3024年宇宙のスズキ

神谷モロ

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エピソード2

シンドローム11/27

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 さすがはマシーン。
 機械の身体だけあって全然疲れない。
 まあゲームだし人間職を選んでも疲れないのだろう……あれ? 痛みがあるんなら疲れもするってことか? 分からんが、たぶん人間職はきっと疲れるだろう。

 フルダイブMMOなんだ。たぶんそういうのがこのゲームの売りなのかもしれないな。もともとフルダイブの技術は医療から発展したらしいし。
 
 そんなことを考えながら、リアルではありえない全力疾走を続ける。

「船長さん。敵が見えてきたですー」

 あれが今回のクエストボス『悪魔の高射砲・デスガン』か……。
 ダサいネーミングのくせに、外見は随分カッコいいじゃないか。

 そう、全身真っ黒ではあるが、どう見てもガ〇タンクを連想してしまう。

 かつて、弟はガ〇タンクのプラモにはんだごてで穴を開けたり。
 デフォルトの白いパーツを、なんだっけティターンカラーって紫色に塗装したりとかしてたっけ。

 まさにあんな感じだ。そう、目の前の敵はまさにミリタリー風なガ〇タンクなのだ。

 大きな違いとしては頭部が無いこと。どちらかというと戦車とガ〇タンクが半々と言った感じか。

「アイちゃん! あの腕。あれが六連装5.56mmマシンガンか?」

「はい、そうです。両腕のマシンガン。あれは中々にやっかいですが、マスターはアロンダイトを装備していますね。なら楽勝ですよ」

 そう、アロンダイトを装備した際に防御力とHPがめちゃくちゃ上がったのは記憶に新しい。

 ステータスオープン!

 名前:レイザー・スズキ
 職業:マシーン
 レベル:0
 HP:1145
 力:315
 素早さ:514
 防御:1156
 魔力:0

 そう、俺の防御力は千を越えている。
 問題ないはずだ。

 まず、デスガンの両腕が上空のアイちゃんに向けられる。
 飛行しているため、先に敵の射程距離に入ったのだろう。

 ババババババッ! もの凄い銃撃だ。

 アイちゃんはレベル69。
 高魔力のマジックバリアの前には豆鉄砲だ。

 もちろん敵も馬鹿ではない。アイちゃんへのダメージが無いと判断すると、次はミシェルンに銃口が向けられる。

「ミシェルン! 脚をたたんで俺の後に!」

「はいですー。アイさんは大丈夫ですー?」

「私は問題ありません。ダメージゼロです。レベル差がありますのでさすがにマジックバリアを貫通するほどではないようですね。マスターはどうですか?」

 カンッ! カカカン! カカカカン! ガーーーー!

 もの凄い弾丸の嵐だ。痛みは無いが音がうるさい。

 ダメージは0か1。だがこの連射力。喰らい続けるとさすがにヤバいかもな。
 あっというまに累計ダメージは100を越えたようだ。

 まあ、俺とて自己修復機能はある。アロンダイトの装備効果。一分で一割のダメージ回復。つまり。俺はこの攻撃で死ぬことはない!

 数秒間、弾丸の嵐に見舞われたがそれは直ぐに止んだ。

「マスター。敵は弾切れのようです。リロードされる前に、攻撃してしまいましょう。ミシェルンよいですね?」

「はいですー。では私のレベルカンストの溶解液をお見舞いするですー」

 ミシェルンは蜘蛛の脚をバタバタと動かし、全速力で敵に向かう。敵のリロードは約30秒らしい。
 ピンクポイズンスパイダー、何気に素早さは高い。バタバタと敵に向かって全速力で走る。

 ミシェルンはあっという間に敵の両腕のマシンガンを糸でがんじがらめにする。
 リロード時間の延長効果が発動。
 そしてミシェルンは口から透明な粘着質のある液体をデスガンに垂らす。
 その液体に触れたデスガンの装甲から白い煙が舞い上がる。

 その瞬間。状態異常『毒液特攻』『持続ダメージ』がデスガンのHPバーに表示される。

「船長さん、やったですー。初めてこのキモボディーの有用性を理解してしまったですー!」

「おう、俺も同感だ」

 だが、やはりキモかった。
 そう、俺が蜘蛛が苦手なのはあの脚の動きなんだと思う。

 でも……そうだな。有用性か……たしかに理解できる。

 ミシェルンは次で別のモンスターに進化するだろう。少し名残惜しい。

 よし、せっかくミシェルンが作ったチャンスだ。
 全力で応えようじゃないか。

「俺もいくぜ! 硫酸弾フルバースト!」

 ポンッ! ポンッ! ポンッ!

