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エピソード1
キズナ3/3
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高級リムジンを降りると目の前には大きなビルディングがそびえ立っている。
ビルの入り口には一列に並んだ使用人だろうか。
筋肉でパンパンになった黒いスーツの男達。
スキンヘッドにサングラスはいかにも強面のブラザーといった感じの出で立ちである。
そんな屈強そうなボディーガード達に囲まれていた壮年の男性は俺がリムジンから降りるのを確認すると、ニコニコ顔で俺に近づいてきた。
クリステルさんと同じ金髪で碧眼。
オールバックのヘアスタイルに仕立ての良いタキシードの彼こそがクリステルさんの父親でありスズキ財団の会長ダニエル J・スズキである。
「ようこそ、大叔父様。キャディーの乗り心地はどうでしたか? 当時の状態を完全再現したつもりでしたが……」
あれは俺にとっては充分未来のクルマだったが、まあそれでもガソリンエンジンの音は懐かしい感じはした。
「そうですね、いい音でした、エンジンから余裕の音が聞こえましたね。やはりクルマはアメリカの発明品ですね」
俺のリップサービスにすっかりご機嫌だ。しかし、壮年の男性に敬語を使われるのは逆に緊張する。
「お褒め頂き光栄です。クリステルもご苦労だったね。どうだい、変わりはないかね?」
「ええ、お父様、順調ですわ」
「さあ、立話もあれですし、どうぞ中にお入りください。パーティーの準備は既に整っていますので」
◇◇◇
パーティーは親族のみの集まりで所謂アメリカンなアゲアゲなパーティーとは違い落ち着いたものだった。
おそらく俺を気遣ってくれているのか、あるいは本物のセレブのパーティーはこういうものかもしれない。
アメリカ料理も上流階級になると薄味の物が多いのか俺の口に合うのが多かった。
明日の予定は弟の墓参りなので、パーティーは早めにお開きだ。
俺の為に用意してくれた部屋で一息つく。
別れ際にダニエルさんから預かったデバイスを開く、これにはスズキ家の秘蔵の映像ファイルが収められている。
俺が再生ボタンを押すと画面には一人の老人がカメラ越しにこちらに語り掛けてきた。
『やあ、兄さん。久しぶりだね。ほんと……。どうだい年老いた僕を見てびっくりしたんじゃないかい?
なんで今まで動画を取らなかったって思うかもしれないけど、これでも忙しかったんだよ。
でも息子に会社は譲ったから少し暇になったんだ、これからは時々動画を取るよ』
「……ほんと、久しぶりだな、ジロー」
そう、彼こそが俺の弟。ジロー・スズキ。
今時、子供にイチローとかジローって安直過ぎだと思ったが。まあキラキラネームでないだけ親に感謝だな。
画面に映る白髪の老人は年齢にしては若々しい、髪の毛がふさふさだからだろう。
よかった、弟が禿げてないってことは俺も禿げないってことだな。親父は禿げてたけど……。
動画の日付は進む。
『兄さん、朗報だ。なんと2051年製のキャディラックのリムジンタイプを買ったよ。
7リッターのマッスルカーで内装もゴージャス。
自動運転機能にバリアフリー仕様の何でもありな高級車だよ。
キャディラックはお好き? そいつは結構。でも一番気に入ってるのは値段だ……だっけ?
昔見た映画を思い出すね。よく二人でごっこ遊びしたっけ。
しかし、2051年に妥協のないガソリン車が発売されるなんて思わなかったよ。
CO2ゼロって何だったんだろね』
ああ、ほんとだ。さっき乗ったよ。あれは本当に凄いクルマだった。
『兄さん、この間、商用の量子コンピューターを開発している企業を買収することになってね。
キングアーサー・システムズっていうベンチャー企業なんだけど。
彼らが開発したアヴァロン・マーク1の性能を見て僕はピンと来たんだ。これはきっと未来を変えるってね。
アカデミーの域をでなかった量子コンピューターが本格的に産業を変える時代に突入するんだ。
……まだまだ先の話だけど、宇宙に匹敵する計算能力のおかげで医療技術は飛躍的に上がっていくそうだよ。
まさしく量子コンピューターは未来の技術。数年先には兄さんが蘇る日が近いかもね。
……その時に僕が生きてればいいけど。
まあ、そうでなくても兄さんは必ず生き返るよ。その為にお金は充分に貯めたんだ。
でもちょっと貯め過ぎだったかな、僕はすごいでしょ? じゃあ、また』
動画の日付は進む。
『イチローおじさん、初めまして。ジローの息子のジョージといいます。
……先日、父が死にました。父の遺言で、この映像記録は子々孫々まで続けさせていただきます。
さて、暗い話で申し訳ありません。おじさんにはなんて言いましょうか。復活にはまだまだ時間が掛かるようです。
その……父は楽観的でしたが。量子コンピューターの計算によると、当時の冷凍睡眠技術には不具合がありまして……。
その、おじさんは死んでるんです……。
くそ、俺は何を言ってるんだ! すいません、ちょっと心の整理がついてなくて。また動画をとります』
そっか、俺はいろんな人に心配かけてるんだなぁ。
正直申し訳ないと思う。
動画は続く。
以降はまめに動画をとる人や義務的にこなすだけの人など様々である。
まあ実際に俺は他人なんだから。
ただスズキ財団創業者の遺言は絶対なので動画が途切れることはなかった。
何代か続くとスズキ家の人物からも日本人らしさが消えていく。
髪の毛の色もブロンドの子孫が増えている。
そういえば弟は金髪の外国人の嫁が欲しいとずっと言ってたっけ。
それは子々孫々まで受け継がれていったのだろう。
それは決して選民思想ではないが、恐るべき弟の性癖だった。
それにしても動画に映る子孫たちから日本人要素が消えてくのも興味深いものがある。
そして当代の会長ダニエルさんの若いころの姿が映る、まさにテンプレのアメリカ人って感じでブロンドの前髪を垂らして自信満々の表情だった。
最後の動画だ。これを見たら寝るとするか。
『えっと、初めまして、イチローおじさん? パパのパパのパパのずーっとパパの弟さん、だからおじさんでいいんだよね?
