないし……。
 というか、せめて現代日本語で会話をしてほしい。時代劇は苦手なんだよ。せめて字幕を……。

 だが、アイちゃんの表情はいつもの穏やかな感じに戻る。

「ふっ、口だけは達者。だが愚弟の言も一理ある。今回は大義である」

 あれ、アイちゃんも結構ノリが良い? 戦国武将っぽい難しい喋り方だが、これもある意味でロールプレイというのか。

 ゲームキャラになり切る、これも一つの遊び方ってやつなのだろう。

 まあ、俺達としてはそういうガチゲーマーでいた方が、犯人と接触したときに違和感がないというものだ。
 それに最近は少しだけゲームも面白いと思うようになったし。

「船長さん! 追加弾薬お待ちっす!」

「おう、サンバ君おつかれ、リロードしたら一気に叩き込むぜ」

 サンバからアロンダイトの弾薬を受け取る。
 
 次の瞬間。
 
【愚かな文明。やはり滅ぶべし! 『アシッドレイン』】

 ――来る。

 奴はHPが半分を切ると本気モードになるのだ。
 前回は対策不十分で俺はあっという間に死んだっけ。

『アポカリプス』の最大の攻撃。強力な酸性雨で全体攻撃を仕掛けるのだ。

 持続ダメージに加え、マシーンや金属鎧を装備しているテンプラーなどへ特攻効果あり。

 対策しないとこの時点で詰む。

「ぐへへ、船長さん。俺っちは新たなパッシブスキル『ポーション効果増大』を習得してきたっす」

 サンバはカバンから瓶の形をしたアイテムを取り出す。
 それを俺に投げつけると瓶は割れることなく光り輝くと消滅した。

【レイザー・スズキは酸耐性(大)が付与されました】

「ナイスだサンバ君。よし、その調子でテンプラーのスサノオさんにもよろしく頼む。

「マスター、愚弟は問題ありません。イベントレアアイテム『ヤタノカガミ』で全属性に対する耐性を既に持っていますので」

「なるほどな、アイちゃんは金属装備でないし、防御魔法もある。なら、サンバ君の仕事は……」

「ぐへへ。俺っちは、スサノオさんとミシェルンにHPポーションを渡したら、またとんずらポータルっす。これは勝ち目が見えてきたっすよ」

「おう、そうだな。しかし、結構やりようがあるもんだな」

 そう、プリーストがいないパーティーは後から聞けば有り得ない構成だそうだ。
 このままクリアできないなら、俺が別のアカウントを作ってプリーストでやり直そうと思ってたくらいだ。 

 なるほどな、このゲーム、ある程度の縛りプレイでも攻略ができるんだな。
 結構奥が深いと感心する。

 今回は最初からゲームマネーを課金してズルしてたけど、一から始めたら結構面白いかもしれない。

 のめり込むのも理解できる。

 とんずらポータルだっけ? ローグの使い方も応用がきいて面白い。

 モンスターだって、最短ルートを取らなければ、色んな種族を経験するのだろう。
 たまたまミシェルンが蜘蛛型ロボットで適正が偏り過ぎたのもあるが。
 本来人間のプレイヤーなら、二足歩行から始まり、いろんな経験で様々な形態のモンスターに進化するのだろう、あえて異形の魔物に挑戦するマニアックなプレイも可能なのだ。

 なるほどね、人気ゲームなのは認める。
 故に、これにどっぷりハマった迷惑な少年……いや中年? 今は見ぬ迷惑なテロリストを探さないといけないのだが……。

 ………………。

 …………。

 ……。

【おのれぇー。許せん。愚かな人類。我はお前達が生み出した害悪の子、お前達の全ての罪を浄化しようとしていたのに……。ルシファー様……お許しください。我がはらからは愚かなままです……】

 何度かとんずらポータルを繰り返すと、いつのまにかアポカリプスは消滅していた。
 途中、HPあと一ミリで全回復したのは驚いたがシン・アポカリプスでのみ起こる運営の悪戯らしい。 

 でも、パターンに嵌まったら結構簡単に倒せてしまった。

 残念ながらレアアイテムのドロップは無かった。
 確率が上がるとはいえ、確実に出る訳でもないようだ。

 訂正。先ほど面白いと持ち上げたが、このゲームは時間泥棒だ。
 仕事が終わったら二度とやらないだろう。

【ミッションコンプリート! おめでとうございます。プレイヤーランクが上がりました。次のメインクエストが開放されます】
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