3024年宇宙のスズキ

神谷モロ

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エピソード1

アンプラグド3/5

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「さてと、マードックさんにマリーさん。さっそくですが行きましょうか、護衛よろしくお願いします」

「うふふ、私みたいなアンドロイドにさん付けなんて、あなた変ってるわね。でも気に入ったわ。よろしくね」

 そういうと彼女は席を立つ。身長は100センチもない。そんな彼女をマードックは左腕で軽々と抱き上げる。どうやらそこが彼女の特等席のようだ。
 いくら小柄とはいえ、金属骨格のアンドロイドを片腕で軽々と持ち上げるマードックもやはりブーステッドヒューマンということだろう。

 ここからは徒歩でアンプラグドのボスの屋敷に向かう。
 乗り物で近づくのは禁止されているのだ。

 いかなる理由であれ空からの接近は撃墜対象とのこと。随分と警戒心の高い人間のようだ。まあそれもそうだ、いろいろと治安が悪いこの星では正しいことなのだろう。

「ところでイチロー。あなたは一人で着たの? 強そうには見えないけどよく一人で来たわね」

「それな、まあ仕事だからしょうがない。福祉船は基本ワンオペだそうだ、でも一人じゃないぞ、あ、そうだ紹介が遅れた。俺のサポートをしてくれるAIのアイちゃんだ」

『ふふふ、私も人としてカウントしてくれるのはマスターだけですね。21世紀の方は皆そうなのですか?』

「いや、それは人によると思うぞ。でもマードックさんだってマリーさんを大事にしてるし、それは関係ないんじゃないか?」

「そうか、君にはそう見えるか。……いや、初めて言われたのでね」

 マードックさんはやや複雑そうな事情があるのか、いまいち歯切れが悪い。

 だが俺はピンときた。
 彼はドールコレクターだ。風貌こそハリウッド映画の凄腕エージェント風なので多少緊張するが。

 アイドルオタクとはジャンルこそ違えど偶像を愛する同志だ。
 俺はマードックさん達と仲良くなれる……はず。

 酒場を出て、しばらく歩く。
 しかし、この街は本当に暗い。
 明かりが無いのもそうだが、何というか活気が無いのだ。

 ………………。
 …………。  

「マードック。来るわ」
「ああ、分かってる」

 意味深な二人の発言と共にマードックは歩みを止め、マリーをそっと地面に下ろす。

『マスター。ナノゾンビです。気を付けてください。銃の使い方は憶えていますか?』

 アイちゃんの声でようやく状況を理解した。
 戦いが始まるのだ……。

「あ、ああ。だが念のためもう一回教えてくれ。一回練習しただけじゃ不安だ」

 そう、俺は日本人だ、銃なんてそれこそ子供の時にエアガンで遊んだことがあるくらいだ。
 それに教えてもらったのは数か月も前だ。
 俺は別にガンオタでもないし興味が無かった。

『了解。マスターが今持っている銃は総弾数30、ケースレス6ミリ口径のセミオートハンドガンです。
 スライドはありませんのでレバーを降ろして安全装置を解除してください。
 あとは敵に向けて撃つだけです。
 味方識別モードにしておりますのでフレンドリーファイアはありません。でも銃口は味方に向けないように気を付けてくださいね』

 ――ナノゾンビ。
 それは死後のブーステッドヒューマンの成れの果て。

 ナノマシンはその性質上、宿主の生命の維持を最優先させる。
 だが人間は不老不死ではない。故にナノマシンにとってのイレギュラー。
 宿主の死によって暴走するのだ。

 脳からの命令が無いため、とにかく体を再生させようとタンパク質を欲する。
 墓場から蘇るゾンビという余りにもショッキングな事件により、地球では体内にナノマシンを含めたフェーズ2以降の高度な機械を埋め込むことは法律により禁止されたのだ。

