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第5話(終)

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 曹操に投降した呼廚泉単于は曹操の拠点である鄴に抑留されており、実質的に権力を奪われて人質の状態になっていた。
 匈奴の領土はナンバー2である右賢王、左賢王によって分割統治されていた。

 ――匈奴、左賢王、劉豹の天幕にて。

「劉豹君よ、最愛の妻を失って傷心の劉豹君よ、おやおや、子供の頃に戻ってしまったみたいだ。男はこれだから、よしよしお姉ちゃんが慰めてあげようか」

 これは重症だな。まあ気持ちは分からなくもない。戦には負けて、女は取られて、代わりに残ったのは大量の金品だ。実質的に妻を金で売ったのだ、さぞみじめな気分なのだろう。

「祭祀長……いや、姉ちゃん、俺はどうしたら。叔父上は人質になっているし、結局は我らはこのまま漢のいや、漢を支配した曹操の言いなりになるのか」

「どうだろね、さすがに僕でも分からないよ。でも分かることは、乱世は終わりつつあるってことかな。もう曹操に対抗できる勢力は無いしね。残りは消化試合みたいなもんじゃないかな」

 先程から劉豹君は今後の情勢についてを語っているが、左賢王ともあろうものが僕に膝枕をされながらってのは他人には見せられないね。

 まるで本当に子供の頃に戻ったようだ。そういえばプロポーズをされたことを思い出した。そのときは大きくなってもまだ僕のことが好きなら結婚してあげると言ったっけ。

「ところで、劉豹君、未だに僕が好きなのかい? こう見えて結構年上なんだけど?」

「いや、それは……、君は本当に神様みたいで、外見だって初めて会った頃と全然変わってない、俺の初恋の姉ちゃんそのものだ」

 まあ、確かに神の化身である僕の寿命は少しだけ長い。それでも人間の範疇ではあるが、若く見えるのもそのせいだろう。

 彼を起こし、互いに目線を合わせて、彼の瞳の奥を見る。

 ふむふむ。まだ目は死んでないようで安心した。

「祭祀長どの、その……顔が近いというか、その……照れてしまう」

「あはは、嬉しいことを言ってくれる、よろしい、ならば君との約束に答えてあげよう、安心しなさい僕が幸せにしてあげるよ」

 ◆◆

 ――時は流れる、天下は3つの国、魏、呉、蜀に分かれて均衡を保っていたが、もはや英雄は亡く。
 時の権力者である司馬一族により天下は統一されようとしていた。

「祭祀長様、ご嫡男の劉淵りゅうえんさまが参られておりますが、あ、まだ入ってはなりません」

 勢いよく入ってくる少年。面影は夫である劉豹にそっくりだった。

「母上! いえ、祭祀長様、淵にも学問を教えてくださいませ」

「おや、淵よ、勉強は兄上に受けていたのではなかったかい? それとも母と居たいが為の方便かな?」

「はい、方便です、と言いたいところですが、勉学にも興味があります。問題ないでしょう?
 兄上たちにも教えていただいておりましたが、物足らず不満を申し上げたら、ならば母上に尋ねよと追い出されてしまいました」

「よろしい、いい回答だ。さて、では今日は劉という姓について話そうか、今は滅んだ、いや、かろうじでまだ残り火がくすぶっているようだが、これは漢王朝の皇帝の姓なんだよ」

「母上、それは知っております、それに漢王朝、最期の皇帝の劉禅は嫌いです。漢王朝の兄である匈奴としては軟弱な姿は見ていられません」

「お前は劉備が好きだったね、でもお前は劉禅を少し見誤っている、見下すのは自由だが淵よお前は何も分かっていない。母が説教してやるから今日一日は外に出られないと思え!」

「はい!、母上! よろこんでお受けします、では今夜はこちらにお泊りしてもよろしいですか? 実は今日は帰れぬと父上には申しております」

「あはは、この子は、私が策にはめられるとは、お前はいつか天下を獲れるかもしれないね。いずれこの母が都へ推薦してあげよう。だが、その前に世渡りの術をもう少し学ぶ必要があるね。
 より理知的で狡猾に生きねばならぬ。そうだな、お前の継母に蔡文姫という有名な学者がいたのは知っていよう。お前の義兄の母上だ、彼女の生きざまを知れば戦場だけではなく宮廷での戦いに役に立つだろう」

「はい! 淵も聞きとうございます」

 劉淵は、この後、誕生する漢民族の王朝を駆逐し異民族が群雄割拠する五胡十六国時代の最初の王朝である前趙ぜんちょうの基礎を築くことになる。

 ◇◆◇

 ………………。
 …………。
 ……。

「ユーギ君帰還しました」

 またこいつらか、毎回毎回帰還すると。このとぼけた女神になんか言われるのだが。さてと今回はどうだろうか。

「あ、ユーギ君おかえり、ちょっと、ユーギ君のお友達だった女の子だけど、なんだっけ蔡文姫って子、結構な有名人になってるわね」

 お、今回は僕へのダメ出しは無いようでよかったよかった。

「そうでしょうよ、あの時代の女性の中では特別に光り輝いていたとも、まあ僕が結構入れ知恵したしね。あはは、僕だって人を育てることができるのだよ」

「ユーギ君、育てるといえば、あなたのお子さんは結構とんでもないことやらかしてしまったようね」

「うん? そうだろうとも、きっと立派に育ってくれたはずさ、それに母としての経験は貴重なものだったよ」

「あらあら、すっかり親ばかになって、でもその調子よ、さてと次は……」

 ――元神様モガミ・ユーギのスタディは続くのだった。
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