 俺はありったけの硫酸弾を敵にめがけて発射する。

 ミシェルンの毒液特攻の効果は絶大だ。
 俺の硫酸弾のダメージも倍になっているようだ。

 敵のHPバーがみるみる削られていく。


 ……だがおしい。HPバーはあと一ミリで止まった。
 くそっ! これが噂に聞くゲームあるあるってやつか。

 こちらには有効な武器が無い。機関銃では弾かれてダメージにならないし、今回はアロンダイトの弾は無い……。
 前回練習でドカドカ撃ったせいで残弾が無いのだ。

 それに前回の報酬はサンバ用の装備を買ったし金が無かった。

 これがマシーンの最大の弱点だろう。金が無いマシーンなどただの箱だ。

 まあ弾避けにはなるから……箱よりましか。

「ふう、あと少しでしたね。敵はもうすぐでリロードを完了します。ミシェルン戻ってきてください。
 連続的にダメージを与え続けないと自己修復が発動してしまいます。出直しましょうか。次は私も酸の魔法を習得してから挑むとしましょう……スキルポイントを見直せば何とかなるでしょう」

 まあ、初見でクエスト攻略するのはそろそろ難しくなったってことか。

 あれ? そう言えばサンバの奴はどこにいるんだ?

「ひゃっはー! 俺っちを忘れてもらっちゃー困るっす。船長さん、ちょうど便利な武器をゲットしたっすよ?」

 突然、敵の背後に出現したサンバ。

 ローグのスキル『ステルス』で潜んでいたようだ。

 サンバは長い筒状の武器を肩に持ち上げ、トリガーを引く。

 シュボンッ!

 RPG-7対戦車ロケットランチャー。
 このマップに設置されている攻略アイテムだ。
 適正レベルのローグを連れている場合に発見可能の攻略キーアイテムである。

 発射と同時に炎と煙を後ろに吹き出しながら加速するロケット弾は見事に敵の背面装甲をぶち抜く。

 バンッ! 乾いた破裂音が廃墟に響く。

 敵のHPバーは一瞬でゼロとなる。

【ミッションコンプリート!】

「ナイスだサンバ君!」

「へっへっへ、船長さんどおっすか? ローグも捨てたもんじゃないでしょう?」

「ああ、たしかにな、攻略キーアイテムをサーチできる能力は確かに凄い。
 ……しかし、サンバ君は今後、そのグヘヘ系のキャラで行くんだな」

 まあいい、これもロールプレイングだ。
 それにサンバのおかげでリトライしなくて済んだんだし万々歳といえる。

「くやしいですー! お掃除ロボットにいい所を取られたデスー」

「まあまあ気を落とすなって、ミシェルンの毒液特攻のおかげで奴を瀕死に追い込んだんだ。貢献度としてはミシェルンのほうが上だよ」

「そうっすよ。船長さんの言うとおりっす、くやしいですがイベントアイテムのRPG-7では、敵に最大HPの三分の一のダメージしか与えられない仕様ですし。
 ミシェルンは良くやったっすよ。……コホン。流石コジマ重工ベストセラー調理ロボット。『我らコジマ重工は皆様に快適な生活を保障します!』」

 なぜか広告を挟み込むサンバ。あれか別の製品も買えってか?
 まあ良く働いてくれてるし、検討しておこう。

「今回は船長さんが敵の銃撃から身を挺して守ってくれたのが嬉しかったですー。愛を感じたですー」

「お、おう。そうだな。……うん。そうだ、俺達は家族だ。ロボットだとかAIとか主従関係とかは関係ない。
 まあ、これは俺の理想論で現実は違うだろう。
 でも、ここはバーチャル空間だし。せめてそういう遊びで皆と楽しく仲良く頑張ろうじゃないか!」

「うふふ、マスター、さすがですね。そんなこと言われたら私達はメロメロになってしまいますよ? クリステル様がおっしゃってた通り、ほんとうにロボットたらしなんですから」

「よーし、俺達は勝ったんだ! 帰ったら宴じゃ! 今回は君達にマシーンの俺がバーベキューを振舞ってやるぞ?」

「噂のバーチャルレストランですね? 私も楽しみです」

「さっきメニューを確認したんだが、本格アメリカンスタイルのバーベキューがあるそうだ、俺は食えないからピットマスターを任せてもらおう。
 アメリカでは焼くのはお父さんの仕事らしいしな。実は俺も一回やってみたかったんだ。
 ミシェルンよ、今回は俺が料理を仕切るがいいな?」

「船長さんがお父さんですか? わーい、楽しみですー」
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