……えっと、えへへ、カメラの前だと緊張しちゃうね。あ、そうだ自己紹介をしないと。
えーっと、名前は、クリステル・マイヤー・スズキです。今年で10歳です。
将来の夢はバーヒー人形になりたいです。でもバーヒーみたいな美人になれなかったら、いっぱい勉強して宇宙大統領になりたいです。
おじさんは将来の夢はありますか?』
クリステルさんは美人だよ。まあバーヒーにならなくてよかったと俺も思う。
映画の知識だがバーヒー人形はなんか大変そうだしな。
それに今のクリステルさんのおかげで俺はここにいるんだ。
技術的には可能だった冷凍睡眠からのサルベージ。
あとは法律改正の問題だった時にクリステルさんは上院議員首席秘書官という立場で貢献したのだ。
「俺の夢か。まあそうだな。仕事を頑張って、皆幸せになるってところかな」
「はい、素敵な夢ですね。私も微力ながらお手伝いさせていただきます」
「あ、アイちゃん。いたの?」
「もう、マスターったら、私たちは寝室を共にする仲じゃないですか」
また誤解を招く発言を。
あくまで俺の専属のアンドロイドとして側にいた方が最も安全であると言う理由なのだが。
……まあ、たしかにずっと側にいてくれるのは心強くはあるか。
-----終わり-----
あとがき。
お読みいただきありがとうございます。
実家に帰るだけの回でしたね。よくある過去回想のお話でした。
続きが気になる。面白いと思って下さった方は♡やお気に入り登録いただけると励みになります。
ビルの入り口には一列に並んだ使用人だろうか。
筋肉でパンパンになった黒いスーツの男達。
スキンヘッドにサングラスはいかにも強面のブラザーといった感じの出で立ちである。
そんな屈強そうなボディーガード達に囲まれていた壮年の男性は俺がリムジンから降りるのを確認すると、ニコニコ顔で俺に近づいてきた。
クリステルさんと同じ金髪で碧眼。
オールバックのヘアスタイルに仕立ての良いタキシードの彼こそがクリステルさんの父親でありスズキ財団の会長ダニエル J・スズキである。
「ようこそ、大叔父様。キャディーの乗り心地はどうでしたか? 当時の状態を完全再現したつもりでしたが……」
あれは俺にとっては充分未来のクルマだったが、まあそれでもガソリンエンジンの音は懐かしい感じはした。
「そうですね、いい音でした、エンジンから余裕の音が聞こえましたね。やはりクルマはアメリカの発明品ですね」
俺のリップサービスにすっかりご機嫌だ。しかし、壮年の男性に敬語を使われるのは逆に緊張する。
「お褒め頂き光栄です。クリステルもご苦労だったね。どうだい、変わりはないかね?」
「ええ、お父様、順調ですわ」
「さあ、立話もあれですし、どうぞ中にお入りください。パーティーの準備は既に整っていますので」
◇◇◇
パーティーは親族のみの集まりで所謂アメリカンなアゲアゲなパーティーとは違い落ち着いたものだった。
おそらく俺を気遣ってくれているのか、あるいは本物のセレブのパーティーはこういうものかもしれない。
アメリカ料理も上流階級になると薄味の物が多いのか俺の口に合うのが多かった。
明日の予定は弟の墓参りなので、パーティーは早めにお開きだ。
俺の為に用意してくれた部屋で一息つく。
別れ際にダニエルさんから預かったデバイスを開く、これにはスズキ家の秘蔵の映像ファイルが収められている。
俺が再生ボタンを押すと画面には一人の老人がカメラ越しにこちらに語り掛けてきた。
『やあ、兄さん。久しぶりだね。ほんと……。どうだい年老いた僕を見てびっくりしたんじゃないかい?
