3024年宇宙のスズキ

神谷モロ

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エピソード1

クァンタムマインド1/7

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 時間は少し遡る。

 地球型惑星アーススリーの衛星軌道上にある宇宙ステーション『クシナダ』は修学旅行中の小学生で賑わっていた。

 アーススリーで最大の規模を誇る宇宙ステーションは様々な企業の実験施設がある他に、施設の一部は観光スポットとして民間にも開放されている。

「おーい。皆、あんまりはしゃいで先生に迷惑をかけるなよ!」

 そういうのはクラス委員長のトシオ。

「なんだよ、委員長は修学旅行でも点数稼ぎかよ!」

「違うって、大人の迷惑になるし、何より恥ずかしいって言ってんだ。小学生も今年で終わりなんだから、もう少し自覚もてっての」

「へいへい、トシお兄たまの言うとおりに」

 トシオには五歳の妹がおり、クラスメイトにトシお兄たまと呼ばれているのを目撃されて以来、何かあるとこうしてからかわれているのだ。 

「はいはい、皆さん。ここは宇宙ですから、はしゃぎすぎて宇宙に漂流、なんてことになったら大変ですよ?」

 そう言うのは担任の先生。

「もう、スタン先生ったら、冗談でも言っていい事と悪いことがありますわよ」

 副担任のエイミーは担任であるスタンをたしなめる。
 宇宙で漂流するということは死を意味する隠語でもあるのだ。

「あはは、ごめんごめん。実は僕も戦艦スサノオが見られるから興奮してるんだよ。だってスサノオだよ? しかも現役時代と何も変わらない状態で保存されている、これは興奮せざるを得ない!」

 早口で戦艦スサノオについて語るスタン。
 オタク特有の早口にエイミーは呆れながらも聞き流す。

「まったく、どっちが子供なんだか……」

 スタンは30代で博士の学位もあるエリートの先生。
 だがシャツはしわだらけ、髪もぼさぼさで無精ひげ。

 子供の様な彼に新任のエイミーは振り回されっぱなしだ。  


 エイミーは宇宙ステーションで戦艦スサノオ博物館のチケットを人数分購入する。

 携帯デバイスに生徒、百人分の決済完了の表示がされる。

 子供百人の命を預かっているのだ。
 新任のエイミーは責任の重さを痛感せざるを得ない。

 先生になりたいという子供の頃の夢はかなった。
 けどこれからは責任ある大人として子供ではいられない。

 それにいまいちな担任の先生、いや直属の上司の面倒を見なければならない不安。
 エイミーは若い。若いころの苦労は買ってでもしろと、父からの言葉を思い出し携帯デバイスを握りしめる。

「皆さーん! それでは戦艦スサノオに入りますよ? 貸し切りだからってはしゃぎすぎて悪戯したらだめですよ!」

 エイミーの言葉に子供達は戦艦スサノオの搭乗口に並ぶ。
 ほっと一息。
 子供達は本当にいい子ばかりでエイミーは胸をなでおろすのだった。

 学級崩壊を起こしている学校では先生の人権は無いとか、フィクションの世界ではよくあったのだ。

 それにしても……。

「あはは、エイミー先生の言うとおりだぞ? 戦艦の中にはまだ現役で使える兵器がたくさんだからね。見るだけだよ、ノータッチが基本だからね? たしかスサノオのミサイルは亜光速だっけ。
 旧式だからって馬鹿にしちゃいけないぞ! 亜光速エンジンとは、反物質による対消滅バーストを利用しているからね。一つ間違えたら僕達は木っ端みじんだよ? 
 ちなみに対消滅反応については今度のテストに出るぞ! この機会に実物をみるといい、あははは!」

 最近のエイミーにとっては子供達よりもこの上司、スタン先生の方が頭痛の種であった。
 一つ間違えただけで爆発するミサイルなんてありえないのに、子供達をからかってばかりだ。

「……まったく、責任感がないんだから。うふふ、これじゃどっちが子供だか分からないわ」

『戦え……』

 突如、スサノオの艦内から低い男性の声が聞こえた。

「え? スタン先生、何か言いましたか?」

 スタンは答えない。エイミーは床に倒れたスタンを目撃した。
 持病があるなど聞いていない。転んだだけだろうと思った瞬間。

 自身の意識も遠のく。

 そこでエイミーの意識は無くなった。
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