3024年宇宙のスズキ

神谷モロ

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エピソード1

クァンタムマインド7/7

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 一同は移民船ロナルドトランプの船内を歩く。
 幸い瓦礫はお掃除ロボットのサンバ君のおかげでだいぶすっきりしていた。

 以前送った補給物資が役に立って何よりだ。
 名前の通りアマテラスのサンバ君とは同じ機種で、コジマ製品同士いろいろと情報のやり取りをしているようだ。

 あれか、同級生と言った関係なのだろう。彼等にも同窓会をしてやってもいいかもしれない。
 ロボットにも人権がある時代だし。
 
 しかし、数週間ぶりに来たが、コジマクリーナーのおかげでロナルドトランプの都市内は宇宙服なしで歩けるようになった。

 最初に来たときは居住区内では宇宙服が必須だったし、ナディアさんもずっとコントロールブリッジで生活していたようだ。
 もちろんコントロールブリッジにも充実した施設はある。
 むしろ一番堅牢に作られた高級マンションという位置づけだ。

 ナディアさんはお墓参りのたびに宇宙服を着なければならないと言っていたが、今の状況ならその必要がないだろう。
 
 それにしてもこの船、居住区は人が居ないためガタガタだが、船全体としてはまだまだ現役であるといえる。

 さすがは国家予算級のお金が投じられた妥協のない移民船である。

 人のいない居住区は荒廃しているが、森林や農場だったであろう草原は緑に溢れ爽やかな風が吹き抜ける。 
 
「ナディアさん、あの大きな建物は何ですか?」

 草木が無造作に生えたある地点にその巨大な建物はあった。

 ナディアさんは足が不自由なので車椅子だ。
 それを押すのはトシオ君。

「うむ、トシオ君といったね。あれが、この船の動力源である対消滅エンジン管理棟だよ。
 ふふふ、棟内を見学するなら事前に防護服を着ないとね。ああそうだ、男の子は遠慮した方がいいかもね。万が一、種なしになったら親御さんに申し訳ないさね、ほほほほ」

 ナディアさん……それはセクハラだよ。
 そして空気読めない男、スタン先生が補足説明をする。

「ああ、ということでしたら男の子だけでなく女の子も施設内には入らない方がいいですね。放射線は精子だけでなく卵子にも影響があります。
 これから妊娠する場合、リスクが大きいですね。男の子だけの問題ではないのです。
 女子生徒達のなかで近いうちに妊娠する予定のある方はお勧めできませんね。この中で妊娠予定、または現在進行形の子達は外で待っててください」

 ……スタン先生。そういうところだぞ。
 この時代の性教育はどうなっているのだろう。

 いや、デリカシーの無いスタン先生の暴走であろう、エイミー先生は茹でたタコの様に真っ赤な顔をしている。

 安心した、羞恥心は昔から変わらない。エイミー先生の激高、そして一部の生徒達はちょっと顔を赤らめ俯く姿に変わらないつつましさを見た。

 エイミー先生に羽交い絞めにあうスタン先生。

「なんでさ、僕は入ってもいいじゃないか! それに僕は独身だよ? 対消滅エンジンが見れるなら僕は死んでもいいんだ!」

「だめです! スタン先生だって子供は欲しいでしょ! 私も欲しいので、中に入るのはやめてください!」

 スタン先生とエイミー先生の痴話げんかの最中。アイちゃんがナディアさんに質問をする。

「ナディアさん、対消滅エンジンのメンテナンスは一度もしていないのですか?」

「うん? ああ、そうだよ。メンテナンスフリーが売りだからね。ロナルドトランプの心臓部、あれは戦争があっても決して傷つけられることはなかったし。初代のクルー以外中に入った人はいないんじゃないかな。
 そうだ、メラニー! 管理棟に入ってもいいのかい?」