なんで今まで動画を取らなかったって思うかもしれないけど、これでも忙しかったんだよ。
でも息子に会社は譲ったから少し暇になったんだ、これからは時々動画を取るよ』
「……ほんと、久しぶりだな、ジロー」
そう、彼こそが俺の弟。ジロー・スズキ。
今時、子供にイチローとかジローって安直過ぎだと思ったが。まあキラキラネームでないだけ親に感謝だな。
画面に映る白髪の老人は年齢にしては若々しい、髪の毛がふさふさだからだろう。
よかった、弟が禿げてないってことは俺も禿げないってことだな。親父は禿げてたけど……。
動画の日付は進む。
『兄さん、朗報だ。なんと2051年製のキャディラックのリムジンタイプを買ったよ。
7リッターのマッスルカーで内装もゴージャス。
自動運転機能にバリアフリー仕様の何でもありな高級車だよ。
キャディラックはお好き? そいつは結構。でも一番気に入ってるのは値段だ……だっけ?
昔見た映画を思い出すね。よく二人でごっこ遊びしたっけ。
しかし、2051年に妥協のないガソリン車が発売されるなんて思わなかったよ。
CO2ゼロって何だったんだろね』
ああ、ほんとだ。さっき乗ったよ。あれは本当に凄いクルマだった。
『兄さん、この間、商用の量子コンピューターを開発している企業を買収することになってね。
キングアーサー・システムズっていうベンチャー企業なんだけど。
彼らが開発したアヴァロン・マーク1の性能を見て僕はピンと来たんだ。これはきっと未来を変えるってね。
アカデミーの域をでなかった量子コンピューターが本格的に産業を変える時代に突入するんだ。
……まだまだ先の話だけど、宇宙に匹敵する計算能力のおかげで医療技術は飛躍的に上がっていくそうだよ。
まさしく量子コンピューターは未来の技術。数年先には兄さんが蘇る日が近いかもね。
……その時に僕が生きてればいいけど。
まあ、そうでなくても兄さんは必ず生き返るよ。その為にお金は充分に貯めたんだ。
でもちょっと貯め過ぎだったかな、僕はすごいでしょ? じゃあ、また』
動画の日付は進む。
『イチローおじさん、初めまして。ジローの息子のジョージといいます。
……先日、父が死にました。父の遺言で、この映像記録は子々孫々まで続けさせていただきます。
さて、暗い話で申し訳ありません。おじさんにはなんて言いましょうか。復活にはまだまだ時間が掛かるようです。
その……父は楽観的でしたが。量子コンピューターの計算によると、当時の冷凍睡眠技術には不具合がありまして……。
その、おじさんは死んでるんです……。
くそ、俺は何を言ってるんだ! すいません、ちょっと心の整理がついてなくて。また動画をとります』
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正直申し訳ないと思う。
動画は続く。
以降はまめに動画をとる人や義務的にこなすだけの人など様々である。
まあ実際に俺は他人なんだから。
ただスズキ財団創業者の遺言は絶対なので動画が途切れることはなかった。
何代か続くとスズキ家の人物からも日本人らしさが消えていく。
髪の毛の色もブロンドの子孫が増えている。
そういえば弟は金髪の外国人の嫁が欲しいとずっと言ってたっけ。
それは子々孫々まで受け継がれていったのだろう。
それは決して選民思想ではないが、恐るべき弟の性癖だった。
それにしても動画に映る子孫たちから日本人要素が消えてくのも興味深いものがある。
そして当代の会長ダニエルさんの若いころの姿が映る、まさにテンプレのアメリカ人って感じでブロンドの前髪を垂らして自信満々の表情だった。
最後の動画だ。これを見たら寝るとするか。
『えっと、初めまして、イチローおじさん? パパのパパのパパのずーっとパパの弟さん、だからおじさんでいいんだよね?
……えっと、えへへ、カメラの前だと緊張しちゃうね。あ、そうだ自己紹介をしないと。
えーっと、名前は、クリステル・マイヤー・スズキです。今年で10歳です。
将来の夢はバーヒー人形になりたいです。でもバーヒーみたいな美人になれなかったら、いっぱい勉強して宇宙大統領になりたいです。
おじさんは将来の夢はありますか?』
クリステルさんは美人だよ。まあバーヒーにならなくてよかったと俺も思う。
映画の知識だがバーヒー人形はなんか大変そうだしな。
それに今のクリステルさんのおかげで俺はここにいるんだ。
技術的には可能だった冷凍睡眠からのサルベージ。
あとは法律改正の問題だった時にクリステルさんは上院議員首席秘書官という立場で貢献したのだ。
「俺の夢か。まあそうだな。仕事を頑張って、皆幸せになるってところかな」
「はい、素敵な夢ですね。私も微力ながらお手伝いさせていただきます」
「あ、アイちゃん。いたの?」
「もう、マスターったら、私たちは寝室を共にする仲じゃないですか」
また誤解を招く発言を。
あくまで俺の専属のアンドロイドとして側にいた方が最も安全であると言う理由なのだが。
……まあ、たしかにずっと側にいてくれるのは心強くはあるか。
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