3024年宇宙のスズキ

神谷モロ

文字の大きさ
上 下
40 / 133
エピソード1

キズナ2/3

しおりを挟む
『スズキストリート』

 看板にはそう書かれていた。

 シャトルを降りた俺達の目の前にポップなフォントでデカデカと描かれている看板があった。
 ペンキで描かれたその看板はいかにもアメリカ的なセンスのアートであった。

 しかし、スズキストリートって……どんだけ自己顕示欲が強いんだよ。
 ちなみにニューヨークの街並みは、俺の知ってる時代のものとそっくりそのままのビル群が建ち並ぶ。

「おお、さすがニューヨーク、やはり壮観だな。
 ニューヨークへ行きたいか―! って叫びたくなるよ」

「うふふ、おじさんったら、こんな古臭い街がお好きだなんて、変わり者ですね」

 そう、クリステルさんの価値観ではこの超ハイテクなビルディングは古臭いらしい。
 あれか、日本人が京都のお寺をみて古臭いと思うのと同じ感覚なのだろうか。
 
 ちなみに、俺のいた時代はニューヨークといえば経済の中心であったが今ではそうではないらしい。
 そもそも集中型の都市構造は現在ではあまり見られないのだ。

 ちなみにニューヨークの町並みは世界遺産に登録されているため20世紀後半から21世紀までの外観を保っている。

 ビル群に住む人もいるがよほど変わり者であるとのこと。
 窮屈な部屋にエレベーターにのらないと外出すらできない高層ビルアパートなどなど。

 今の時代の最先端の贅沢は大自然にぽつんと一軒家をたてることらしい。
 自然の景観が良ければ地価は上がるという逆転現象が起きている。

 まあ、その辺がさすが3024年といったところだろう。

「実は、私は昔からこの街が嫌いでして……お父様になぜこんな薄汚い街が好きなんですか? って文句を言ったものです。
 でも、おじさんによろこんでもらえるなら何よりです。では参りましょうか」

 シャトルから降りると、陸路だ。
 さすがクリステルさん。段取りはばっちりで、すでに迎えの送迎車が待機していた。

「ながっ! しかもピカピカの黒塗り高級車、それにリアルなエンジン音というか、爆音だな、ちょっと演出過剰じゃないか?」

 目の前にはいかにもアメリカンな高級リムジンが、パワフルで余裕のあるエンジン音をかましながら待ち構えていたのだ。

「どうです? なかなかにレトロな車でしょ? 本物のガソリン車です。
 なんと2051年製キャディラックですよ。ニューヨークの街を走るのには最適な乗り物しょう?」

 たしかに、懐かしい臭いがする。

 ガソリンの排気ガスの臭いだ。
 なぜだろう、久しぶりなのかとても懐かしい、そして郷愁を誘う良い匂いに感じた。
 まさか、ガソリンの臭いが良い匂いと思う日がるくるとは……。
 