 ロナルドトランプの制御コンピュータAIメラニーはナディアの質問に答える。
 それは管理棟外部にあるスピーカーから生徒達全体に聞こえるように答えた。

『はい、対消滅反応サイクルに問題はありません。もちろん科学的にも健康上の問題はありませんが、……でも安心と安全は違うのでしょう?
 よって、管理棟への侵入は推奨しません。
 特に先程の議論、妊娠できるかどうかという極めて曖昧な話をされていたのでなおのことです。
 仮に、そもそも妊娠しにくい体質であった場合でも。私どもに責任を擦り付けられるリスクがあります。
 よって、管理棟への侵入は許可できません。それでもと言うのであれば弁護士の立ち合いの元、書面に残していただけるならその限りではありませんが?』

 さすがはアイちゃんが尊敬する最高性能の量子コンピューター先輩なだけはある。説得力抜群だ。

「そ、そうか……残念だよ、弁護士は今からだと間に合わないな……。しょうがない諦めるよ。なら建屋の周囲を見学しようか」

 スタン先生はがっくりとしていたが、弁護士が居たら自分だけでも入るつもりだったのだろう。

「メラニーや、せっかくのお客さんだし、なんとかならんかね。せめてリアルタイムモニターの映像とか……」

『ふう、ナディアは相変わらずお人好しですね。対消滅エンジンは船の心臓部です。私としては外部の人間に知られることは良しとしておりません……が、まあ、それも今さらですね。
 私は既に時代遅れですから……まあ、それでも役に立てるなら出来るだけ協力をすることに否定はしません』

「そういってくれてありがたいね。この船も、もう私で最後なんだ。ならせめて何か功績を残したいじゃないか」

『そうですね、私もできれば、移民船として功績を残したいと思っていました。最後のクルーであるナディア、あなただけは目的地に届けたかった。
 ……第三の地球、最後の楽園アーススリーにあなたを届けると』

「……ああ、メラニー。それはもういいよ。というか、目的の彼らがこうして会いに来てくれたんだよ」

 そうだった。量子コンピュータAIメラニーはその任務だけを完遂するためにこの船を動かしていたんだ。
 俺はこの船の目的地が今回の生徒達の出身地であるアーススリーだったことを思い出した。
 だから今回の旅行プランを立てたのだ。

「メラニーさん。いや、外宇宙移民船ロナルドトランプ。アーススリーは立派な惑星だよ。ちょっと遠いから逆にこっちから迎えに来たんだ。
 今、この船にはアーススリーの子供達がいる。どうだい?」


『……ああ、なるほど。アーススリーの子供達でしたか。……私は、このままでは、目的地に着くまでにナディアは死んでしまうと思っていました。
 ですが、そうですか。私の任務は完了したのですね』

「メラニー。今まで本当にありがとう。……でも私はね、この足でアーススリーの大地を踏みたいね。
 それまでは私は生きようと思う。メラニーも最後までよろしく頼むよ、ナディアという名は希望という意味。メラニー、あんたが名付けたんじゃないかい?」

『……はい、ナディアがそうおっしゃるなら。最後までお付き合いしましょう。でも途中で離脱しないでくださいね。
 ミスタースズキ。お願いがあります。最新の医療介護ロボットを手配できませんでしょうか。
 ナディアは足が悪いのです。運動不足はよくありませんし』

「ああ、了解だ。医療系のはいくらでも支援がもらえるよ。最初からそうすべきだった。言われて気づくなんて福祉団体として失格だな」

「おいおい、私はまだそこまで老いぼれていないよ。だが、ありがとう。来年には子供達と走り回るくらいには回復したいものさね」

『では、ナディア。回復したらまたあの時のダンスを見せてくれませんか? この船が最も輝いたあの時代をもう一度、私は見たいのです』


 -----終わり-----

 あとがき。
 お読みいただきありがとうございます。

 前回から引き続き修学旅行編になります。
 この話、第二話『箱舟のアイドル』のアンサーでもあります。
 楽しんでいただけたでしょうか。

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