 当然、科学者や製造メーカーは猛反対。技術の進歩で改善できると訴えた。
 ナノマシンに寿命を与えれば、あるいは外部からナノマシンの活動を強制的に止める機能の追加等の改善案がでた。

 だが結局は人の命をコンピューターで、それも外部からコントロールが可能という状況に人々の不満が爆発。
 そもそも当初から期待された健康寿命の延長も大した成果は無く、むしろ定期的なメンテナンスをしないとナノマシン由来の新たな病気も増えた為、
全ての議会においてブーステッドヒューマンは法律で禁止されることになった。

 だがアースシックスは例外であった。
 そもそも高重力高気圧であるため、生身で生きるためにはブーステッドヒューマンになるのが最適解であったし、地球の法律は適用されていない。

 地球の人権団体も口出しはするけれど、所詮は外の話なので政治的パフォーマンスに終始するのみだった。

 アースシックスではナノゾンビは自然災害の一つとして処理されている。
 もちろん防止策として死後は火葬するのが推奨されたが、文化的に土葬が当たり前であるアースシックスではなかなか浸透しないのが現実である。

 …………。

「数はおおよそ20体ほど。まあ多からず少なからずと言ったところか。では用心棒の仕事でもするとしよう。マリー、いくぞ!」

「ええ、よくってよ」

 廃墟となった建物からナノゾンビが俺達めがけて走ってくる。

「うそ! ゾンビって走れるのかよ! 聞いてないぞ!」

『マスター。彼等の肉体は腐っていません。むしろ暴走したナノマシンのおかげで筋力はバキバキですよ。
 減量を終えたアスリートといったところでしょうか。彼らが求めるのは良質なタンパク質。お分かりですね?』

「お、おう。つまり俺だろ?」

 俺は銃の安全装置を外す。
 だが、手が震え足がガクガクする。銃を構えるが目標がぶれまくりだ。
 くそっ! 俺だってここはカッコつけたいのに。猛スピードで走るゾンビが怖すぎる。

「うふふ、イチローは何もしなくていいわ。ちょうど良い機会だし私達の力をよく見ておきなさい?」

 俺の目の前にはマリーさんが立っていた。深い赤色のドレスを着た幼女のアンドロイド。

 彼女は優雅に両手を広げて立ったままだ。その間にナノゾンビはアスリート並みの脚力でこちらに襲い掛かってくる。

 だが、次の瞬間。ナノゾンビの五体はバラバラになり鮮血をまき散らす。
 返り血を浴びて真っ赤に染まる幼女のアンドロイド。

 あれか、ホラー映画でよく見る殺人人形のようだ。

「お、おお。……す、すげー。マリーさん。ていうか今のはなに?」

「うふふ、ありがとう。私を褒めてくれるのは貴方だけだわ。マードックは不愛想だし?」

 褒めたわけではない、単純に怖いのだ。
 だが、同時に美しいと思った。マリーは広げた両手を閉じる。

 その瞬間、俺にも理解できた。
 彼女の指からワイヤーが前方に張り巡らされていたのだ。

「これはハイパータングステン合金のワイヤーソーよ、これで切断できない生物はいないわ」

 ピアノ線の様な細いワイヤーは彼女の腕に巻き取られ一瞬で収納された。

 10体は仕留めたか、しかし今の攻撃でナノゾンビは警戒しているようだ。
 脳死状態とは言えナノマシンの防衛本能があるのだろう、俺達から距離を取るナノゾンビ達。

「マードック。私の仕事を終わりかしら? それともお手伝いしましょうか?」

「ふっ、その必要はないさ」

 次の瞬間。マードックはコートの中に隠していたショットガンで残りのナノゾンビを全て処理してしまった。

 俺は目の前のサイバーパンクな光景にすっかり腰を抜かしてしまった。

 言っておくが漏らしていない。
 仮に漏らしてもユニバーサルクロークを着ていれば全く問題が無い。
 さすが未来の宇宙服、衛生面はばっちりだ。

 つまり漏らしてはいないのだ……。
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