 きっと俺をもてなすためだろう。まったく……嬉しいじゃないか。

「なるほどね、キャディラックは好きだ……」

「それはよかったです、内装も当時の豪華さを再現していますのでもっと気に入りますよ? ちなみに7リッターの大型エンジンによるパワフルな音は全て本物です」

「そりゃすごいね。でも燃費悪そう……まあいいか、おれの車じゃないし」

 俺が近づくとリムジンのドアが勝手に開き、入りやすいように踏み台と手すりがでてきた。

「あ、一応、俺感覚では未来のクルマなんだっけ……。でも過剰な接待具合がなかなかに未来感をこじらせていていい」

 ちなみに宇宙基地で乗った現行の電気自動車にはこういう仕組みはなかった。
 まあこれは過剰な自動車戦争による弊害だろう。

 結局クルマは快適に乗れて走ればそれでいいのだ。

 もちろん、たまにはこういうビップ気分もいいが。

 車内は思ったよりも広い、さすがリムジン。
 対面型のシートに高級感あるテーブルの上にはシャンパングラスに氷の入ったバケツのようなやつが置いてある。
 
 それにオードブルだろうか、クラッカーの上に黒いぶつぶつが乗っている食べ物が置いてあった。

「クリステルさん、こ、これって、ま、まさかキャビアか?」

「はい、もちろん本物ですよ、お父様ったら張り切っていらっしゃる様子ですね」

 そう、クリステルさんの父親。スズキ財団のトップ。
 本来なら俺が会っていいような人物ではない……初めて会ったときはそりゃもう緊張したものだ。

 しかし、高級リムジンに金髪のお姉さんにメイド。

 まるで別世界の様な体験だ。
 正直、初めて宇宙船に乗った時よりも緊張している。

「おやマスター、難しい顔をしてどうしましたか?」

「いや、アマテラスの方が庶民的でいいなぁと思ってたところだよ、俺が住むのはアマテラスしかないってね」

「おや、急なプロポーズにドキドキしてしまいます」

「どうしてそうなる」

「うふふ、おじさんはアンドロイドたらしですね。マリーといい、サンバやミシェルンもそうです、まるで同じ人間の様に扱う方は珍しいですよ」

「え? だってロボットにも人権がある時代だし当然じゃないのか? それに俺の時代、というか日本ではロボットと仲良くする漫画やアニメはいっぱいあったし」

「なるほど興味深いですね。たしかに人権は認められていますが、それは差別構造があったために制定された法律で。心の底からそう思っているのは少数派でしょう」

 なるほどね、俺の周りの人間はその少数派ということか。
 
「実際、クリステルさんはどう思っているの?」

「私ですか? もちろん法律に順守してますよ。もちろんアイさんの事も大切に思っています。
 でも憶えておいてください。それはイチローおじさんが大切にされているので私も敬意をもって接しているということを」

 なるほど、さすがは未来の上院議員ってところか。
 案外ドライなところがあるのかもしれない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

メトロポリス社へようこそ! ~「役立たずだ」とクビにされたおっさんの就職先は大企業の宇宙船を守る護衛官でした~

アンジェロ岩井
SF
「えっ、クビですか?」 中企業アナハイニム社の事務課に勤める大津修也(おおつしゅうや)は会社の都合によってクビを切られてしまう。 ろくなスキルも身に付けていない修也にとって再転職は絶望的だと思われたが、大企業『メトロポリス』からの使者が現れた。 『メトロポリス』からの使者によれば自身の商品を宇宙の植民星に運ぶ際に宇宙生物に襲われるという事態が幾度も発生しており、そのための護衛役として会社の顧問役である人工頭脳『マリア』が護衛役を務める適任者として選び出したのだという。 宇宙生物との戦いに用いるロトワングというパワードスーツには適性があり、その適性が見出されたのが大津修也だ。 大津にとっては他に就職の選択肢がなかったので『メトロポリス』からの選択肢を受けざるを得なかった。 『メトロポリス』の宇宙船に乗り込み、宇宙生物との戦いに明け暮れる中で、彼は護衛アンドロイドであるシュウジとサヤカと共に過ごし、絆を育んでいくうちに地球上にてアンドロイドが使用人としての扱いしか受けていないことを思い出す。 修也は戦いの中でアンドロイドと人間が対等な関係を築き、共存を行うことができればいいと考えたが、『メトロポリス』では修也とは対照的に人類との共存ではなく支配という名目で動き出そうとしていた。

【なろう440万pv!】船が沈没して大海原に取り残されたオッサンと女子高生の漂流サバイバル&スローライフ

海凪ととかる
SF
離島に向かうフェリーでたまたま一緒になった一人旅のオッサン、岳人《がくと》と帰省途中の女子高生、美岬《みさき》。 二人は船を降りればそれっきりになるはずだった。しかし、運命はそれを許さなかった。  衝突事故により沈没するフェリー。乗員乗客が救命ボートで船から逃げ出す中、衝突の衝撃で海に転落した美岬と、そんな美岬を助けようと海に飛び込んでいた岳人は救命ボートに気づいてもらえず、サメの徘徊する大海原に取り残されてしまう。  絶体絶命のピンチ! しかし岳人はアウトドア業界ではサバイバルマスターの通り名で有名なサバイバルの専門家だった。  ありあわせの材料で筏を作り、漂流物で筏を補強し、雨水を集め、太陽熱で真水を蒸留し、プランクトンでビタミンを補給し、捕まえた魚を保存食に加工し……なんとか生き延びようと創意工夫する岳人と美岬。  大海原の筏というある意味密室空間で共に過ごし、語り合い、力を合わせて極限状態に立ち向かううちに二人の間に特別な感情が芽生え始め……。 はたして二人は絶体絶命のピンチを生き延びて社会復帰することができるのか?  小説家になろうSF(パニック)部門にて400万pv達成、日間/週間/月間1位、四半期2位、年間/累計3位の実績あり。 カクヨムのSF部門においても高評価いただき80万pv達成、最高週間2位、月間3位の実績あり。  

処理中です...